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運命なんて誰かが決めるもんじゃない ~過去の呪縛から解き放たれた日向ネジのこと~

「運命は生まれたときに決まっているのか?」

誰でも一度は考えたことがある疑問だと思う。この記事では、過去にとらわれ、過去に呪われ、〈運命は生まれたときから決まっている〉という思想で他人を、そして何よりも自分自身を縛り上げた日向(ひゅうが)ネジの心の成長を追憶していく。

まず、漫画「NARUTO -ナルト-」のあらすじを簡単に説明する。主人公である・うずまきナルトは木の葉隠れの里の忍者。しかし、その体内には、かつて里を襲った〈九尾〉と呼ばれる化け狐が封印されていた。それにより、里の者から毛嫌いされていたナルトは、みんなから認められるために里一番の忍者である〈火影〉を目指していく、という物語である。



過去編 ~ネジの暗い過去~

日向ネジは、漫画「NARUTO -ナルト-」に出てくる日向(ひゅうが)一族の忍者だ。

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(写真:スマポより)

日向一族は〈白眼(びゃくがん)〉と呼ばれる特異な眼を持っており、ナルトの住む木の葉隠れの里では最強の一族とも言われている。そして、一族のの血を誰よりも色濃く受け継いだといわれるネジは、「日向始まって以来の天才」との呼び声高く、文字通りエリート忍者だった。

ここまで語る限りでは、順風満帆な人生を送っていたようにも思える。
しかし、日向一族特有の〈宗家〉と〈分家〉の歴史が、ネジの人生を大きく狂わせることになる。

日向一族では、宗家を守るために分家というものが存在する。なぜなら、日向一族の特異能力〈白眼〉を狙うものが多くいたからだ。そして、日向の血を守るため、分家には〈籠の中の鳥〉という呪印を施されている。
(上の写真の額の模様)

この呪印は宗家のみ扱え、分家が歯向かわないように術によって縛る、いわば宗家への絶対服従の印でもあった。そして、宗家は家の長男が継ぎ、分家は次男が継ぐ。ネジの父・ヒザシは次男、つまり分家だったため、ネジも分家。一方、長男であるヒアシ、そして娘・ヒナタは宗家として人生を歩むこととなる。

ある日事件が起きた。白眼を狙う雲の国の忍者が、ヒナタの誘拐未遂を犯したのだ。間一髪のところで、ヒナタの父・ヒアシがその忍者を殺害したため、ヒナタの身は助かった。しかし、その事態に憤慨したのが雲の国だった。雲の国は日向一族に責任転嫁するように、代償としてヒアシの死体を要求したのだ。要求を飲まなければ、雲の国と木の葉隠れの里の戦争にもなりかねない。難しい判断を迫られた木の葉隠れの里の道は、一択だった。分家であるネジの父・ヒザシの死体を影武者として差し出すことだった。

父を失ったネジは冷徹なほどまでに運命に囚われた。そして、分家に生まれた運命を呪い、そして父を死へと追いやった宗家、そしてヒナタへの恨みも募らせた。ネジの歪んだ価値観はここから作られていく。


成長したネジは中忍試験を受けることになる。中忍試験とは、忍者で1番下の位に相当する下忍から、中忍への昇格試験。そこでネジは、過去に雲の国の忍者にさらわれかけた宗家・ヒナタと戦うことになった。ヒナタは宗家とはいえ、決してエリートではなかった。むしろ落ちこぼれだった。エリートのネジが分家で、落ちこぼれのヒナタが宗家。その対比も皮肉で、ネジの恨みに拍車をかけたと思われる。作中では、複雑な関係の二人のやり取りが生々しく描かれている。(9巻「ネジとヒナタ」)

9巻p116

ネジにとっては、生まれたその日に運命が決まってしまったかのような人生であった。思わぬ形で父を失うという壮絶な経験から、運命は変えることができないことをネジは強く信じ、自らの精神的な柱にしているように思えた。

そして、それを近くでイライラしながら聞いていたのは、ナルトだった。それもそのはずである。ナルトこそ、周囲から”落ちこぼれ”と言われ続けてきた忍者だったからだ。そして、その評価を覆すために木の葉隠れの里の長〈火影(ほかげ)〉を目指し生きてきた〈運命に逆らう忍者〉だったからである。

