著作者人格権とは?
種類・内容や著作者人格権を侵害されたときの
対応を分かりやすく解説!

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弁護士法人NEX弁護士
2015年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。経済産業省知的財産政策室や同省新規事業創造推進室での勤務経験を活かし、知的財産関連法務、データ・AI関連法務、スタートアップ・新規事業支援等に従事している。
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知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ
この記事のまとめ

著作者は、その人格的利益の保護のために、著作者人格権(公表権・氏名表示権・同一性保持権)を有します。

著作者は、著作者人格権を侵害された場合、侵害者に対し、差止請求や損害賠償請求などをすることができます。

この記事では、著作者人格権について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

著作権と著作者人格権って違うものなんですか? 「人格権」というと、ちょっと大事そうなもののように聞こえますが…。

ムートン

ざっくりいうと、著作物を財産として利用するための権利が「著作権」で、著作者の人格を保護する権利が「著作者人格権」です。違いを確認していきましょう。

※この記事は、2023年4月4日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

著作者人格権とは

著作者人格権とは、著作者の人格的利益を保護するための権利です。

著作者人格権として、

✅ 公表権(著作権法18条)
✅ 氏名表示権(著作権法19条)
✅ 同一性保持権(著作権法20条)

が規定されています(著作権法17条1項)。

著作者人格権は、著作者の一身に専属する権利であり、他者に譲渡することはできません(著作権法59条)。

著作者は、著作者人格権のほか、その財産的利益を保護するための権利である著作(財産)権を持ちます(著作権法17条)。
著作権と著作者人格権は別の権利ですので、利用者の立場で、ある著作物を利用したいと考える場合には、著作者と契約を締結するに当たり、

  • 著作権
  • 著作者人格権

のそれぞれについて権利処理をすることが必要です(「著作者人格権の不行使特約とは」参照)。

また、著作権や著作者人格権が制限されるかについて検討する場合には、それぞれの権利についてその制限が認められるか否かを検討する必要があります(著作権が制限される場合でも、必ずしも著作者人格権も制限されることにはなりません。著作権法50条)。

以下では、このような著作者人格権について、詳しく見ていきます。
なお、公表権、氏名表示権、同一性保持権のほか、名誉または声望を害する方法での利用に対する保護(著作権法113条11項)と、著作者の死後における人格的利益の保護(著作権法60条)についても、著作者の人格的利益を保護するための規定といえますので、併せて見ていきます。

公表権とは

公表権の内容

公表権は、著作物でまだ公表されていないもの(その同意を得ないで公表されたものを含みます)を公表する権利です(著作権法18条1項)。

著作者としては、著作物を公表するかしないかを自分で決定することができるといえます。一方、著作者以外の者としては、著作者の同意なく、未公表の著作物を公表すると公表権侵害の責任を負うということになります。

公表権が及ばない場合

このように、著作者には公表権が認められていますが、一定の場合には、著作者の公表権が及ばない場合があります。以下、見ていきます。

同意の推定

まず、次の「同意が推定される場合」に掲げる場合には、著作者は、それぞれ、次の「同意が推定される行為」について同意したと推定されます(著作権法18条2項各号)。

著作権法18条2項は、あくまで推定規定ですので、著作者が推定を覆すことができれば、当該行為について公表権侵害を主張することができますが、推定を覆すことができない場合には、当該行為について公表権侵害に問うことができません。

同意が推定される場合同意が推定される行為
著作物でまだ公表されていないものの著作権を譲渡した場合(1号)当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供・提示すること
美術の著作物・写真の著作物でまだ公表されていないものの原作品を譲渡した場合(2号)これらの著作物をその原作品による展示の方法で公衆に提示すること
映画の著作物の著作権が映画製作者に帰属した場合(3号)当該著作物をその著作権の行使により公衆に提供・提示すること

みなし同意

また、著作権法18条3項では、著作者のみなし合意について規定されています。

例えば、著作者が、未公表著作物を、行政機関に提供した場合、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づき、行政機関の長が、著作物を公衆に提供・提示することに同意したものとみなされること、一方、開示する旨の決定の時までに著作者が別段の意思表示をした場合は同意したものとみなされない旨が規定されています(著作権法18条3項1号)。

「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」では、行政機関の長は、行政文書の開示請求を受けた場合には、一定の場合を除き、請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならないと定められているところ、このような開示請求公表権との調整を図るために設けられた規定といえます。

