ランス(9.5 IF)   作:ぐろり

180 / 197
VS 魔王リトルプリンセス

 

 

 

 

 

「……くすっ」

 

 花の咲くような、笑み。

 

「……くすっ、くすっ」

 

 無邪気に微笑む、笑み。

 皮肉な事に、その笑みの奥にあるのは邪気の一言では表せない程の大きな悪意。

 

「くすくす……くすくすっ」

 

 この時代、大陸から外れた極東JAPANの地にそれはいた。

 まだ年端もいかないこの少女が。無邪気な笑みを振りまくこの少女が。

 

 その笑みの持ち主こそ、覚醒した当代の魔王。

 

「ふふ……壊れちゃえ」

 

 すると魔王は右手を軽く突き出して──力を開放。 

 その身体に流れる力の根源たる血液が破壊力と化して──大爆発。

 

「……くすっ」

 

 目を焼く程の圧倒的閃光、それに遅れて耳を裂く程の大爆音が大気を揺るがす。

 それは土地を、木々を、山々を。少し遠くに見える民家も、そこに住んでいた人間達も。

 全てを飲み込んで燃やし尽くして、後に残るは真円状の巨大なクレーターが一つ。 

 

「ふふっ、キレイになった。楽しいなー」

 

 ただの遊びのように、特別な理由もなく無造作に力を振りまいて。

 それだけで地形を変動させる程の力を披露して。数多の命を塵に変えて。

 それでも本当に楽しそうに、少女は微笑む。

 

「あぁ、でも……」

 

 すると少女は。

 破壊の残滓が漂う空を見上げる。解き放たれたような晴れ晴れとした顔で。

 

「本当に……本当に、スッキリした」

 

 その少女は──苦しんでいた。

 逃げ出してしまった現状に。大切な人を魔人に変えてしまった罪悪感に。

 徐々に湧き上がってくる渇望に。自分が自分でなくなってしまう恐怖に。

 

 それを抑制するヒラミレモンも失ったまま、やがて飢餓感は限界を超えて。

 そして──救いは間に合わなかった。

 それが、この結果。

 

「こんなにイイ気分なのに、どうして私はあんなに我慢していたんだろう……へんなの」

 

 それを抑え込んでいた少女は、もういない。

 心優しい少女だったそれはもう魔の根源たる力に飲み込まれてしまった。

 だからそれはかつて来水美樹と呼ばれたもの。今は第七代魔王──リトルプリンセス。

 

「ふふっ、めちゃくちゃにしちゃおうかな。このJAPANとかいう国の全てを」

 

 リトルプリンセスとは。本来の歴史上では誕生する事のなかった幻の魔王。

 心優しい少女の面影が残るのはその外見だけ。その中にある思考は悪しき魔王そのもの。

 

「とりあえずここの魔軍を指揮しているやつに会いに行こうかな。たしか九州の方だよね」

 

 仮にリトルプリンセスという魔王がこの時代に誕生していたとしたら。

 その場合、JAPANで起きていた戦乱の姿は大きく形を変える。リトルプリンセスは当時魔軍を指揮していた魔人ザビエルを指揮下において、JAPANに侵攻を開始する。

 魔王が率いる魔軍に勝てる力などこの世には存在せず、抵抗空しく早晩JAPANは滅亡する。そしてその力は大陸全土にまで及び、やがて世界は魔王リトルプリンセスの支配下に置かれる。

 

「くすっ、くすっ……」

 

 この世界において、そんな未来はもう間近に迫っていた。

 悪しき魔王が誕生してしまった以上、避けられない定めとなるのだが──

 

 

「がーはっはっはっは!!」

「ん……?」

 

 そこに、闖入者が現れた。

 

 

「やいやい! そこのお前! さっきからドカバカスカと派手に爆発しまくりやがって!!」

「……んー?」

 

 真新しいクレーター跡を踏み越えて、一人の男がけんか腰でこちらに向かってきていた。

 態度と口がデカい偉そう男。どこか見覚えがあるような、ないような。

 

「お前の正体はもう知っているんだぞ!! お前は魔王リトルプリンセスだな!?」

「……そうだけど」

「JAPANに住む人々を苦しめる悪い魔王め! この俺様が退治してやるぞー!!」

「………………」

 

