魔女保有国アトランタを目指して。   作:ペジテ市民A

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同志 1932年アトランタ

 1932年、11月の某日。私は自宅の応接間で、次期大統領であるモーゼス・グレンと話し合っていた。

 

「まずは、大統領選の勝利に、乾杯」

 

 私たちはグラスを軽く掲げる。グラスに口を付けると、荒涼な空気が流れ込んでくるかの様な風味だった。確か、モーゼスの好みと合っているはず。

 

「おめでとう。確かな勝利だった。これから4年、やり易くなるだろう」

「いや、早い段階でネヴィルが私を支持してくれた事が有り難かった。お陰で補選から着実な勝利を収める事が出来たよ」

 

 モーゼスは機嫌良く笑いながら、ウイスキーをもう一口飲んだ。

 

「だけど、大変なのはこれからだ。ハベルもどうにか対策を取っているが、あれでは足りない。副大統領として、ネヴィルにも活躍してもらう事になる」

 

 私がアトランタに孤立主義を捨てさせる為にまずやった事は、政府の掌握である。それは順調に進み、この通り同志を大統領に、自身を副大統領にする事に成功している。副大統領となれば、上院議長を兼任する事になり議論への参加が禁止されるが、それとは別に上院への影響力は残している。

 

 私が大統領なる事も考えたが、それだと少々動きづらくなるし、1940年で2期目の任期が終わる事になる。それだと不都合だ。そこでモーゼスを1933年以降の大統領とし、1940年の選挙に私が出馬するという策を取った。こうすれば原作期間中の1940年はある程度自由に動け、それ以降はアトランタから全体の指揮を取れる。

 

 そう上手く行くかは分からないが、モーゼスを大統領に当選させた事で計画の土台を作る事ができた。

 

「ところで、欧州でも新たな指導者が生まれた様だな。確か、オットー・ルートヴィヒ・ヴィルヘルム・フォン・ゲルマニア、だったか」

「うむ、彼も苦労するだろう。まさかフェルディナントが崩御するなんてな。恐慌の直後だと言うのに」

「しかし、逆に好都合かもしれない。ゲルマニア国民にとってはな。フェルディナントは恐慌に対して上手く対処できていなかっただろう?」

 

 話題すぐに欧州の方へ移った。大統領と副大統領による今後の政策についての議論は、ホワイトハウスでするべきと言う了解からだろう。

 

「ああ、その為か、ゲルマニア国民はオットーに期待しているらしい。戴冠式の時にはベルリンに百万人が詰め掛けたと言う。どうだろう、私の就任演説にはどれだけ集まるかな?」

「心配なら、食糧でも配ろうか?」

「ツァーリの真似事はお断りだね。だが、ラジオや新聞で言及する様にしてくれ」

「その辺りは任せておけ」

 

 それにしても、あれがオットーか。ゲルマニア国民からすれば、ゲルマニアの真の後継者、と言う印象なのだろうな。エステルライヒから亡命してきて敗戦処理を押し付けられたフェルディナントとは違うと、期待されている様だ。

 

 一度会っておくか。

 

「そうだ、副大統領に就任したのち、欧州へ外遊をしようかと思う。オットーに挨拶しておきたい」

「なるほど、私たちの政権が欧州情勢に積極的に関与することを示す事になるな」

「ああ、そうしなければ、私は閑職を得る為に大統領になる機会を捨てた愚か者、と言う事になってしまう」

「確かに、副大統領を酷使する政権であると示す必要もありそうだ。だが、君に関しては影が薄くなる事を気にする必要は無いんじゃないか? そうしようと思えば、町中の広告に登場させる事も出来るだろう?」

 

 私が広告業界や各種メディアに強力なパイプを持っている事は、かなり有名な事らしい。その事を揶揄ってくる人物は珍しいが。

 

「そう言えば、魔女について新しい情報はあるかい。私も気になっているんだ」

 

 魔女。これがモーゼスが同志である理由だ。魔女について知り、私の理想に共感した者。その中でも最も信頼できるのがモーゼス・グレンと言う男だった。核兵器の威力を実際に見る事なく、核抑止の理論を理解する者が大統領を狙える立場にいた事は驚くべき事だろう。アトランタの人材の層の厚さを示しているとも言える。

 まあモーゼスは超兵器より、魔女の戦闘力に興味がある様だが。モーゼスの高祖父はセイレムからプロヴィデンスに移住した者達の1人だと言う。ならば魔女への興味も納得だ。

 

「最後の生き残りがアルプスに居る、という事は言っただろう。探偵社の者に追跡させていたが、エイルシュタットの近衛に拘束されたと報告を受けた。近衛は魔女とは関係無く、公女の護衛として行動していたらしいが、その後探偵社は魔女を見失っている。関係あると思うか」

「エイルシュタット、か。白き魔女の伝説、その舞台。エイルシュタット大公家には、伝説の時代から仕えている家が幾つかあるだろう。もしかすると、魔女について知っている人間もいるかも知らないが、判断は出来ないな。拘束された探偵社の者から君に辿り着く可能性はあるのかい?」

「まずないだろう。ヴェストリアの富豪を名乗ってブリタニアの探偵社に依頼している。もちろん探偵社の方も依頼主の情報を調査員に渡してはいないだろうが」

 

 それなら問題なさそうだ、とモーゼスは笑って言った。魔女の話をしている時、モーゼスは少年の様な顔をする。前に本人にそう言ったら、ネヴィルもそうだろうと言われた。

 

「うん? そうするともしかして、欧州に行く時、オットーに挨拶するついでにエイルシュタットにも寄るつもりかい」

「ああ、そうするつもりだ。公女殿下にも会っておきたい」

 

 むしろそちらが真の目的だ。原作前のフィーネ様だぜ。会うしかないだろう。10才のフィーネ様に。

 

 モーゼスには言わないが、調査して分かった事として、イゼッタとフィーネ様は歳の差カップルでもあるという事実がある。そりゃ原作時のフィーネ様が15才な訳ないが、そうか、なるほど、そういう事もあるのかと思ってしまった。3才も歳が違えば、姫様じゃなくてお姉様だった可能性も!

 いやーいいね。でもそうすると、フィーネ様はその割にむn、っと待て、前世の私がどちら側だったかを思い出せ。イゼッタがけしからんだけじゃないか!

 

「大丈夫か? ネヴィル。エイルシュタットが君の理想を実現する重要な支点である事は分かるが」

「大丈夫だ、問題ない。ちょっと、意識を持ってかれていた。ミスカトニック大から取り寄せた資料のせいだろう」

「ミスカトニック大か。確かに魔女の資料がありそうなものだが……。気をつけてくれよ。これからじゃないか」

「分かってるとも」

 

 

 




 フィーネ様の年齢は推定です。多分18才くらいかなー、と。
 あと人物名とか年齢とかの捏造は以降もたくさんあると思います。

 次回:欧州外遊編

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