適用除外

さらに、著作権法18条4項では、公表権が及ばない場合についても規定しています。

例えば、行政機関の長が公益性の高い情報が記録されている未公表の著作物を公衆に提供・提示するときなどには、公表権が及ばない旨が規定されています(著作権法18条4項1号)。

みなし同意」のとおり、著作権法18条3項が適用される場合であれば、著作者は、開示する旨の決定の時までに別段の意思表示をすることができましたが、著作権法18条4項が適用される場合には、著作者は、そのような意思表示ができません。
このため、著作権法18条4項が適用される場合には、行政機関の長は必ず当該情報を開示することとなります。

氏名表示権とは

氏名表示権の内容

氏名表示権は、著作物の原作品または著作物の公衆への提供・提示に際し、著作者名を表示するかしないか、表示するとしてどのような著作者名を表示するかを決定できる権利です(著作権法19条1項)。

ムートン

著作物を公表する場合、本名をさらさずに、ペンネームで公表してもよいですし、そもそも著作者名をつけなくてもいいわけです。

一方、著作者以外の者は、著作物に表示されている氏名表示を勝手に変えたり(例えば、自分は著作者ではないのに、自分の本名を著作物に表示するなど)、表示されていた氏名を消すなどして、著作物を公衆に提供・提示すると、氏名表示権侵害に問われることになります。

氏名表示権が及ばない場合

このように、著作者には氏名表示権が認められていますが、一定の場合には、著作者の氏名表示権が及ばない場合があります。以下、見ていきます。

従来の表示

まず、著作物を利用する者は、都度著作者に確認をするまでもなく、著作者が既にしている著作者名の表示に従って、著作者名を表示すれば、氏名表示権侵害に問われることはありません(著作権法19条2項)。
もっとも、著作者の別段の意思表示があるときは、この限りではありません(同項)。

氏名表示の省略

また、著作者名の表示は、著作者が創作者であることを主張する利益を害するおそれがないと認められるときは、公正な慣行に反しない限り、省略することができます(著作権法19条3項)。

例えば、ホテルのロビーでバックグラウンドミュージックとして音楽をかける場合に、著作者名の表示を省略することは、本項により、氏名表示権侵害に問われないと考えられます。

適用除外

さらに、著作権法19条4項では、氏名表示権が及ばない場合について規定しています。

例えば、行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づき、行政機関の長が著作物を公衆に提供・提示する場合に、著作者が既にしている著作者名の表示に従って、著作者名を表示する場合が挙げられます(著作権法19条4項1号)。

従来の表示」に記載のとおり、著作権法19条2項が適用される場合であれば、著作者は別段の意思表示をすることによって、従来の表示とは異なる著作者名の表示を指定することができましたが、同条4項が適用される場合には、著作者はそのような意思表示ができません。

このため、行政機関の長としては、著作者の意思を気にすることなく、著作者が既にしている著作者名の表示に従って、著作者名を表示することができます。

同一性保持権とは

同一性保持権の内容

同一性保持権は、自分の著作物やその題号(タイトル)の同一性を保持し、著作者の意に反して勝手にこれらを変更したり改変したりされない権利です(著作権法20条)。

例えば、昨今では紙の本を出版し、電子書籍化するといったことも頻繁に行われています。電子書籍化する際、出版社の独断で、タイトルを変更したり、書籍の中身を変更したりする場合は、同一性保持権の侵害になります。

例えば、東京高判平成3年12月19日判時1422号123頁では、送り仮名の変更や、読点の切除、中黒「・」の読点「、」への変更、改行の省略がされた事案で、以下のように判示し、同一性保持権侵害を認めています。

「著作権法20条1項は著作者はその著作物及び題号について同一性を保持する権利を有するとして、いわゆる同一性保持権を規定しているものであるが、同項にいうところの、著作物及び題号についてのその意に反する「変更、切除その他の改変」とは、著作者の意に反して、著作物の外面的表現形式に増減変更を加えられないことを意味するものと解するのが相当であるところ、かかる見地からみると、被控訴人の前記各行為が本件論文の外面的表現形式に増減変更を加えたものであることは、明らかというべきである。」

