居住スペースと事業のためのスペースが同じ建物の中にある店舗併用住宅。夢をかなえられる魅力的な家ですが、住宅ローンや土地選びに関しては通常の住宅とは異なる点もあるため注意が必要です。大和ハウス工業の尾﨑萌さんに話を伺い、店舗併用住宅の住宅ローンや固定資産税、立地や家づくりのポイントについて解説します。
まずはじめに、店舗併用住宅の定義や特徴について知りましょう。
「1つの建物の中に生活のためのスペースと事業用スペースが存在する建物のことを店舗併用住宅といいます。店舗併用住宅では、例えば1階部分を店舗にして2階部分を住まいにするといった設計が可能です。カフェなどの店舗をはじめ、医院や事務所などの事業用スペースを併設した住まいも店舗併用住宅に含まれます。また、事業用スペースを賃貸にして店舗を募集するケースもあります」
暮らしと店舗経営が一体となった住まいであることから、丁寧な事業計画と家族の将来を見据えたライフプランを考えることがポイントとなります。
店舗併用住宅と似た言葉で「店舗兼用住宅」というものがあります。しかし、それぞれ意味が異なるので注意が必要です。
併用住宅は自宅スペースと事業スペースが完全に区切られており、屋内でお互いのスペースを行き来できない設計の建物のことをいいます。そのため、それぞれのスペースを行き来するには屋外へ出る必要があります。
一方、兼用住宅とは自宅スペースと事業用スペースが完全に仕切られておらず、屋内で行き来できる設計の建物のことをいいます。
用途地域とは計画的な市街地を形成するために、用途に応じて分けられたエリアのことで、都市計画法によって定められています。用途ごとに商業施設や工場が立ち並ぶ地域や住環境が優先される地域など13種類に区分されています。
店舗併用住宅を建てる上で、この用途地域について知っておくことは重要です。深夜酒類提供飲食店営業開始届の必要な店や風俗営業許可(1号許可)が必要な店舗など、用途地域によっては営業ができない業種もあります。
また、営業可能な用途地域であっても店舗の面積や構造などによって制限がかかるケースも。業種、店舗と自宅の面積、建物の構造を踏まえ、希望する土地に店舗併用住宅を建築できるかをチェックしましょう。
所有地や気になっている土地の用途地域について詳しく知りたい場合は自治体の窓口に問い合わせるか、ハウスメーカーや工務店の担当者を通して調べてもらうことが可能です。
用途地域ごとに、建築できる店舗併用住宅の規模や構造の条件は異なります。違いが分かるように表にまとめました。
用途地域の種類 | 建てられる店舗併用住宅の規模や構造条件 |
---|---|
第一種低層住居専用地域 | 原則として店舗や店舗併用住宅は建築不可。ただし、店舗床面積が50m2以下かつ建物の延べ面積の2分の1未満の店舗兼用住宅は建築可※ |
第二種低層住居専用地域 | 店舗床面積150m2 以下、2階以下 |
第一種中高層住居専用地域 | 店舗床面積500m2 以下、2階以下 |
第二種中高層住居専用地域 | 店舗床面積1500m2 以下、2階以下 |
第一種住居地域 | 店舗床面積3000m2 以下 |
第二種住居地域 | 店舗床面積10000m2 以下 |
準住居地域 | 店舗床面積10000m2 以下 |
田園住居地域 | 店舗床面積150m2以下、2階以下。ただし、その地域内で生産された農産物を扱う場合は店舗床面積500m2以下まで可能 |
近隣商業地域 | 面積制限なし |
商業地域 | 面積制限なし |
準工業地域 | 面積制限なし |
工業地域 | 店舗床面積10000m2 以下 |
工業専用地域 | 店舗は建築不可 |
「店舗併用住宅は建物の一部が店舗であっても、条件を満たせば住宅ローンを利用することができます。それに伴い住宅ローンの控除を受けることも可能です」
通常、店舗併用住宅では店舗部分には事業用ローン、住宅部分には住宅ローンを利用します。しかし条件を満たせば金融機関によっては建物全体に住宅ローンを利用できる場合もあります。住宅ローンの利用条件は金融機関ごとに異なるのでよく比較検討しましょう。
固定資産税とは、土地と建物の所有者に課せられる税金のことです。一般的な住宅であれば、条件を満たせば固定資産税の軽減措置を受けることができます。店舗併用住宅もまた、居住スペースの面積が建物全体の2分の1以上であれば、一般的な住宅と同じように固定資産税の軽減措置を受けることが可能です。つまり、設計段階で居住スペースを全体の2分の1以上にすることで節税対策になります。ただし、固定資産税に関する取り決めは地域によって差があるため各自治体の窓口に確認をしましょう。
