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【集中講義Ⅰ】レビュー:うみねこのなく頃に

はじめに

あけましておめでとうございます。

この記事では、ゲーム「うみねこのなく頃に」の紹介を行います。

有名なゲームですよね。作者は「ひぐらしのなく頃に」で有名な竜騎士07先生です。

……そう、あの「ひぐらし」と同じ作者なんです。

ひぐらしといえば皆さま、覚えておいででしょうか。一昨年の10月から始まったひぐらし新シリーズ「ひぐらしのなく頃に業」および「ひぐらしのなく頃に卒」の事を。

……

遠回しな言い方をしますけれど、あれはなかなか賛否が分かれる作品でしたね。これは「うみねこ」の記事であって「ひぐらし」の記事ではないので、敢えて長々語る事はいたしませんけれど、いち視聴者たるわたしは、あまりの展開に三か月ほど脳を破壊されてしまっていました。

そんなわたしの脳を救ってくれたのがこの「うみねこのなく頃に」でした。どうやら「ひぐらし業・卒」は「うみねこ」要素を多分に含んでいるらしく、「うみねこ」を知る事により「ひぐらし業・卒」だけでは意味が分からなかったシーンにある程度納得がいく解釈ができました。

……全てのシーンに納得がいったわけではありませんけれど。

まあこの辺りはいつか別の記事で触れると思います。とりあえず今回の記事では「うみねこ」のレビューをしますが、今月中に全8件ほどの記事を作成する事で、「ひぐらし」「うみねこ」を上手い事語り明かしたいと思います。

なお、この記事に限ってはネタバレ無しで作成いたしますので、初見の方はご安心下さい。その反面、どうしても抽象的な言い方になる部分もありますのでご了承下さい。

では、まずはコンテンツの紹介から

・「うみねこのなく頃に」とは

「うみねこのなく頃に」は、元々2007年に発表されたPCゲームだそうです。現在その原作ゲームを入手するのは難しそうですが、別メディアできちんとリメイクされているので問題ありません。具体的には、

・アニメ(全26話) ※出題編のみ

・漫画(大体50巻くらい)

・ゲーム(SwitchおよびPS4)

くらいでしょうか。他にもうみねこに触れられるメディアはありそうですけれど、とりあえずこれら三つを押さえておけば問題ないでしょう。

ゲームも漫画も基本的には同じです。

原作ゲームは8つあるエピソード(以下EP1~8と呼ぶ)を順番に追って行くのですが、所謂デジタルノベルというやつで、一部を除いて道中に選択肢やミニゲームがありません。漫画もそれに倣っています。

ただしEP7およびEP8はゲーム・漫画でかなり異なる展開を見せてきます。その理由や是非はネタバレになるので語りませんが、本当にきちんとうみねこを知りたいのならば、ゲーム→漫画の順をオススメします。

さてそんなうみねこがどんなゲームなのか、次項で語ります。

・ゲーム紹介

時は1986年。

大富豪"右代宮"の一族は、伊豆諸島の一角に浮かぶ"六軒島"にて、年に一度の親族会議を行うため集まっていた。

久しぶりに島を訪れ、いとこ達と進行を深めていた右代宮戦人は、訪れた本家の屋敷内に奇妙な絵画と碑文を見つける。それは六軒島に伝わる魔女伝説に登場する魔女の姿とその伝説になぞらえた暗号文で、暗号文には血なまぐさい殺人事件を示唆するような記述があった。

所詮伝説に過ぎないと本気にしていない戦人だったが、親族会議の晩、当の魔女から脅迫めいた手紙が送られてきた。そして翌日の朝、暗号文に見立てた殺人事件が起こる。

折り悪く外は嵐で、島からは出られない。

魔女の碑文に従い、次々に起こる殺人事件。

到底人間の仕業とは思えない殺人の手口に混乱し、内部崩壊する一族達。

そして運命の時が訪れる……

……

こんな感じですかね。

まずはこのゲームの評価点を三つ、挙げたいと思います。

・評価点1:本格的な舞台設定

あらすじを読んで下さった方は思ったかもしれませんが、うみねこの舞台設定は多くの古典ミステリを踏襲しています。

昭和という、まだ携帯電話が普及していない時代考証。

クリスティーの「そして誰もいなくなった」を彷彿とさせる孤島という理想的クローズドサークル

大富豪一族という、いかにも乱歩的な闇を感じる登場人物達。

「魔女伝説」というファンタジックな要素を取り入れる事で、科学全盛の現代にオカルト的な要素を混ぜ込むテクニック。

ミステリ好きとしては100点満点な舞台設定です。王道であるがゆえに胸が躍るシチュエーション、素敵ですよね。

・評価点2:うみねこ独自の多重世界構造

あらすじでは敢えて触れていませんが、うみねこではEP1を除いて多重的な世界構造が展開されます。

具体的に言うと、主人公"右代宮戦人"は六軒島に身を置き、殺人事件に遭遇しながらも、一方でどことも知れぬ空間にて魔女と向かい合ってその事件を俯瞰し、推理を進めます

六軒島にいる戦人は殺人事件の登場人物の一人として、魔女と向かい合う戦人はメタフィクション的な視点によりプレイヤーと同じ目線を持つ上位存在として、それぞれいるわけです。

