レビュー

メタバースや360度動画を楽しむのに適したミドルレンジスマホ「HTC Desire 22 pro」レビュー

HTCが4年半ぶりに投入したスマートフォン「HTC Desire 22 Pro」。激戦区のミドルレンジ機だが、どのような特徴があるのか? HTCの日本におけるイメージカラーであるレッドモデル「サルサレッド」を使ってレビューを行った。

Androidスマートフォンの名門HTCが、4年半ぶりに日本市場向けに発表した「HTC Desire 22 Pro」。日本におけるHTCのイメージを印象づける「サルサレッド」を使って検証を行った

Androidスマートフォンの名門HTCが、4年半ぶりに日本市場向けに発表した「HTC Desire 22 Pro」。日本におけるHTCのイメージを印象づける「サルサレッド」を使って検証を行った

大容量メモリーやワイヤレス充電を備えたミドルレンジスマホ

台湾のメーカーであるHTCは、今ではヘッドマウントディスプレイで知られているが、世界初のAndroidスマートフォン「HTC Dream」や、日本市場で初めて正規販売されたAndroidスマートフォン「HT-03A」を手掛けた古参のスマホメーカーでもある。また、KDDIで扱われていた日本専用「HTC J」シリーズは、登場した2012年当時としては画期的な高性能機で、ガジェット好きの間では評価が高かった。しかし、ライバルメーカーの台頭や、開発部門を一部Googleが買収するといった経営方針の変更があり、国内では2018年7月に登場した「HTC U12+」や「HTC U11 Life」を最後に、スマートフォンの新製品は途絶えていた。「HTC Desire 22 Pro」は実に4年ぶりに復活した製品である。

「HTC Desire 22 Pro」は、約76.9(幅)×166.3(高さ)×9.4(厚さ)mm/重量約205.5gのボディに、2412×1080のフルHD+表示に対応した約6.6インチの液晶ディスプレイを組み合わせた、大型のミドルレンジスマートフォンだ。検証機は日本限定色の「サルサレッド」で、「HTC J」シリーズのイメージを踏襲したもの。かつてのHTCファンなら懐かしく感じるだろう。

ボディは、IP67の防水・防塵仕様に対応しているため、一時的な水没であれば耐えることが可能。おサイフケータイで使用するFeliCaポートも備えており、日本市場で重視される機能はしっかり搭載している。加えて、ミドルレンジ機としては珍しくワイヤレス充電にも対応している。

検証に使ったのは日本独自カラーの「サルサレッド」。往年の人気モデル「HTC J」シリーズのイメージをうまく再現している

検証に使ったのは日本独自カラーの「サルサレッド」。往年の人気モデル「HTC J」シリーズのイメージをうまく再現している

右側面。黒い部分は指紋認証センサーと一体の電源ボタン、その左にはボリュームボタンという配置

右側面。黒い部分は指紋認証センサーと一体の電源ボタン、その左にはボリュームボタンという配置

搭載するディスプレイは、最近のスマートフォンでは一般的な有機ELではなく液晶だ。ただし、120Hz駆動に対応しているのでスペック的には十分だろう。サウンド機能を見ると、ヘッドホン端子を備えるが、搭載されるスピーカーはモノラルで、「Dolby Atmos」には対応していない。

比較的大きめの液晶ディスプレイは、120Hz駆動に対応している

比較的大きめの液晶ディスプレイは、120Hz駆動に対応している

ディスプレイのパンチホールは口径が少し大きめだ

ディスプレイのパンチホールは口径が少し大きめだ

搭載されるSoCは、ミドルレンジ向け「Snapdragon 695 5G」で、8GBのメモリーと128GBのストレージ、最大1TBまで対応するmicroSDXCメモリーカードスロットを組み合わせている。OSはAndroid 12だ。なお、以前のHTC製スマートフォンは独自のホーム画面「HTC Sense」が特徴だったが、本機はAndroid標準に準じたものが使われる。「HTC Sense」でなくなったことは、かつてのHTCユーザーにとっては残念かもしれないが、クセが減ったという面もあるので、万人受けはしやすいかもしれない。

ホーム画面や設定画面はAndroidの標準にならったもので、かつてのHTCらしさは薄まったが、クセが減り万人に受け入れられやすくなったとも言える

ホーム画面や設定画面はAndroidの標準にならったもので、かつてのHTCらしさは薄まったが、クセが減り万人に受け入れられやすくなったとも言える

ベンチマークアプリ「AnTuTuベンチマーク(バージョン9.X)」の総合スコアは404985(内訳、CPU:122022、GPU:101681、MEM:68169、UX:113133)だった。本機と同じ「Snapdragon 695 5G」搭載機で、2GB少ない6GBメモリーを搭載する「OPPO Reno7 A」のスコアである389456(内訳、CPU:122319、GPU:98773、MEM:66065、UX:102299。価格.comマガジン調べ)と比較すると、わずかではあるが本機のほうが良好な結果である。やはり8GBのメモリーが効いているのだろう。

