第44話 ゴールド・ダンジョン3層とアイラの新装備!


「うわ~。またガラリと変わったよ~」


「なんか少し、肌寒いね」


「急にダンジョンって感じになったわね」


 モモが先頭に立ち、額に手を当てながら辺りを眺めている。そしてリリーは体を温めるように両腕を手で擦り、アイラは少し驚いた顔をしていた。


「そうだな。ようやくダンジョンらしい場所になったな」


 目の前には広大な洞窟が広がっている。やはり、ダンジョンと言えば洞窟であろう。


 3層は以前に訪れたザクデロ鉱山のような奇麗な鍾乳洞ではなく、岩盤でできた洞窟だった。前方には段々畑の様な空間が左下へと続いている。そして右前方を見上げると、小さな洞窟の入り口と言えば良いのか、奥へ進めそうな穴が見える。どうやらここはかなり入り組んだ構造となっているようだ。


(洞窟タイプのダンジョンか…。ここには地図が必要だな)


 今、立っている場所はまだ入り口だからであろう。開けた空間となっており、左側にはいつものキャンプ場が見える。そしてそこで働く人達や冒険者達の姿も見ることができた。


 俺はとりあえず、皆に声を掛ける。


「ここだと時間が分かり難いが、もうすぐ夕方だ。今からキャンプ場の中だけ確認して、帰るってことで良いか?」


「賛成ー! ああ、でももうダメ…」


 モモは勢いよく手を上げたが、すぐに手を下ろして意気消沈した。


「早くベッドで眠りたいよ~」


「私も、今すぐ帰るってことでも良いわよ」


 3人とも疲れ果てた様子だったので、俺達は軽くキャンプ場の中を見て回り、その後すぐに帰還のスクロールで街へと帰った。


 宿に辿り着く頃には辺りはすっかり暗くなり、クエストの報告や換金も行わなければならなかったのだが、今日は皆疲れ切っていたため、それらは明日まとめて行うということになった。


 なので、俺達は宿で荷物を下ろしてからすぐに銭湯へと向かった。そして夕食を食べている間も皆はうつらうつらとしており、今にも寝てしまいそうだったので、この日は何もせずに早めに眠ることにした。



 ◇



 翌朝。


 俺はいつもより早くに目が覚めた。ダンジョン内では日が昇り始めると目が覚めてしまっていたので、どうやらそれが癖になったようだ。そして隣の部屋で眠っていたモモも目を覚ましたようで、俺の部屋にふらふらと現れた。


「おはよ」


「おはよー」


 モモは寝ぼけ眼を擦っている。


「ゆっくり眠れたか?」


「うん、ぐっすり…」


 やはりまだ眠いのか、殆ど目が開いていない。


「少し早いけど、下に行くか?」


「二人は起こさなくても良いのー?」


「今日ぐらい、好きなだけ寝させておけば良いだろ」


 俺達は二人を部屋に残して、1階で朝食を取ることにした。


 席に座り朝食が運ばれてくるのを待っていると、リリーとアイラも階段を降りてきた。


「「おはよー」」


 こちらもまだまだ眠たそうで、目をしばしばさせながらふらふらとこちらに歩いてくる。


 俺達は全員でテーブルを囲み、ダンジョンでは許されなかったゆったりとした朝食の時間を楽しんだ。





 部屋に戻った俺達は、今日の予定を確認する。


「今日はギルドに行くけど、皆も来るよな?」


「行くよー」


「クエストの報告をしなくちゃ」


「アイテムもストレージの中にあるから、付いて行くわ」


 3人は朝食を食べて目が覚めたようで、寝ぼけた顔は消えていた。


「それと、アイラの防具を買おうと思うが、どうだ?」


 3人の視線がこちらに集まる。そしてモモが口を開いた。


「どうして?」


「リリーを守ってもらうために盾の練習してもらっているが、癒しのローブだと防御力が低くて心配だろ。だから、これからはアイラには鎧みたいな防具を付けてもらった方が良いと思うんだ」


「なるほどね~」


 モモは納得した顔で俺から視線を外した。


「私は良いわよ。重いのは流石に困るけど、防御力は上げたいわね」


 アイラも納得したようで、頭を上下に動かしている。


「リリーは良いの?」


 モモがリリーの顔を見る。


「私は平気だよ。前に出ないようにしてるし、守ってもらえるなら」


 リリーは安心した表情をアイラに見せた。


(本音を言えばリリーの装備も変えたいところだが、魔法使いの装備品はどれも高いんだよな…。甲斐性無しで済まないが、リリーにはもう少し今の装備で我慢してもらおう)


 まだまだ俺達の稼ぎでは、今よりも良い魔法使い用の装備を買うことができなかった。


「どんまい! お兄ちゃん!」


 モモが突然、ニコニコとした顔で俺の肩に手を置いた。


(こいつ、俺の心を読んだな…)


