【二章完】ちょっと早めのエールちゃんの冒険   作:砂嵐36

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ー任務表ー
【囚人エールを救出せよ】
エールの奴は女の子刑務所に収監されたらしい
美人所長のエミをいただくついでに助けてやるか


今回も三人称視点です。


13.ランスくんは刑務所に行く

「よーし、お前ら準備できたな」

女の子刑務所を見下ろす丘の上でランスは隊員を見回した。

時刻は夕方。日が沈んで暗くなった頃合いだ。

「ラ、ランス様…ほんとにこれでいくだすか…?」

ロッキーは、木で作った枠に布を張った道具…グライダーを眺め、震える声を漏らした。

「当たり前だ、せっかく用意したんだ。それに…」

「少しわくわくしますね…」

「えーとこの形状なら空力的にこうで…」

「最悪魔法バリアを張れば死にはしないかしらね」

「はい、ヒーリングもありますから」

女たちは結構平気な顔で準備していた。

「女共のほうがしっかりしているじゃないか。ぐずぐずしていると置いていくぞ」

「そ、それはもっといやだす…」

「隊長、そろそろ警備の交代の時間です…」

「よし、では行くぞ!狙いは刑務所の美人所長だー!」

「目的はエールちゃんの救出でしょうが!」

「それもあったな!がははははー!」

ランス達はグライダーで空中に飛び出した。

飛んでいる最中、後ろの地面の方から

どがっずざざーっ「フ、フランチェスカ…がふー」

などと声がした気がしたが、特に問題なくランス達は女の子刑務所の敷地内に侵入できた。

「がははは、なかなか面白かったな」

「ひ…ひー…死ぬかと思っただす…」

「ええと…11人。はい、皆さん居らっしゃいますね」

「あれ?グライダーは12個用意したような…」

「予備じゃない?」「まぁいいか…」

「両側の監視塔には常時兵士が詰めています。近寄らないようにしましょう。」

「うむ、ちょうどそこに入り口がある。ここから侵入するぞ」

ランス達は刑務所の建物内に入り込んだ。

 

