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プリパラ3rdシーズン分析①神話の構造から読み解く、らぁらとジュリィ

 プリパラ三期について分析してプリパラ三期の物語とはなんだったのか神話の構造から解き明かしていきます。2回に分けて語っていきます。第1回は「貴種流離」という古典的な神話、民話、物語の構造から語っていきます。

プリパラ三期についての概観

 プリパラは強烈なギャグセンスでコメディをやりながらシーズンごとに明確に異なる構図でアイドル同士のたたかいを演出していきました。

 特に2ndシーズンの紫京院ひびきを中心としたアイドルのありかたをめぐる戦いは「プリパラ」シリーズのテーマである「み~んなトモダチ、み~んなアイドル」を体現する物語でした。それに対し三期ではなかなか搦手とも言える物語構造の導入によって140話にもわたる作品を完了させました。

 その結果3rdシーズンの物語構造は、それまで語られてきた作品のテーマ性とは異なる神話的な物語になってしまいました。

 ここで言う「神話」とは物語構造についての意味ですが、比喩的な意味ではなく、ほんとに神話の構造を活用しています。女神ジュリィという存在はその名にたがわず物語構造上も神であり、神話の構造と物語を意識して作られたものだと私は考えています。それを細かく論証していき、最終的な批評をやってみたいです。

焦点となるトピック

今回神話の構造から導けることは、

①なぜらぁらはジュルルの"ママ"となったのか?

②女神として覚醒したあとのジュリィはらぁらにとってどういう存在だったのか?

③なぜ138話でらぁら達は神アイドルになる前にジュリィジャニスと戦う必要があったのか?

 これらはおもちゃやゲームの販促とかいうだけでなく神話構造的に重要な意味を与えられたことなのです。

 貴種流離譚とは

 ここからは「貴種流離譚」という概念を用いてプリパラ三期の物語構造を語っていきます。「貴種流離譚」という言葉は日本のマッド民族学者・折口信夫が日本と世界の神話民話を研究してつくった物語の類型です。

 どういうものかというと
「尊い血を引いた若者(貴種)がなんらかの理由で貴種を持つ親から切り離されて育ち、放浪の旅に出されて(流離)、そこで与えられる試練に打ち勝って英雄になる」というものです。
 同じような研究は世界中にあり、世界中のさまざまな神話民話に類型が見られるそうです。

 貴種流離譚の説明と例

 貴種流離譚として知られるものとしては、聖書のモーセ(出エジプト記)やギリシャ神話のヘラクレス、ローマ帝国のロムルス、日本神話のスサノオ、ヤマトタケルなどが有名ですが、いちばんわかりやすい例は、ジョジョ3部の空条承太郎ですかね。

ジョースター家の血をずっと知らずに継いでいた若者が、その血に由来する宿敵、ディオを倒すために世界を渡りながら襲い来るスタンド使いという試練に打ち勝ってヒーローとなる、と書けば先に書いた類型通りだとわかるはずです。

 ほかにジャンプ漫画でいうと「NARUTO-ナルト-」で主人公のナルトが、親なしの捨て子だと思ったら試練の中で実は両親がすごい忍者でナルト自身は伝説の存在の転生体であるということが発覚するとか、「ワンピース」の「Dの意志」とかもそれに入ると思われます。
 例を挙げていくと枚挙に暇がないですね。プリティーシリーズだと「King of Prism」の一条シンの設定も貴種流離の亜種ですかね。

 本論の後半でいちばん重要な例はイエス・キリストの例なので一応ここで説明しておきます。イエスは「父なる神」が地上に送り込んだ神の子で、処女マリアが産んだ、という話は有名ですね。神の子が人間の世界に人間の身体として生まれる、という点でれっきとした貴種流離譚です。

 ですが実はイエスの社会通念上の父である大工ヨセフも実はダビデ王(紀元前1000年ごろのユダヤ史上最大の王)の子孫であるという系譜(これは旧約聖書の預言の成就でもある)が「マタイによる福音書」にあるので二重の貴種流離譚になっています。この当時のパレスチナの大工とは実質家具職人みたいなもので、相当身分が低かったそうです。日本で言えば「賤民の子が実は桓武天皇の末裔で実は天照神の子」みたいなもんでしょうか。主人公すぎる。

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一応図解。まあキリストについて詳しいことは次回やります。

真中らぁらは貴種ではなかった

 さて、「プリパラ」主人公である真中らぁらはそうした出自を持たず、中流階級の幸福な家庭の、いわば「ふつうの子供」として描写されます。1stシーズンではプリズムボイスなる天性の素質みたいなものが一応出されましたが初期のみで、それ以降わかりやすいキーワードによって強さが描かれることはなく、2ndシーズンの「天才と非天才」というテーマでも、らぁらが天才という属性をまとうことはなく、あくまでも「意志の強さ」で説得力を持たせていたと思います。

 1stシーズンではらぁらのお母さんと大神田校長(グロちゃん)の幼少時代のプリパラ体験の過去が描かれたのですが、そこでらぁらの母を伝説のアイドルとかにせず、ふつうの女の子として描いたのもまさに「み~んなアイドル」の世界として描こうとする意図が感じられます。

 つまりらぁらはナルトみたいに後から貴種になる余地も無いはずで、むしろ貴種流離的主人公とは対極の主人公でした。しかし、3rdシーズンで登場したジュリィはらぁらを「貴種化」させます。