AnTuTuベンチマークの結果。左が本機、右は「Snapdragon 695 5G」に6GBのメモリーを組み合わせたオッポ「OPPO Reno7 A」のもの。メモリーの容量が多い分、本機のほうが良好なスコアだった

AnTuTuベンチマークの結果。左が本機、右は「Snapdragon 695 5G」に6GBのメモリーを組み合わせたオッポ「OPPO Reno7 A」のもの。メモリーの容量が多い分、本機のほうが良好なスコアだった

体感速度は、120Hz駆動ディスプレイによって残像感が少なく総じてスムーズ。メモリーが多いためアプリの切り替えもなめらかだ。ハイエンドスマホのようとまでは言わないが不満はない。ゲームについても、処理の重さで知られる「原神」も、画質設定を多少調整すれば動作は可能だ。

AI機能などトレンドを押さえたカメラ

本機のメインカメラは、約6400万画素の広角カメラ、約1300万画素の超広角カメラ、約500万画素の深度センサーという組み合わせだ。AIシーン認識機能を備えており、“食べ物”や“ポートレート”などプリセットされる15種類の設定から最適なものを選んでカメラ任せで撮影が行える。

メインカメラは、広角カメラ、超広角カメラ、深度センサーという組み合わせ。トリプルカメラだが、深度センサーは映像の記録には使用しない

メインカメラは、広角カメラ、超広角カメラ、深度センサーという組み合わせ。トリプルカメラだが、深度センサーは映像の記録には使用しない

以下に本機のメインカメラを使った静止画の作例を掲載する。AIシーン認識を使い、シャッターを押すだけのカメラ任せで撮影を行っている。

広角カメラで撮影

晴天のビル街を撮影、青空が鮮やかに写っている。構図左のビルの日陰部分を見るとノイズが現れている。明暗差にはあまり強くないようだ<br>撮影写真(4608×3456、5.56MB)

晴天のビル街を撮影、青空が鮮やかに写っている。構図左のビルの日陰部分を見るとノイズが現れている。明暗差にはあまり強くないようだ
撮影写真(4608×3456、5.56MB)

超広角カメラで撮影

上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。超広角特有の歪みがやや発生しているようだ。広角カメラと比べると画質はやや淡泊で、ノイズも全般に増えている<br>撮影写真(4160×3120、3.79MB)

上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。超広角特有の歪みがやや発生しているようだ。広角カメラと比べると画質はやや淡泊で、ノイズも全般に増えている
撮影写真(4160×3120、3.79MB)

広角カメラで撮影

窓から景色を望む明暗差の大きな構図を撮影。AIシーン認識によってHDRモードに切り替わっているが、暗部はやや暗く沈んでいる<br>撮影写真(4608×3456、2.38MB)

窓から景色を望む明暗差の大きな構図を撮影。AIシーン認識によってHDRモードに切り替わっているが、暗部はやや暗く沈んでいる
撮影写真(4608×3456、2.38MB)

広角カメラで撮影

明るめな夜景を撮影。ISO932というそれほどの高感度ではないが、遠景のコンクリート壁などはノイズが目立っている<br>撮影写真(4608×3456、5.1MB)

明るめな夜景を撮影。ISO932というそれほどの高感度ではないが、遠景のコンクリート壁などはノイズが目立っている
撮影写真(4608×3456、5.1MB)

超広角カメラで撮影

上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。全般にアンバー寄りで感度性能的に限界に近いようだ撮影写真(4160×3120、4.65MB)

上と同じ構図を超広角カメラに切り替えて撮影。全般にアンバー寄りで感度性能的に限界に近いようだ
撮影写真(4160×3120、4.65MB)

本機のカメラは、広角と超広角の焦点距離を切り替えることができ、AIを使ったシーン認識機能を備えるなど、基本性能は手堅く、極端な誇張もなく素直な絵作りだ。ただし、ノイズ耐性は全般にあまり高くなく、明暗差も少し苦手だ。カメラについての知識が多少はあったほうがより使いこなせそうだ。

300インチ大画面や360度動画を楽しめるHTC製スマートグラス「VIVE Flow」との接続が簡単

本機の大きな特徴は、HTC製の小型ヘッドマウントディスプレイ(スマートグラス)「VIVE Flow」との最適化がはかられていることだ。「VIVE Flow」は、100度の視野角と75Hzのリフレッシュレートに対応した解像度1600×1600の液晶ディスプレイを左右に搭載するうえ、前後・左右・上下それぞれの方向への移動と回転という6DoFに対応する本格的な性能を持つモデル。それでいて重量は約189gに抑えられており、メガネのようにつるを耳にかけるだけの装着することが可能だ。視度調整にも対応しているので裸眼でも利用できるなど、使い勝手にかなり配慮された製品だ。

