アプリで変わるiPhone Xのカメラ画質
iPhoneのカメラはとても性能が良いと評判だ。実際、数あるスマホの中でもその性能はトップクラスで、もはやデジカメ要らずと言ってもいいだろう。最新モデルである「iPhone X」には撮影用のレンズユニットが2つ備わっていて、35mm判のカメラ換算で約25mmと約52mmのレンズが組み合わされ、簡易的にズーム撮影でも高画質を保った撮影が行なえるため、倍率こそ低いがズームでも画質が落ちにくくなっている。
スマホに搭載されているカメラ機能は基本的に単焦点レンズを採用しているため、被写体をアップに撮ろうとするとデジタルズームで拡大することになり、画質の低下を避けることはできず、望遠での撮影をするならデジカメのほうが良いという感じだったが最近のiPhoneではズームにも強くなっていることもあり、大きくズームアップするような撮影でない場合にはデジカメである必要性は減ってきている。
とまぁ、写りの良さは今更な話ですでに十分な評価記事も多いが、今回はそのカメラ機能についてちょっと別のアプローチから試してみた。
iPhone Xには標準でカメラアプリがインストールされていて、画質的な評価は純正のカメラアプリで確認していると思われる。しかし、iOS用のAppStoreで「カメラ」と検索すればたくさんの撮影用カメラアプリが出てくる。標準でインストールされているのに、いくつものカメラアプリがあるのにはほぼ2つの理由による。
ひとつはシャッター音が消せること。海外で販売されているiPhoneではシャッターを切ったときに音がしないように設定をすることができるが、日本モデルはシャッター音が消せない。最近はスマホの所有率も高く、写真をアップする系のSNSも人気があって、巷ではスマホのシャッター音で溢れている。静かな場所で気軽に写真を撮ってシャッター音で雰囲気が台無しになることも多い。
そしてもうひとつ。こちらが重要で、純正のカメラアプリ以上の機能を備えていることだ。純正アプリはシンプルで操作性はいい分、機能は少ない。たとえばホワイトバランスの設定やシャッタースピード、ISO感度を自分で設定できるようになったら便利ではなかろうか、そのあたりをカバーしているのがサードパーティ製のカメラアプリだ。
写真を撮ることが好きな人なら、当然シャッタースピードの効果を利用したいだろうし、色鮮やかなシーンを見ればマニュアルでホワイトバランスを設定したくなるだろう。そういった純正アプリではできない機能を使うために、多くのカメラアプリが日々開発されている。
そこで気になるのが今回の検証「カメラアプリで画質に差は出るのか?」だ。結論から言うと、使用するカメラアプリで画質に差は出る。
純正アプリには無い便利な機能とともに、カメラアプリの違いによる画質の違いをチェックしていこう。
今回用意したのは純正カメラアプリの他に5つ。「Adobe Lightroom CC」「OneCam」「StageCamHD」「ミラカメラ」「Microsoft Pix」だ。いずれも人気のあるソフトでユーザーも多いだろう。まずは簡単にそれぞれの機能紹介から。
iPhone純正アプリ「カメラ」
iPhoneを購入すれば必ず入ってるアプリ。画面を横にスワイプさせることで撮影モードを変更することが可能で、動画やスロー撮影、ポートレイトなどの切り替えができる。また画面の被写体部分をタップした状態から上下にスワイプ操作することで露出補正もできる。以前までは画面上のスペースにHDRの切り替えボタンがあったが現バージョン(iOS 11)では標準でHDRがオンになっている。HDRをオフにしたい場合や元画像も残したい場合は一旦ホーム画面に戻って、設定→カメラで設定できる。動画やスローモーション撮影の設定などもここで行なうのだが、わざわざOSの設定にいかないといけないのは面倒だ。
カメラの設定項目に「フォーマット」がある。なんとなくデジカメ脳で考えると内部ストレージを初期化してしまうイメージだが、これは記録形式の選択だ。iOS 11のカメラアプリで新規に採用された形式で「高効率」を選ぶと拡張子が「.HEIC」の静止画が「互換性優先」を選ぶと拡張子「.JPG」で記録される。「.HEIC」の形式だとiOS 11以降か、macOS 10.13以降が必要になり、そのままではWindowsで閲覧できない。
