私も読んだよ！！／下　2001年ノーベル化学賞　野依良治さん（83）（その1）

残（のこ）せるのは教育（きょういく）だけ

　連載（れんさい）の最終回（さいしゅうかい）はだいぶ時代（じだい）がさかのぼります。2001年（ねん）にノーベル化学賞（かがくしょう）を受賞（じゅしょう）した野依良治（のよりりょうじ）さん（83）は、子（こ）どものころ毎日小学生新聞（まいにちしょうがくせいしんぶん）を読（よ）んでいました。「戦後（せんご）」と呼（よ）ばれる混乱（こんらん）と復興（ふっこう）の時代（じだい）でした。毎小（まいしょう）の思（おも）い出（で）に加（くわ）え、豊富（ほうふ）な経験（けいけん）を踏（ふ）まえて、科学（かがく）、教育（きょういく）、戦争（せんそう）などについて語（かた）ってもらいました。【塩崎崇（しおざきたかし）】

　野依（のより）さんは兵庫県神戸市（ひょうごけんこうべし）で育（そだ）ちました。お父（とう）さんは企業（きぎょう）の化学（かがく）研究者（けんきゅうしゃ）でした。太平洋戦争（たいへいようせんそう）が激（はげ）しさを増（ま）した1944年（ねん）秋（あき）、兵庫県（ひょうごけん）内（ない）の山間（さんかん）部（ぶ）に疎開（そかい）しました。国民学校（こくみんがっこう）（今（いま）の小学校（しょうがっこう））に入学（にゅうがく）する前（ぜん）年（ねん）でした。「都会（とかい）育（そだ）ちだったので、地元（じもと）の子（こ）どもに生活（せいかつ）力（りょく）や体力（たいりょく）でかないませんでした」。そして疎開（そかい）中（ちゅう）、生（い）き物（もの）の捕（と）り方（かた）などいろいろ教（おし）えてもらいました。45年（ねん）春（はる）に国民学校（こくみんがっこう）に入学（にゅうがく）。その夏（なつ）に終戦（しゅうせん）を迎（むか）え、翌（よく）年（ねん）、神戸（こうべ）に戻（もど）りました。

　2年（ねん）生（せい）のころ毎日小学生新聞（まいにちしょうがくせいしんぶん）（当時（とうじ）は少国民新聞（しょうこくみんしんぶん））を読（よ）み始（はじ）めました。「焼（や）け野原（のはら）で食（た）べ物（もの）や物資（ぶっし）が足（た）りませんでした。教育（きょういく）熱心（ねっしん）だった両親（りょうしん）は、子（こ）どもに残（のこ）せるのは教育（きょういく）だけと考（かんが）え、社会（しゃかい）に関（かん）する信頼（しんらい）できる情報（じょうほう）源（げん）として毎日小学生新聞（まいにちしょうがくせいしんぶん）を買（か）い与（あた）えてくれたようです」。しかしそのころ好（す）きだったコーナーや読（よ）んだ記事（きじ）は「昔（むかし）過（す）ぎて思（おも）い出（だ）せない」そうです。

　そのころ、お金（かね）のある会社（かいしゃ）は海外（かいがい）から技術（ぎじゅつ）を輸入（ゆにゅう）していました。しかしお父（とう）さんは毎日（まいにち）夕食（ゆうしょく）の時（とき）に家族（かぞく）に向（む）け「国産技術（こくさんぎじゅつ）なくして経済（けいざい）復興（ふっこう）はありえない」と熱弁（ねつべん）を振（ふ）るっていたそうです。毎小（まいしょう）は6年（ねん）生（せい）ごろまで読（よ）みました。新聞（しんぶん）は今（いま）でも毎日（まいにち）1時間程度（じかんていど）は読（よ）むそうです。

　そして中学校（ちゅうがっこう）に入学（にゅうがく）した春（はる）、お父（とう）さんと大阪（おおさか）で開（ひら）かれた産業（さんぎょう）技術（ぎじゅつ）発表（はっぴょう）会（かい）に行（い）きました。そこで、ある企業（きぎょう）の説明（せつめい）を聞（き）いてびっくりします。新（あたら）しい化学繊維（かがくせんい）・ナイロンについて「石炭（せきたん）と水（みず）と空気（くうき）でできている」と言（い）うのです。中国（ちゅうごく）の古（ふる）い詩（し）「国（くに）破（やぶ）れて（戦争（せんそう）によって国（くに）が荒（あ）れ果（は）ててしまうこと）山河（さんが）あり」になぞらえて「『国（くに）破（やぶ）れて科学（かがく）あり』と思（おも）いました。そして化学（かがく）の力（ちから）はすごいとも」。将来（しょうらい）の道（みち）は決（き）まりました。「もちろん父（ちち）の影響（えいきょう）はありましたが、最後（さいご）は自分（じぶん）で選（えら）んだ道（みち）です。それが大切（たいせつ）です」と力（ちから）を込（こ）めます。

　中学（ちゅうがく）・高校時代（こうこうじだい）も化学（かがく）に興味（きょうみ）を持（も）ち続（つづ）け、産業（さんぎょう）見本市（みほんいち）に行（い）ったりしていました。＝2面（めん）につづく

野依（のより）さんの略歴（りゃくれき）

　1938年（ねん）生（う）まれ、兵庫県（ひょうごけん）出身（しゅっしん）。2001年（ねん）、ノーベル化学賞（かがくしょう）を受賞（じゅしょう）。右（みぎ）手形（てがた）と左（ひだり）手形（てがた）のちがいがある化学物質（かがくぶっしつ）の右左（みぎひだり）のどちらかを作（つく）り分（わ）ける方法（ほうほう）を開発（かいはつ）し、安全（あんぜん）な薬（くすり）や香料（こうりょう）、食品（しょくひん）作（づく）りに役（やく）だったことが評価（ひょうか）された。名古屋大学（なごやだいがく）教授（きょうじゅ）、理化学研究所（りかがくけんきゅうしょ）理事長（りじちょう）、政府（せいふ）の教育再生会議（きょういくさいせいかいぎ）座長（ざちょう）などを務（つと）めた。15年（ねん）から科学技術振興機構（かがくぎじゅつしんこうきこう）研究開発（けんきゅうかいはつ）戦略（せんりゃく）センター長（ちょう）。