「お金より愛?」極貧の下積み時代を経て分かったこと　白鳥久美子さん

　各界の著名人が語る「お金とわたし」。今回は人気お笑いコンビ・たんぽぽの白鳥久美子さん（40)です。先輩芸人、チェリー吉武さん（42）との結婚、出産を経て「お金の大切さ」を実感したそうですが、その理由とは。【大平明日香】

　――下積み時代を教えてください。

　大学卒業後、1年半は舞台女優を目指していましたが、オーディションに全然引っかからずに挫折しました。福島の実家に戻りましたが、今度は「芸人を目指そう」と思い立ち、現金20万円を握りしめて再び上京しました。

　同郷の友人2人とルームシェアをしていました。当初はアルバイトで1カ月に19万円くらいは稼げていましたが、ホリプロ（所属事務所）のオーディションに合格し、事務所に入ってからが厳しくて。

　週1回あるネタ見せの準備や、先輩芸人のライブの手伝いなどでアルバイトに入りにくくなったためです。バイトの遅刻や欠席が続いてクビになることもしょっちゅうで、深夜に働ける居酒屋のバイトを掛け持ちしていました。

　――お金の苦労で忘れられないエピソードはありますか。

　ピン芸人で活動して1年後、川村エミコさん（42）とたんぽぽを結成しましたが、川村さんも同じくらいお金がなかった。2人でお金を持ち寄って、「ちょうど200円あるからパンを1個買って分けよう」などと言ってしのいでました。

　当時は東急世田谷線の上町駅（東京都世田谷区）付近に住んでいたのですが、テレビ局までオーディションを受けに行くための電車賃がないんです。日本テレビ（港区）まで5時間歩いた記憶があります。

　国道246号をずっと歩くんですけど、その途中で路上におせんべいが1枚、ぽんっと落ちていたんです。おなかがすいていて思わず食べました。きれいだったんで（笑い）。

　――お金も仕事もない状態で、どんな心境だったのでしょう。

　周りにも、お金を持った芸人なんていないので「まあ、こんなもんだろう」という気持ちはありました。でも、テレビ番組に出演するためのオーディションの最終審査で落ちることが続いた時はつらかった。何が正解か分からなくなって、川村さんとお互いを責めて大げんかしましたね。歩いて移動していたから体力も奪われていくし、アルバイトに行けば怒られてばかり。あの時は本当に心身共に疲れていたなと思います。

　――2010年に人気バラエティー番組「めちゃ×2イケてるッ！」（フジテレビ系）の公開オーディションに受かって新メンバーになりました。仕事も増え、生活も変わったのでは？

　私はシェアハウスを出て家賃5万円のアパートで1人暮らしを始め、川村さんは風呂なしから風呂ありのアパートに引っ越しました。ようやく人として地に足着けて生活できるなという安心感はありました。

　でも、まだコンビを結成して2年。何もできない状態で人気番組に入ってしまった。スタッフさんにも怒られてばかりで、精神的に追い込まれました。「クビにするぞ！」とか言われて、「ああ、いずれこの仕事はなくなるんだ」というプレッシャーがすごかった。仕事がある今の状況が続くと思わず、ずっと貯金していましたね。

　――高い買い物はしましたか？

　全くしなかったです。あえていえば、タクシーに乗れるようになったのはうれしかったですね。移動で使うと「ああ、ぜいたくだな」という気分になりました。今まで歩いていた人間なので（笑い）。

　――お尻でくるみを割るなど体を張った芸が特徴の先輩芸人、チェリー吉武さんと18年に結婚。テレビ番組でチェリーさんが公開プロポーズしました。指輪を差し出された白鳥さんが、「お金がないんですよ、チェリーさんは」と叫んでいた姿が印象的です。

　チェリーさんは、びっくりするくらいお金がなかったですね。風呂なし、トイレ共同のアパートに住んでいて、家賃は1万円ちょっと。デートもいわゆる「センベロ」（1000円程度で楽しめる居酒屋）が多かったですね。

　3年くらい付き合いましたが、本人は稼ぎが少ないことを気にして結婚に踏み切れなかったみたいです。でも私は「女は出産でタイムリミットがあるんだから、しないならしないと言ってくれ。お金のことは心配するな」って怒りました（笑い）。