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ジュリィ(ジュルル)の貴種流離と貴種の付与

 まずジュリィ自身が貴種流離していることはだいぶわかりやすいと思います。女神であったジュリィは記憶すら持たない赤子ジュルルとなってらぁらの元に落ちてきます。女神という貴種がその出自を隠された状態でプリパラという下界を流離しているわけです。

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 さてジュルルが流離する理由は「女神の役目を妹ジャニスへ継承するうえで、アイドルへの愛を伝えるため、赤子になってプリパラ世界に転生する」というもの。類型との違いは、

・尊い血を引くのではなく自身が女神というトップの尊者であること。

・流離が自分の意思による行為であること。

まあこれらはちょっとしたひねりのようなもので、本質的には差異ではないですね。ちなみに自己意志による流離は「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」など時代劇になぜか多い。
 さて最も重要な違いは、

・赤子になってからの試練を打破するのが彼女を拾って「ママ」になったらぁらであること。

 これらはどういうことか自分なりに説明してみます。

 ジュルルの持つ貴種流離性が「ママ」であるらぁらに継承され、「女神のママ」としてらぁらが貴種になる。
そして、らぁらが試練に打ち勝ってジュルル(ジュリィ)と世界を救い、英雄(神アイドル)になるという構造だったと言えます。

 というわけで最初に書いた「なぜらぁらはジュルルの"ママ"となったのか?」その理由はこのようにしてらぁらを貴種流離化させることだったのです。
ずっとパラ宿にいるから流離してなくね?と思われそうですがこれは物語構造のはなしで、らぁらにとって神アイドルグランプリの戦いこそが流離なのです。西洋の神話構造論では流離ではなく試練という言葉を使うのですが、そんな感じ。

 貴種の血が遡行して母に聖性を与えるというのは貴種流離としては特殊なのですが、イエス・キリストの誕生が近い例だと思います。イエスを生んだことで母であるマリアも聖母として信仰されるようになったようなものです(厳密な聖書解釈だとこの説明はやや違うんだけど割愛)。

貴種付与後のジュリィは何者か

  ジュルルが117話で一度覚醒し、女神ジュリィであることが確定した時点で貴種流離譚の主人公性(=英雄の資格)はらぁらに譲与されました。それ以降のジュリィの役割とはなんだったのでしょうか?それ以降の展開においてはジャニスとの戦いのキーですが、最終的にはらぁら達の戦いの目的がジュリィの消滅を救うことになります。貴種譲与後のジュリィは物語上の最終目的なわけです。

 また貴種流離物語において、「目的を与える存在」というのは主人公にとって親であることがしばしばあります。ヤマトタケルは父である景行天皇に疎まれて流離し、ヘラクレスは義理の母ヘラによって受難します。さっき解説したとおりイエスを産ませたのは父なる神です。つまり貴種を与えた原因にして試練を与える存在にして、旅の目的となるジュリィという存在は物語構造上はらぁらの親ともとれます。ややこしや。

 これを理解するためにスターウォーズでのルークと父の対決を例に見てみましょう。(微妙なネタバレは許してください)スターウォーズEP4-6は

父に由来する騎士の血を引く主人公が、父と対決する宿命の中で世界を転戦し、最終的に悪の道に堕ちた父を救う

というお話です。プリパラ3rdシーズンにおける帰着点は神アイドルになってジュリィとプリパラを救うことですが、貴種流離の元凶である親的な存在を救うところがよく似ていますね)。

「親殺し」と親の救済

 貴種流離を与えた親を救うためには、一度その親をのりこえる(神話においては親殺しと言われます)必要があります。

 その最終的な戦いは具体的に言うとスターウォーズにおいてはEP6のデススター内の決闘、プリパラではジュリィとジャニスコンビとの戦いがそれです。
 「③なぜ138話でらぁら達は神アイドルになる前にジュリィジャニスと戦う必要があったのか?」、その理由は端的に言ってこの親殺しを達成するためです。

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 戦いの感じが全然違うじゃん!って思われそうですが、スターウォーズに直接影響を与えたジョゼフ・キャンベルの神話分析によると英雄神話に多く見られる「父殺し」の儀式は本質的には「父との一体化」であると論じているそうで、神アイドルになるというのはジュリィたちの神聖性の獲得でありますから、これも構造的には同じなのです。
 

 まあ乗り越えるといってもスターウォーズとプリパラにおいては最終地点は文字通りの親殺しではなく「親を救うこと」なので主人公が親より明確に強い必要はありません。らぁら達のパフォーマンスにジュリィとジャニスが途中で入ったり、ルークの戦いに皇帝が絡んでいくことでどちらが"強い"かはわからない(そして意志の勝利につながる)描き方になっているのは物語構造の観点から言えば同じ理由です。

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 さて、今回はとりあえずここまでにしておきます。ふつうの女の子として描かれていたはずの真中らぁらは、ジュリィという仮想の親、ジュルルという仮想の子によって、スターウォーズ並みの貴種流離譚に発展したわけです。

 次回はらぁらとジュリィの物語を聖書の福音書から分析していきます。

・なぜジュリィは消滅するのか?
・なぜジュリィがいなくなるとプリパラが崩壊するのか?
・なぜ復活したジュリィは目に見えないプリチケ配達者になったのか?
・なぜ140話でファルルが現実世界に降臨したのか?

という点を解明していきます。次回が本題です。




P.S.サムネ描いてて気づいたんですが、らぁらとジュルルは目と髪の色がちょうど反対の色になっているんですね。血縁ではないがつながりがあることを感じさせる、うまい表現だなあ。


にょ