一見すると上位存在の戦人は、作中の彼の心情を補足したり、彼の視点では描写しきれないもののためにプレイヤーのためだけに存在する、いわば"合いの手"のような存在に見えますが、そうではありません。上位存在の戦人も確かに存在するのです。六軒島の戦人と上位存在の戦人、どちらが本物というのは無いのです。しかもその理由は後々きちんと明らかになります。

そしてその頃には、第三の戦人にも出会う事でしょう。そして世界は何重にも重なり合っている事でしょう。

もちろんそれは戦人だけに限りません。たくさんの世界にたくさんの人物、それらが作中でどういう扱いなのか……全てを理解するのは大変ですが、理解すればするほどうみねこ世界の全てが鮮明になる事でしょう。

要するにこのゲームは所謂「メタゲー」なのですが、"メタ"が何重にも存在するという点で、他のメタゲーと異なる独自構造となっています。その世界にどっぷりと浸るのは、非常に面白いです。

・評価点3:臨場感・迫力のある描写

ビジュアルノベルで重要なのは、物語に引き込まれる文章力と表現力。うみねこに限らず作者の竜騎士07先生はその点において卓越した腕をお持ちです。

殺人やそれに準ずる恐怖すべき状況で引き込ませ、物語への興味をこれでもかと煽ってきます。特にEP1、2辺りの描写は圧巻です。

EP3以降は良くも悪くも目を見張る展開が増えますが、それでも作中への没入感を保てているのは臨場感と迫力に溢れる文章です。

こればっかりはレビュー記事の文字では伝わらないので、プレイして確かめてみてほしいところです。

さて、ここまで良いところを語りました。次は賛否あるところを三点ほど語ります。

・賛否両論点1:解かせる気のないミステリ

うみねこにおける最も重要な要素は、六軒島における殺人事件です。

……が、出題編(多分EP1~4)までの情報で全てを推理するのは非常に難しいです。難しいというのが表現として正しいかは分かりませんが、とりあえず「ぬぬぬ」と唸りたくなりました。

とはいえ、絶対に不可能というほどではありません。少なくとも作中では、EP4までの情報のみで全てを読み解いた人物がいるのも確かですし、既存のミステリの枠に囚われずに挑めば、あるいは解けるかもしれません。

ネタバレを避けるために解答に関して詳しくは語りませんが、反則ぎりぎりだと思います。正統派のミステリ好きなら「フェアじゃない」と言いたくなるでしょう。

とはいえ、別にフェアである必要はないので、この問題に関する受け取り方は、プレイヤーのスタンス次第という事になってしまうでしょう。

なのでうみねこは正統派ミステリではないという事さえ認識していれば、とりあえず気にはならない……と思います。多分。

・賛否両論点2:メッセージ性の強い作風

EP8で特に顕著ですが、うみねこは全体を見た場合、メッセージ性が強い作品です。

「ひぐらし」では特にそのような事は無く、またわたし自身これほど顕著にメッセージ性が表に出ている作品に触れたのは、もしかすると初めてかもしれません。そのくらい露骨に一つのメッセージが示唆されています。

そのメッセージにより感動が深まる一方で、感じ方によっては"押しつけがましい"という気持ちになるプレイヤーもいる事でしょう。現に作中人物の一人は、そういう理由で激昂しています。普遍的な正答が存在するわけもないメッセージであるため、致し方ない事ではありますが。

気にならないのならそれで良いでしょう。気になるなら、一度プレイの手を止めて自分の中で気持ちを整理してみましょう。

・賛否両論点3:曖昧な解答

作中における殺人事件の謎に関しては、終盤にて解答が提示されます。

……が、作中において名言される解答は非常に曖昧で、答え合わせが困難です。EP7で起こった事件に至っては、解答どころか経緯すらも曖昧で、明確な答えが一切示されていません。

全ては提示された状況と曖昧な解答から、推測するという形で思い浮かべるしかないのです。

例えばひぐらしでも、明確に解答されていない謎はあります。

例えば「鬼隠し編」の解答は「罪滅し編」にて提示され、最も根幹に位置する謎は名言されています。しかし「罪滅し編」は「鬼隠し編」と状況が全く異なるため、細部の説明はなされません。

例えば突然バットを持つようになった圭一に対する一連のレナの言動の不可解さ(悟志の名を出して無用に不安がらせる、鉈を持って追い掛け回す、入江監督の事をちゃんと教えず「工事現場の監督」を示唆する等)、TIPSで圭一がセブンスマートでの買い物時の回想の中で振り返った時に見えたものなど、謎は残っています。