しかし心配はご無用。カメラアプリの設定とは別に「写真」の設定を見ると、下のほうに「MACまたはPCに転送」という項目があって、そこに「自動」と「元のフォーマットのまま」という選択項目がある。ここで「自動」を選んでおくと、WindowsとLightningケーブルで繋いだときに、iPhoneのストレージを見るとファイルがJPEG形式になっている。
この項目はデフォルトで自動になっているので、もしWindows上で静止画の拡張子が「.HEIC」になっていて見られない場合には確認してみよう。
ちなみに、拡張子「.HEIC」で記録されるのはiOS 11以降で、かつプロセッサーにA9以上を採用しているiOSデバイス(iPhone 6sやiPhone SE以降)なので、ちょっと古いiPhoneをiOS 11にアップデートしても、拡張子「.HEIC」の形式では記録されない。
上部の右にはエフェクトモードのアイコンがあってクリックすることでエフェクトを選択可能になっている。
「カメラ」は基本的に撮影をするのみで、画像の確認は別のアプリ「写真」を利用することになり、この2つ組み合わせて使うことが前提となっている。「カメラ」には機能は少ないが画像の補正は「写真」で行なう。
写真の整理閲覧がメインのカメラ「Adobe Lightroom CC」
Adobe Lightroom CC
作者:Adobe
価格:無料(アプリ内課金あり)
「Adobe Lightroom CC」は無料で利用できるちょっと変わったカメラアプリだ。このアプリの基本は写真の整理閲覧で、撮影機能は整理閲覧のための付加機能のひとつと考えたほうがいい。なぜならアプリをタップして起動させた場合に最初に表示されるのは記録されている画像の一覧で、撮影をするにはその画面からカメラのアイコンをタップしてモード変更させなくてはいけない。シャッターボタンの左にはモード切り替えがあり、右にはワンタッチで2倍ズームにするボタン、露出値のロックボタン、フィルターの切り替えボタンが並んでいる。なお、シャッター音は消せず、動画も撮れない。
とはいえ、Lightroom CCのカメラはとても多機能だ。デフォルトではオートに設定されているのでそのままでも普通に撮れるが、シャッターボタンの左をクリックすると「AUTO」「プロフェッショナル」「HDR」の3つの撮影モードを選べるようになる。
プロフェッショナルのモードでは露出補正(プラスマイナス3段)、シャッタースピード(AUTO、1/10000~1/4秒)、ISO感度(AUTO、ISO25~2000)、ホワイトバランス、マニュアルフォーカスの項目をそれぞれ自由に設定できる。なお、マニュアルフォーカスではピーキング表示が行なわれるので、とても実用性の高いマニュアルフォーカスでの撮影が可能だ。
HDRモードでは元画像を残す設定もできるほか、ハイライトのクリッピング表示のオンオフ切り替え、白飛び部分に警告の出るゼブラ表示の設定が可能なほか、2軸の水準器、アプペクト比を16:9、3:2、4:3、1:1から選ぶこともできる。
また、記録形式にJPEGだけでなくRAWフォーマットである「.DNG」を選択することも可能だ。iPhoneで高画質に撮りたいならRAW形式は外せない。
Lightroom CCではレタッチ機能も充実している。マスク処理を行なって部分的な補正やレンズ補正、色調補正など、Photoshopに近い作業ができる。もちろんDNG形式で記録したRAWファイルの現像も可能だ。
使い方に注意が必要なのは、Lightroom CCで撮影した画像はそのままではiPhoneのカメラロールには保存されないこと。カメラの内部に記録されているようだが、Windowsにマウントしてエクスプローラーで見ても画像は見つからない。一度Lightroom CCで画像を見て、カメラロールへの書き出しを行わないといけない点は覚えておこう。
また、カメラロールへの書き出し以外にも画像を選んで共有を選ぶことで、他のSNS等のサービスに画像を転送できるの。Lightroom CCの画像一覧ではLightroom CCで撮影した画像だけでなく、スクリーンショットや他のカメラで撮影した画像も含まれているので純正アプリ、「カメラ」「写真」をそのまま置き換えて利用することも可能だ。
