――――あのランスが死んだ。
いや……それは、必然だったのかもしれない。
元々、人間ってのは脆い生き物だ。
いくら才能限界が無限だろうと、英雄としての素質を持っていようと、死ぬ時はアッサリ死ぬのさ。
ゆえに必要なのは強運。
彼は今までソレが有ったからこそ……今の今まで生きて来れたんだ。
例えばリーザスの王女が遊び半分で浚った少女を救出したり。
カスタムの町で反乱を起こした4人の魔女達に"お仕置き"+αが出来たり。
ヘルマンの侵攻によって墜ちたリーザスを立て直し、何体もの魔人を倒しちまえたり。
神に飛ばされた場所の"浮遊大陸イラーピュ"が墜落するも、無事に脱出できたり。
更にはハピネス製薬での事件では、誤って殺されたと言うのに生き返る事も出来たりした。
「くそっ……ッ……ヘルマンの奴らめ……」
しかし"今回"だけは強運に恵まれなかった。
今の彼には仲間は一人もおらず満身創痍。
ヘルマンで盗賊生活をしていたモノの、軍隊に成敗され何とかリーザスの国境まで来たのだが……
大きな外傷は無いモノの、極度の疲労と空腹と脱水は限界に来ており、彼の人生は終わりを遂げた。
「…………シィル……」
≪――――ガシャンッ≫
……
…………
「ランス。何でアンタがこんな所に居るの?」
「…………」
「倒れてた時は見間違いだと思ったけど、どうしてヘルマンに……」
「……(何処だよ此処……)」
ある日、気が付いたら紫っぽい髪をした、忍者みたいな格好をした女の子が起こしてくれました。
全く意味が分からないまま立ち上がって先ずは周囲を見回していると、彼女は俺を見上げながらベラベラと強めに質問を投げ掛けて来るんだけど、そんな事など頭に入らず動転する俺。
どう考えてもオカしいだろコレ……部屋のベッドで寝てたハズなのに、何で山の中に居たんだ?
夢にしては凄くリアルだし、意味が分からないんですけどマジで。
それにしても、随分と可愛い娘だな~。
しかし、何処かで見た事が有る気がする。
大分前にハマった有名なゲームの……誰だったか……
「ちょっと聞いてるの!? ランスッ!」
「(――――ランス? ……ッて、まさか!?)」
「ど、どうしたの?」
「……君の名前は?」
「えっ? "見当かなみ"だけど……な、何か有ったの? オカしな事を言って……」
「(やっぱり!?)」
「ひょっとして、頭でも打ってた?」
「そ……そうかもしれん」
「そう。だったら、もう一度聞くけど、何でランスが"こんな所"で倒れてたの?」
「その前に此処は何処だ?」
「バラオ山脈。ヘルマンとリーザスの国境よ」
「なるほど」
「じゃあ質問に答えてッ」
「それは……ヘルマンから逃げて来たからだ」
「ならヘルマンで何をしてたの?」
「盗賊をやってた」
「!? ……って言う事は……」
「予想した通りだと思うぞ」
「……完全に自業自得じゃない」
「そうだな」
嘘だろ!? ……マジかよ……どうやら俺は"鬼畜王"のランスになってしまったらしい。
それは、この娘が"見当かなみ"と言うキャラであり、俺がランスと呼ばれた事で納得が出来てしまった。
彼女との会話から、オープニングの直後で有る事も間違いない。
鬼畜王ランスは……もう10回以上はクリアしてたしなァ。
「ならシィルちゃんは?」
「捕まった」
「えぇ~!? ど、どうして"見捨てた"りしたのよッ! ヘルマンの捕虜になったりしたら、まず助けられないわ!!」
「…………」
「あッ。ご……ごめんなさい」
「いや、いい」
「それならシィルちゃんは、どうするの?(ランスの事だから、私と一緒に引き返すとか……?)」
「シィルは……必ず助けるさ」
「でもッ」
「だから"リア"の所まで案内して欲しい」
「り、リア様に? 貴方、何を考えて……」
「――――頼むッ!」←手の平と平を合わせながら
「!? わ……分かったわよ。でも無理って言われたら諦めなさいよ?」
「あァ」
「……うッ……(な、何だか随分と素直なランスね……逆に怖くも見えるけど……)」
……
…………
俺は"見当かなみ"に案内されてリーザス城へと赴いた。
正史通りシィル・プラインを救う為に。
彼女を救出できそうな仲間(ガンジーとか)を一人で集め始めるのも良いんだが、リーザスを放って置くと、いずれリトルプリンセスがケイブリス軍に浚われて"魔王ケイブリス"が誕生してしまう。
魔剣カオスを譲って貰える様に動きつつレベルを上げまくり、ホーネット軍との合流ってプランも魅力的と言えるが、ソレだとシィル・プラインとソウルを見捨てる事になってしまうし、両立するとしても厳しいのだ。
今の俺には彼女に対する"こだわり"は無いんだが、拷問で死なせてしまうと寝覚めが悪いしな。
――――さて置き。
到着には数日を要したけど、宿で休むとかなみは消えてしまうので、特に交流は無かった。
そんな彼女は改めて接すると本当に美少女だったので、こんな娘をランスってヤツは……
んでもって、モンスターはやはり存在した。
