第101話 王立魔導研究所1

「お待ちしておりましたルウ様」


 僕が今いるのは王立魔法研究所だ。魔法に関しては魔導士協会があるんだけど、あちらは全国組織でその技術は全世界で共有されている。


 しかし軍事というものは他と仲良く共有するものではなく、先んじるものである。当然各国で固有の魔導技術というものが存在するわけだ。その研究機関が王立魔法研究所なんだよね。


「いえ、こちらこそ勉強させていただきます。そもそも魔道具作製の基礎すらすらわかりませんからね」

「またまたご謙遜を。あんな凄い神器を作っておいて何をおっしゃるのか。まぁ、とりあえず中へどうぞ」


 そう言われても、謙遜ではなく本当に知らないのだ。そもそもどうやって魔石から魔力を抽出しているのかとか、どう使われているのかなんて良くわかってないからね。


 とりあえず中へ案内されたのでそのまま入っていく。研究所の入り口からは長い通路が延びており、途中に幾つか扉が見られる。資料室や倉庫、休憩室のようだ。


 一番奥の部屋へと通されると、そこは研究室のようで様々な魔導装置が置かれている。どう使うのかさっぱりわからないけどね。


「どうです? なかなかの設備でしょう。魔道具の作製には欠かせない機材が多数ありますが、これ程揃えられるのは我が国だからこそでしょう」

「そうですね、使い方とか全くわかりませんねど。これとか綺麗な石ですね。なかなかの魔力を感じます」


 箱の中には半透明の結晶体がある。僕の握りこぶしくらいかな。小ぶりだけどなかなかの魔力濃度だ。


「え? あの、それは魔晶石なんですが、ご存じありませんか?」


 研究員の人が信じられない、という顔で僕を見る。いや、知らないんだから仕方ないじゃないか。そもそも錬成のやり方も知らないんだし。


「魔晶石? ああ、そういえば入門書に魔石を錬成して作るって書いてありましたね。実物を見るのは初めてです」

「あの、魔晶石もなしにどうやってあの神器を作ったのでしょうか……?」


 なんかすっごいバカを見るような目で僕を見てるんだけど……。まぁ、僕のやり方見たら納得するだろう。


「あー、それは僕の作り方を見たらわかると思います。じゃあとりあえず、この光の剣でも作りましょうか」


 僕が取り出したのは、最初に試作した光の剣だ。ミスリルのプレートに魔法を封じ、それを柄に差し込んで作ったやつね。


「光よ」


 その一言でただの柄から光が伸び、1本の剣となる。長さ1メートルくらいのロングソードだけど、とにかく軽いのが特徴だ。それを見て研究室にいた職員が手を止め、一斉に集まってくる。


「凄い! こんな魔法剣は見たことがありません。切れ味はどうなんですか?」


 その剣に一気に気持ちが昂ったのか、鼻息を荒くして恍惚の表情すら見せる。周りの職員も口から笑みがこぼれていた。皆さん興味津々のようで。


「試してみてください」


 試し斬りように持ってきた大きな石を取り出す。手で持てるサイズではあるが、僕の顔よりでかい。僕はそれを立てて机に置き、倒れないように上を手で支えた。


「では」

「軽くでいいですよ」

「はい」


 研究員が光の剣を受け取り、軽く一振り。すると石は大した抵抗もなく横真っ二つに切れてしまった。


「「「「おおおおおおお!!」」」」


その斬れ味に全職員が驚嘆する。大きく目を見開き、固まっている者もいた。


「え……。なんなんですかこの斬れ味は!」

「良く切れるでしょ? オーガロードの脚でさえ切り落としますからね。これと同じものを今から作ります。ただこれは今のところ僕にしかできない方法なので、再現性はありません」


 この光刃ライトエッジが拡大解釈したもののため、本来ならこの世に存在しない魔法とも言えるからね。ま、あくまで今のところの話だけど。


「かまいません。お願いします」

「はい、では」


 早速僕は机の上に材料を並べた。材料は剣の柄とアメジスト。この2つだけだ。


光刃ライトエッジ解読ディサイファ


 光刃ライトエッジに拡大解釈をかけ、光の剣を作る魔法に変化させ、同時に解読ディサイファをかける。これは拡大解釈のスキル特性で一時的にその魔法の発動を支配できるからこそだろう。


 そして光刃ライトエッジの詠唱文言が虚空に浮かび上がった。


「な、なんと……!?」


 虚空に浮かぶ文字に驚く研究員たち。だけど驚くのはこれからだろう。


付与エンチャント


 この魔法により、虚空に浮かんでいた文字がアメジストに吸い込まれていく。そしてエメラルドの紫色の輝きが一際強くなった。

 後は魔力を回復ヒールしながら魔力を付与エンチャントで補充するだけ。それで魔法の封じたアメジストの完成だ。


 後はその宝石を剣の柄の剣を差し込む部分に入れてしまえば光の剣の完成となる。


「はい、できました。光よ」


 完成した光の剣を発動させてみる。全く問題なく動くね。もうすっかり慣れたものだ。


「……ちょっと凄すぎて言葉もありません。これはかなり画期的です。まず宝石に魔法を封じ込める手段が生まれたのは革命と言っていいでしょう。何せ方法が全くなかったのですから。ですので通常はこのミスリルのプレートに詠唱文言を刻印するのです」


 そう言って研究員がミスリルのプレートを見せてくれた。結構大きく、僕の顔くらいのサイズだ。


「これだって刻印する文字の多さや大きさのため、どうしても大きなサイズになってしまいます。手間も多い。しかしルウ様はそれを一瞬でやってのけました」


 研究員はちょっと身体を震わせながら話を続ける。動揺しているのかな。周りの研究員たちもうんうんと頷いている。


「さらに魔力を注入する方法も常識を遥かに越えています。通常魔力を注ぐ場合、こちらの装置を使うのです」


 研究員が少し歩き、何かの装置を指し示した。その装置は先程見た魔晶石を置くところがあり、金属製の紐が延びている。その先には詠唱文言の打ち込まれたミスリルプレートがあり、装置に繋げられていた。


「これは魔晶石から魔力を取り出し、ミスリルプレートに魔力を注ぐ装置です。この紐……、ケーブルというのですが、これはミスリル製でしてね。ミスリルでも魔力にロスが生じるのはご存じでしょうか?」

「ええ。ミスリルの魔力伝導率は0.3ですからね。7割の魔力は無駄になりますね」


 そうか。ミスリルのケーブルを伝う際にもロスが生じるわけね。さらに注ぐ対象がミスリルプレートとなると、ロスはかなりのものになるのか。魔道具が高価なわけがわかった気がする。


「そうです。例えばこの装置でミスリルプレートに魔力を注ぐ場合、実に約9割の魔力が無駄になる計算なのです。アメジストに注いだとしても7割が無駄になるでしょう。しかしルウ様はそれを魔力ロスをほぼ0でやってのけたのです。それがどれだけ革新的な技術かおわかりですか?」


 なるほど、それを考えたら確かにこの技術はとんでもない価値を生み出すことになる。そりゃ国としてはこの技術欲しいよね……。

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