1台のPCで複数のOSを起動できる環境、必要に応じてOSを選べる環境を意味する「デュアルブート」。仮想化ソフトの普及もあり話題に登ることは減ったが、かつてはPCをデュアルブート化する小特集が雑誌で組まれていたほど熱いテーマだ。

しかし、デュアルブートのニーズは今後もなくならないだろう。仮想化ソフトのようにホストOS/ゲストOSのレイヤーがなく、結果としてオーバーヘッドも生じないことから、いまなお"複数のOSをベストパフォーマンスで実行する"ための最適な環境だからだ。

たとえば、「Boot Camp」。Intel Macから登場したデュアルブート環境支援ツールであり、おもにWindowsをMacで動作させるための道具と位置付けられている。デュアルブート化で必須となる内蔵ストレージのパーティション再構成、Windowsのインストール後に必要となるドライバ一式のダウンロードなど、一連の作業をワンストップで実行できてしまうありがたい存在といえる。

そのBoot Campが、Apple Silicon Mac以降サポートされなくなる。ポッドキャスト番組「Daring Fireball」にApple幹部がゲスト出演した回で(YouTube)、WWDC基調講演でお馴染みのCraig Federighi氏が「現在のBoot CampのようにWindowsを直接起動できない(We couldn't direct boot those machines to an x86 version of Windows which is what today's Boot Camp does)」と話しているのが、その証拠だ。

Federighi氏は、仮想化技術の進歩により直接ブートすることは重要でなくなったから、とBoot Campがサポートされない理由を説明していたが、それは確かにそうだとして、その背景にも注意したい。Boot Campは単なるデュアルブート環境ではなく、Windows PCと同じ快適さで(x86版の)Windowsを起動するためのもので、MacBookシリーズやiMacなど機種別に整理したドライバ群もあわせて提供される、つまりサポートコストがかかるという点だ。

前回述べたように、ARM版Windowsは存在するが、現在のところリテール販売されていない。となるとApple Silicon MacでWindowsを使おうとした場合、x86版Windowsをエミュレータで起動することになるが(RosettaではOSは実行できない)、Apple Siliconがそれだけの処理性能を持つのかは現時点では不明だ。エミュレータは仮想化ソフトよりオーバーヘッドが大きいため、個人的には難しいと考えるが、どうだろう?

  • Intel MacでWindowsとのデュアルブート環境を実現する「Boot Camp」

  • Boot Campでダウンロードされるドライバ群は、約1.5GBという大容量だ

Apple Silicon MacでBoot Campはサポートされないが、デュアルブートが可能になる環境自体は温存されると見ていいだろう。その理由が「EFI」だ。

EFI(Extensible Firmware Interface)とは、コンピュータのマザーボード上のROMに組み込まれているプログラム(ファームウェア/BIOS)をつなぐ低層のソフトウェアだ。MacではIntel Macから採用が始まり、電源オンのあと自己診断プログラムなどMac固有の処理を完了させたあとに起動される。OSの起動プロセスを支援するブートローダーとしての役割も担う、なくてはならない存在だ。

なお、EFIはUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)と呼ばれることもあるが、こちらはIntelが公開したEFIの定義に基づきUEFIフォーラム -- IntelやAppleもメンバーだ -- が定めた共通仕様という位置付け。実質的にUEFIイコールEFIであり、どちらで呼んでも差し支えない。

引き続きEFIが採用されるのであれば、rEFIndなどのブートローダを利用してデュアルブート環境を気軽に構築できる。もちろん、ARMネイティブのOSが対象のため、Linuxが中心になるだろうが、GUIでブートさせるOSを選べるのはなかなか便利だ。

ところで、El Capitan以降のmacOSではSIP(System Integrity Protection)が有効化されているため、rEFIndのようなブートローダはSIPを無効化しなければインストールできない。この辺りの事情はおそらくApple Silicon Macも同じはずで、導入にはひと手間かかる...ということは、仮想化ソフトへのシフトという長期トレンドは今後も変化なさそうだ。

  • Apple Silicon MacにEFIが継続採用されれば、デュアルブート自体は可能なはず(画像はrEFIndのWEBサイトより)

  • SIPが有効なMacでは、rEFIndのようなブートローダはそのままインストールできない