当然、俺(ランス)の敵では無かったけど、今後レベルは十分過ぎるくらいに上げとかないと、生き残るのは難しそうだな。
だけど、今のレベルはたったの20しかなかった。
道中で25までは何とか上げたが、見当かなみはLv27→30に成長。
最初は武器さえ無かったので、ブツブツ言うかなみから金を借りて日本刀を購入したんだが、旅の終わりに金を返したら目を丸くしていた。
あァ……ランスなんだから、踏み倒されると思ったのか。
だが、そんな事は流石に出来ないさ。
前述の通り、今の俺は彼女よりもレベルが低いのだから。
リア王女の存在で"今"かなみが俺を殺す事は無いけど、後々の暗殺イベントのフラグは折らなければ。
「ダーリイイィィン!!」
「おわッ!?」
「わざわざリアに会いに来てくれるなんて嬉しィ~んっ!」
「ち、ちょっと……離れろって」
……そんなワケで、かなみの計らいでコッソリと"リア王女"との謁見が出来たのだが。
彼女の自室だけ有って此処にはマリス・アマリリスと 見当かなみしか居ない為か、リア・パラパラ・リーザスは自重せず俺に凄い勢いで抱きついて来て、ギュウギュウと乳房を押し当ててくる。
中々の美乳だと感心してしまうが、鎧を着ているのでダメージは無いのは、さて置いて。
余程嬉しいのかちっとも離れてくれないので、腕に手を絡められる程度で妥協するしか無かった。
ハァ……俺は君が好きな"ランス"じゃ無いってのに……でも真実を話すワケにもいかんし……
「今リアと結婚すれば、リーザスの国が付いて来ま~す」
「……分かった。結婚しよう」
「えッ!? わ~いッ、やった~!! ダーリンと結婚、結婚なの~っ!」
「そ、そんな……ランスッ! マリス様も何か仰って――――」
「良かったですね……リア様……いつぞやの夢が、とうとう現実となって……!」
「うッ……だ、ダメだわコレは……」
「じゃあマリスぅ! さっさと準備して~ッ!」
「はい、直ちに」
「ダーリンも早く行こぉ~!?」
「う、うむッ」
「あの~、リア様……私は~?」
でも、まあ……こんな可愛い娘と結婚できるんなら良いか~。
この時点での性格は、好きにはなれないけどね。
だったら夫として更生させてやるしかあるまいッ!
シィルを救出した後、辺りがミソとなるだろう。
そんな事を考えながら絡められていた腕を王女に引っ張られる中、見当かなみは蚊帳の外だった。
余程嬉しかったのか、リア王女は俺しか眼中に無し。
マリス侍女も彼女さえ幸せなら他は二の次なのか、既に退室してしまっている。
しかし、俺にとっては此処まで世話になった娘だし、引っ張られながらも首だけ其方に向け言った。
「――――かなみ」
「えっ?」
「すまなかったな」
「へッ?」
「もォダーリン、早く行こうよ~ッ!!」
≪――――バタンッ≫
「あ……あのランスが……わ、私に……謝った……!?」
≪すまなかったな≫
「し、しかも本当に"すまなそうな"表情で……もうッ! 何なのよ!? 今回のランスわァーーッ!!」
……
…………
……アレから一週間。
主にマリス侍女によって早急に結婚式の段取りが組まれ、いざ開始されると其処にはリーザスの将軍達の姿は勿論、招待されたっぽいカスタムの娘達の姿も有った。
その中でマジな話、魔想さんを見た時には密かに感動しました。
でもリアとの初夜(?)は踏ん切りがつかなかったので、出来ませんでした。
会ったばかりなのに寝れるかよ!!(魂の叫び)
一応"腹が痛くなった"とか言って誤魔化したけど、逆にリアは構わないとか言って来たさ。
ちょっと何言ってるか理解できませんでしたね……されど、俺にはそんな趣味は無いのだ。
原作と違ってハーレムは作らないと思うから勘弁してくれ。
『うおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!!!』
『リーザス万歳!! リーザス王、万歳ッ!!』
また例の"お披露目"では"ランスらしい発言"をせず反乱も未然に防いだ。
アレだけの戦力がエクス・バンケットに付いた事から、裏で手を引いていた者も居たっぽいが……
それはマリスに黒の軍・白の軍に不穏な動きが無いか調べさせれば、旨く治めてくれるだろう。
だとすると、今の俺が遣るべき事は……部下達のイベントの消化と、自分自身のレベルアップである。
「ランス王。何か御指示は?」
「そうだなァ……リーザス城下町で臨時徴収を行ってくれ(……安全盆栽が欲しいし)」
「畏まりました」
「ねぇダーリィン。早くリアとエッチな事しようよ~、しようよ~」
「…………」
「何なら此処でも良いよ~? 他言したら此処の皆は死刑にしちゃうから~」
「う、五月蝿いなッ。今はそんな気分じゃ無いんだ」
「ぶぅ。メイドにも手を出して無いみたいだし、ひょっとしてインポにでもなっちゃったの~?」
「!? そんなワケ有るかッ!」
普通に真面目な事を考えているのに、リアは初夜の時からコレだ。
……本当に一国の王女なのか?
