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笑いが「持たざる者」の最後の武器じゃなくなった。

パンデミックの時期、人気の政治コメディ番組The Daily Show 自宅から配信していたTrevor Noahがスタジオに復活した。しかし内容が、観客を交えてのライブショーではなく、レギュラー出演者とのトークや、これまでのコメディを振り返って掘り下げる内容に切り替わっている。
明るい声は変わらないのだが、番組のトーンがシリアスで、以前のThe Daily Showとは明らかに違う、なんというか「笑ってる場合じゃない」感じが漂っている。
選挙とそのあとのゴタゴタにコロナ。まだまだ本調子じゃないのかと思っていたら、別の配慮もあるのかなと思わせる情報を目にした。
日経新聞2021年12月15日に掲載された、ジャナン・ガネシュのコラム、タイトルは「ポピュリズムの本質は、悪ふざけを通じた反抗だ」。

ガネシュさんが話題に挙げているのは、アメリカのマッシー下院議員がクリスマスツリーの前で家族で銃を抱えて笑う悪趣味写真だ。

これな。抗議の声に、抗議に対して議員はダジャレで返したらしい。リベラルの特権だった反抗的な政治コメディを、「保守の俺たちもしてみむとてするなり」って感じか。

スクールシューティングで犠牲者が出た後だというのに、いや、銃規制の論調が強まっているからこそ、あえてやったという露悪的なポーズ、楽しそうな表情に注目したい。保守層の白人=これまでコメディのネタにされて笑われていた人たちが、いきいきと悪ふざけを楽しんでいる現場写真だ。

ガネシュ氏は「富裕層で白人であるがゆえに、従来得られなかったアウトサイダーとしての立場を楽しむ人もいる」と書く。そしてこれを「大した問題ではない」と笑って流してしまうことが、意図しない暴力に発展してゆく、と、コラムは警告している。
「政治をチームスポーツのように扱うことがポピュリズムの軽薄な本質であり、、、、民主主義が死を迎えた場合、社会を支配する空気は悪逆非道ではなくせせら笑いのような無関心だろう」。

The Daily Show のTrevorは南アフリカ出身。
アパルトヘイトの下で、白人と黒人の混血として育つことがどれだけ困難か想像もできないが、壮絶な貧乏と差別を笑いの力で乗り越えたと自伝に書いている。Trevorのコメディの骨太な構えとキレの鋭さ、スキのなさは、磨き抜かれた「反抗の武器」だ。

庶民の最後の武器だったはずの「悪ふざけを通じた反抗」が、政治ポピュリストに濫用されている。そんな中で、猛毒にも転ぶ笑いの効力について、残念ながら考えざるをえない時が来た。
どことなくシリアスなスタジオトークから、Trevorが崖っぷちの「笑いのこれから」を考えているのかもしれないと想像する。



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