　――「男性に稼いでほしい」という固定概念はなかったのですか。

　本当は小さい頃から「白馬に乗った王子様が迎えに来て、私を養ってくれる」という憧れがありました。でも、ずっと彼氏ができなくて。ある時、漫画家の東村アキコ先生と飲む機会があって相談したんです。そしたら「白鳥は、売れない劇団員とかと付き合って育てていく。そういうのが合っていると思う」「別にいいじゃん、白鳥が稼げば」と言われたんです。

　その発想はなかったのですが、その考えもありだなと思いました。かっこいいなと。その時に頭に浮かんだのが、以前から好意を持っていたチェリーさんでした。そこから交際、結婚と発展したので、アキコ先生には感謝ですね。

　――21年に長女が誕生。妊娠、出産で仕事を休むことへの不安はなかったですか。

　いろいろ調べて、初めて知ることばかりでした。個人事業主なので、会社員と違って育児休業給付金は出ないし、休めば休むほどお金がなくなる。だから芸能人は出産後すぐに復帰する方が多いんだなと納得がいきました。

　本当に、「めちゃイケ」レギュラー時代にお金を無駄に使わなくて良かったなと思いましたね。ただ、出産一時金の42万円や、妊娠中の年金免除（国民年金の加入者は出産前4カ月は払い込みが免除される制度）など国の支援も知り、安心材料にはなりました。

　――いつ復帰したのですか。

　産後3カ月で復帰しましたが、保育園には空きがなくて子どもを入れることができませんでした。復帰後にがっつり働こうと思ったんですけど予定が狂いました。子育てのため無理な仕事は断ったり、福島の実家から母親に来てもらったりしました。

　こんな状態では仕事は続けられないと思って、「いよいよ職業を変えないといけないかも」と追い詰められましたね。結局、翌年4月には無事に保育園に入れたのですが。

　――お子さんが生まれると将来のお金についても気になりませんか。

　私もチェリーさんも不安定な仕事なので、子どもに何かあった時、困らない程度のお金は用意しておこうと思います。「ここの大学に行きたい」とか「こういう進路に進みたい」という時に、自由になるお金は持っておきたい。私自身の「これがほしい」とか「ここに住みたい」という気持ちはなくなっちゃいました。

　――資産運用はしていますか？

　iDeCo（個人型確定拠出年金）はやっていて、今は学資保険について調べています。あとは投資じゃないですけど、ポイ活（店や通販サイトなどでポイントをためる活動）くらいですかね。妊娠中になんとなくためていたポイントを見直して、3種類くらいに絞りました。他はやみくもにやらないようにしています。あと、アンケートに答えたら2ポイントくれるみたいなアプリがあるじゃないですか。そういうのを暇な時や電車移動中などにやっています。

　――今後の抱負は。

　やることは変わらないと思うんですけど、楽しく仕事をしている姿を娘に見せていきたいと強く思っています。

　あと、「仕事をしたいけどできない」ってお母さんがいっぱいいると思うんです。そういうお母さんたちが働ける場所を作れたらいいな。保育士の資格も取ったので、その間に「あなたたちの子どもの面倒は私が見るから」と。壮大な夢ですけどね。まずは、いろんなお母さんと交流できる場を作れたら私も楽しいなと思います。

　――白鳥さんにとって「お金」とは？

　「お金も愛にはかなわない」なんていうけど、やっぱりお金は大事だと思います。メンタルが安定している時は、だいたいお金があった時。売れなかった時代の心のすさみ方、妊娠・出産して稼ぎが少なくなった時のメンタルの揺れは、今振り返ると半端なかった。

　なんだかんだで、お金があると安心につながる。「愛とかいってんじゃねえ。今、お金が必要なんだよ！」って時が絶対あるじゃないですか（笑い）。たんまりある必要はないけど、それなりにね。ちゃんと持っていないといけないなと身をもって感じますね。

　白鳥久美子さん

　1981年、福島県生まれ。日大芸術学部卒。2008年に川村エミコさんと「たんぽぽ」を結成。10年に「めちゃ×2イケてるッ！」の新レギュラーに選ばれる。女優としても活躍している。夫は芸人のチェリー吉武さん。1児の母。