 それは織田家を影から支配する裏番、だった男だと気付いた。

 けれどもそんな事はもうどうでもいい。今となっては塵芥の一つに過ぎない、過ぎないのに。

 そんな塵のような存在が魔王を退治しようと挑んできたようだ。正義漢気取りが鼻に付く。

 

「……うるさいなぁ」

 

 元顔見知りといえど容赦は無し。

 魔王の右手が煩わしそうに持ち上げられて、その指先に灯り始める魔の力。

 リトルプリンセスはさも当然のように、うるさく喚くその男を消し炭に変えてやろうとした。

 

 ──しかし。

 

「ふっ!!」

「なっ……!」

 

 その動作よりも速く、ランスは腰から魔剣を抜くと同時に一気に斬り込んだ。

 人間ではなしえない驚異的な瞬発力、目測を見誤ったリトルプリンセスに肉薄する。

 

「でりゃーッ!」

「うっ! なに、こいつ……!」

 

 容赦が無いのは相手も同様、鋭く迫る斬撃。

 上げていた右手をそのまま盾にしようとして、生じた痛みにリトルプリンセスは驚愕する。

 この地上で最強を誇る魔王の肉体、それがただの一撃で切り裂かれて出血していた。

 

「がはははは! 油断するとは愚か者め! すでに戦いは始まっているのだ!」

「うひょー! この感覚、魔王の肉、魔王の身体! 魔王を斬るってやっぱ気持ちえー!!」

「っ、この……!」

 

 思ってもいなかったダメージを受けて、リトルプリンセスの表情が苛立ちに歪む。

 いきなり現れて、いきなり襲い掛かってきた相手。その唐突さもそうだが、なによりもその強さが……おかしい。

 そう、おかしいのだ。そもそもこちらが魔王と知って挑んでくるのがおかしい。魔王の前に立って、魔王の戦える人間が、魔王に傷を負わせられる人間なんているはずがないのに。 

 

「なに、なんなの、お前は……!」

 

 これほどの強さを持つ相手の存在──リトルプリンセスはそれを理解する事が出来なかった。

 相手の身体から放たれる同質の波動を。それは見かけ上の人間とは違うものなのだと、そういった事を読み取る感性や洞察力がまだ未発達だった。

 

「お前みたいな悪い魔王は俺様がお仕置きしてやる! 正義の刃を食らえー!」

「いけいけー! やれやれー!」

 

 血気盛んに攻め立てるランス。立て続けに繰り出される刃。

 その剣筋は才能LV3の極み、剣才無き者ではとても見切る事など出来ない。

 

「でりゃ!」

「くッ、痛……」

 

 防ぎ切れずにもう一撃。

 魔王が攻撃を食らう──無敵結界が貫かれるのは魔剣だから仕方ないにしても、それでも。

 

「……お前、まさか私に勝てるとでも思ってるの?」

「がははは! 当然だ。俺様は既に魔王を一匹倒した男、実績が違うのだ実績が」

 

 織田家の影番だった男。あまりにも常識外れな力を振り回してくる、理解出来ない。

 

「つーわけで、おとなしくお縄につけー!」

「あぁもう、鬱陶しいなぁ……!」

 

 とはいえ理解は出来ずとも、理解せずままに蹴散らしてしまう事は可能。

 特に魔王の力を使えば尚更。リトルプリンセスの手に圧倒的な力が集約していく──

 

 ──そんな時だった。

 

 

「こらー! そこの口が大きい男ー!!」

「ん?」

「お前、美樹ちゃんをいじめるなー!!」

 

 なにやら遠くからそんな声が。

 

「お、あれ健太郎やん」

「ほんとだ。なんだ、あいついたのか」

 

 振り返って見てみると、ランス達の下に猛ダッシュで迫り来る人影が一つ。

 それまで何処をほっつき歩いていたのか、やってきたのは小川健太郎。

 もとい──今では魔人、小川健太郎。

 

「乱暴口でか男め、やっつけてやるぞー……て、え、あれ、ランスさん!?」

「おう」

「なんで、どうしてこんな所に……」

 

 気付いて思わず動きを止める。それは互いにとって予期せぬ遭遇。

 大して気に留めなかったランス達とは違い、健太郎はその意味をすぐに理解した。

 

「あぁ……そうか」

「あん?」

「ランスさん、これは……そういう事ですか。魔王になった美樹ちゃんを倒しに来たって事ですかー……」

「まぁな」

「ですよねー、そうですか……」

 