「HTC Desire 22 Pro」はリバースチャージ機能を備えており、バッテリーをほとんど備えていない「VIVE Flow」の駆動用電源としても利用できる

「HTC Desire 22 Pro」はリバースチャージ機能を備えており、バッテリーをほとんど備えていない「VIVE Flow」の駆動用電源としても利用できる

「HTC Desire 22 Pro」と「VIVE Flow」の設定はとても簡単だ。「VIVE Flow」に同梱されるUSB Type-Cケーブルを使って接続して、「HTC Desire 22 Pro」にプリインストールされるアプリ「VIVE」を起動して設定を進めるだけ、所要時間は5〜6分だ。「VIVE Flow」は汎用品なので、ほかのAndroidスマートフォンでももちろん利用できる。ただし、設定が少しややこしいうえに別途電源を用意する必要があるので、リバースチャージ機能や設定の最適化がなされた「HTC Desire 22 Pro」と「VIVE Flow」の組み合わせのような簡単さは望みにくい。

「VIVE Flow」は、スマートフォンの画面を最大300インチの大画面で投影でき、プライベートシアターとして活用できる。360度動画の再生やHTCの用意するメタバース「VIVERSE(ヴァイバース)」の世界を探検することも可能だ。YouTubeでは360度動画が増えており、コンテンツはまったく不自由しない。スマートフォンを使った簡易型のヘッドマウントディスプレイからのステップアップとしては最適だろう。

「VIVE Flow」は、スマートフォンの画面を最大300インチの大画面で投影できるほか、HTCの手がける基本無料のメタバースコンテンツ「VIVERSE」へのアクセスが可能だ

「VIVE Flow」は、スマートフォンの画面を最大300インチの大画面で投影できるほか、HTCの手がける基本無料のメタバースコンテンツ「VIVERSE」へのアクセスが可能だ

「VIVE Flow」と接続中のスマートフォンはVRコントローラーとして使用する

「VIVE Flow」と接続中のスマートフォンはVRコントローラーとして使用する

「VIVE Flow」の左右のつるにはスピーカーも仕込まれており、ステレオサウンドでプライベートシアターを再生できる

「VIVE Flow」の左右のつるにはスピーカーも仕込まれており、ステレオサウンドでプライベートシアターを再生できる

国内4キャリアの5Gと4Gにフル対応

本機の通信機能はかなり強力だ。2個のnanoSIMカードスロットを備えたデュアルSIM機で、国内4キャリアが運用中の4Gの周波数帯すべてと、ミリ波を除く5G専用周波数帯のすべてに対応している。特に、5G専用周波数帯ではNTTドコモのみが利用するn79に対応しているのは注目に値する。こうした特徴のため、バックアップ用途としても適しているだろう。また、回線をひんぱんに乗り換える場合にもよさそうだ。

なお、ソフトウェアのビルドが1.03.454.1以前のものには不具合があり、SIMカードによってはただしAPN設定を選択できない場合がある。本機を利用する場合、最初にWi-Fiネットワークを使ってソフトウェアのアップデート実行しておきたい。

4日は持続するバッテリー。Quick Charge対応充電器を用意したい

本機は4520mAhのバッテリーを内蔵している。バッテリー持ちに関する指標は公表されていない。電池持ちはほどほどで、1日に3時間程度のペースで断続的に利用する場合、4日ほどバッテリーが持続した。検証中はずっとディスプレイを120Hz駆動にしていたことを考慮すれば決して悪いほうではないだろう。

急速充電としてQuick Charge 3.0規格に対応しているが、近ごろ主流のUSB PD(USB Power Delivery)に対応していない点には少し注意したい。汎用のUSB Type-C充電器を使った場合、3時間以上の充電時間がかかる。本機の製品パッケージには充電器が同梱されていないので、Quick Charge 3.0に対応する充電器を用意したほうがよいだろう。

高機能のミドルレンジ機。「VIVE Flow」と組み合わせることで個性が際立つ

本機のような4〜5万円のミドルレンジスマートフォンは種類がとても多い。しかも、この価格帯のモデルは基本性能がほぼ共通なので、違いを理解するには細かな性能を見る必要がある。そういう視点で見ると、本機は、画面が大きく120Hz駆動に対応している点、Qi互換のワイヤレス充電に対応している点、8GBのメモリーを備えている点が、ライバルと比較した場合のアドバンテージだろう。

加えて、本機には「VIVE Flow」と最適化されているという特徴もある。「VIVE Flow」は、スマートフォンを使った簡易型ヘッドマウントディスプレイに飽き足らない人に適した製品で、スマートフォンを使った大画面のプライベートシアターや360度動画を手軽に楽しめるのが魅力だ。手堅い製品であるのは確かだが、「VIVE Flow」を組み合わせたほうが魅力を発揮できる、そんなスマートフォンと言えそうだ。

田中 巧(編集部)
Writer / Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよびその周辺機器には特に注力しており、対象となる端末はほぼすべて何らかの形で使用している。
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