運命の中で生きるネジ
運命に逆らうナルト。

相対する二人が、中忍試験で相まみえることになる。



中忍試験編 ~運命に逆らう落ちこぼれ・うずまきナルトとの闘い~

ネジは強い。ナルトは得意の忍術〈影分身の術〉を駆使し対抗する。しかし、日向始まって以来の天才と呼ばれるネジに、ナルトは苦戦を強いられる。余裕の戦いを続けるネジは、必殺技を繰り出し、さらにナルトを追い詰める。ただ、ボロボロになりながらもナルトは諦めない。ネジに言葉で噛みついた。

「……お前みたいに運命だなんだ… そんな… 逃げ腰ヤローにゃぜってー負けねェ……!」
運命に逆らおうとするナルトに、ネジは苛立ちを見せる。
「一生拭い落とせぬ印を背負う運命がどんなものか お前などに分かるものか!」

(12巻「落ちこぼれ‼︎」)

あらすじでも紹介したが、ナルトの体内には〈九尾〉と呼ばれる狐の化け物が封印されている。昔、九尾は木の葉隠れの里を襲い多くの人を殺めた。そのため、ナルトは里の者からスケープゴート的に毛嫌いされていた。しかも、九尾はナルトが赤ちゃんの頃に封印されたため、物心がついたころから「なぜか知らないけど里のみんなから嫌われている」という状況にあったのだ。そんなナルトだから、運命を呪いたくなる境遇としてはネジと似たものがあった。ただ、ナルトは、ネジをあざ笑うかのように切り返した。

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ネジは過去を生きていた。過去に囚われ、過去に呪われる中に自分の”生”を見出していた。一方で、ナルトは今を生きていた。上手くいかないのなら、上手くいくように何かを変えればいいと信じていたのだ。二人の生き様の違いが、彼らの中で明確になった。ナルトは最後の力を振り絞り、体に封印された九尾の力を呼び起こす。まるで、運命にとらわれるネジに、それを乗り越えてきた自分の姿を見せつけるように。

九尾の力を引き出したナルトはネジと互角か、それ以上に渡り合った。そして、決着はつく。影分身の術を巧みに使い、ナルトはネジに勝ったのだ。ネジは地面に倒れこみ、ナルトを見上げ悔いた。
(12巻「変える力…‼︎」)

「く… あの状況でとっさに影分身を…… 
お前の得意忍術か …うかつ…だった…」

ナルトは、声を振り絞るネジに対して、先ほどとはうってかわって、ネジを包み込むような穏やかな口調で語った。

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闘いの後、休息をとるネジのもとを訪れたのは、ネジの父の兄であり、宗家のヒアシだった。そして、ヒアシの影武者として死んだ父・ヒザシの最後の言葉とともに、”あの日”の真実を告げられた。

(12巻「大いなる飛翔」)

「ネジにはこう伝えてください。
私は宗家を守るために殺されるのではなく……… ネジや兄弟、家族そして……… 里を守るために自らの意思で死を選んだのだと」  
ヒアシは「…自ら死を選ぶことが …自由だというのか…」と問う。
ヒザシは一呼吸おいて答える。
「………兄さん… 私は一度でいい 日向の運命に逆らってみたかった… ただそれだけだよ…」  

ヒザシ自身も日向の運命を憎んでいたことが語られている。しかし、その中においても自由を見出すことで運命に逆らっていたのだ。その姿は、先ほど死闘を繰り広げたたナルトと重なる部分があった。

真実を伝えられ、何かが吹っ切れたネジ。その顔は、これまでに見せていたような厳しい表情ではなかった。穏やかな顔で、運命を受け入れ、克服し、新しい一歩を踏み出そうとしているように見えた。

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ネジの額には、依然として〈籠の中の鳥〉の呪印は残っている。しかし、くちばしを器用に使い籠を開け、今にも大空に羽ばたこうとするネジの姿が想像できる、そんなラストシーンだった。


サスケ奪還編 ~運命なんて誰かが決めるもんじゃない~

中忍試験から月日が経ったある日、驚きの知らせが入った。

「サスケが里を抜けた」

サスケは、木の葉の里屈指のエリート一族・うちは一族の末裔で、ナルトの親友であった。落ちこぼれで、里のみんなから毛嫌いされていたナルトにとって、エリートのサスケは憧れの存在でもあり、大切な繋がりでもあり、超えたいライバルでもあった。

