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キラ☆キラ(ゲーム感想)_現実の厳しさを突きつける痛々しいラブストーリー

OVERDRIVEによる2007年発表作品。以下、本作のメインヒロインとなる椎野きらりのエンディング2種類について、ネタバレを含む感想などを。

<STORY>
前島鹿之助はミッション系の学校「欧美学園」に通う学生。部活にも顔を出さず、受験勉強にも身を入れずにアルバイトにばかり精を出すちょっとダメな毎日を送っている。そんな彼がバイト先で変った女の子「椎野きらり」と出会い思いがけずパンクバンドを結成してしまうところから鹿之助の物語が始まる

本作の主人公、前島鹿之助が廃部の予定された第二文芸部のメンバー(3人の女子)とバンドを組み、夏休みにオンボロなワゴンでバンドツアーに出るという展開で、ツアー後にそれぞれのヒロインとの交流を深める流れになっている。

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拗らせた性格の前島鹿之助

片倉真二による明るくポップなパッケージイラストからはバンドメンバーの女の子と仲良くなるお気楽な展開しか想像出来ないが、シナリオは瀬戸口 廉也(CARNIVAL、SWAN SONG)なので、バンドツアー後のパートでは鹿之助や各ヒロインの抱える苦悩などがしつこく描写されている。

まず、鹿之介が付き合っていた彼女からフラれる展開から始まるのだが、彼女が鹿之介に対して、鹿之介の問題ある性格を列挙するシーンが冒頭にある。

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「自分がそうだからって、他人もみんな裏があると思ってるところとか」
「人のことばっかり考えてるふりしてるけど、本当は自分のことばっかり考えてるところとか」
「理屈としては正しいことを言ってるのかもしれないけど、言われたくないことをたくさん言うし」
「大事なことでも、言うときによってコロコロ変る」
「要するに、心がない」

鹿之介の「心がない」と指摘される性格には一応理由がある。
母親は再婚しているから現在の父親と血はつながっておらず、妹は再婚相手との子供だ。実の父親を幼少期に喪っているが、父親は周囲から疎まれる人間であった。そういう家庭環境であるせいか、極力家族へ迷惑をかけないように振る舞い、家庭内で疎外感を感じている。また、身体と精神に異常をきたすまでテニスにのめり込んで挫折した過去がある。
こういう状況で元々が繊細な性格の鹿之介は、信頼のおける人からの愛情に餓えており、他者とのコミュニケーションにおいて踏み込んだ発言や行動を取ることはなく、「冷たさ」を感じさせることが多々あると想像される。

冷めた性格から変わる鹿之介(きらりEND1)

ここから「きらりEND1」のあらすじを振り返りながら感想を書く。
バンドツアーで関係を深めたきらりと鹿之介は、お互いの気持ちを確かめて、さあこれからという時に椎野家の母親が倒れる。これによって元々貧困であった椎野家は借金を返せなくなる。そして、きらりを風俗で働かせるくらいなら、と一家心中をしようと父親が家に火を放ち、きらりだけが死んでしまう。

きらりの死後、5年経過したところから再度話しが展開する。鹿之介は高校卒業後、大学へ行かずにバンド活動をしながら一人暮らしをするも荒んだ生活をしている。
第二文芸部のツアーで大阪へ立ち寄った際に関わった少女アキがボーカルを担当しているのだが、そのアキからヘラヘラした愛想笑いをしているから「ヘラ」とアダ名をつけられている。
つまり、鹿之介はきらりと共に時間を積み重ねていく過程で冷めた性格を変えつつあったのだが、また元の木阿弥に戻ってしまっており、それをアキに指摘されているのだ。
そうして荒んだ生活を続けたことで鹿之介はテニスを辞めたときと同じように身体と精神を病んでしまい、療養のために実家へ帰って家族と関わるようになる。

結局、忘れ物とは何だったのか(きらりEND1)

鹿之介はきらりの幻覚が見えてしまうほどきらりに未練を残しており、やがて幻覚のきらりが「忘れ物を探しにいこう」と夢の中で鹿之介へ話しかけてくる。きらりの導きによって、火事で焼けたきらりの家に辿り着いた鹿之介は残骸の中からテニスラケット、ベース、きらりの残したテープレコーダー、と思い出の品を掘り起こすがどれも違う。

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こんなの受け容れられるはずがない。
そんなの、出来るはずないじゃないか。どうして僕はこんなひどいものと仲良くしようとしていたんだ?

