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池上彰の 映画で世界がわかる!

『ハンサン ―龍の出現―』──韓国人にとっての英雄・李舜臣を知る絶好の映画

毎月連載

第58回

韓国・ソウルの官庁街である世宗路に巨大な像が立っています。李舜臣(イ・スンシン)です。彼の肖像と、彼が戦場で駆使した亀甲船は韓国の紙幣にもなっていたことがあります。韓国人にとっての英雄である李舜臣は、どんな将軍だったのかがわかる韓国映画です。

豊臣秀吉は天下統一を果たした後、中国の明の攻略を考えます。その足掛かりにすべく朝鮮半島に出兵したのが、「文禄の役」と「慶長の役」です。韓国では「壬辰・丁酉の倭乱」です。「倭」は日本の古い呼び名です。

秀吉軍は朝鮮半島南部の釜山に基地を築き、半島深くへと進撃します。当初は破竹の勢いで、明の攻略も現実味を帯びていました。

これを海上で迎え撃ったのが朝鮮水軍。その指揮官が李舜臣でした。

このとき朝鮮水軍が使用したのが亀甲船でした。映画では現地の呼び名である「亀船」の表記が使われています。船全体が、まるで亀の甲羅のように覆われ、多数の大砲を備えています。船の舳先には竜頭が備え付けられていて、これで敵の船に体当たりすることもありますが、逆にこれが海上戦では不利になることもありました。

そこで李舜臣は、密かに改良を施すことで戦力を飛躍的に高めます。

対する秀吉軍の司令官は、勇猛果敢な武将、脇坂安治。互いに相手の能力を認め合いながら、どのような戦い方をすべきか知略の限りを尽くします。

映画ですから、実際の歴史とは異なる演出もあるのでしょうが、双方とも間者(スパイ)を送り込んでの情報戦も見どころです。

両軍の戦いの運命を変えることになった分岐点の戦いが「閑山(ハンサン)島海戦」でした。これが、この映画のタイトルです。

李舜臣は、その実力が、かえって自軍の中での嫉みとなり、一時は降格の憂き目にあいますが、やがて復権。秀吉軍に大きな打撃を与えつつも、最終的には戦いの最中に戦死してしまいます。

李舜臣がとりわけ評価されるようになったのは、第二次世界大戦後でした。1910年に日本によって支配され(韓国併合)、独立を果たしたのは日本が敗戦したからです。

日本による支配に反発した韓国の人たちが“見出した”のが、日本軍を撃ち破った“救国の英雄”である彼だったのです。

彼の像は韓国内の各地に立てられています。日本軍を破った人物だけに、たとえばサッカーの日韓戦を応援する韓国のサポーターたちが李舜臣の顔が描かれた旗を振る場面もあります。

日韓は「徴用工問題」や「慰安婦問題」などをめぐって、しばしば関係が悪化します。それだけ韓国併合の負の歴史が尾を引いているのですが、その韓国の人たちにとっての英雄にはどのような人がいるのか。それを知るには絶好の映画でしょう。

(C)2022 LOTTE ENTERTAINMENT & BIGSTONE PICTURES CO.,LTD.ALL RIGHTS RESERVED.

『ハンサン ―龍の出現― 』

2023年3月17日(金)公開

監督:キム・ハンミン

出演:パク・ヘイル/ピョン・ヨハン/アン・ソンギ/ オク・テギョン ほか

プロフィール

池上 彰(いけがみ・あきら)

1950年長野県生まれ。ジャーナリスト、名城大学教授。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。記者やキャスターをへて、2005年に退職。以後、フリーランスのジャーナリストとして各種メディアで活躍するほか、東京工業大学などの大学教授を歴任。著書は『伝える力』『世界を変えた10冊の本』など多数。