サスケを目標にするナルトは驚異的なスピードで成長を遂げ、サスケに勝るとも劣らない忍者になった。一方、それに比べて自分は成長していないのではないか、と焦るサスケは、力を求め大蛇丸(おろちまる)という、かつて木の葉隠れの里を抜けた忍者のもとへ向かった。
(サスケが里を抜けた背景は少し複雑なので割愛します)

サスケを連れ戻すために、ネジ、ナルトを含む5人の仲間でチームが編成された。相手は大蛇丸の手先の4人衆。一人一殺(いちにんいっさつ)の戦いを強いられる中、ネジの相手は、クモのように糸を扱う鬼童丸(きどうまる)だった。鬼童丸の術は、白眼を持つネジしか相手ができなかったのだ。そして、誰よりもサスケの身を案じるナルトに向けて、ネジは語る。

「こんな所で止まっていてはサスケに追いつけなくなる」
一人ずつ仲間が削られていく中、不安そうな表情を浮かべるナルト。
それに気づき、フッと笑みを浮かべ語りかけるネジ。
「ナルト… お前はオレよりいい眼を持ってる」 

(22巻「ゲームオーバー」)

自分を闇の中から救ったのは、まぎれもなくナルト。そして、サスケを救えるのも、そのまっすぐな眼に宿る強い意志を持つナルトだけだと確信していたのだと思う。


「今まで戦った敵の中でこいつは一番強い!」 (22巻「一番強い敵‼︎」)

鬼童丸は、ネジにそう思わせるほど強かった。一つ一つの攻撃に確かな意味があり、着実にネジの弱点を暴いてくる。そして、鬼童丸はネジの弱点を完璧に見破った。一方で、ネジは傷をいくつも負い、劣勢を強いられた。しかし、どんなに打ちのめされても諦めず、立ち上がることをやめなかった。

「何を懸命に… もうゲームクリアぜよ 
簡単なゲームのザコキャラはすぐにやられる運命だ!」 
(22巻「攻略法…‼︎」)

中忍試験のネジとナルトの構図をほうふつとさせるような場面だった。運命という言葉をふりかざし、ネジを追い詰める鬼童丸。最後まであきらめることなく闘い続けるネジ。

なおも攻撃を緩めることのない鬼童丸との戦いの勝ち目は薄かった。そんな中で、満身創痍のネジの脳裏によぎったのは、ナルトだった。

「ナルト… お前ならどうするかな…」 (22巻「一番強い敵‼︎」)

フッと口元に笑みを浮かべ、つぶやくネジ。ネジがたどり着いた答えは、攻撃をあえて真正面から受け、その隙にこちらの攻撃を叩き込むことだった。そして、勝利を確信した鬼童丸の隙を狙い、渾身の一撃で致命傷を与えたのだ。

個人的な感想としては、エリートのネジに似合わない泥臭いやり方だとは思う。ただ、ネジの目的は勝つことだった。ネジには負けられない理由があった。
(以下、22巻「転生…‼︎」)

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中忍試験までのネジはどちらかというと、独善的で冷たい印象だった。
白眼という強力な眼を持ち、あらゆることを神の視点から見透すような場面が見受けられたからだ。

ただ、ここに来て仲間への思い遣りや責任感という大事なピースがネジに備わった気がした。この闘いに負けるわけにはいかないのは、変えられない運命を相手に突きつけるためでも、今を懸命に生きる誰かの努力をくじくためでもない。ネジの勝利を信じている”仲間のため”なのだ。そこには、かつて運命論を振りかざしていたネジの姿はなかった。

そして、倒れこむ鬼童丸に向け、言い放った。

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過去の自分の生き写しのように、運命論を語る鬼童丸。その相手に対し、過去の自分と決別し克服するような一言を放ったネジ。額にある〈籠の中の鳥〉が、象徴的に描かれているのも印象的だった。


