見出し画像

ユカリさんと岩見君の場合「オバケのP子日記」より/藤子恋愛物語⑨

藤子Fキャラクターたちは、恋愛体質の持ち主ばかり。
恋をしては、フラれたり、成就したり、片思いのままだったりと、悲喜こもごもが繰り返されている。
そこで、恋するFキャラの恋模様を考察していく大型企画「藤子恋愛物語」シリーズを始動させた。
第9弾は、オバケのQ太郎の妹P子が居候するユカリさんと、彼女の片思いの相手・岩見君とのドタバタ恋愛劇を検証する!

ビュー数が良く伸びることで知られる(?)シリーズ「藤子恋愛物語」の第9弾。今回は、藤子作品全体の中でもかなりマニアックな登場人物に焦点を当てていく。


誰もが知っている人気キャラクター、オバケのQ太郎。Qちゃんには、P子という妹がいる。ここまでは良く知られた話。

ところがP子が人間世界にやってきて居候することになるユカリさんの存在は全く知られていない。しかもそんなユカリさんが、岩見君という同級生を好いている、なんていう恋のお話も、一般的な認知度ゼロだろう。


Q太郎は、人間世界に落ちたタマゴから生まれたオバケだが、妹のP子はオバケの国で生まれ育っている。Qちゃんと違って化けることもできるし、オバケ学校では優秀賞を取るほどにエリートなオバケだ。

そんなP子が、ある時「界外留学」することになって、人間世界に下りてくる。しかし、Q太郎が住みついている大原家は、大食らいのQちゃんのせいもあって家計は火の車

そこでP子は己の第六感に従って、ユカリさんの家に居候することを勝手に決める。最初は煙たがられるのだが、パパにお説教するときの身代わりとなってくれる約束をして、居候を許されることになる。


本稿では、P子とユカリさんを主人公とした、オバQのスピンオフ作品となる「オバケのP子日記」から、ユカリの恋バナをご紹介したい。

「オバケのP子日記」
「女学生の友」1966年1月~12月号/大全集11巻

ユカリはきちんとした説明がないが、中学生か高校生であることは間違いない。

掲載誌となる「女学生の友」は、1950年創刊の少女向け総合雑誌で、誌名の通り女子中高生をメインターゲットとしていた。さすがに「女学生」という響きが古めかしくなり、1975年には「Jotomo」に改称するも1977年で休刊。以後隔週誌の「プチセブン」にリニューアルされた。

オバQは、国民的な大ヒットを飛ばした作品で、小学館にとってのドル箱コンテンツだった。オバQ人気の拡大によって、本来読者ターゲットではない「女学生の友」にも連載された事実は、特筆しておきたい。


「オバケのP子日記」は、一年間の連載で、全12話が描かれている。各話6ページの短編で、思春期真っただ中のユカリをP子が何かと世話を焼くという構成となっている。ただし、P子も相当におっちょこちょいなので、きちんと世話ができているとも言い難いのだが・・・。

ユカリには、ほのかな恋心を抱く岩見君という同級生がいる。ユカリの気持ちを全く理解せず、デリカシーの無い発言もしてしまう。この年代にありがちな、恋愛に疎い男子学生なのである。


それでは、全12話の中から、ユカリと岩見君が絡むお話ピックアップしていく。

『やせたいユカリ』(2月号)

冒頭、足をドタンバタンと上げ下げしているユカリ。P子はその様子を見て、「どうしたの。盲腸でも起こしたの」と心配の声を上げる。ユカリは太った体形のママのようになりたくないということで、自己流の美容体操をしていたのだ。

かれこれ一週間ダイエットをしているが、体重の変化は認められない。仕方がなく、ユカリは腹ペコなのに、ご飯も抜いて我慢する。そんなユカリが急に体操や摂食を始めたのは、ボーイフレンドの岩見君に、デブと言われたからであった。

ユカリは道で岩見に声を掛けて、一週間前とどこか変化がないかと聞くのだが、岩見は「ニキビが一つ増えている」と、デリカシーの無い答え。「大嫌い」と怒るユカリだが、女心を全くわかっていない岩見なので、なんでユカリが気分を損ねているのか理解できない。

そこでP子は岩見を訪ねて、ユカリにデブと言ったことを抗議する。すると岩見は、直接的にデブと口にしたのではなく、「少ーし太り始めかけた傾向がある」と言ったと弁解する。

P子は、そんな岩見に、

「その程度の言葉にもショックを受けるのが乙女心よ。ひと言スマートだって言いなさない」

と指示を出すのだが、岩見は「お世辞は嫌いだ」と言って首を縦に振らない。

融通が利かない岩見に、P子は一計を講じる。P子は太った姿のユカリに変身して、まず岩見に会い、その後選手交代してユカリを岩見に会わせる。すると、「あれっ、急にスマートになった」と素直な感想が飛び出し、これでユカリの留飲は下がる。

バンザーイと喜んだユカリは、安心してモリモリとご飯を口にするのであった。

本作は、ユカリの恋心がテーマではなく、あくまで見た目を気にする女の子の気持ちを描いたものとなる。よって、本作だけでは岩見のことが好きかどうかははっきりしていない。


『恐怖のサンドイッチ』(4月号)

