「あのときカズさんに出会えたことは僕にとって運命だった」香川真司はなぜ積極的に社会貢献活動に取り組むのか?

Opinion
2023.02.28

貧困地域の子どもたち、紛争の影響などで避難生活を送る子どもたちへサッカーボールを届ける「『キャプテン翼』ボールはともだちプロジェクト」が立ち上がった。この新たな取り組みでアンバサダーを務めるのが、2023年からセレッソ大阪に復帰した香川真司である。香川といえば、ドイツ、イングランド、スペインをはじめとしたヨーロッパの国々で長年にわたり活躍しながら、いつの時代も積極的に社会貢献活動やチャリティー活動に取り組んできた。そのきっかけや原動力とともに、自身が考える日本のスポーツ界とアスリートの未来像について話を聞いた。

(インタビュー=岩本義弘[REAL SPORTS編集長]、構成=磯田智見、撮影=村山聡一)

『キャプテン翼』から夢を持つことの大切さを教わった少年時代

――香川選手は、「『キャプテン翼』ボールはともだちプロジェクト」のアンバサダーに就任しました。

香川:小学生のころにテレビで放送されていたアニメを見て以来、僕はずっと『キャプテン翼』の大ファンなんです。その作品のなかで、主人公の大空翼がワールドユース優勝直後のスピーチで訴えている「サッカーの力で、世界平和を」というシーンから立ち上げられたプロジェクトに対して、アンバサダーという立場で応援できるんですからとても光栄な気分です。

――「『キャプテン翼』ボールはともだちプロジェクト」は、NFT(Non-Fungible Token。ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータ)を購入することで購入者自身はもちろん、世界の子どもたちにも高橋陽一先生の描き下ろしイラストを使用した限定デザインのサッカーボールが届けられます。

香川:サッカーや『キャプテン翼』が大好きな人々の力で、日本と世界が、そして世界中の国々とあらゆる地域がつながっていくという部分に大きな魅力を感じました。サッカーを通じて世界平和を願う活動に僕自身も貢献したいと心から思っていますし、このプロジェクトを通して国際NGOワールド・ビジョンとの連携により、世界12カ国(ケニア、エチオピア、ウガンダ、フィリピン、カンボジア、ベトナム、エクアドル、エルサルバドル、グアテマラ、イラク、シリア、ヨルダンを予定)の貧困地域の子どもたちへサッカーボールがプレゼントされます。そのボールを使って友だちや家族とサッカーを存分に楽しんでもらえたらうれしいですし、いつの日かこれらの国々から世界を代表するようなトッププレーヤーが誕生してほしいなと思っています。

――社会貢献に積極的に取り組む香川選手の活動を通して、日本国内でサッカーを楽しむ子どもたちにも、このボールの存在を伝えていけるといいですね。

香川:日本の子どもたちがこのボールの存在を知り、プロジェクトに込められている「サッカーの力で、世界平和を」という意味を少しでも理解してもらえたら、日本で暮らしていたとしても世界とのつながりを身近に感じてもらえるのではないかと思います。僕自身、夢を持つことの大切さを『キャプテン翼』から教わりました。そこにプロサッカー選手として自分自身が学んできたことを加味しながらさまざまな活動をすることで、子どもたちには未来への希望を抱いてもらいたいですし、その一つひとつの取り組みが将来的には「世界平和」へつながっていくのだと信じています。

ヨーロッパで学んだプロサッカー選手が持つ影響力の大きさ

――香川選手は日ごろからとても積極的に社会貢献活動に取り組んでいます。どのようなことがきっかけだったのでしょう?

香川:ヨーロッパでプレーするようになって、プロサッカー選手の価値やステータス、周囲に与える影響力の高さを肌で感じたことが一番大きなきっかけでした。特にマンチェスター・ユナイテッドやドルトムントといった国際的にも名の知れたクラブでは、選手への注目度や関心度が非常に高く、ホームタウンや国内はもちろん、ヨーロッパ中、さらには世界中のサッカーファンに多大な影響を与えられるような環境でした。日常的にサッカーの持つ力の大きさを体感できたことが、僕が社会貢献活動に積極的に取り組むようになった大きなポイントとなりました。

――海外ではアスリートによる社会貢献活動が日常的に行われているのでしょうか?

