日経DIのロゴ画像

ヒヤリハット事例に学ぶ
中年の男性患者がPL配合顆粒を服用し尿閉に
日経DI2016年4月号

2016/04/10

日経ドラッグインフォメーション 2016年4月号 No.222

抗コリン薬は、前立腺肥大症や尿路結石など下部尿路に閉塞性疾患のある患者には禁忌となっている。今回は、東京大学の澤田康文氏が全国から収集したヒヤリハット・データベースの中から、「抗コリン薬による排尿困難・尿閉に関するトラブル事例」を紹介してもらう。

■ 何が起こったか
 処方箋の薬剤を交付した3日後に、患者から薬局に、排尿障害を訴える電話があった。

■ どのような経緯で起こったか
 患者はかぜを引いて喉が痛いとのことで、病院の内科を受診し、処方箋を持って来局した。それから3日後に患者から「尿が出なくなった」と薬局に電話があった。

 患者は薬剤師の勧めで病院の泌尿器科を受診し、自宅にあったPL配合顆粒(一般名サリチルアミド・アセトアミノフェン・無水カフェイン・プロメタジンメチレンジサリチル酸塩)による排尿障害と診断された。患者は、以前かぜを引いたときに処方されたPL配合顆粒が家に残っていたため、それを内科を受診する少し前から自己判断で服用していたとのことであった。泌尿器科の医師は、「今回、尿が出なくなったのはPL配合顆粒が原因でしょう」と話したという。

第1世代の抗ヒス薬に抗コリン作用

 抗コリン薬には、排尿時の膀胱の収縮力を弱める作用があるため、排尿障害(排尿困難、尿閉[膀胱内に尿が溜まっているのに、排出できない状態。強い尿意や下腹部痛を伴う])を引き起こす可能性がある。排尿障害を起こし得る薬剤には、頻尿・尿失禁治療薬、消化性潰瘍治療薬、気管支拡張薬、パーキンソン病治療薬、抗うつ薬、抗不安薬などがある(表1)。

表1 排尿障害(排尿困難・尿閉)を起こし得る薬剤(文献1より抜粋、一部改変)

画像のタップで拡大表示

 総合感冒薬のPL配合顆粒も、その1つ。同薬に含まれる第1世代の抗ヒスタミン薬のプロメタジンメチレンジサリチル酸塩に抗コリン作用があるため、同薬は前立腺肥大など下部尿路に閉塞性疾患のある患者や緑内障の患者に対して禁忌となっている。

 CASE1は、残薬のPL配合顆粒を、患者が自己判断で服用し、尿閉を起こした事例である。このケースでは、患者に排尿障害があったことは確認されていないが、患者が50代の男性であることや、PL配合顆粒の服用により尿閉を起こしたことから、患者には以前から排尿障害の傾向があった可能性がある。

中高年男性であれば排尿障害を念頭に

 中高年の男性では、加齢による膀胱・尿道括約筋の機能低下に加え、前立腺肥大症や尿路結石などの疾患による排尿障害を起こしやすい。50歳以上の男性の3~4割以上に前立腺肥大症があるとの報告もあることから、大半の中高年男性には多かれ少なかれ排尿障害があると言っても過言ではない。こうした患者が抗コリン薬を服用すると、症状が悪化して、排尿困難や、ひどい場合は尿閉を起こすことがある。

 泌尿器科に通院中の患者や、前立腺肥大症の薬が処方されている患者に抗コリン作用がある薬が処方された場合は、注意が必要である。また、抗コリン作用がある薬剤の交付に当たっては、交付前に排尿障害の有無を確認し、排尿障害の症状がある場合は、副作用の出現により注意を払うことで、早期発見、早期対応につなげることができる。

 さらに、抗コリン薬服用中は、排尿障害の出現や悪化がないかを確認し、排尿障害の悪化や自覚症状がある場合は、速やかに受診するよう指導したい。薬剤服用後、排尿時の尿の勢いがなくなった、尿が途中で途切れる、出始めるのに時間がかかる、お腹に力を入れないと出ない、などの症状が出た場合は、薬の影響を考えるべきである。

 このケースでは残薬が大きな問題である。総合感冒薬は、患者が残薬を自己判断で服用したり、家族や知人同士で譲り合ったりする可能性がある。薬剤師は、前立腺肥大症や緑内障の患者の家族にPL配合顆粒が処方された場合などに、家族が残薬を服用しないよう話すようにしたい。

 本ケースでは、PL配合顆粒に含まれるアセトアミノフェンとロキソニン(一般名ロキソプロフェンナトリウム水和物)が、解熱鎮痛薬として重複していることも問題である。

 今回のケースでは、薬剤師は、以前患者にPL配合顆粒が処方されたときに、次のように説明すればよかった。

「排尿障害や緑内障はありませんか。そうですか、排尿障害とは言われていないけれど、最近尿が出にくくなってきたと感じておられるのですね。今回処方されたかぜ薬は、飲んだ後に尿が出にくくなることがあります。お薬を飲む前に比べておしっこの勢いがなくなった、出始めるのに時間がかかる、お腹に力を入れないと出ないなどの症状が出た場合は、お薬の影響による可能性があるため、すぐに泌尿器科を受診してください。