鹿之介は自らの抱えている痛みと改めて向き合うことで大泣きし、朝日を浴びながら世界の美しさに気付き立ち直る。さきほど、きらりの幻覚が導いたと書いたが、きらりは鹿之介自身がつくり出した幻覚でしかないので、鹿之介が自ら気付いただけでしかない。
そして、忘れ物というのはきっと「世の中を美しい」と思える感情のことだったのだと思う。それは冷めた自分の性格との決別であり、相手のことを思いやる発言や行動を出来ることであり、他者との関係を踏み込めるようになるということだ。なので、鹿之介はアキや村上に対して相手を思いやる発言や、これまで支えてくれたことに対する感謝の気持ちを伝える。

このエピソードが美しいのは、鹿之介を見捨てずに関係性を保ち続けてくれたアキや村上、家族という他者による干渉や、5年という時間が鹿之介を立ち直らせたということだ。
死んだきらりが鹿之介のことを想って助けてくれた。という安易な奇跡による解決ではないためこの「きらりEND1」は心を打つ。
明るく振る舞い、弱気なことを言わずに生きていたにも関わらず、家族のせいで死ぬことになってしまったきらりは救われないが、きらりを通して見える世界でしか生きる意味を感じられなかった鹿之介が、自らの意志で世界と向き合えるようになるシナリオは清々しい。

本作は冒頭の彼女からフラれるシーン、鹿之助の語りによって始まるのだが、鹿之助の語りによって終わるのはこのENDのみだ。
他人にどう見られているか、を人一倍気にして生きている鹿之助の心理描写は、ある意味シナリオライターの分身でもあると思われる。また、このENDのバンドメンバーは成功とは程遠い状況で足掻いているためにバンド活動描写にリアリティがある。
そういう意味で製作者がプレイヤーへ訴えたいメッセージが一番詰まっているトゥルーエンドなのだと思うし、自分の一番好きなENDとなっている。

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全員が幸せに見えるが、悲しい終わり方にも見える(きらりEND2)

「きらりEND2」では、椎野家の母親が倒れたことで借金が返せなくなる展開までは「END1」と同じだが、きらりの父親が自殺してしまい、鹿之介が死に立ち会う展開となる。

きらりの父親は自傷したとはいえ、まだ息のある状態だった。しかし現場に立ち会っていた鹿之介は直ぐに医者を呼ぼうとしなかった。助かるかもしれないのに見殺しにしたのだ。
きらりの父親さえ死ねば、きらりは風俗で働かなくて済むし椎野家が経済的に困窮しなくて済む。そう考えて医者を呼ばなかったのだ。
しかし、『その方がきらりにとって幸せだ』という鹿之介の考え方は、自らのエゴだったのかもしれないと葛藤するようになる。

遠ざける鹿之介、関わりを持とうとするきらり(きらりEND2)

鹿之介は自らの葛藤を一人で抱えきれず、最終的に自分を気にかけ続けてくれるきらりへ真実を告白してしまう。それに対するきらりからの回答は、「あたし、やっぱりデビューするよ」だ。
なぜ、直前の会話では嫌がっていたのにデビューすると言い出したのか。
それはきっと、鹿之介を支えたいという気持ちと、鹿之介を追い込んだ原因の一端がきらり自身にもあることへ罪の意識があってのことなのだろう。
そうして、きらりからすれば鹿之介の行為を「赦す」「愛している」の言葉で鹿之介を救済するのでは、鹿之介が前を向いて生きていける人間になれないと悟ったのだと考えられる。

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さらに、きらりは続ける

私の周りの人は、なんだかみんなかわいそう。もう嫌だよ。本当はみんな凄くいい人なのに。だけど、おかげで難しいことが一杯わかったんだ。
悲しいことがいっぱいあったけど、わかったことは、すごくいいことなんだ。私、この気持を形にしたいの

音楽には、何らか訴えかけるメッセージが無いと人の心へ響くような表現にはならない。それは、パンクスピリッツの反社会的なスタイルに通じるものでもあるが、きらりは鹿之介を含めた人たちを支えるためにデビューを決意したのだ。
これは、見方によっては、罪を一緒に背負って生きて行こうという鹿之介へのメッセージとも受け取れる。
また、訴えるべきメッセージが出来たことで、バンドをテーマにした作品の根幹ともいうべきシーンとなっている。

しかし、この「END2」の鹿之助には「END1」のラストほどの自立心を感じられない。むしろきらりへ依存しており、きらりを通してしか世の中の美しさに気づけない鹿之助のままなのかもしれない。そういう危うさがあるからこそ、きらりは最後に「あたしが、一生守ってあげる」と付け足したのではないかと考える。自分へ依存しても構わないから、世界を否定しないでくれ、と。

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良い音楽をつくるには「誰かに訴えたいメッセージ」つまり不幸な境遇や抑圧された感情が必要だ。それこそパンクの真髄であるし、本作ではそういう精神性についても語られる場面が多々ある。だからかもしれないが「バンドをやってモテたい」という、男子が考えがちな安易な思考に対して、作品中でSTAR GENERATIONのボーカルは否定する。
ミュージシャンの将来は安泰ではないし、ちょっとライブで格好良いと思ったから仲良くなりたいだけで、人間性を含めて好きになってくれているわけではないと。(実際はその出会いのきっかけすら無くて大抵の人は苦労するわけだが)

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そうして、本作品に登場するミュージシャンたちは成功から程遠いところにいることが多い。つまり「不幸な境遇や抑圧された感情」であったとしても表現力や運が無いと成功出来ないのだ。
そういう辛い現実を突きつける本作品には音楽活動に対する暗い描写が多くリアリティがある。売れないミュージシャンの実態が透けて見えて悲しくもあるが、おかげで作品に深みを与えてくれている。


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