PC用のLightroom CCとAdobeクラウドを経由して同期できる点も見逃せない。撮影したRAWファイルもPC上に保存できるので、PC版Lightroom CCはもちろん、Lightroom ClassicやPhotoshop、もしくは汎用のRAW現像ソフトで現像処理もできる。iPhoneをカメラとして扱うならとても便利なアプリだ。
無料版でもほとんどの機能が使える「OneCam」
OneCam 高画質マナーカメラ ~フリックでシェア~
作者:Walker Software
価格:240円
「OneCam」は結構古くからあるカメラアプリだ。純正カメラアプリの機能を中心に使いやすさを向上したアプリで、筆者も以前から利用しているが、便利なのはピンチイン/アウトでのズーム機能を無効化できること。ダブルレンズ搭載のiPhoneではちょっと機能制限になるが、レンズがシングルのiPhoneなら便利だ。
ほかには、画面上を上下や左右にフリックすることで他のアプリを呼び出したり連写枚数の枚数制限を設定することができる。このアプリではシャッター音を消すことが可能だ。HDR撮影機能は持たず、動画も撮れない。
記録解像度の設定やアプリ起動時にiPhoneの画面の明るさを独自にコントロールすることができる。またフリック操作でどのアプリを呼び出すかも任意に設定が可能だ。
マニュアルモードへ切り替えるとフォーカス位置(青い四角)と露出位置(赤い丸)を個別に指定することが可能になる。
「OneCam」では画像確認に専用のビューワー機能が備わっていて、自動的に場所や日付で区別される。基本的には閲覧だけで補正機能はないが、他アプリへの画像転送が簡単にできるのと、カメラロールのすべての画像を見ることができるので便利だ。
シンプルだがかゆいところに手が届く「StageCamHD」
StageCameraHD(iOS版)
作者:sky-nexus Inc.
価格:無料(アプリ内課金あり)
「StageCamHD」は無料ですべての機能を利用できるが、撮影枚数が一定数を超えるごとに広告が表示される。240円を払えば公告を非表示にできる。
このアプリも基本的には純正アプリ「カメラ」に準拠している。機能はシンプルで動画撮影は可能だが、解像度はフルHDまで。露出補正はできるが、他にマニュアル的な使用方法は無い。連続撮影モードをオフにすることで、シャッター押しっぱなしで不意に連写してしまうことを防げるのは便利。なお、シャッター音は消せる。
シャッターボタン左にあるAEボタンを押すと、露出補正のスライダーが表示される。はじめから出ている+と-表記のスライダーはズーム機能だ。
設定できる項目は少ないが実用性のある項目ばかり。使い勝手そのものはかなり良い。
画像確認用のビューワーは内蔵しているが、閲覧と他アプリへの橋渡し程度だ。補正機能を利用するなら純正の「写真」を利用することになるが、レタッチや補正を必要としない使い方ならシンプルで使いやすい。
4K動画も撮影できる!「ミラカメラ」
ミラカメラ
作者:AppMadang
価格:360円
「ミラカメラ」も結構古くからあるアプリで、無料で利用できる。こちらも基本的にシンプルで純正アプリ「カメラ」と同じような使い方が可能だ。HDRの機能を利用することはできるが元画像を残す設定はない。動画は4K撮影に対応する。バーストモードでの連写間隔(0.1秒~3秒、連写回数(3回~24回)を設定可能なほか、シャッター音を消した時にシャッターを切ったことがわかるようにバイブを動作させる設定もある。
何のためにあるのかわからないのが「レンズ全体映像」の切り替え。この機能をオンにすると若干画角が広くはなるのだが、その状態で他のカメラアプリとほぼ同じ画角になる。デフォルトではオフになっているので画角が他のカメラアプリよりも少し狭い。使用可能空間というのも画角に関係しそうな雰囲気だが、実は右上に撮影可能枚数が表示されるだけ。
マイクロソフトのカメラアプリ「Microsoft Pix」
Microsoft Pix カメラ
作者:Microsoft Corporation
価格:無料
マイクロソフトのiPhone用カメラアプリ。無料で利用できる。独自のビューアーを内蔵している点も特徴。シャッター音を消すことが可能な他、ライブショットを無効化することもできる。動画はフルHDまで可能だ。シンプルで使いやすいが、最大のネックは露出補正機能が無い点。
