2017年公開の実写映画『心が叫びたがってるんだ。』(『ここさけ』)が、アマゾンプライムビデオにて2021年2月現在、見放題配信中となっています。

 原作、2015年に公開された同名のオリジナルアニメーション映画。「アニメ版は観ているけど、実写版は観ていない」という人も多いかもしれません。

 しかし、この実写映画『ここさけ』はアニメ版の魅力を受け継ぎつつ、実写ならではの見どころも多い、アニメ版のファンにもぜひチェックしてほしい作品になっています。アマゾンプライムで気軽に視聴できるこの機会に、鑑賞してみてはいかがでしょう?

アマゾンプライムビデオ『心が叫びたがってるんだ。』(実写映画)

『心が叫びたがってるんだ。』あらすじ

 坂上拓実は、自分の本音を人にさらけ出すことができない高校3年生。ある日、彼は担任の教師の一存で、学校のイベント“地域ふれあい交流会”の実行委員に任命されてしまいます。

 実行委員に選ばれたのは、拓実を含めて4人。その中には、誰もまともに喋るところを聞いたことがない女の子・成瀬順もいました。

 幼いころはおしゃべりが大好きだった順。しかし自分のおしゃべりが原因で両親が離婚して以来、しゃべろうとするとお腹が痛くなってしまうようになり、誰とも仲良くなれずに過ごしていたのでした。

 ほかのふたりも、怪我でやさぐれてしまった野球部の元エース・田崎大樹、中学時代に拓実と交際していたものの、ある出来事を切っ掛けに気まずい関係になってしまった優等生・仁藤菜月と、実行委員は何らかの問題を抱える生徒ばかり。

 果たして4人は一致団結し、交流会を成功に導けるのでしょうか?

主要登場人物

  • 坂上拓実(中島健人)
    本作の主人公。祖父母との3人暮らし。本音で人と関わることができず、地味な学生生活を送っているが、順のがんばりを見て考えかたに変化が……?
  • 成瀬順(芳根京子)
    しゃべることができない女の子。少し小柄な身長と、おかっぱ頭がチャームポイント。もともとは根っからのおしゃべり好きで、ときおり見せるコミカルな動きや表情はその名残かもしれない。
  • 田崎大樹(寛一郎)
    怪我で甲子園出場を逃して以降、やさぐれてしまった野球部の元エース。坊主頭。自暴自棄になっているのでとても態度が悪いが、本当は情に厚い、まっすぐな男。
  • 仁藤菜月(石井杏奈)
    優等生と評判の女の子。サラサラのロングヘアーがトレードマーク。チアリーディング部の部長も務めており、クラスの中心。かつて付き合っていたとはいえ、いまの拓実には高嶺の花に思えるが……?

 ちなみにアニメ版では成瀬順が主人公でしたが、本作では拓実に交替しています。ですがストーリーの大筋はほとんど変わっていません。

複雑な問題を抱えた4人。しかし、ミュージカルの準備を通してやがてひとつに……

実写映画『心が叫びたがってるんだ。』アマゾンプライムで配信中。アニメ版のファンにも観てほしい魅力満載!【アマプラおすすめ作品】
画像は公式サイトより。

 音楽好きの父親の影響で、楽器の演奏や作詞など、自身も音楽に関わることを好むようになった拓実。一方で、それが両親の不仲の原因になってしまったことで、内向的な性格になっています。拓実と順は、少し似た境遇を持っていたのでした。

 順は自分がしゃべれなくなったことを“呪い”であり、“しゃべりすぎた自分への罰”だと思っています。楽器を演奏しているところを見られたのを切っ掛けに、順との距離を縮めることになった拓実は、彼女の力になりたいと思うように。

 「もしなにか伝えたいことがあったら、歌ってみるのもアリかもよ。歌なら呪いとか関係ないかもしれないし」――拓実の思い付きのような提案を実践してみた順は、本当に歌なら言葉が紡げることに気付くのでした。

 これを境に、積極的な自分を取り戻し始める順。交流会の出し物をミュージカルにして、自分が脚本を書きたいといった提案をするようになります。拓実も音楽面の知識を活かして、順といっしょにミュージカルの構想を練ることに。

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画像は公式サイトより。

 同時に順は、拓実へとほのかな恋心を抱くように。けれど拓実は中学時代に交際していた菜月にいまでも好意を寄せていて……?

