第17話 邪悪な元カノと取り巻き(野々原楓視点)
中学時代、わたしは工藤天菜とその取り巻きにいじめられていた。いじめの理由はわたしの胸が大きくて生意気だからとか他愛もないものだ。
カツアゲされたり、トイレで水をかけられたりと、本当にひどいいじめをいろいろとされた。それでもあの連中と同じ高校に進学したのは、久我島君がいるからだ。
「工藤と別れたんだ……」
夕食後にわたしは部屋のベッドに座り、中学の修学旅行でたまたま並んで撮れた久我島君とのツーショット写真を眺める。
恐らく誰もが彼を凡庸で特徴の無い普通の男性と思っているだろう。実際、彼は普通の男子生徒だ。秀でたところがあるわけではない。けれど……。
「はあ……」
やさしい人。
わたしが工藤や取り巻きにいじめられいることを知った久我島君は、やめるよう連中を説得してくれた。それでも工藤たちはいじめをやめなかったけど、久我島君はできる限りわたしを連中から守っていじめから遠ざけてくれていたのだ。
「なんで工藤なんかと付き合ってたんだろう?」
工藤は美人だが性格は醜い。幼馴染というだけであんな最悪女が久我島君と付き合えるのは納得がいかなかった。
「けどもう別れたんだし……」
チャンスかも。
しかし久我島君は最近、クラスメイトの獅子真さんと一緒にいることが多い。義理の妹らしいけど、詳しくは知らない。
「もしかして付き合ってるのかな?」
もしそうだったら嫌だ。わたしのほうが久我島君を好きなのに……。
獅子真さんはすごく美人だ。けど負けていない部分もある。
「胸はたぶんおなじくらい……あと背はわたしのほうが高いかな」
顔だってちゃんとすればかわいいほうだと思う。
「負けてない、うん。わたし獅子真さんに負けてない」
あとは久我島君と獅子真さんが付き合っているかどうかだ。
これは本人か獅子真さんに聞くしかないが……。
「あっ」
そのときスマホが鳴る。
通話ボタンを押して出ると、
「野々原、わたし」
この世でもっとも聞きたくない声が聞こえてきた。
工藤だ。会話をするのは中学以来だが、この声は聞くだけで耳が腐るような気がするほど不愉快だ。
「今から駅前のヨネカフェに来な」
「えっ? い、今から? どうして……?」
「来ればいいから。来なかったらどうなるかわかってるよね?」
「……わかった」
言うことを聞かなければどんな目に遭わされるか。それは中学のころに嫌というほど思い知らされた。
着替えたわたしはコンビニへ行くと親に言って外へ出る。
駅前のヨネカフェに来ると、そこには3人の嫌な顔が揃っていた。
「遅いよ。あたしを待たせんなグズ」
わざわざ来てやったわたしの顔を見るや、開口一番でそう言い放ったのはこの世でももっとも嫌いな女、工藤天菜だ。
「胸が重いから歩くのも遅いんでしょ」
そう嘲笑ったのが胸無しのデコハゲ女、
「あーねむー。お前の陰気なツラ見たら余計に眠くなったわ」
このすべてに無気力そうなだらけた顔のチンピラ風女が
中学時代、この3人は大袈裟に言えば学年の女子を支配しており、逆らえる女子は誰もいなかった。特に工藤はほぼ女王様で、中三のころは学校の女子すべてを支配していたと言ってもいい。
女子は工藤を恐れ、命令をされればいじめに加担してきた。男子は工藤の外面に騙され、いじめをしているなどとは思っていなかっただろう。それは教師も同様で、いじめを訴えてもまさか優等生の工藤がと、取り合ってもらえなかった。
助けてくれたの唯一、久我島君だけだ。
この下衆女と久我島君が付き合っていた事実はいまだに信じ難い。
「座んなよ」
「う、うん」
わたしは工藤の向かいへと座る。
「こうやって4人で会うのはひさしぶりじゃん?」
「そ、そうだね」
4人で会うというより、いつもこうしてわたしが無理やり呼び出されていた。大抵は飲食代を奢らされたりだが、一回パパ活をやらされそうになったことがある。そのときは久我島君に助けられ、事なきを得たことを思い出す。
「そんなにびびんなよ野々原。あたしら別にお前をどうこうしたくて呼んだわけじゃねーからさ」
牧田が無気力な目でそう言う。
こいつは3人の中でもっとも荒っぽく、気に入らなければすぐに暴力を振るう女だ。喧嘩で男3人に勝ったとか自慢しているのを聞いたことがある。
「ばるちゃんに言われれたらビビるって。顔怖いもん」
そう言って蛭田が意地の悪そうな笑みを浮かべる。