「Microsoft Pix」の最大の特徴と言えるのが、ベストショット機能。実はこのカメラアプリ、常にバーストモードで撮影を行ない、なおかつ補正し、その中からカメラが良いと思った1枚を残すようになっている。画像確認をすると元画像との比較が行なえ、どちらを保存するかを任意に選べるようになっている。
シンプルなので使い勝手は悪くないが、いかんせん露出補正がない点はなんともしがたいが、自動補正機能とベストショット機能はとても便利だ。あまり設定を考えないで気軽に撮りたい場合には良いだろう。
6つのアプリで撮り比べた結果
ここから今回の目玉。以上の6つのアプリで撮り比べた結果を紹介する。なお、写真はすべて原寸大なので、データ通信量に注意してほしい。1枚4~5MBあるので、Wi-Fi環境推奨だ。
風景をテーマに撮影
なお、Photoshopで100%表示にして並べたのがこちら
並べたほうは順番を調整できなかったのでちょっとわかりにくいかもしれないが、スクショでも精細さの違いがわかるだろう。
純正アプリではシャープネスが高く、解像力も十分に高いのがわかる。純正アプリを基準に考えると、Lightroom CCとミラカメラがほぼ同等の解像力とシャープネスを得られている。それ以外ではStageHD、OneCam、MicrosoftPixの順にシャープネスは甘くなっていく。また、ミラカメラは純正アプリよりもコントラストが高めな傾向があり、シャドー部の締りが強く、暗部側の補正が控えめな印象を受ける。
屋内をテーマに撮影
Photoshopで100%表示にして並べたスクショがこちら
こちらは暗い場所で撮影してみた結果。かなり暗いシーンで肉眼はほぼ見えないような状況だが、結構写っているのに驚きだ。exifデータを見ると、純正アプリではISO640、LightroomCCではISO640、ミラカメラではISO640、MicrosoftPiXではISO2000、OneCamとStageCamHDではISO感度のデータは確認できなかった。
ISO640で撮影されている純正、LightroomCC、ミラカメラではほぼ似たような結果になっている。純正アプリとLightroom CCはほぼ区別はつかないが、ミラカメラはノイズリダクションの処理が強めなのか、ディテールが甘くなっている部分がある。しかし、他の2枚に比べて僅かではあるが明るく写っているのは評価ポイントをちょっと高めにしたい。
ISO感度が2000になったMicrosoftPixは、シャープネスが甘くなっていてピントがあっているか不安に感じるくらいディテールに影響が出ている。それでもこの中では一番明るく鮮明に写っているといえるだろう。
exifデータが不明な2つ、OneCamとStageCamHDは似た感じの仕上がりだ。偽色が多くシャープネスにも影響が出ている。ノイズリダクションの処理のしかたがそれほど良くない印象だ。
少なくとも暗いシーンで撮る可能性があるなら純正アプリ、Lightroom CC、ミラカメラが他よりも確実に良いといえるだろう
【まとめ】アプリによって画質の差が出る 純正カメラがイチバン優秀という結果に
見比べると純正アプリを超える描写力を持つアプリはなく、Lightroom CCがほぼ同等でそれ以外は若干性能が落ちてしまう。ミラカメラに関しては黒の締りが良いと考えれば、純正よりも評価は上という判断もできるので、ここは好みの問題になる。コントラストが高い写真が好みならミラカメラはありだ。
アプリによって画質の差が出るとは思いもしなかったが、実際かなりの差が出てしまった。内部的な処理がどうなっているかはわからないが、アプリ側で行なうのはデジカメでいうところの映像エンジンみたいな処理なのだろう。デジカメでは撮像素子と同じくらいに映像エンジンが重要で、ここがよければ素子の性能をカバーすることができる。iPhone Xのカメラアプリはまさにここにあたる。純正カメラアプリは現段階でカメラの性能を十二分に引き出しているといえる。
また、明るいシーンでは十分な性能を引き出せるが、暗いシーンになると処理性能の差がかなり目立ってしまう。おもに純正に近いグループと独自の処理でもそこそこの性能を引き出しているアプリ、過酷なシーンでは一気に差が出るグループの3つに別れたが、この中で暗いシーンでいまいちな結果だった2つのアプリがともに有料であり、他の4つが無料というのはなんとも微妙な話である。