キスくらいはともかく、性格を何とかしないと抱く気にはならんな~。
俺の為にも、彼女の為にも。
一方、マリスがまだ用が無いかと目で訴えて来ているので、俺はリアを無視して口を開く。
「リック・アディスンを呼べ」
「はい」
――――マリスが頷くと、5分程度で赤の将軍が現れた。(かなみが影で動いたんだろう)
「お呼びですか? キング」
「……(ヤベェ、本物だ怖い!)」
「キング?」
「んッ? いや……久しぶりだな。リック」
「はッ。先日は見事な御手前でした」
「それで用件なんだが」
「何でしょうか?」
「"ザラック"と言う男を知っているか?」
「……ザラック?」
無名の兵士なのでリックは知らない様だったが、後日彼の事を調べ上げたリックの口から、メナド・シセイとは今の所は接点が無い人間だと言う事を聞き、俺は一安心する事が出来た。
当然、ヤツは素行不良を理由にクビにする予定なので、コレで"あの娘"は安心だろう。
勿論、何故いち兵士でしかないザラックの事を知っていたのかとマリスに聞かれたが、一人でリーザス周辺を散歩していた際に目に付いた事にした。
戦争で殺してしまうのが一番なんだろうが、メナドが汚されてからでは遅いしコレが一番だよな~。
「……と言う事で、調べて置けよ?」
「ははッ」
「……(じゃあ次はどうするか……)」
「あの、キング」
「なんだ?」
「真に恐縮ですが、いずれ私と手合わせをして頂きたいのですが……」
「なぬっ?」
「キング程の方との模擬戦となれば、部下達にも良い勉強となるでしょうし」
「わ、分かった……が、少し待ってくれないか?」
「少し?」
「悪いが今はヘルマンでのイザコザの所為で本調子じゃないんだ」
「そ、それは失礼しましたッ」
「いやいや。ちょっくら鍛え直したら、必ず相手をしてやるから安心してくれ」
「!? わ、分かりました。有難う御座いますッ!」
「うっわあ、リックったら嬉しそ~」
「いかんせん彼は剣を持つ騎士としては強過ぎる故に、なかなか見合った相手が居ませんでしたからね」
「じゃあ行って良いぞ?」
「ははっ! 試合の件、楽しみにしております!!」
「(何時の間にか試合になってるやんけ……)」
余程ランスと戦える事が嬉しかったのか、リックは軽い足取りで去って行った。
しっかし怖かったな~、流石はリーザスの赤い死神……今の俺だと絶対に勝てないだろう。
だけど彼に負ける様では、魔人にも勝てない。
いずれは、ケイブリスとも殺し合うんだろうしな……
……とは言え、幸い今のランスにはリーザスの財力と原作の2倍の規模の兵力が有るし、此処はひとつ前者を頼りに鍛錬だ。
目標は、最低でもリック・アディスンに勝てるレベルだな~。
よって、俺は続いてマリスに"天才病院"の建築と不足部下の補充を任せると、手を振って見送るリアとメイド2人(ウェンディとすずめ)を背後に、謁見の間を出てから歩みを進めると、適当な場所で見当かなみを呼んだ。
「呼んだ? ランス」
「あァ。忙しかったか?」
「"忍者工作"の任務も無いし大丈夫よ。それで何の用?」
「今から迷宮に潜るから、付き合ってくれ」
「!? そ、それって何処の?」
「プアーの東の魔物の洞窟だ。2週間を予定している」
「魔物の洞窟か……そこそこの迷宮だったと思うけど……」
「リックと戦う事になったし、其処くらいは潜れないと話にならないからな」
「ハァ……アンタの事だし、どうせ断っても無駄なんでしょ?」
「悪いな」
「だ、だから謝らないでよ! ランスの癖にッ!(今は王様だけど)」
「無茶苦茶を言うなよ」
「でも……良いの? 王様なのに迷宮に潜るだなんて」
「手っ取り早く強くなる必要が有るからな」
「……ランス……(本当はリック将軍と戦う事より、シィルちゃんの事を……)」
「だが来週には自由都市の"ジオ"を落としたいから、かなみには足にもなって貰いたい」
「そ、そんな事だろうと思ったわよッ」