 俺はすぐにモモを捕まえて、くすぐりの刑にする。


「きゃはは! や、やめて、ご、ごめんなさいー!」


「勝手に俺の心を読んだ罰だ!」


「も、もうしません! だから許して! きゃははははは…」


 モモはぐったりと横たわり、瀕死となった。


「良し! 朝の運動は終わりだな」


 リリーとアイラに少し呆れられたが、この後、俺達はギルドへ向かうことにした。



 ◇



 ギルドで魔石などを換金し、クエストアイテムのヘビの毒袋も納品した。今回の稼ぎは魔石と水晶で大金貨13枚、クエストの報酬で大金貨2枚となり、合計で大金貨15枚の成果となった。


(思ったより稼ぎが少ないな。まあ、今回は移動が目的だったし仕方ないか。それに3層は期待が持てそうだし、そこで金策を考えることにしよう)


 ギルドの次は防具屋に訪れた。そして今はアイラが試着を行っている。


 アイラはアイアンメイルやスチールメイルなどの金属製の鎧を試着しているのだが…。


「やっぱり重いわね~」


「鎧だからな。軽量化LV3でもダメか?」


「ん~、軽量化LV4なら良いけど…」


 軽量化LV3の刻印は俺の鎧にも施してあるが、LV3でも軽くはなるのだが、身軽になるというところまではいかない。今の俺でもモモのように素早く動くことはできないので、元々の力の弱いアイラには少し重た過ぎるようだった。


 それならば、軽量化LV4の鎧を装備すれば良いだけの話なのだが、そうなると今度は予算が一気に跳ね上がる。


 軽量化LV3の刻印は、1か所、大金貨1枚で施せるのだが、軽量化LV4になると、1か所、大金貨15枚となる。大金貨15枚支払うのであれば他の装備を買った方が良くなってしまう。


 ここは俺達だけで悩んでいても答えが出ないように思えたので、この店の主人に相談をすることにした。ちなみに、この店の主人の名前はサップと言い中年太りのおじさんだ。


「サップさん、鎧が重いんだが、何か他に良いものはないか?」


 サップは俺達の様子を確認すると、素早く別の鎧を用意した。


「それならばこちらなどはいかがでしょう。チェインメイルとスケイルメイルで御座います。防御力は少し劣りますが、軽くて動き易くなると思いますよ」


「アイラ、こっちも試してみてくれ」


「わかったわ」


 アイラは鎧を受け取り、また試着室へと入る。


(防御力は、プロテクトを掛けるようにすれば良いか)


 プロテクトは防御力を上げる魔法なのだが、実際には皮膚などが硬くなり、全身が鎧のようになる感じだ。前回のフォレストビーとの戦闘中に針が突き刺さるかと思った瞬間があったが、その針は皮膚が弾くようにして刺さるのを防いでいた。


 ただ、これが分かっていたとしても、防具を付けていない部分でモンスターの攻撃を受けるということは、かなり精神的に抵抗があった。この感覚も魔法のことを信じて少しずつ慣れていくしかないのであろう。





 一方。俺とアイラが鎧を選んでいる間、モモとリリーは何をしているかと言うと…、


 ファッションショーになっていた。


 装備は色が変えられるので、様々な物を組み合わせて楽しんでいる。他人のこういった姿を眺めているのも楽しいものだ。


「できたわ」


 アイラが試着室から戻ってきた。


「これならどう?」


 どうやらチェインメイルにしたようだ。


 チェインメイルは基本的に鎖を多く使っているので肌が少し透けて見えるが、致命傷となる部分には金属製のプレートが取り付けられており、しっかりと守られていた。露出が多めでしかも透けて見えるので、少しセクシーな姿となったが、これは重くならないための配慮であろう。


 俺達のパーティーメンバーの中で一番大人っぽいアイラには、この装備は似合っていた。


「良いんじゃないか。それと、重くはないのか?」


「このぐらいなら平気よ。問題なく動けそうだわ」


 アイラは腕を上げたり片足で立ってみたりと、カンフーの様なポーズを取りながら動きを確認している。


(女性はキメポーズが好きなのか?)


 モモ達も似たような感じでファッションショーを繰り広げていたので、アイラにも色について尋ることにした。


「色はそのままで良いか?」


「ん~、どうしよう。黒にしてみようかしら?」


(アイラは色白で髪も白いから、黒でも良いかもしれないな。でもそれだと、女神からは少し離れたイメージになりそうだが…)


 装備は決まったが、色をどうするか? ということで、モモとリリーも参加して3人であれやこれやとやり始めた。


(しまった。色の話をするんじゃなかった…。ここからまた、長いんだろうな…。でもまあ…、気に入った色ならモチベーションも上がるしな!)


 仕方がないので俺も付き合って、色を決めてから鎧を注文をすることにした。


 金額は合計で大金貨13枚となった。染色が1か所、小金貨2枚と少し高目の値段となっていたが、お洒落は娯楽と同じだ。多少値が張るのは仕方がないことだと思う。


 結局、この日は昼食の後も色を決めるのに時間を取られ、他の店を回ったりもしていたので、これだけで一日が終わってしまった。こういう事はあっという間に時間が過ぎてしまうというのは、この世界でも同じの様だった。

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