 それと、PL配合顆粒にはいろいろな成分が含まれていて、他のお薬と一緒に飲むと、お薬が効き過ぎたり、副作用を起こしたりする恐れがあります。特に前立腺肥大症や緑内障の患者さんは副作用を起こしやすく、絶対に服用してはいけないとされています。お薬が余っても、家族や知り合いにあげないでくださいね」


■ 何が起こったか
 PL配合顆粒で尿が出なくなった経験がある患者に、抗コリン薬のチアトン(一般名チキジウム臭化物)が処方されたが、薬剤師はそれを見逃した。患者は、チアトン服用後に、尿が出なくなり、排尿痛を訴えた。

■ どのような経緯で起こったか
 患者は初めて当該薬局に来局した。その際、患者は問診票の副作用歴の欄に、「かぜ薬(たぶんPL配合顆粒)で尿が出なくなったことがある」と記載したが、このことについて、薬剤師は患者に確認せず、医師への疑義照会も行わなかった。

 翌日の昼ごろ、患者から「今朝から尿が出ず、痛くて苦しい」と薬局に電話があった。患者は親戚の薬剤師に、「尿が出ないのはチアトンのせいではないか」と言われたとのことだった。薬剤師は、すぐに病院を受診するよう勧めた。診察の結果、尿路結石の症状に、チアトンの抗コリン作用が加わって排尿困難を来した可能性があるとして、チアトンが中止された。

副作用歴の排尿困難には特に注意

 CASE2では、問診票の副作用欄に、PL配合顆粒による排尿困難の副作用歴が記載されていたにもかかわらず、抗コリン作用があるチアトン(チキジウム臭化物)を交付してしまった。以前、PL配合顆粒による排尿困難を経験しているということは、同じ抗コリン作用を持つチアトンでも同様の副作用が起こる可能性が高いはずだが、薬剤師は、その可能性を認識していなかったと考えられる。

 患者の副作用歴には十分な注意を払う必要がある。すなわち、処方内容に、過去に副作用を起こした可能性がある薬剤と同系統の薬剤がないかどうか、同じ副作用を起こす可能性がある薬剤はないかなどを確認する必要がある。

 今回のケースでは薬剤師は、問診票に「かぜ薬(たぶんPL配合顆粒)で尿が出なくなったことがある」との記載を把握した上で、次のように説明すればよかった。

 「かぜ薬のPL配合顆粒を服用された際に、尿が出なくなったことがあるのですね。今回、処方されたチアトンにも、尿を出にくくする作用があります。Aさんは、症状を起こしやすい可能性がありますので、少し心配です。医師に確認を取りますので、少々お待ちください」

(疑義照会後)「先生と相談したところ、念のために、チアトンは中止することになりました。お薬の中には、尿が出にくくなる作用を持つものがいくつかあります。かぜ薬を飲んだときと同じような症状が出た場合は、すぐに泌尿器科を受診してください」

「短期間なら大丈夫」は間違い

 排尿障害の患者にPL配合顆粒が処方された場合、薬剤師は疑義照会をするが、中には処方日数が少ないことを理由に処方変更に至らないこともある。しかし、PL配合顆粒を3日間服用して尿閉となった症例も報告されている。

 また、前立腺肥大症を治療していても、副作用が起こる可能性は変わらない。タムスロシン塩酸塩(商品名ハルナール他)などのα1遮断薬は、尿道括約筋にあるα1受容体を遮断して尿道括約筋を弛緩させ、尿道の閉塞状態を抑制して排尿困難の症状を軽減する。一方、抗コリン薬は、膀胱壁にあるムスカリン性アセチルコリン受容体(M3)を遮断して弛緩させ、過活動膀胱症状を軽減する。このように両薬剤の作用点(受容体)は全く異なる。

澤田康文(さわだ・やすふみ)
東京大学大学院教授(薬学系研究科育薬学講座)。専門は薬剤学、特に薬の体内動態、医薬品の適正使用・育薬に関する研究。

参考文献
1) Geriat Med. 2014;52:1101-5.
2) 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル(尿閉・排尿困難)」

本コラムは、東京大学の澤田康文氏らがインターネット上で運営している薬剤師情報交換システム「アイフィス」の会員などから寄せられた事例を基に執筆されています。澤田氏らが収集した服薬指導におけるヒヤリハット・ミス事例は、無料で閲覧が可能です。入会申し込みは、NPO法人医薬品ライフタイムマネジメントセンターのウェブサイト「アイフィス(薬剤師)」コーナーから。

  • 1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この記事を読んでいる人におすすめ