実は中忍試験編の際、観客にいた中忍二人がこんな話をしていた。内容は中忍に昇格する条件についてだ。

「小隊のリーダーとして評価するなら… 任務を遂げること以上に小隊を危機から守り抜く力の方がはるかに大切だからね。」
「情報収集なんかじゃ『任務はこなしましたが全滅しました』じゃ話にならねぇ… 犠牲やリスクと任務を天秤にかけて生き残ることを第一に考え動けるタイプでなけりゃ中忍になる資格はねーよ」 (13巻「木の葉、舞い…‼︎」)

この観点からいくと、あの頃のネジなら下忍のままだった。ただ、その後ネジは中忍になり、さらにはワンランク上の上忍にまで駆け上がる。ネジに足りなかったピースが、ナルトとの出会いや様々な戦いの中で埋まっていったのだと思う。


忍界大戦編 ~お前に天才だと言われたからだ~ 

時は流れ、ナルトに封印された九尾を狙う組織〈暁(あかつき)〉と忍連合軍の全面戦争になった。ナルトが捕えられれば、世界は終わる。それを防ぐための戦争だった。しかし、暁が繰り出す最終兵器に、忍連合軍は苦戦する。そして、攻撃はついにナルトのもとへ向いた!万事休す、と思われたその時だった。
(64巻「お前に」)

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ネジは、身を挺してナルトをかばった。ナルトは、驚きを隠せなかった。

「何で…お前がこんなとこで…‼︎ お前は日向を…」

『日向を背負って立つ男だろ!』
そう言いたかったのだろう。意識がもうろうとする中、中忍試験のことがネジの脳裏によぎる。そして、ナルトと最後の言葉を交わす。

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ナルトをかばった理由として、ネジは「お前に天才だと言われたからだ」と語った。中忍試験でのナルトの言葉になぞらえたのは、それほどネジの人生において大切な出来事で、脳裏に焼き付いていたから。そして、ナルトを尊敬していたからだろう。

中忍試験以前からずっと、ネジはまじめな青年であり続けた。周囲からの天才という声でおごりたかぶってしまう道だって考えられただろう。しかし、黙々と修行を重ねるシーンが作中でも多くみられた。自分に厳しく、常に向上心を持ち続けることができる人間だったのだ。

その中で、ナルトとの出会いという大きな出来事が起きた。そして、落ちこぼれでも運命に逆らおうとするナルトとの闘いで、運命の呪縛から解き放たれることになった。運命論にとらわれて、そんなことにも気づけなかった凡小な自分。そんな情けない自分を変えてくれたナルトに”天才”と評された。自分に厳しいネジにとって、ナルトからの”天才”という言葉は、十字架のようにネジの人生に張り付いていたのではないだろうか。

しかし、それは決してネガティブな意味ではない。より高みを目指すため、そして、天才という言葉に恥じないようにより一層努力していく原動力としてあり続けたのではないだろうか。自分のためにも、そして、天才と信じてくれるナルトや仲間のためにも。

それは一見、孤独でつらい人生にも思えるが、クールな中にも向上心や仲間への思いやりを持つネジの性格には合っていたのだろう。そして、ネジ自身、そんな自分になれたことに心の底から満足していたと思う。だからこそ、ネジの人生の道しるべになったナルトには、命を懸けても構わないと思うようになった。そういった背景が、最後の言葉に隠されていたのではないだろうか。

ナルトへの一言の後、ネジは生涯を閉じた。
(ネジなりの、ナルトへの感謝の言葉だと思っている)
奇しくも父・ヒザシと同じように、大切な仲間を守って死ぬ”運命を選択した”。最後に、本当の意味でネジは自由になれたのだと思う。額の〈籠の中の鳥〉はもう消えて無くなっていた。


最後に

ここまで語れば分かっていただけただろう。僕の推しがネジであるということを。そして、ネジの人生が最後には救いのある形で終えることができたことを。決して順風満帆ではなかった。ただ、運命は定められたものだと思わざるを得ない環境から、大きな飛翔を遂げ、運命を選びとることができるまでになった。

僕たちの人生も、決してうまくいくことばかりではない。時には定められた運命を呪いたくなるようなときもあるかもしれない。だけど、運命はみずから作り上げていくことができる。人生を振り返ったときに、そこにあるのが運命なのだ。ネジの人生が、そう語っている。


(サムネ画像:22巻表紙)

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