東京高判平成3年12月19日(平成2(ネ)4279)
ムートン

原則として、変更・改変は、明らかな誤植の訂正などでなければ認められません。著作物を扱う場合は注意しましょう。

同一性保持権が及ばない場合

もっとも、以下の場合には、同一性保持権は及びません(著作権法20条2項)。

①教科用図書等への掲載のための改変等、学校教育の目的上やむを得ないと認められる改変(1号)
②建築物の増築、改築、修繕または模様替えによる改変(2号)
③特定の電子計算機において実行できないプログラムの著作物を当該電子計算機で実行できるようにするために必要な改変(3号)
プログラムの著作物を電子計算機でより効果的に実行できるようにするために必要な改変(3号)
④著作物の性質ならびにその利用目的および態様に照らしやむを得ないと認められる改変(4号)

名誉または声望を害する方法での利用

以上の著作者人格権を侵害しない場合でも、「著作者の名誉又は声望害する方法によりその著作物を利用する行為」は、著作者人格権を侵害する行為とみなされます(著作権法113条11項)。

例えば、写真家が撮影した夜景の写真を、アダルトサイトのトップページに無断で使用するといった場合が該当します。無断利用なので、著作権侵害になるのは当然ですが、同時に、「名誉又は声望を害する方法での利用」にも該当するので、訴訟になった際、損害賠償額が増えるなどの可能性があります。

著作者人格権の保護期間

著作者は、著作物を創作した時に、(特段の手続等を経ることなく、)著作者人格権を取得します(著作権法17条2項)。
そして、著作者人格権は、著作者の一身に専属する権利ですので(著作権法59条)、著作者が死亡すると、消滅します

著作者の死後における人格的利益の保護

前述のとおり、著作者人格権は、著作者が死亡すると消滅します。しかし、著作権法上、著作者が存在しなくなった後も、その著作者人格権の侵害となるべき行為をしてはならないとされています(著作権法60条)。

共同著作物についての著作者人格権の行使

共同著作物については、著作物に係る権利が2人以上で共有されますので、著作者人格権の行使に当たっても、制限が生じます。
すなわち、共同著作物の著作者が、著作者人格権を行使しようとする場合には、著作者全員の合意が必要となります(著作権法64条1項)。

なお、著作者は、当該合意について信義に反してその成立を妨げることはできません(著作権法64条2項)。また、著作者人格権を代表して行使する者を定めることもできます(同条3項)。

著作者人格権侵害の効果

著作者人格権を侵害された場合、著作者は、以下の対応をとることができます。

民事上の請求差止請求権著作者は、著作者人格権を侵害する者・侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止・予防の請求をすることができます(著作権法112条1項)。
また、差止請求をするに際し、侵害の行為を構成した物や侵害の行為により生じた物の廃棄等、侵害の停止・予防に必要な行為を請求することもできます(同条2項)
損害賠償請求権著作者は、著作者人格権侵害によって損害を被った場合、損害賠償請求をすることができます(民法709条)。
なお、著作権等(著作者人格権は除きます)の侵害があった場合には、著作権者等の損害額に関する立証責任を軽減するために、損害賠償額の算定規定が適用されますが(著作権法114条)、著作者人格権侵害の場合には、このような損害賠償額の算定規定の適用はありません。
名誉回復措置請求権著作者は、故意・過失により著作者人格権を侵害した者に対し、著作者であることを確保し、または訂正その他自己の名誉・声望を回復するために適当な措置を請求することができます(著作権法115条)。
刑事罰著作者人格権を侵害した者は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはその両方が科せられます(著作権法119条2項1号)。
このため、自己の著作者人格権を侵害された者は、警察等に刑事告訴(刑事訴訟法230条)や被害相談等をすることができます。

著作者人格権の不行使特約とは

上記のとおり、著作者人格権は、著作者の一身に専属する権利であり、他者に譲渡することはできません(著作権法59条)。
そこで、実務では、著作者から著作物の利用を受ける場合、(財産権である)著作権については、譲渡や利用許諾を受けるとともに、著作者人格権については、「著作者は著作者人格権を行使しない」旨の著作者人格権の不行使特約を規定することが多いです。

もっとも、実務上よく見る著作者人格権の不行使特約ですが、無限定に著作者人格権の不行使を定める規定は、無効であるとする考えもありますので、著作者人格権の不行使特約について規定するに当たっては留意が必要です。

ムートン

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知財担当者が押さえておきたい法令のまとめ

参考文献

中山信弘著『著作権法[第3版]』有斐閣、2020年

文化庁「著作権テキスト 令和4年度版」