 その狙いを知って、健太郎はガックリと肩を落として物悲しそうに呟く。

 魔王、それは人類の敵。ありとあらゆる人間達から敵視されて刃を向けられるのが定め。

 それまで味方だった人達からも。それが悪しき存在となってしまった美樹の宿命。

 

「あぁ……こんな事になっちゃうなんて……ごめんなさい、ランスさん。美樹ちゃん」

 

 このJAPANの地にて。行くあての無かった自分達を迎え入れてくれた恩人、織田家の影番。

 実際のところはこの健太郎が知っているランスと目の前にいる相手は別人なのだが、そんな些細な違いはどうでもよく、とにかく恩ある相手に仇を返さなければならない状況。

 

「でも……それでも」

 

 それでも、健太郎は鋭い目を向けた。

 

「僕は……美樹ちゃんを守る為に戦います」

「そうか」

「はい。それにどのみち、今の僕はもう美樹ちゃんに逆らう事は出来ないんだー」

 

 来水美樹と小川健太郎。ではなく、今となっては魔王リトルプリンセスと魔人小川健太郎。

 その関係はそれまでの恋人同士ではなく、すでに絶対的な主従関係となっている。

 

 ──故に。

 

 

「だから……だから! 勝負だランスさんー!!」

「よしきた。ならば死ねー!」

「ぎゃーー!!」

 

 ザクーッ!! と一撃。

 魔王ランスの一撃が、魔剣の一振りが。小川健太郎の胴体を綺麗に一刀両断した。

 

「なッ!?」

 

 響くリトルプリンセスの悲鳴。

 

「け、健太郎君!?」

 

 更には健太郎の手に握られていた日本刀の悲鳴も。

 

「あれま、一撃……」

「よし。悪の手先は死んだな」

 

 勝負は一瞬で決した。敗者横たわる地面には先程まで健太郎だったものの身体が二つ。

 まもなくその肉体は煙のように消えて、小さな赤い珠に姿を変える。

 

「うへぇー……容赦ねー……一応は知り合いだってのにマジ容赦ねー……」

「勝負を挑んできたのはコイツだろ」

「そりゃそうなんだけど……」

 

 これには魔剣カオスも唖然とした顔。

 魔人健太郎VS魔王ランス。その実力差は戦いになるようなものではなかった。

 

「実は俺様な、ハッキリ言って健太郎はすげーどうでもいい!」

「それもあんたからしたらそうやろうけど……」

「ぶっちゃけ死んだって構わん!! こいつちょくちょくムカつくところあるし!!」

「それもまぁ……否定はせんけどね……」

 

 リトルプリンセスから見たランスが塵芥に等しい存在だったのと同様に、ランスから見た小川健太郎もまた切り伏せてもまぁいいかと思える程度の存在でしかなかった。

 ただこれは健太郎が特別嫌われているという訳ではなく、極度の女好き人間ランスにとって同性の扱いとは基本的にそんなもんである。

 

「それにだな。これはあの白ハニワが作ったへんてこ世界のへんてこ勝負、この健太郎と美樹ちゃんだってどうせ偽物かなんかだ」

「そうなん?」

「そうだろ。だって美樹ちゃんの魔王の力はこの俺様が引き続いだんだぞ。それなのにこの美樹ちゃんが今も魔王でいるはすがねーだろ」

「あー、なるほどそりゃそーやね。そもそも魔王が二人いるってのがもうあり得んし、これが現実だなんて考えられんわな」

 

 加えて言えばステージ1の魔王ガイ然り、このステージ2の魔王リトルプリンセス然り。

 それは本来であればもういない存在、ランスが出会う事はない相手。故にこれが時間跳躍だろうと別次元への跳躍だろうと、いずれにせよランスにとってこれは現実ではない。

 

 だからこそここで何をやったって構わない。どれだけ無茶をしたって問題なし。

 とそんな普段以上になんでも有りな思考でランスは動いていたのだが。

 

「……え?」

 

しかし──こちらにとっては。

 

「……け、健太郎、くん?」

 

 この時空に生きる者達にとっては。

 今、目の前で起きた事こそが現実そのもの。

 

「健太郎くん……が……」

 

 絶句し、呆然とする魔王。

 

「健太郎君が……死んでしまった」

 

 持ち主を喪った聖刀日光も。

 