 交流会に向けてストーリーが動いていく本作。しかし、メインテーマはその中でのコミュニケーションを通して、問題を抱える4人の少年少女がどのように自分の“呪い”を解いていくか? という部分。

 最初は誰よりも交流会の準備に非協力的だった大樹も、順のひたむきさに心を動かされていきます。

 順の心の問題が目を引くものの、“本当の気持ちを言葉にできないでいる”という意味では拓実も、大樹も、そしてじつは菜月も同じ。そんな、思春期を経験した多くの人が共感できるテーマが、秩父の美しい風景と、ミュージカルの名曲たちに彩られながら描かれていきます。

アニメ版のファンに注目してほしいポイント

 原作は長井龍雪氏、岡田麿里氏、田中将賀氏によるアニメーション制作チーム“超平和バスターズ”が手掛け、2015年に公開された同名アニメーション映画。

 実写版『ここさけ』は、アニメ版をリスペクトし、「原作の魅力を実写で表現するにはどうすればよいか?」という点を非常に大切に制作されたことが、役者の演技や美術の再現度、映像の質感など、さまざまな描写からうかがえます。原作アニメ版のファンの方は、再現度の高さや、アレンジされた部分などに注目しながら視聴するのもおもしろいかもしれません。

 アレンジの例では、アニメ版では登場していた“玉子の妖精”が実写版では登場しません。CGなどを使ってアニメ版の展開を完全に再現することもできたかもしれませんが、実写だとリアリティがなくなり、違和感が大きいものになっていたことでしょう。

 アニメ版の空気感を実写で再現するためには、まったく同じことをすればいいわけではない、ということがよく分かるアレンジではないでしょうか。

 原作の脚本を手掛けた岡田麿里氏が書く台詞は“少年少女たちの性への興味関心”が直接的な言葉で表現される(要するに下ネタ的な台詞です)場合が多く、アニメ版『ここさけ』も例外ではありません。

 そうした台詞は実写版ではほとんどなくなり、別のやりとりに差し替えられています。ちょっとギョッとする台詞回しも岡田氏の脚本の魅力ではありますが、より爽やかに楽しめるのは実写版のほうかもしれません。

 再現度で言えば、ミュージカルの主演に順が立候補するシーンでの仕草のかわいらしさは必見です。ぜひ実写版とアニメ版で見比べてみてください。

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公式サイトでは本作の“ロケ地マップ”をチェックすることもできる(画像は公式サイトより)。

 また、秩父を舞台にしていることからアニメ版『ここさけ』は、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『空の青さを知る人よ』と合わせて“秩父三部作”とも呼ばれています。

 実写版『ここさけ』も“秩父が舞台”という設定は踏襲しており、ロケ地も当然秩父。アニメ版で描かれた風景が実際はどういったものなのかがわかります。秩父へ“聖地巡礼”をしに行った方ならば、自分が足を運んだ場所が作中に登場しているかもしれません。

アニメ版、実写版、両方観てほしい作品

 アニメ版『ここさけ』のファンには実写版『ここさけ』もぜひ視聴していただきたいですし、実写版を先に視聴した方には、原作のアニメ版にもぜひ触れていただきたいです。

 近年は漫画作品などの実写化映画の中にも原作の魅力を大切に扱った傑作・名作が数多く登場しています(アマゾンプライムビデオで視聴できる作品なら、暴力描写が激しく人を選びますが、『アイアムアヒーロー』や『ミスミソウ』が個人的におすすめ)。

 実写映画『ここさけ』もまた、“原作を大切にした実写化”のひとつだと視聴を終えたあとなら思えるはず。「それでもやっぱりアニメ版が好き!」と感じる人もいるかもしれませんが、少なくとも「よい実写化は何か?」というのを考えてみる切っ掛けになるのではないでしょうか。

 気になった方はぜひ視聴してみてください。

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