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突然ですが、これらのフォント・書体を知っていますか?

モトヤ明朝

石井宋朝体

本蘭明朝体

イワタ明朝体オールド

イワタUDフォント

フォントや書体に詳しい方であれば、歴史あるものから新しいものまで取りそろえられていると気がついたかもしれません。あるいは、写植で一時代を築いた「写研」の書体が含まれていることに注目されているでしょうか。どちらもピンと来ない、という方でも、教科書やまちなかの看板で、いずれかのフォントに触れている可能性は高いです。

実はこれらのフォントすべてに携わった、フォントデザインの生き字引とも呼べる方が、書体デザイナー・橋本和夫さんです。ヒラギノや游明朝体・游ゴシック体をデザインした字游工房・鳥海修さんの師匠であり、朝日新聞書体をデザインした太佐源三氏と、石井明朝体をデザインした写研・石井茂吉氏の直弟子として、活版印刷から写植、デジタルフォントとめまぐるしく移り変わったフォントデザインの近代史を作り上げ、何と今も現役でフォントをデザインされています。

そこで本誌では、橋本さんがこれまで携わってきたフォント・書体について詳しく聞くインタビューを企画しました。聞き手は、これまで書体デザイナーの取材を手がけてきた、ライターの雪朱里さん。橋本さんのお話を通じて見える「文字の歴史」を、今回から長期連載でお届けします。(編集部)

○文字をデザインして60数年

橋本和夫さんは、1935年(昭和10)生まれの83歳。20歳で書体デザインの道に入り、これまで60年以上にわたり、書体――ある一定の様式で表現された、印刷や画面表示などに用いる文字のセット――のデザインにたずさわってきた。

ざっとこの80年ぐらいを見ても、わたしたちのふれる文字の印刷・表示技術は少なくとも2度の劇的な変化を超え、活字(活版)・写植・デジタルフォントと、おもに三世代の技術で表現されてきた。

脈々と続く日本の文字づくりの流れのなかで、そのひとの話を聞けば、三世代の書体デザインのことがよくわかるというひとがいる。積み重ねてきた仕事が、三世代の文字の歴史そのものとなっているようなひとだ。たとえば、小塚明朝・ゴシックをデザインした小塚昌彦さん。そして、橋本和夫さんも、そのひとりだ。

橋本さんは、モトヤで故・太佐源三氏、写研で故・石井茂吉氏から書体デザインを学び、1960年代から90年代の約30年間には、本蘭明朝体やナール、ゴナなど、その時代に写研(※注)で制作発売されたほとんどの書体の監修にあたった。1995年(平成7)8月に写研を退職した後は、83歳となるいまでも、イワタ顧問としてデジタルフォントの監修・デザインを続けている。

(※編集注)写研はWebサイトを持たない企業のため、Wikipediaへのリンクにて代替しています。

橋本さんのお話からは、これまであまり語られてこなかった、しかしまちがいなく現在のルーツとなる文字づくり、書体デザインの舞台裏が浮かびあがってくる。ところが、その談話がまとまって読める出版物やウェブは、現在ない。そこで本連載では、日本の文字を支えてきた書体デザイナー・橋本和夫さんのロングインタビューをおこないたい。そのお話を通して、日本の文字づくり/書体デザインの知られざる流れがつまびらかになるはずだ。(つづく)

○話し手 プロフィール

橋本和夫(はしもと・かずお)書体設計士。イワタ顧問。1935年2月、大阪生まれ。1954年6月、活字製造販売会社・モトヤに入社。太佐源三氏のもと、ベントン彫刻機用の原字制作にたずさわる。1959年5月、写真植字機の大手メーカー・写研に入社。創業者・石井茂吉氏監修のもと、石井宋朝体の原字を制作。1963年に石井氏が亡くなった後は同社文字部のチーフとして、1990年代まで写研で制作発売されたほとんどすべての書体の監修にあたる。1995年8月、写研を退職。フリーランス期間を経て、1998年頃よりフォントメーカー・イワタにおいてデジタルフォントの書体監修・デザインにたずさわるようになり、同社顧問に。現在に至る。

○著者 プロフィール

雪 朱里(ゆき・あかり)ライター、編集者。1971年生まれ。写植からDTPへの移行期に印刷会社に在籍後、ビジネス系専門誌の編集長を経て、2000年よりフリーランス。文字、デザイン、印刷、手仕事などの分野で取材執筆活動をおこなう。著書に『描き文字のデザイン』『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びと使い方のコツ』(グラフィック社)、『文字をつくる 9人の書体デザイナー』(誠文堂新光社)、『活字地金彫刻師 清水金之助』(清水金之助の本をつくる会)、編集担当書籍に『ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』(小塚昌彦著、グラフィック社)ほか多数。『デザインのひきだし』誌(グラフィック社)レギュラー編集者もつとめる。

■本連載は隔週掲載です。