営む業種によってどこにコストがかかってくるかは異なりますが、主に内装の設備面や外構、外観にこだわるとコストが上がりやすい傾向があります。飲食店であればキッチンの設備を充実させたり、ピアノ教室であれば壁に防音材を使用したりすることでコストがかかります。
「店舗併用住宅のどこにコストをかけるかはライフプランや事業計画によって異なります。最近はバリアフリーのニーズも高まっています。スロープをつくったり自動ドアにするなど費用はかかりますが、集客を見込んで取り入れる方も多いです。業種によってはバリアフリー設計にすることが自治体で決められている場合もあります」
営業中だけではなく夜間など営業時間外の店舗の防犯対策もしっかりと行う必要があります。また、店舗に出ているときは居住スペースに人がいなくなる場合もあるため、住居部分のセキュリティー面も注意が必要です。
「防犯カメラやホームセキュリティーシステムを導入することで、防犯性を高めることができます。また、窓ガラスを割れにくい強固なものにすることも有効です」
「店舗の経営を成功させるポイントのひとつが立地です。駅から近いことや人通りが多い土地は店舗を経営する上で強みになります。業種によっては特定の層が行き来する場所に店舗併用住宅を建てることで集客に有利になります。例えば、学習塾は学校の近く、薬局は病院の前に、といったように集客に適した土地を選ぶために周辺環境のリサーチも大切です」
「2階以上のフロアに店舗が入る設計よりも、道路に面した1階部分に店舗を設けたほうが集客には有利です。店内がよく見えるように設計したり、エクステリアにこだわったりすることも大切なポイントになります」
1階部分をテナントとして他者に貸し出す場合も、入口が道路に面する路面店だと賃料を高く設定できる傾向にあります。
「駐車スペースを敷地内につくると車での行き来がしやすくなります。特に車移動が多い地域では、駐車場は必須です」
車移動がメインとなる地域では、ゆとりをもって駐車スペースを確保できるとよいでしょう。普通乗用車1台分に必要なスペースは幅2.5m×長さ5.5mの13.75m2といわれています。
飲食店や美容室など、客が長時間滞在する可能性がある店舗では、専用のトイレを設けることが必須です。コストはかかりますが、自宅のトイレとは別に客用トイレをつくることでトイレがないことで客が困ったりクレームに繋がるなどといったトラブルを防ぐこともできます。また、客層に合わせてバリアフリー設計にしたり、乳幼児連れに対応したトイレにすることも可能です。
「店舗と住居スペースの動線を分けることも大切です。お客様用の出入口とは別に住人用のエントランスを設けるなど、2つの動線を用意することで店舗のセキュリティーや住人のプライバシーを守ることができます」
店舗併用住宅の場合は店舗と自宅が内部で繋がっておらず独立している必要があるため、それぞれの出入口をつくり、動線を分けることが必須条件となります。
「店舗として使用しているスペースを将来的に親世帯や子世帯の住居スペースにするなど、家族のライフプランに合わせた可変性の高い間取りにすることがおすすめです。事業をやめたときにどうするかまで考えておくことで、住宅や土地を有効に活用することができます」
店舗部分を住居にしたり、賃貸として貸し出したりなどさまざまな選択肢があります。店舗併用住宅で一緒に暮らす家族とよく話し合い、長期的な計画を立てることをおすすめします。ただし、店舗部分を将来的に住居にする場合は建築上のさまざまな制限があり、大規模なリフォームが必要となる場合があるため注意しましょう。
最後に、店舗併用住宅を建てる際に大切にしたいポイントを尾﨑さんに伺いました。
「店舗併用住宅を建てる際は、周辺環境のリサーチや顧客のニーズを踏まえた空間づくりがポイントになります。また、法律によって店舗併用住宅が建てられない土地や、建てられる場合であっても面積や構造に制限がかかる場合があります。家づくりを始める前に土地や建物に関してよく計画を立てるようにしましょう」
また、大和ハウス工業ではパソコンをはじめ、スマートフォンやタブレット端末から住宅を見学できる「メタバース住宅展示場」のサービスを展開しています。
「もちろん、店舗併用住宅の展示場もご用意していますが、実際の展示場に訪問しなくても、オンライン上でアバターとなって展示場に入り、住宅の外観や間取り、内装を細部まで確認でき、その場で質問や相談も行えます。いろいろなプランを比較することで家づくりのヒントが見つけられると思います」
店舗併用住宅を建てる際は、周辺環境と市場調査が大切
業種によっては営業できない場合もあるため、用途地域の建築条件を事前に確認する
ライフプランと事業計画のバランスに配慮して家づくりを行う