蛭田は底なしの馬鹿だ。常に男と遊び歩いているような女で、経験人数3桁とか自慢しているのを聞いたことがある。
秀才の工藤はともかく、この馬鹿2人が同じ学校なのは意外だった。噂では入学試験の問題用紙を学校から盗んだとか聞いたが、真相はわからない。
「は、はは……」
「ああ? なに笑ってんだてめえ?」
眉間に皺を寄せた牧田に胸倉を掴まれ震える。
こいつは頭がおかしい。
店の中でも平気で暴力を振るうだろう。
「葉瑠斗、話すんだからおとなしくしてな」
「……ちっ」
工藤に言われて牧田は手を離す。
腕っぷしの強さでは牧田も工藤には敵わない。怖いもの知らずのように見える牧田が唯一、恐れるのが工藤だ。
「あんたにさ、やってもらいたいことがあるんだけど」
「やってもらいたいことって……」
碌でもないことなのはわかっている。しかし断ればなにをされるかわからない。
中学のころは万引きをやらされそうになり、それを断ったら牧田にお腹を蹴られた上、蛭田に髪を切られたのだったか。それを見ながら工藤が笑っていたのを思い出して吐き気がした。
「あんたと五貴がセックスしてる動画を撮ってきてほしいの」
「は? えっ?」
久我島君とセックスしてる動画を撮ってこい?
聞き間違いかと耳を疑う。
「わかった?」
「わ、わかったって……その」
「久我島とてめえがセックスして、それをスマホで動画撮影してくりゃいいんだよ」
「そ、そんなこと……」
できない。久我島君のことは好きだけど、身体の関係を動画で撮影なんてしたくなかった。
「まさか嫌とは言わないよね?」
「そ……れは、けどなんでそんなこと……」
そんな動画を撮影させる工藤たちの目的がわからなかった。
「獅子真っているじゃん?」
「えっ? 獅子真さん?」
なぜここで獅子真さんの名前が……?
「あいつ五貴のことが好きみたいでさー。ちょっとへこましてやりたいんだよね。あんたと五貴がアンアンやってるところをあいつに見せてやったらおもしろいと思ってさ」
工藤と獅子真さんの仲が悪いのは、先日あったクラスでの悶着で知っている。しかしそんな嫌がらせのためにわたしと久我島君の性行為を動画撮影させようとするなんて……。本当にこの女は心底のクズだと思った。
「わたしさ、今はあんたのことなんかどーだっていいんだよね。あんたよりもあの女のほうがずっとムカつくからさ」
「そ、そうなんだ」
「うん。けど、これを断るってんなら、覚悟しなよ? 中学のころはやさしかったって思えるくらい徹底的にやってやるから」
工藤の見せた冷たい表情にゾッと寒気がして身が震える。
「竜青団って知ってる?」
「えっ? りゅ、竜青団って……半グレ集団の?」
このあたりをそんな名の半グレ集団がうろついていると聞いたことがある。
「あたしらさ、そいつらとたまに遊んでるんだよね」
「そ、そうなの?」
「うん。葉瑠斗の兄貴が竜青団の副リーダーやっててさ。バイクとか乗せてもらってんの。んで、そいつらいつもやらせらやらせろってうるさいんだよね」
そこまで聞いたわたしは工藤の言いたいことを理解して身体から血の気が引く。
「断るならあんたをやらせるから」
「ひっ!」
冗談ではないぞ。
そう念を押すような工藤の目に睨まれて思わず小さく悲鳴が上がる。
「あははー。あたしはヤッてるけどねー。てかヤレられる前にばるちゃんがぼっこぼこにあんたをぶん殴るよ。気が短いからこの人ー。あははー」
笑いながら言う蛭田だが、これも冗談ではないだろう。
「ああ、獅子真がいないときに誘いなよ。あいついるとついてくるからさ」
「うん……」
「てめえちゃんとやれよ。しくったら殺すからな」
「だからばるちゃん怖いってー。野々原漏らすよマジでー。きゃははっ」
ここで断るという選択肢を選べるほどわたしは強くない。
3人に睨まれる中、わたしは工藤の頼み……いや命令を受け入れた。
――――――――――――
お読みいただきありがとうございます。
天菜の子分1と2が登場です。天菜も含めて全員がおしおきされる未来しか見えませんね……。
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次回は野々原さんが五貴を誘うが……。
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