「……カオスッ! 貴方達はなんという事を……!」

「……ま、真剣勝負だかんね。そういう事もあるべ」

「それで済むと思っているのですか!? カオス、よりにもよって貴方達が……!」

「う……うるせーやい!」

 

 命を散らした持ち主の敵、その手に握られる旧来の仲間に非難の声をぶつける日光。

 だが一方でカオスも負けじと吠える。魔剣には魔剣なりの言い分がある。

 

「そもそもそいつは魔人! 儂は魔剣! 魔剣が魔人をぶっ殺してなにが悪いってんじゃ!!」

「そうだそうだ、言ったれカオス」

「魔人が儂の前に立つのが悪い!! もっと言えば魔人なんぞになったのが悪い!!」

「しかし……!」

「つか日光! 聖刀のくせして魔人に使われて魔王の配下になっとる今のお前にあーだこーだ言われとうないわ!!」

「くっ……!」

 

 その指摘は日光の痛いところを突いていた。

 魔を断つ聖なる刀が。持ち主が魔人化した事により魔人の扱う武器となって。

 その持ち主とて、今となっては魔人らしく覚醒した魔王に隷属する走狗。これではもはや聖刀日光が人類の敵になったといっても差し支えない状況。

 

「……しかし」

 

 ──なのだが。

 

「それを言うならば……カオス、貴方とて同じなのでは?」

「え?」

「私の感知能力を誤魔化す事など出来ませんよ。貴方の持ち主はすでに人間ではありませんね」

「ぎっくぅっ!」

「つい先日まで、尾張の城でお会いしていた時とは感じる波動が何もかも違います。その波動は……到底理解が出来かねる話ですが、それは今の美樹ちゃんと変わらない……」

「あ、いやあの、これは……」

 

 さりとて日光が魔の手先と言うならば、一方のこちらはどうなのか。

 こちらはこちらで魔王に使われる魔剣。先程の発言が完全にブーメランとなっているカオスには返す言葉が出てこない。

 

「カオス、説明を」

「いやだからそれは……ごにょごにょ」

「聞こえません」

「……あーもう! 説明すんのめんどい!! てなわけで心の友、いっちょやっちまえー!!」

「がははは! 任された!!」

 

 説明が面倒になったカオスはスルー決定。

 魔王ランスも同じような思考でいたのか、使い手を喪った聖刀を地面から拾い上げて。

 

「本当は日光さんも俺様の武器なのだが……仕方ない、本日のメインディッシュは捕れたてピチピチの魔王だからな!!」

「な、なにを……」

「日光さんの事は元の世界で本物の方をちゃーんと可愛がってやるからな。てことで……」

「っ、まさか──!」

「いざ、さらばーーー!!!」

 

 大きく振り被っての一投。武器の投擲攻撃はランスの得意技の一つ。

 ばひゅーん!! と、すっ飛んでいった聖刀日光は空の彼方でキランと星となった。

 

「これで良し」

「ううーむ……こりゃ異世界での別人相手だからこそ出来る技。こんなのが本物の日光に知られたらと思うと……ぶるぶるっ」

「バレなきゃ平気だ平気。そもそもがすでに健太郎を真っ二つにして、これから美樹ちゃんを犯そうってんだからもう今更な話だろ」

「ま、それもそうやね」

 

 やっちまったもんはしょうがなしと、日光の恐怖に怯えていたカオスもすぐに頭を切り替える。

 ここは現実とは違う異世界。現実には影響しないのだからここではどんな事だって出来る。

 となれば残るは良心の問題となるのだが、なにせこの男は魔王ランス。魔王相手に良心を説く事自体が間違っているというものである。

 

「さてさて、邪魔な乱入者も消えた」

「………………」

「残るはお前だけだ。リトルプリンセス」

 

 ランスはそちらに視線を移す。

 小川健太郎を喪って、今だ呆然としている魔王リトルプリンセスを。

 

「…………健太郎、くん」

 

 リトルプリンセスが作り出した唯一の魔人、小川健太郎は死んだ。

 

「………………」

 

 それはリトルプリンセスの中、来水美樹という存在の残滓。

 小川健太郎という幼馴染の男の子を、誰よりも大切に思っていた心。

 

「…………ない」

「ん?」

「……許さない」

 

 美樹ではないリトルプリンセスの瞳から涙は流れない。

 心に湧く感情は悲しみではなく、自分のものを奪った相手に対する強烈な怒り。

 そして破壊衝動、復讐心。そういった黒い感情が火を吹かんばかりに溢れ返る。

 

