空から”汚物”が降っていた? トイレにまつわる信じられない歴史とは?

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現在、「トイレ」というと「水洗トイレ」を思い浮かべる人がほとんどだと思いますが、その昔、“排せつ物が窓から投げ捨てられていた時代”もあったのをご存じですか? 信じられない話ですが、中世のヨーロッパにおいて当たり前の光景だったのです。思わず絶句してしまうようなトイレの歴史を紹介します。

■中世ヨーロッパの街は”汚物”だらけ!?

上下水道が発達していた古代ローマでは、すでに水洗トイレが使われていました。便器は腰掛式としゃがみ式の両方があったそう。汚物は下水管を通り、川に流される仕組みです。街の各所には公衆トイレも多く設置され、街は清潔が保たれていました。

しかし、中世になると、ヨーロッパではトイレは進化するどころか逆戻り。人口が過密状態であった都市では、トイレが設置されていたのは修道院や城館のみ。一般市民は壷(おまる)に排せつ物をため、たまると外の決められた場所に捨てていました。しかしわざわざ捨てに行くのが面倒になったため、建物の窓から道路に直接捨てるというのが一般化していきました。

道を歩いていたら、上からいきなり排せつ物が落ちてきたらひとたまりもありませんが、一応「ガルディ・ロー(いまから投げます)」と一声かけてから捨てるという気遣いはあったそう。歩行者はそれを聞くと「ウハド・ヤ・ハン!(ちょっと待ってくれ!)」と返事をし、その場を走り去ったと伝えられています。

しかし、声をかけずに排せつ物を捨てる不届きものもいたようで、上から降ってくる汚物で洋服や体を汚してしまう人もいたよう。そんな”不慮の出来事”に対応すべく開発されたアイテムが「日傘」。当時は日光を遮るのが目的ではなく、汚物から身を守るために使われていたのですね。

日傘同様、ヨーロッパのメンズファッションとしておなじみのシルクハットやマントも、排せつ物を避けるための防護服として大流行したのがはじまりだといいます。そのほかヨーロッパの家々でよくみられるサンルーフも、上から振ってくる糞尿よけであったというのだから、驚きです。

このような習慣から、当時の街並みは汚物でまみれ、雨が降ったあとの道などは糞尿やごみでぬかるんでいたとか。これは街中に限ったことではなく、「ヴェルサイユ宮殿の庭や噴水広場も汚物でいっぱいであった」というので開いた口がふさがりません。

また、汚物まみれの道を歩くとき、衣服が汚れないようにと開発されたのが、丈が高い靴「ハイヒール」や「ブーツ」でした。いまは女性のおしゃれアイテムとなっているハイヒールですが、最初は男性もはいていたそう。悪臭が漂う環境に加えて、当時は入浴の習慣もなかったことから、においをごまかすために発達したのが「香水」と言われています。

■ヨーロッパより進んでいた「日本のトイレ事情」

一方、日本ではどうだったのでしょうか。日本でトイレが誕生したのは縄文時代。川の上に板を渡し、その上で用を足すという簡易的なものであったと考えられています。その後、建物内に川や水流を引き込むという方法もとられ、それが「厠(かわや)」の語源になったといいます。

時代は進み、平安時代。貴族の住宅といえば「寝殿造り」ですが、広い屋敷内にはトイレはなく、貴族たちは「樋筥(ひのはこ)」と呼ばれるおまるに用をたしていました。中のものを捨てるのは従者の役目です。「樋筥」には、十二単などの着物が汚れないようにと、着物のすそをかけられる板「衣掛け」がついていました。いまでもその名残は、和式トイレの「きんかくし」にみることができます。

江戸時代になると、糞尿を肥料として使用するために、くみ取り式が登場。当時、糞尿はくみ取り業者によって運びだされ、商品として流通していました。その価値は、幕末の記録によると、1年間で大人10人分で2分〜3分(1両が4分)。ヨーロッパでは厄介扱いされていた汚物が、日本では有効活用されていたのですね。

また、江戸時代の上流階級の婦人の外出時必須アイテムは、おまると土瓶、土でできたまんじゅうであったとか。土瓶から水を注ぐ音や土まんじゅうを落とす音で、排泄時の音をごまかしていたといわれています。現在、多くのトイレで排泄時の擬音機器が設置されていますが、その発想は江戸時代にもあったのですね。

■現代のトイレいろいろ

日本で「水洗トイレ」が誕生したのは、昭和30年ころ。下水道の発達や化学肥料の使用拡大で糞尿の価値が下がったことで、くみ取り式トイレにかわって普及していきます。

温水洗浄便座は、昭和39年に東洋陶器(現在のTOTO)がアメリカ製のものを輸入販売したのがはじまり。国産製品も開発されて、年々改良も進み、現在一般家庭への普及率は77.5%になりました(主要耐久消費財の普及・保有状況(一般世帯) - 内閣府(2015年4月17日)より)。

そんな日本のトイレですが、いまではシャワー機能だけではなく、便座に抗菌機能をもたせたもの、においを自動で脱臭する便器、センサー機能によって、人が近づくと便座が自動的に開く機能など、さまざまな機能が付いたトイレが誕生しています。中には面倒なトイレ掃除まで自動でしてくれる「自動洗浄」付きのものも。INAXやTOTOの上位機種では、音楽再生機能付のタイプも販売されています。

さらにキャンプ場や山小屋などの屋外用として、バクテリアの働きで汚物を分解、処理する「バイオトイレ」というものも。水やくみ取り作業が不要のうえ、どんな場所でも設置できることからアウトドア分野での実用化が進んでいるそうです。災害時にも活用できるというこのバイオトイレ、さまざまな場所でもっと普及が進んでほしいですね。

■まとめ

トイレにまつわる歴史、いかがでしたか? ハイヒールやブーツ、香水が誕生した裏には、当時のトイレ事情が大きく関与していたことに驚いた方も多いのではないでしょうか? 時代とともに進化を遂げた「トイレ」。今後はどのように変わってしていくのか想像してみるのも楽しいかも!?

(松原圭子/フォルサ)

<出典>

・名古屋市上下水道局「水のライブラリー」
http://www.water.city.nagoya.jp/intro/library/alacarte/content4.html

・農業ビジネス
http://agri-biz.jp/item/detail/7995

・幻想万象資料館
http://homepage3.nifty.com/onion/labo/excretionjp.html

 ・日本のトイレを進化させた温水洗浄便座の代名詞(PDF資料)

https://www.nttcom.co.jp/tera/tera61/pdf/p17_18.pdf