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最高の映像美と複雑な歴史~アラビアのロレンス~

映画ファンではない方でも、タイトルぐらいは耳にしたことがあるだろう名作『アラビアのロレンス』。公開されて60年、私もやっと観ることができました。

基本的な映画情報↓

『アラビアのロレンス』
1962年公開のイギリス映画(1963年日本公開)
オリジナル版207分
完全版227分
第35回アカデミー賞で作品賞・監督賞など7部門を受賞

スタッフ
監督:デビッド・リーン
脚本:ロバート・ボルト
製作:サム・スピーゲル
撮影:フレデリック・A・ヤング,B.S.C.
音楽:モーリス・ジャール
編集:アン・V・コーツ,A.C.E.

キャスト
ロレンス:ピーター・オトゥール
アリ首長:オマー・シャリフ
ファイサル王子:アレック・ギネス
アウダ・アブ・タイ:アンソニー・クイン
アレンビー将軍:ジャック・ホーキンス


私は、1988年にデビッド・リーン監督自ら再編集を行った、227分の完全版を観賞しました。率直に「いい映画観た!」という充実感と余韻に浸っています。

ちょっとあらすじ……
実在のイギリス陸軍将校T・E・ロレンスの波乱に満ちた半生。大学で考古学を学び、アラビア語とその文化に精通したロレンスは、オスマン帝国の圧政下にあったアラビアに潜入、独立を目指すアラブ民族をまとめ、次々と勝利を収めていく一方、アラブ人同士の争いや国同士の政治的駆け引きに翻弄されるようになっていく。

映画の前半は、ロレンスがアラブ民族をとりまとめ、アカバというトルコ軍の砦を攻略、英雄となっていきます。後半は政治的駆け引きに翻弄され、イギリスの思惑とアラブ民族のはざまで苦しんでいくロレンス、そして歴史が大きく動いていく様子が描かれています。


これこそ映画! 映像美と音楽の美しさ!


この映画の前半は、「これこそ映画」と言わんばかりの美しい映像と音楽を堪能できます。

特に印象に残ったのは、オマー・シャリフ扮するアリ首長の登場シーン。真昼の砂漠、陽炎がゆらゆらと漂うなか、遠くから黒い影がどんどんと近づいてきて、徐々に人だと分かるまでの約2分間に、音楽も流れず、じっくりと魅せてくれる場面です。これをスクリーンで観たらどんなに感動的だろうと想像します。

時系列は前後しますが、特に印象に残ったもう一つのシーン。
ロレンスが消したマッチの火が砂漠に昇る朝日に切り替わり、あの有名なテーマ曲が流れるシーンです。こちらのシーンでもはじめは音楽がありません。観る人が、じっくりと映像の美しさを堪能したところで、徐々にテーマ曲が入り、盛り上がっていく演出に感動しました。


複雑すぎる後半部

この映画の後半は、かなり複雑です。イギリスがアラブ人たちに対して、政治的裏切りをしていることを知るロレンスですが、それを公にできず、アラブの反乱を鼓舞し続け、はざまで苦しみ、歴史が大きく動いていきます。所謂、イギリスの三枚舌外交です。

ロレンスの葛藤、精神的に崩壊していく様など、ロレンスという人物の人間描写を中心に、歴史も上手く描かれています。

アラブの民族衣装に身を包み、自分の居場所を見つけたと言わんばかりに、アラブ民族との友情と信頼を得て、英雄のような自分に酔いしれているかのように見えたかと思えば、それが徐々に崩壊していき、自分とは何者なのかと苦悩していく様子、イギリスの思惑を知っているロレンスが葛藤し、精神に異常をきたしていく複雑な様子を、ピーター・オトゥールがとても見事に演じています。

(ちなみにこの年に、ピーター・オトゥールがアカデミー賞主演男優賞を受賞していると思い込んでいましたが、受賞したのはグレゴリー・ペックだったそうです。他にノミネートされたのは、ジャック・レモン、バート・ランカスター、マルチェロ・マストロヤンニ、そしてピーター・オトゥール。大スターばかり!!)

今も続く歴史問題

偶然にも最近、NHKで『映像の世紀バタフライエフェクト 「砂漠の英雄と百年の悲劇」』という番組で、まさにこの映画で描かれている歴史が特集されていました。


この番組の最後に、印象的なロレンスの言葉が紹介されました。

「年がたつにつれ、私は自分が演じた役割をますます憎み、軽蔑するようになった。もしも私が、アラブ人に対するイギリスの取り決めをなくすことができたならば、いろいろな民族が手を取り合う新しい共和国を作れたのかもしれない……」

このドキュメンタリー番組を観て、この歴史をあまりにも知らなかった自分を恥じました。この映画はただの英雄を描いているのではなく、歴史に翻弄され、精神的に苦悩する1人の男性を描いていると思います。しかもその問題は解決することなく続いています。この映画は今でもそのことを私たちに思い知らせてくれるものだと思います。

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