「……お前なんかっ!!」

「む」

 

 そして、勢いよく振り向いた。

その瞳は真っ赤に燃え上がっていて。

 

「お前なんかっ、消えちゃえ!!」

 

 そのまま──激情を直接解き放つかのように。

 その手から。魔王の力が迸った。

 

「あ、これアカンやつじゃ」

「げっ──!」

「消えちゃえ、消えちゃえーー!!」

 

 消えちゃえ、と心に強く念じるだけで。

 それがその通りになる。それが魔王リトルプリンセスが放つ大爆発の本質。

 

 

 そして──世界が熱と爆音に包まれた。

そこにあったものは、魔王の力によって跡形もなく吹き飛んだ。

それは人間の頃のランスであれば、塵すら残さずに蒸発してしまう程の一撃。

 

 ──だが。

 

 

「……っ、ぐ……!」

 

 やがて高熱の煙が爆風と共に消え去って。

 そこにランスはいた。その姿が爆発に包まれた時と変わらない五体満足のまま。

 

「……い、づづ……」

「貴様……!」

「め、めちゃくちゃいだい……が」

 

 無論ノーダメージではない。

 リトルプリンセスが放った最強の一撃。全てを消し飛ばす魔王の爆発の威力は桁違い。

 直撃を受けたランスの身体にも凄まじいダメージが残ったが──それでも。

 

「……っ、がははは! 耐えた! 耐えたぞ! 俺様はあの一撃を耐えた!!」

 

 それでもランスは耐えた。こちらだって魔王、その肉体強度は桁違い。

 今まではいつ食らったとしてもゲームオーバー必至だった一撃を。魔王ランスは耐えきった。

 

「これさえ耐えりゃあこっちのもんだ! これでもうスカートめくりしたって怖くはねぇ!!」

「なに子供みたいな事言っとんのさ。スカートどころか中身まで全部いただくんじゃろ?」

「そうだとも! つーわけで……魔王リトルプリンセス!! 改めて覚悟ー!」

 

 負傷した身体のダメージなど無いかのように、ランスは意気揚々と魔剣を構えて突撃。

 この先に待つのは美味しいご褒美、悪い女の子を倒したからこそ味わえるお仕置きセックス。

 

「貴様……だったらもう一度、次こそは消し炭に──!!」

「そうはさせるか! 距離を詰めちまえばこっちのもんだ!!」

 

 リトルプリンセスはその手に力を込めて再度の大爆発を準備するが──遅い。

 一瞬で斬撃が届く距離まで迫って、そこから魔王ランスの神速の如き刃が振るわれる。

 

「く、くそ……っ!」

 

 対するリトルプリンセスは武器を持っていない。

仕方無く素手での応戦となるが……それではどうしても分が悪い。

 

「あまーい! 儂の刃をなめたらあかんぜよー!」

「くっ、魔剣、カオス……!」

 

 何故ならランスの手にはそれがある。

 今回のお助けキャラ魔剣カオス。その刃は魔に属する者への特攻と化す。

 

「鬱陶しい、本当に鬱陶しい……!」

 

 如何に強靭な魔王の身体とて、魔剣の刃だけは生身で防ぐ事は出来ない。

 防げないとなれば避けるしかない。だが──

 

「がははは! 動きが遅いぞ!!」

「くッ……!」

 

 それを許すランスではなく、そして──そこに一番大きな差が。

 防ぐ、あるいは避ける、そして攻撃するなどの戦闘に必要な全ての動作が。

ランスとリトルプリンセスでは、そもそもの動きの質が大きく違っていた。

 

 特に──このリトルプリンセスは。

 その元となった人間、来水美樹というのは。

 

「くそ……! どうして、私は魔王なのに……!」

 

 大前提として。来水美樹というのは戦う事を生業としていた人間ではない。

彼女は次元3E2で普通に暮らしていた少女、戦闘能力など一切持たないただの人間である。

 特技は家事手伝い。一般人らしくそのレベルは最低数値の1でしかない正真正銘の一般人。

 

「ぬるいぬるーい! あの爆発さえなけりゃあこんなもんか!」

「貴様ぁ……! 絶対に殺す……!」

 

 当然ながら戦闘に関する技能もなく、才能も無く。

となれば美樹の身体には、戦いの感覚やセンスといったものが何一つ身に付いていない。

彼女はただ魔王になっただけ。たまたま魔王になれる素質を有していただけの一般人でしかない。

 