「あっ、誰かいるだす」

「さぁ!鍵を出せと言っている!」

「わ、わかった…今出すから…殺さないでくれ…」

ロッキーが指さす先の通路の途中で、青い服にマント姿の男が制服の男に剣を突き付けている。

「へたり込んでるのは職員だろうが、青い方はなんだろうな?」

「あの服は…」

カオルが顔を険しくする。

「むっ!貴様らは何者だ!」

青服がランス達に気が付き、剣を向けた。

「何者だとはなんだ、お前こそなんだ」

「『ゼスの未来のために』」

「は?」

「合言葉でしょうか?」

「…『川』」

「仲間ではないな!死ねー!」

「お前が死ね!」ずばっ「ぎゃーっ!」

いきなり斬りかかってきた青服はランスにあっさり斬り殺された。

「で、こいつはなんだったんだ?いきなり突っ込んできやがって」

ランスは剣を収めて首をひねる。

「これは…ペンタゴンの制服ですね…ほら、メンバーカードです」

カオルが男の死体の胸元から取り出したカードには、ペンダゴンの団員ナンバーと『レオニード・クチマ』なる名前、そして男の写真がプリントされている。

「ペンタゴン!?あの新聞にたまに載ってたテロ組織の!?」

カオルの言葉にマリアが驚いて声をあげる。。

「…ええ。昔はまっとうなレジスタンス組織だったのですが、ここ数年で急速に過激化…今では反魔法使いテロリスト集団と呼ぶべき存在です」

「うん…毒ガスとか爆弾で魔法使い以外にもたくさんの市民を殺してるとか記事で読んだわ…」

「方針としても現在の政府を倒し、自分たちが権力の座に就くことを目的としています」

「とんでもない連中だな、で、なんでそいつらがここに居るんだ?」

「分かりませんが…急いだほうがいいでしょうね」

カオルが倒れている職員らしい男に目を向けた。

「ひぃぃ…勘弁してくれ…俺はただの雇われで配膳係なんだ…」

職員の男は震えながら両手をあげる。

「おっ、確かに料理を運ぶ台車があるな…どれどれ。」

ランスは蓋を持ち上げて台車の料理をつまみ食いした。

「む、これはうまいぞ。これもうまい…」

「それは…フォアグラですね…」

「うわー、うなぎ、ステーキ、刺身、とろろ…他のも豪華な料理ばかりだすな…こんな材料で食事を作ってみたいだすよ」

「ゼスってのは金持ちと聞いていたが、囚人にこんなもんを出しているのか?」

「流石にそんなこと…あっ、メモがありますよ。『貴賓囚人向け特別食:ズルキ様、ハッサム様用』…」

「どっかで聞いたような名前だな」

シィルが読み上げた名前にランスは首をひねった。

「ズルキはゼス共同銀行で二級市民の女性を拷問していた元金融長官、ハッサムはその息子でサーベルナイトの正体ですわ」

「ああ!あの前髪へろへろぱっちり目のおっさんと鎧野郎か!逮捕されたはずだが、なんで女の子刑務所に?」

「おそらく、ここの所長のエミが手を回してここに収容させたのでしょう。彼女とハッサムは婚約していましたから」

「そのうえで特別扱い、と。腐ってやがるな」「…ランス様…」「む、どうした?」

シィルが顔を青くしてランスの袖を引いた。

「たぶん、ズルキさんもハッサムさんもアイスフレームを恨んでいますよね…?」

「だろうな」

「それで、今二人とも刑務所内で自由にしていて…そ、そんなところにエールちゃんが収監されたら…」

「…あっ!」「あーっ!確かに!」「大変だす!」

隊のメンバーの顔も一斉に青くなった。

「おい!お前!最近レジスタンスの女が収監されなかったか!?」

ランスが職員の襟首をつかみ上げた。

「ぐえ…えーと…エリだか…エル…だったか…そんな感じの名前の、結構な美人の女レジスタンスが数日前に収監されたって…牢番のヤツが…」

「ああ!そいつだ!そいつはどこにいる!」ぐいぐい

ランスの腕に無意識に力が入る。

「ぐえぇ…締まる…くるしい…」

「ランス様、泡を吹いてますよその人」

「ちっ…で、その女はどうした」ランスは手の力を緩めた。

「ぜぇぜぇ…ひぃ…その女なら…今朝、ズルキ様が直接『遊ぶ』って…特別室に連れていかれ…」

「なんだと!?」「…っ!」「そんな…」

「ぐっ…!…その特別室ってのはどこだ!どこにある!言え!」

「ひぃぃ…そ、そこのドアの先をまっすぐ行って…右手の階段を登った先の左側だ…か、鍵は…」

「寄こせ!」

男が震える手で出した鍵をランスはひったくるように奪い取り、扉に向けて駆けだした。

「あっ、ランス!」「私たちも行きましょう!」「はいだす!」

一同も扉を開けて走っていくランスに続いて駆け出した。

 

「どりゃーっ!」

ランスは扉を蹴り開け、大声をあげて『特別室』に踏み込んだ。

天井は高く、バルコニーのような二階部分があり、そこから赤毛の中年男がランスを見下ろしている。

「ふふふふ、やっと来たか…、薄汚い二級市民諸君」

「やはりズルキ・クラウン!」

「おい!あいつはどこにいる!」

「ああ、お前らの仲間の女か…ここにいるとも。」どかっ

「ぐっ…う…あ…」

床の影で見えないが、二階の床でへたり込んでいる誰かがズルキに蹴られてうめき声を漏らした。声からして女性らしい。

「すまんね、先に少々遊ばせてもらったよ…くっくっく。」

「っ…!」「エールちゃん…」「そ、そんな…」

「ぐっ…エールっ…貴様ぁ!」「…っひっ…」

ランスの奥歯が嚙み締められ、殺意を込めた視線で射抜かれたズルキは一瞬たじろぐ。

「ふ、ふん…!下品なレジスタンス共が生意気な!」ぐいっ「あうっ!?」

ズルキが寝ている女の髪を乱暴につかみ、引っ張り上げる。

「降伏しろ!この女がどうなってもいいのか!?」

服を引き剥かれ、描写するとタグが面倒になる感じに辱められた長髪の女性の顔が露になり…

 

「「「「…………………………………………………誰?」」」」

 

「……お前らこそ誰だ………」

一斉に尋ねたランス達に対して、ズルキにいたぶられている()()長髪の女性…

レジスタンス組織『ペンタゴン』幹部、エリザベス・レイコックは、苦しそうな顔で答えたのだった。




アベルトの計画について。
彼は「自分という近しい人が危機に陥っても立ち上がれないか」というウルザの最終確認のついでに
「エールちゃんは、ランスさんとずっと一緒に居て守られていて、傷つけられたことがないので自由奔放天下無敵でいられるのかもしれない」
と考え、ランスと引き離した上で死なない程度にひどい目に遭ってもらおうと罠を張りました。

わざと情報を漏らして、事前に存在を掴んでいた「近くの地方守備隊に所属する場違いに強力な魔法使い」を呼び寄せ、抵抗してエールに魔法を使わせる。

そのうえで捕まれば、魔法使いを収監できる設備がないので、すぐに近場の女の子刑務所に移送されるはず。

女の子刑務所ではエミ・アルフォーヌの庇護下でアイスフレームに恨みを持つクラウン親子が好き勝手していることも調査済みでした。

そんなところにアイスフレームのメンバーが収監されればひどい目に遭わされるでしょう。
拷問趣味のズルキならばすぐに殺したりはしないので、ランスがすぐに向かえば「命は」助けられるはず…

という計画でした。

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