香川:もちろん、日本国内で活動するアスリートのなかにも、日ごろから熱心に社会貢献に取り組んでいる方もいます。ただヨーロッパでは、そのような活動がまるで“当たり前”かのように行われているんです。マンチェスター・Uに所属していたときには、年に何度もチャリティーオークションが開催されました。とはいえ、それらは決して一大イベントとして行われるのではなく、毎回毎回当然のように開催されるんです。クラブやアスリートによる社会貢献活動が、完全に文化として根づいているなと感じました。

――香川選手はマンチェスター・U時代のチームメート、元スペイン代表のフアン・マタ選手が立ち上げた「コモン・ゴール」(マタが中心となり、2017年に設立。プロサッカー選手や監督が年俸の1%以上を慈善事業に寄付する活動)というチャリティープロジェクトにも参加しています。

香川:そうですね。「コモン・ゴール」には、マタがプロジェクトを設立した当初から参加させてもらっています。ドルトムント時代にお世話になったユルゲン・クロップ監督や、世界的なビッグネームたちも積極的に参加しているんですよ。

――また、レアル・サラゴサに所属していた時期には、「バモス・サラゴサ」(新型コロナウイルスの感染拡大により、影響を受けた地域の事業を支援するためのクラウドファンディング)に寄付をしていました。

香川:サラゴサは世界的に有名な街ではありませんし、周囲と比較しても決して大きな街ではありません。でもそういう街だからこそ、サッカークラブやサッカー選手が地域にもたらす影響力は計り知れないものがありました。常日ごろからそれを実感していたからこそ、ホームタウンで困っている人がいるならば力になりたいと思いましたし、地元の議会や財団が立ち上げた取り組みにぜひ協力したいと思い、自然な流れで参加させてもらいました。

――まさに社会貢献活動が文化として根づいていることを証明するようなエピソードですね。

香川:少し大げさな表現になるかもしれませんが、そのような活動を行うことが、「プロサッカー選手である自分の使命だ」と思わせてくれるような環境がヨーロッパにはあるんです。選手はファン・サポーターのヒーローのような存在であり、大きな価値と影響力、そしてそれに伴う責任があることを日々の生活のなかで教わってきました。

「カズさんが小学校に来てくれたときは本当に感動しました」

――香川選手の地元である神戸、そして中学・高校時代を過ごした仙台は、大きな地震に見舞われました。

香川:1995年の阪神淡路大震災のときには僕自身も被災しました。また、2011年の東日本大震災の直後には、6年間を過ごした地域の変わり果てた姿を見て、自分の無力さを痛感したことを覚えています。とはいえ、どんなことでもいいから、何か一つでも役に立てることがあるならば力になりたい。一人では微力かもしれないけれど、身近な人たちと手をつなぎ、複数人で輪を作って団結すれば大きな力が発揮できる。ヨーロッパで社会貢献活動に触れ、さまざまな取り組みを通して学んだことが、あのときの僕にとっては貴重な原動力になりました。

――阪神淡路大震災のあとには、香川選手が通っていた小学校に三浦知良選手が激励に訪れたと聞きました。

香川:カズさんが小学校に来てくれたときは本当に感動しましたね。スーツ姿にサングラスをかけたカズさんは本当に格好よかった。カズさんを見て大きな影響を受けたことが、その後の自分のキャリアにつながっていることを考えると、あのときにカズさんに出会えたことは僕にとって運命だったのではないかと思うくらいです。

――将来的にはカズ選手とJリーグの舞台で対戦し、オフ・ザ・ピッチでも交流を持つようになるわけですから、まさに小学生時代の出会いは運命と言えそうです。

香川:当時のことはよく覚えていますし、子どもながらにサッカー選手が持つ影響力の大きさを実感しました。だからこそ、僕も何かあったときにはサッカーをやっている少年少女をはじめ、数多くの子どもたちを激励したいという思いを持っています。もちろん、被災した子どもたちにとっては、決して理想的な出会いではないかもしれません。ただ、悲しい状況での出会いだったとしても、それがその後の人生を歩んでいくうえでの活力になる場合もありますからね。