ユカリは朝からサンドイッチを作っている。料理本に集中していたため、塩かコショウの瓶の蓋が外れて、ドバっとサンドイッチの具にかかってしまったことに気付いていない。

この日は、ユカリは岩見君と二人でハイキングに行く予定で、サンドイッチは岩見に食べてもらおうと作ったものなのであった。P子はサンドイッチが大変なことになっていることに気付き、何とか岩見に食べさせないようしなければと考える。

P子はアベックでハイキングに出かけて偶然ユカリと岩見に会う算段を思いつく。と言ってもボーイフレンドはいないので、兄のQ太郎で我慢することに。

狙い通りに山頂でユカリたちに出会うP子。お弁当の時間となり、P子は兄を使ってユカリのサンドイッチを取り上げさせる。そして岩見には、P子が買っておいたサンドイッチを渡して、事無きを得る。

ユカリはP子から事情の説明を受けると、Q太郎に悪いことをしたと思う。しかし、味音痴なQ太郎は、「ご馳走になってます。うまいですなあ」とパクパク、ユカリのサンドイッチを口に放り込むのであった。

本作の時点でハイキングデートをしてしまうユカリと岩見。恋路は順調に見えるのだが・・。


『カサはまだか』(6月号)

急な雨に降られたので学校からP子に傘を持ってきてくれるよう電話をするユカリ。ところが、すったもんだで、なかなかまともな傘を届けられない。

「遅いなあ」とイライラするユカリだったが、岩見が送ってくれると言い出し、二人相合傘で帰ることに。けれど、そんなタイミングでP子が傘を持って現われ、岩見とは「じゃ」とそこで別れてしまう。

「もっとゆっくり来ればいいのに」と愚痴をこぼすユカリ。何のことかわかっていないP子ちゃんなのであった。


『かいがい旅行』(7月号)

恋する乙女にとって、好きな人が別の人と仲良くしている姿は見ていられない。

本作ではキザ子という木佐君のお姉さんみたいなキャラが登場し、岩見君の家で近く世界一周に出かけることを自慢する。それを目撃したユカリは、P子に自分も海外旅行に行きたい!と騒ぎ立てる。

結局、潮干狩りに出かけて「貝貝旅行」というダジャレなオチであった。


『重い重いおしり』(8月号)

ユカリは岩見君の家で宿題を教えてもらうことに。両親は、他所へ行くとおしりが重いので、きちんと夕食前に帰ってくるよう注意して送り出す。

岩見君はユカリよりも成績が良さそうなことや、ペットの犬にユカリも懐いていることなどが描かれる。

パッと見、仲良い二人なのだが、実際には岩見君は相変わらずユカリの気持ちがわかっておらず、ヤキイモを「君好きだろ」と進めてきたり、宿題が終わったと同時に「じゃお休み」とユカリを帰らせる。

ユカリは「ゆっくりしてけって言わないの」と不満なのであった。


『にぶいぞ岩見くん』(9月号)

全12話中、もっとも恋バナなお話

ユカリは今日(9月8日)が誕生日なので、岩見君にお祝いしてもらいたい。けれど直接言うのはさすがに憚られる。なので、「岩見君の誕生日が3月10日だったわね」と遠回しに自分の誕生日に気を引くよう話を展開するのだが、全く気にしてもらえない。

家でイライラが募り、岩見に電話をして、「今私がが欲しがっているものを当ててごらん」と質問するのだが、「ヤキイモかい」と、完全にユカリ=ヤキイモ好きと認定してしまっている反応。

ユカリは図々しく「オルゴールよ、安いのでいいのよ」と半ば催促するのだが、「じゃ、せっせと貯金しなさい」と、もはやワザと嫌がらせをしているような受け答え。さすがにユカリも、

「嫌いっ。こんなに鈍感な人とは思わなかった」

と電話を強く切るのであった。

両親からのプレゼントにも喜ばず落ち込んでいるユカリを見かねて、P子は何とかお金を工面してオルゴールを買い求め、岩見に化けてユカリにプレゼントする。

二階から急に現れたり、窓から飛んで帰ったりと、いかにもP子が岩見に変身しているとわかりそうなものだが、ユカリはプレゼントをもらったという事実に喜んで、気がつかない。

P子が買ったオルゴールは「お猿のかご屋」という幼稚な曲なのだが、それもでユカリは「素敵な曲」と大喜び。

するとそこへ、本物の岩見君が尋ねてくる。「さっきはありがとう」とユカリはお礼するが、何のことかわからない岩見は「なんだか皮肉だなあ」と少し戸惑う。

岩見はユカリにプレゼントを渡す。

「知ってたんだけどね。プレゼントは自分で届けるべきだと思って渡さなかったんだ」

と、急に男前なことを言い出す岩見。知ってたんかいと。

都合、二つのオルゴールを貰ったことになるユカリは、「どんな意味からしら」と首を捻るのであった。


まあ、本格的な恋物語ではないのだけど、こういう友情と恋心の中間のような中学生(高校生?)同士のやりとりは、微笑ましいものです。


なお、ユカリさんは「オバケのQ太郎」の本編でも、一度だけ登場している。それが、『ごめんねユカリさん』(「週刊少年サンデー」1966年41号/大全集5巻)というお話である。

ここで辛うじてP子が、人間世界でユカリさんの家に住んでいることがわかる貴重な回となっている。



「オバQ」の考察多数してます。


この記事が参加している募集

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?