とはいえそれらは些細な事です。いくつか考えられる解答のうち、いずれにしても大筋に影響は無いので。

しかしうみねこで曖昧にされたのは、事件における中核を成す要素ばかり。消化不良と言われても仕方がありません。

ただし、曖昧だからこそ作中の世界観に合っているという見方もあります。ミステリとしては消化不良でも、物語として正しい姿を描いているのなら、作品として批判すべきではないのかもしれません。それも受け取り手次第ですが。

なお、漫画版はゲーム版と違い、本当に掛け値なく全ての解答を開示してきます。よって消化不良だと感じた方は、漫画版を追うとよいでしょう。

……という事で、ここまでが賛否両論点です。

最後に明確な問題点を三つほど挙げます。

・問題点1:感情移入できない主人公

うみねこの主人公は全EPで共通して右代宮戦人です。

戦人はうみねこキャラには珍しく口が悪くなく、嫌味なところもない好青年で、人格面はよく出来ています。

けれど彼に感情移入するのはなかなか難しいです。

まず戦人の推理の方針は、プレイヤーが求めるものではありません

戦人は心優しく、親族や使用人を疑う事を嫌うため、外部犯や未知の人物に焦点を当てた推理ばかりに固執します。プレイヤーとしては内部の人間を疑って欲しい場面でも、頑なに相手への信用を歪めません。

そして当初から提示され続けている魔女の碑文に関しては、ほとんど解く姿勢を見せてくれません。作中で散々魔女がそちらに注意を向けようとしても、全く意識してくれません。

まあEP8まであるお話なので作中で推理が冴えわたっても困るのでしょうけれど、もう少しプレイヤーに協力的であってほしいものです。

そして彼は後半のEPでスタンスをがらりと変えます。これもきちんと理由があるのですが、いつの間にか探偵役とは真逆のポジションに陣取り、その理由は終盤まで明かされないわけですから、どうしても感情移入は難しくなってしまいます。

感情移入し辛い主人公の語りはどうしてももやもやしてしまいますね。

・問題点2:ファンタジー要素がつまらない

……

いや、これもうそのままです。

うみねこはミステリである反面、ファンタジー要素も持っています。ただしそのファンタジー要素、時に非常に目障りです

ファンタジーと言われれば聞こえは良いですが、要するにトンデモな魔法バトルなわけです。しかも作中の構造を読み解くと、別に派手な描写である必要は全くないという事が判明します。つまり、魔法バトルが派手であればあるほど、プレイヤー側は白けてしまう構造なのです。

しかも魔法バトルは回を増すごとにくどく、時間を掛けて描写される事になりますので、段々と馬鹿馬鹿しくなってしまいます。先が気になる場面であればあるほど、魔法バトルの存在が邪魔に思えてしまうのです。

これはもうどうしようもないです。うみねこの特色ですので、諦めましょう。

・問題点3:特定のキャラの口が悪すぎる

嫌なキャラというのは、基本的にどの作品にも登場するものです。悪役や仇役に限らず、ヘイトを買うキャラが。そういうキャラをきっちり倒したり酷い目に遭わせたりするカタルシスが作品を面白くするのですが……

うみねこのヘイトキャラは口が悪すぎます。

「口が悪いくらいで文句を言うな」と思われるかもしれませんが、口が悪いくらいで文句を言いたくなるくらい酷いのです。酷すぎて下品です。思わず目を逸らしたくなるくらい品が無く、それゆえに嫌な気持ちになってしまうのです。

代表的なのがベルンカステル。

登場するたびに酷い表情で偉そうに暴言を吐き連ね、傍若無人に振舞って場を荒らす彼女は、最終的に受ける仕打ちでは到底満足できないほどにプレイヤーから深いヘイトを買います。何故かひぐらしの梨花ちゃんに似ているゲストキャラみたいなものなのに、何故こんな扱いなのでしょう……

ベルンほどではなくとも、口の悪いキャラはわりと数多く登場します。けれど他のキャラはその分ベルンよりずっと酷い目に遭ったり、十分な挽回シーンが与えられたりと、それほど気になるレベルの扱いではないのですが、それでも総量で言うとかなりのヘイトを貯めてきます。プレイヤーはそのたびにフラストレーションを貯めながらゲームを進めていかなければなりません。

もちろん口が悪くなく、理性的なキャラもたくさんいるので、あまり気にしないのが一番ですけれど。

総評

総合的に見て、良いゲームだと思いました。

面白いところとそうでないところが綺麗に分かれている感じなので、その辺りは気を付けなければならないのですが、"面白いところ"の割合がかなり大きく、オススメできる作品です。

是非、プレイしてみて下さい。

私的好感度:89/100、オススメ度:94/100

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