「どーしたリトルプリンセス!! さんざんガメオベアにしてくれた強さはこの程度か!?」

「ガメオベア?」

「いや、分からんけどなんとなく」

 

 一方でこちらはどうか。

 魔王ランスは人間だった頃から生粋の戦士。多くの苦難を勝ち抜き乗り越えてきた当代の英雄。

そんな魔王と相対した場合、リトルプリンセスの戦闘技術はあまりにも拙いもので。

 

「いける! このままいける!」

「確かにいけそうね。ここから奥の手さえ出なけりゃあ……つーか、あの大爆発が奥の手なんか」

「あんなもん二度も撃たせんわ! このまま一気に攻め切って終わらせてやる!!」

「く、くぅ……!」

 

 防ぎ切れない凶刃の圧に押されて、リトルプリンセスの表情に怯えの色が見えた。

 その隙を逃さずランスは攻める。ランスが経験則として攻め時を理解している一方、リトルプリンセスはそういう戦いの機微など何も知らない。

 

 そして──更に言うならば、今ここにいる魔王リトルプリンセスは。

 ヒラミレモンを摂取出来ずに限界を超えて、覚醒してからまだ三日と経っていない存在。

まだ在任期間が一年も経っていない魔王ランスよりも更に魔王歴の短い存在であり、ならば当然その肉体や魔王の力の制御にも慣れてはいない。

 

「なんかこのリトルプリンセスって……ステージ1のボスだったガイよりも全然弱いぞ」

「ガイ? ガイってあのガイ? あんたもしかして魔王ガイと戦ったん?」

「おう」

「はぇ~……そりゃまた……あいつは強かったじゃろ?」

「いや、別に」

「うそつけやい。ガイのやつは魔人だった時からあり得ん強さしてたからのぅ。それと比べりゃこの魔王はまだまだひよっこだろうよ」

 

 魔王ガイ。人間だった時から破格の強者、それが魔王となれば当然ながら強い魔王となる。

 一方で人間だった時は一般人でしかない来水美樹でも魔王になれば相応に強くはなる。しかしその恩恵は他の魔王も同様である以上、魔王同士の戦いとなれば結局は元々の一個体に備わった戦闘技術や知識、練度が重要になってくる。 

 

「あぁ……これはきっと……俺様は強くなりすぎちまったんだなぁ……しみじみ」

「いやそりゃあんた魔王だもんよ。強くなりすぎたのも当然やろ」

 

 元々はただの少女である来水美樹。それをこの地上で最強の存在に変えるのが魔王の力。

 その魔王の力をランスも所持している。ランスも同様にこの地上で最強の存在となっている。

 

 そして──リトルプリンセスの魔王としてのLVは1。一方でランスは2。

 魔王としての適性もランスが上。それら多くの差がこの戦いの優劣をそのまま表していた。

 

「リトルプリンセス! 早めに降参すればちょっとは優しくしてやってもいいぞー!」

「ぐぅッ……!」

「ええぞ、ええぞー! こういう時に全然まーったく躊躇しないから心の友って好きよー!」

 

 幾度と振るわれる魔剣の刃がリトルプリンセスの肌を裂き、肉を抉る。

 セックスという己が目的の為に邁進する時、ランスは躊躇や妥協をしない。

 女だろうが斬る。可愛かろうが斬る。セックスは全てにおいて優先されるもの。

 

 故に──

 

「がーっはっはっはっは!」

 

 そこからの展開は。

 優位に立つ者が優位のままに戦い、目的達成の為に躊躇や妥協をせずに進んで。 

 

 ──そして。

 

 

 

「ふぅ……と、こんなもんか」

 

 足を止めて、剣を止めた。

 刃に付着した夥しい血液を振り払ってから、ランスは魔剣を収める。

 

「……ぐぅ、ッ……!」

 

 一方で、こちらは。

 身体中を生傷だらけにして、遂に地に伏した魔王リトルプリンセスの姿。

 

「これ以上やると弱い者いじめみたいになっちまうからな。やめやめ」

「き、さま……っ!」

「そんなボロボロで睨んだって怖くないぞ。てなわけで……よっと」

 

 徹底的に攻撃して痛めつけて、もはや勝負は決した。

 という事で次のステップ、魔王ランスは魔王リトルプリンセスを組み敷いた。

 