――カズ選手に初めて出会った小学生時代の香川少年のように、ということですね。

香川:そのとおりです。僕の場合はカズさんと出会えたことで、プロサッカー選手に憧れを抱き、Jリーガーになりたいという目標を描けるようになりました。一方で、あまりスポーツに興味がなかったとしても、日本を代表するようなアスリートが目の前に現れることで、その競技に興味や関心を持ってくれる子どももいるのではないかと思っています。

アスリートの活動が子どもたちの心のスイッチを押すことにもつながる

――カズ選手との出会いと、ヨーロッパでの経験が香川選手の活動の原点になっているわけですね。

香川:子どもの数だけ可能性があるわけで、アスリートによる社会貢献活動が少年少女の心のスイッチを押すきっかけになることもあるでしょう。その点で、アスリートがさまざまな活動に取り組むことには大きな意味、大きな価値があるのではないかと思っています。

――その言葉どおり、香川選手はUDN FOUNDATIONを立ち上げ、子どもを軸とした教育・生活支援を行う団体への寄付や、社会貢献活動を行っています。選手個人ではなく、選手たちが団体として活動するという部分がポイントの一つになっています。

香川:アスリートの持つ力を最大限に発揮したいという思いがあります。海外では選手個人による社会貢献活動も珍しくありませんが、その点において、日本国内ではまだこれから伸ばしていく分野だと捉えています。だからこそ、現時点では一人で活動するよりも、みんなで集まって「一緒にやろう!」と手を組んで行動するほうが大きな効果を発揮すると思うんです。

――そのとおりですね。

香川:もしかすると、UDN FOUNDATIONに所属する若手のなかには、社会貢献活動の意義を明確に捉え切れていない選手がいるかもしれません。でも、みんなで一つの輪を作って取り組み続けることで、僕自身がヨーロッパで日常的に経験させてもらった、スポーツやアスリートの持つ影響力の大きさが徐々にわかってくると思います。そういった活動の積み重ねが、日本におけるスポーツの価値、アスリートの価値を今後よりいっそう引き上げていくことにつながっていくと僕は信じています。

<了>

マリノス・水沼宏太が2歳の娘に伝えたい唯一つのメッセージ。「娘が生まれて素直にそういう気持ちになった」

家長が贈った優しいパス。貧困でサッカーできない環境は「僕たちが支援するべき」。12人のプロが語る仲間への愛

“サッカーができないほど貧困”は日本に存在するのか? 「リアル貧乏だった」小林悠が語る実体験

なぜ札幌・荒野拓馬は「嫌われても気にしない」のか? フードロス問題に向き合う行動力の原点

アスリートがSDGsに取り組む真の意味とは? 異彩を放つ“スポーツマネジメント”UDN SPORTSと所属アスリートの飽くなき挑戦

[PROFILE]
香川真司(かがわ・しんじ)
1989年3月17日生まれ、兵庫県出身。ポジションはミッドフィルダー。セレッソ大阪所属。中学入学と同時にサッカー留学し、FCみやぎバルセロナのジュニアユースに所属。2006年、高校卒業前にJリーグクラブとプロ契約した初の選手としてセレッソ大阪に加入。2009年J2得点王を獲得し、J1昇格の立役者となる。2010年にドイツのドルトムントへ移籍。2010-11シーズン、2011-12シーズンのドイツ・ブンデスリーガ連覇に中心選手として貢献。2012年、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドへ移籍。プレミアリーグでも移籍初年度の2012-13シーズンにリーグ優勝を経験。2014年に再び古巣ドルトムントへ移籍。2019年に期限付きでのトルコのベシクタシュ移籍を経て、同年8月よりスペイン2部サラゴサ、2021年1月よりギリシャリーグのPAOKテッサロニキ、2022年1月よりベルギーリーグのシント=トロイデンVVでプレー。2023年には12年半ぶりにセレッソ大阪に復帰し、同年の開幕戦で4662日ぶりのJ1リーグ出場を果たした。日本代表としては、2011年にAFCアジアカップ優勝に貢献。2014年、2018年と2大会連続でエースナンバーの10番を背負いワールドカップに出場している。

この記事をシェア

LATEST

最新の記事

RECOMMENDED

おすすめの記事