第76話 リア・クラークはドロシーに先導されて厩舎に入り、馬臭すぎて逃げ出す
厩舎前に到着すると、笑顔のドロシーが出迎えてくれた。
「リア、乗馬服可愛いー!! フリルがいいね。似合ってるよ」
「ありがとう、ドロシー。でも、なんでいるの? 乗馬の授業はいいの?」
「あたし『ハサミ・石・紙』で負けちゃってさー。だから、初授業の子たちに厩舎の掃除の仕方を教えることになったの。でも、その代わり、仕事代として銀貨1枚貰えるんだよ。だから、お得といえばお得かも」
『ハサミ・石・紙』とはいったい何……?
文脈から察するに、じゃんけんのこと?
あー。この世界のワードがわからない……。
ドロシーは『ハサミ・石・紙』の意味がわからず、内心で困惑している私には気づかず、口を開く。
「あと何人くらい来そう? リアだけじゃないよね?」
「たぶん、あと数人は来るんじゃないかなあ。でも最初は掃除って、厳しいね。まずは馬との触れ合いから始めるのかと思った」
「馬の匂いとかに慣れた方がいいっていうのと、掃除を生徒にやらせると先生たちの手間が省けるっていう打算?」
「ネルシア学院って、生徒をいいように使うことが多い気がする……」
私とドロシーがお喋りをしていると、副担任と数人の学生が厩舎前に現れた。
副担任はドロシーに笑顔を向けて口を開く。
「ドロシーさんが厩舎の掃除の指導をしてくれるのね。ありがとう」
「あたし『ハサミ・石・紙』で負けちゃったので……」
ドロシーの名前と顔を覚えているらしい副担任と親しげに話すドロシーを見て、私は疎外感を味わう。
『乗馬』の授業担当の教師と副担任の名前は教えてもらったけど……私は覚えられなかった……生徒の私は名前とか聞かれていない。
「ドロシーさんは『ハサミ・石・紙』をする時、いつも『ハサミ』を出している気がするわ」
「えっ!? そうですか!?」
「私にはそう見えるけど。次は気をつけてみたら? じゃあ、私は馬場に行くわね。初授業の生徒たちの指導をよろしくね」
「はあい」
副担任はドロシーにそう言って、高く結い上げた髪を揺らし、きびきびとした足取りで去って行った。
ドロシーは私を含めた『乗馬』の授業を初めて受ける生徒たちを見渡して口を開く。
「あたしの名前はドロシーよ。今から厩舎の掃除の仕方を教えるね。最初は馬の匂いが臭いって感じると思うけど、慣れると気にならなくなるから。じゃあ、ついてきてっ」
ドロシーは簡単に自己紹介をした後、私たちを促して厩舎の中に入っていく。
厩舎に足を踏み入れた私は、鼻が曲がるかと思った!!
馬臭いんですけど……!!
私以外の生徒たちも馬臭かったようで、手で鼻を押さえながら厩舎を脱出する。
「リア、皆、出て行くなんてダメだよー」
「いやいやいやいやいや、ドロシー!! あの匂いは無理でしょ!!」
私は高速で首を横に振り、強くそう主張した!!
「慣れたら平気になるんだって。馬は馬臭い生き物なんだよ」
ドロシーは平然と言う。
私『乗馬』の授業、乗り切れる気がしない……!!
「ハンカチとかの布で鼻と口を覆うと匂いが少しマシになるよ」
「私、今、ハンカチ持ってない……」
私はそう言って肩を落とす。
ハンカチは手提げ鞄に入れっぱなしだ。
『清潔』スキルを取得してからは、ハンカチの出番が減っていた。
乗馬服のベストにハンカチを入れていた生徒が何人かいたようで、彼らはハンカチで鼻と口を押さえている。
ハンカチ……羨ましい……。
私と同じようにハンカチを持っていない生徒もいて、私たち、ハンカチ無し組は視線を合わせてため息を吐く。
「馬の匂いがダメな子が多いみたいだから、今日はあたしがささっと厩舎の掃除をしちゃうね。入り口からやり方を見てて。次の乗馬の授業の時は、鼻と口を覆う物を持ってきてね」
ドロシーはそう言って厩舎の中に入っていく。
厩舎の壁に立てかけられていた道具を手にして、手早く藁を掻き出していった。
あの道具って、名前なんていうんだろう。
鍬みたいな感じ?
厩舎内には馬は一頭もいない。でも、こんなに馬臭い。ヤバい。
ドロシーは藁を厩舎の外に掻き出して、端に寄せた。
そして、新しい藁を馬房に入れていく。
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