「そんじゃ美樹ちゃん、じゃなくてリトルプリンセスよ。お楽しみの時間だぞ~……!」

「っ、貴様、やめろっ!」

 

 伸ばされる手。それは遠慮もなく身体を弄ってくる。

 全身に走る生理的嫌悪感と屈辱、魔王リトルプリンセスの瞳が怒りで激しく燃え上がる。

 

 ──が。

 

「く、くそ……ッ!」

「がははは、諦めるのだな。こんだけダメージを負ったら身体に力も入らんだろう。ここから純粋な力勝負でこの俺様が君に負けるとは思えん」

「ぐっ、くぅ……!」

 

 力の限りを振り絞ってもがくものの、その拘束からは逃れられない。

 困った事にというべきか、ランスという男はこういうシチュエーションに滅法慣れている。

 暴れる女を押さえつけて逃さず、そのまま犯し尽くす術をこれ以上ないぐらいに熟知していた。

 

「くそっ、放せ、放せぇ!!」

「放さーん。やっと美樹ちゃんと初セックスだー、うーれしいなー、るーるるるーん♪」

「この……あっ、貴様、やめろ──!」

 

 鼻歌交じりのランスの手が。ぼろきれのように残っていた服を剝ぎ取っていく。

 その身を守るものを全て失って、所々血で濡れた地肌が露わになった。

 

「おほー! これが美樹ちゃんの身体か! 発達はまだまだだがグッドではないか」

「……絶対、絶対に……殺す! 貴様だけは絶対に殺してやるから……ッ!!」

「やっぱしこれを味わう事なく他人に譲るなんてのは無いよなぁ、うむうむ」

「やめろ、やめろ……!!」

 

 相手の殺意を、その虚勢などを歯牙にもかけず。

 ランスは手を伸ばす。自らの欲望のままに動く凌辱の手を。

 

「さーて、JAPANに住む人々を散々爆死させた罰だ。君には償いを受けてもらうぞ」

「や、やめろ……やめて……っ!」

 

 そして、遂に──その眼に。魔王リトルプリンセスの瞳に。

 魔王の怒りを越えて、ただの少女のような怯えと恐怖が滲んだ──が。

 

「がーはっはっはっは!!」

 

 残念ながら、相手の魔王はそんなもので止まるような男ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして。

 足元に落ちてきた影が次第に横に伸び始めた頃。

 

「…………あ、う……」

 

 聞こえるのは小さな呻きだけ。

 一糸纏わぬ姿のまま、糸の切れた人形のようにピクリとも動かない。

 

「はースッキリ!! いやー、犯した犯した!!」

 

 一方でこちらも一糸纏わぬ姿のまま。

 今だに片手で相手の胸をまさぐりながら、一仕事終えたランスは額の汗を拭う。

 

 晴天の中、行われたのはレイプ。清々しいぐらいのレイプが行われた。

 ランスはこれ以上ないぐらいに容赦無く、ガッツリとお仕置きセックスをした。

 

「ここ最近はご無沙汰だったけど、やっぱりレイプにはレイプの良さがあるなぁ」

「………………」

「犯してる感ってのがいいスパイスになるよなぁ。ちと張り切り過ぎちまってもうすっからかんだぜ」

「…………あ……」

「なんせ相手が美樹ちゃんだしな。長年苦労した甲斐あって極上の一戦だったぞ、うむうむ」

「…………う……」

「どうだ美樹ちゃん、つーかリトルプリンセス。これでちょっとは反省して……お?」

「……あ、う……」

「ありゃ、意識がとんじゃってる。少々やり過ぎちまったか」

 

 そこにいるのはもう魔王リトルプリンセスではない。

 純潔を散らされて、力のままに手折られた哀れな少女の姿。

 

「だがこれはお前の運命なのだリトルプリンセスよ。悪というのは必ず滅ぶ定めだからな」

「その理屈だとお前さんも滅ぶやないの」

「バカいえ、俺様はいつだって正義の英雄だ。正義だから必ず勝つのだ! がーははははー!!」

 

 レイプしておいて一切の悪びれも無し──何故ならこれはお仕置きだから。

 これは悪ではない。悪は相手側、このレイプは正義の制裁なのであった。

 

 こうして──魔王リトルプリンセスをガッツリとレイプして。

 一方でわりとあっさり目に超・挑戦モードステージ2は終了した。

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。