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【社会的交換理論】交換理論における偉大な先人であるHomansを読み解く(橋本、2005)

リーダーシップ研究における理論的基盤の整理として、社会的交換理論を調べています。今回は、社会的交換という概念のベースを構築した1人である、G. C. Homansを掘り下げた書籍をご紹介します。

(長文です。興味ある人だけご覧ください)


どんな書籍?

この書籍は、社会学における「社会的交換」の考え方を理論化したと言われる、Homansの考えや、社会的交換の理論について説明するものです。

Homans(1910-1989) は、交換としての社会行動(1958)という論文の中で、「社会行動を報酬あるいはコストの交換と見るアプローチ」をはじめに打ち立てた社会学者と言われています。つまり、

少なくとも二人の間における、有形・無形の、報酬或いはコストとなる価値の交換

を社会的交換ととらえました。

社会的交換理論を体系的に整理した、ナイジェリア出身の社会学者・P. エケによると、実は、Homans以前に、人類学者であり思想家としても著名なレヴィ=ストロースが、親族の婚姻関係から着想し一般化された交換の概念を打ち立てていました。

Homansは、レヴィ=ストロースに反発し、一般化された交換(社会的な便宜のためのもの)ではなく、経済的利益のために、報酬を交換し合うものであり、交換とは功利的なものだという姿勢を取っています。

(ちなみに、Homansはハーバード大学で、ホーソン実験で有名な、エルトン・メイヨーに指導を仰いでおり、行動心理学的な影響を受けているようです)

Homansの理論的背景は、動物行動(具体的にはハト)にあり、その観察結果をもとに、人間的交換行動の説明を行っています(ここにたくさんの批判も集まっています)。

難しい言い方をすれば、Homansは、「行動心理学」と「基本経済学」を統合し、社会的行動における交換を説明しようとしています。人の行動原理と、経済的合理性の2つをもとに、報酬や費用の社会的な交換を説明しようとしたわけです。

Homanが打ち立てた命題

社会学者Homansは、行動分析学の祖であり、友人でも会ったB.F.スキナーの「オペラント条件付け」(行動を強化したり弱めたりする条件)の知見を、5つの命題としてまとめています。この5つの命題が、彼の社会的交換を根拠づけるものとなります。

①    成功命題:人の行為と報酬獲得での成功を関係づける命題
「ある人の行為が報酬を受けることが多ければ多いほど、それだけその人はその行動を行うことが多いだろう(Homans, 1974, p.16. 訳二二頁)」
行動心理学的に言えば、その行為が強化されるなら、人はその行為を学習し、繰り返すようになる

②    刺激命題:行為に付帯する環境状況が刺激となって、その行為や類似した行為を引き出すようになる過程に関する命題
「ある行為が報酬を受けた時の環境状況と、現在の環境状況が似ているとき、行為者はその行為を、あるいは、それと類似した行為を行うだろう(Homans, 1974, pp.22-23. 訳三二頁)

③    価値命題:行為の頻度を決める成功報酬の度合いに関する命題
「行為結果が価値あればあるほど、人はその行為を行うことが多くなる(Homans, 1974, p.25. 訳三六頁)」
これを、費用と利潤の関係でとらえ直すと、報酬―費用=利潤となる。こうした経済学的な知見と、社会学的な交換を組み合わせて、以下のような命題としても表現できる。
「人が行為の結果として受ける利潤が大きければ大きいほど、それだけ人はその行為を多く行うであろう(Homans, 1974, p.31. 訳四五頁)

④    剥奪飽和命題:報酬獲得に成功することが多いと、人はその報酬に飽和し、報酬の価値は減少するとした命題
「このところ集中してある特定の報酬を受けることが多ければ多いほど、その後続の単位報酬はその人にとって次第に価値がなくなってくる(Homans, 1974, p.29. 訳四一頁)」
(いわゆる、限界効用逓減の法則。たとえば、腹ペコの学生(剥奪された状態)にとって、最初のパンは価値が高いが、2-3個目となると価値が減少する。また、空腹になるとパンの価値は増大する、というもの)

⑤    攻撃是認命題:成功命題にしたがって行為を学習し、繰り返しているうちに、突然交換の相手がその交換を中断したとき、感情的になり、腹を立てて攻撃的な行動をするといった情動的な行動に関する命題。
「ある人の行為が期待した報酬を受けなかったり、予期せぬ罰を受けたりするとき、その人は怒りを感じ、攻撃的な行動をすることが多くなるであろう。そして、その人は攻撃的な行動の結果を価値あると思うようになる(Homans, 1974, p.37. 訳五四頁)」
言い換えると、期待→期待が得られない→怒り→攻撃してもよい(是認)という情動的な行動。