生憎、リーザスの将軍の多くは迷宮探索だと役に立たないから、彼女の方が余程役に立つ。
レイラさんの親衛隊は補正が有ったと思うけど、軍の派遣だと大金が掛かっちまうからな~。
まァ今回の迷宮は鬼畜王最低の難易度だし、2週間も有れば2人でも楽に攻略できるだろう。
手に入るアイテムはメイドの"ウェンディ・クルミラー"のフラグになるが、俺にとっては重要じゃ無いな。
それよりも、自由都市の攻略にランスの部隊は出撃できないが、今のリーザスの戦力は申し分ないから苦労はしない筈だ。
「じゃあ、早速移動の手配をするか」
「それは私がやるわ、ランスは道具の準備をお願い」
「分かった」
「……(ほ、本当に素直なランスね……でも その方が……)」
≪――――ッ≫
互いの話が纏まると かなみは音も無く消えた。
きっと手配が終われば、俺が何処に居ても現れるだろう。
一方、俺の武器は"リーザス聖剣"と申し分なく、鎧も最高級なのでレベル不相応の装備だ。
金も滅茶苦茶有るので"まんが肉"や"世色癌3"でも買い占めるか~っと思いながら、意気揚々と歩き出そうとした時。
「あ、あのォ……」
「んッ?」
「……え~っと……」
「君は、もしかして"メナド・シセイ"かい?」
「!? ぼ、ぼくの事を知ってるんですか?」
「一応、王様だしなァ」
「初めて御会いするのに……光栄ですッ!」
「そりゃどうも」
――――青い短髪の女の子で、リーザス赤の副将軍"メナド・シセイ"が登場した。
「ところで、その~……」
「何だね? 生憎、俺は忙しいんだが」
「ぼく……さっきの話を、聞いてしまっていたんです」
「!? 迷宮の事をか?」
「は、はいッ! 宜しければ、ぼくも連れて行ってくれませんか!?」
「へっ?」
「かなみちゃんも行くみたいですし、羨ましいな~っと思って……」
「…………」
「ダ、ダメだったら別に構わないんですけど……」
≪じ~~っ……≫
こ、これは完全に予想外だ。
……そう言えば、こんな娘だったんだな……メナド・シセイって……
副将軍としての業務は良いのかとか、そもそも何で此処に居るのか等、色々とツッコミたい気分だ。
後から聞いた話だとリックを追って来たらしいが、運悪く合流できなかった様で今に至る。
それはそうと、彼女の業務の事を考えて断るつもりだったが、上目遣いの視線が反則なんですけど?
まるで、捨てられていた子犬が哀願する様な視線……ソレに俺が抗えるワケが無いのは明白だった。
「わ、分かった……連れてってやる」
「!? わ~い!! やった~ッ! ……あっ、ごめんなさいッ」
「謝罪は要らないよ。でも、足は引っ張るんじゃないぞ~?」
「はいッ! 勿論です!!」
「やれやれ……じゃあ、アイテムを城下町に買いに行くから付き合ってくれ」
「分かりました!!」
メナドの迷宮補正がどうかは覚えてないが、単独で戦う分には関係無いだろう。
かなみより才能限界は高かったと思うし、レベルも俺より高い今なら頼りになる筈だ。
よって、メナドの表情に押される形で許可すると、彼女は飛び上がって喜んでくださった。
「(両手に花で冒険ってワケなのに……色々と前途多難だな……)」
「(王様、優しい人みたいで良かった~。よ~し、これから頑張ろうっと!!)」
――――そんなワケで鬼畜王の世界の飛ばされた俺の、記念すべき一週目がスタートされた。
【リーザス軍】
ランス :リーザス正規兵:1000名
レイラ :リーザス親衛隊:1000名
バレス :リーザス正規兵:1200名
疾風 :リーザス一般兵:1500名
リック :リーザス正規兵:1000名
メナド :リーザス一般兵:1500名
コルドバ :リーザス正規兵:1200名
キンケード :リーザス一般兵:1500名
エクス :リーザス正規兵:1200名
ハウレーン :リーザス一般兵:1500名
アスカ :リーザス魔法兵:100名
メルフェイス:リーザス魔法兵:300名
(反乱が起きていないので、戦力が多いです)