著者は、先輩社員(Oさん)と新入社員(Pさん)を例にとって、5つの命題が「社会的交換」をどう根拠づけるか説明します。以下が引用です。

PさんはOさんに助言の依頼をする。なぜなら、Pさんにとって、一人で仕事をすることより、先輩から助言をもらうことの方に価値があり(価値命題)、また、Pさんの過去の経験より、Oさんは依頼すれば、気持ちよく助言を与えてくれた人と良く似ている(刺激命題)からである。他方、OさんはPさんに助言を与える。なぜなら、Oさんは、仕事に熟練しており、時間的な余裕もあるし、また、困っている人を助けることを喜びとしており(価値命題)、また、Oさんの過去の経験より、Pさんは自分の助言を感謝して聞く人に良く似ていた(刺激命題)からである。PさんはOさんの助言により是認(尊敬と感謝の気持ち)を返す。こうして、OさんとPさんの間に助言と是認の交換が始まる。私たちがOさんとPさんの相互作用を報酬の交換として捉えることから、私たちの理論は交換理論と呼ばれることが多い。

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人に「勢力」を与える要因

加えて著者は、OとPの2者間の関係において、Qという3社目が入るという例示から、「勢力」の発生を示しています。

Oさんは、PさんとQさんを比べて、より利潤(報酬)の多い方を選んで助言をする可能性がでてきます。このことで、Oさんのもつ助言の価値が高まります。

価値が高まることで、Pさん、あるいはQさんは、2者関係のときよりももっとOさんに感謝や尊敬を抱くようになります。このように、Pさん/Qさんのように人の行動を変え得るものとして、「勢力(誰かの利益のために自分の行動を変えたとき、その人に勢力が働いた、と見なされる)」や「権威(人の行動を変えるに際して、外在する力によるコントロールが働いていること)」を紹介しています。

権威は外的なものを通じた動機付けで、勢力は内的も外的も両方含むものです。

勢力の発生を支える考え方として、利害関心最少の原理、というものがあります。簡単に言えば「惚れた弱み」ということです。Water and Hill(1951)によると、「状況の継続に最も関心の少ない人がその交換の条件を命令できる」として、この原理を説明します。つまり、惚れた方が関心が大きいため、惚れられた方に従うというパワーバランスが生じる、と言うことです。

勢力が現実的に行使され、勢力のない人々の行動に変化を生み出す条件が、「利害関心最少の原理」とのこと。勢力を生じさせる報酬はさまざまあるようですが、報酬が勢力の基盤となるためには、その報酬に対する需要があり、希少財でなければならない、とも言われます。

例えば、PさんがOさんの助言を求めており、かつ、Oさんの助言が唯一(あるいは希少)なものであると、Oさんに勢力が生じます。(ただし、Oさんが勢力に自覚的かどうかはここでは問われません)

社会的交換とリーダーシップ

こうした、勢力の発生が、社会的交換におけるリーダーシップの説明要因となります。

需要が大きく、希少である行動の持ち主とみなされる人は勢力を持ちます。その勢力を持った人が、助言などの希少財を提供すると、そのお返しに、周囲の人は尊敬や感謝と言った是認を与えます。この繰り返しを通じて、権威を得て、地位を得ていく。

つまり、メンバーとの報酬の交換を繰り返すという相互作用を通じて、リーダーシップという勢力(影響力)がそこに生じる、とHomansは整理しています。

これが、リーダーとメンバー、2者間の関係にとどまらず、集団目標を達成するために、集団内におけるメンバーたちとの社会的な交換を通じて、集団におけるリーダーとなっていく、というのが、社会的交換理論から導かれる、リーダーシップです。

また、このNoteでもたびたび扱ってきた、Leader-Member Exchange(LMX)のような、いわゆる交換型リーダーシップなども、この社会的交換理論がベースとなっており、その理論的基盤を作ったのがHomansと言えるかと思います。


感じたこと

難解な社会学者の理論やその根拠となる考え方・命題・原理を見てきました。正直、これをまとめるのに相当苦労しました。。。(それでも、長いしわかりにくいですが)

しかしながら、リーダーシップ研究における「グラウンド・セオリー」の一つである社会的交換理論を、しっかりと、適切に理解することは肝要です。

にわか理解だと確実に自分が忘れてしまうので、自分の備忘のために、長文ながら丁寧にレビューしています。

このHomansの考え方を拡張し、理論的に精緻化したのがBlau、という方です。次号に続きます。

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