3分でわかるシリーズ

Media Transfer Protocol(MTP)

2006.10

1 MTPとは

Media Transfer Protocol(MTP)とは、現時点ではUSBを前提にした、クラスドライバ相当の通信規格です。マイクロソフトが仕様を策定し、USBの規格として一般化しようとしています。USB上で音楽や映像などのコンテンツを転送するためのプロトコルです。

MTPは、PictBridgeでも使われているPTP(Picture Transfer Protocol)の拡張とされています。静止画像を転送することを目的としたPTPに対して、対象を動画や音楽に広げたものとなります。Windows Media Player10には標準で含まれています。

今回は技術的な話というより、iPodやWalkmanと比較したMTPの位置づけを説明します。MTPの話をする前に、DRMの話をちょっとしておかなくてはなりません。

2 DRMについて

DRMとは、Digital Rights Managementsの略です。その名のとおり、「電子的な著作権保護」です。

どういうことかというと、著作権保護団体(例えば音楽業界を考えます)はレンタルレコード屋が出現した時代から、曲を無断でコピーされてしまうことへの対策に追われてきました。しかし、時代の流れとともに、なんとなく、レンタルレコードやレンタルCDをカセットテープに録音するくらいは認められるようになってきていました(レンタルCD屋が一定の料金を支払うなどの条件で合意)。

これは、カセットテープの音質が悪いことなどが「まあいいか」となってきた部分であります。CD→カセット→カセット→カセットとダビングしていってこれを販売することは音質や手間から言って現実的ではないからです。ところが、デジタルコピーというのは音質の劣化がありません。つまり、CDの音楽をデジタルのままCDにコピーすると「まったく同じもの」ができるわけで、これを海賊版として販売する商売は十分理にかないます。コピーするだけだから作業も早いし。

余談になりますが、これを禁じたのがCCCD(コピーコントロールCD)です。特に最近では、iPodに代表されるHD/メモリプレーヤーが普及し、著作権業界はこの問題にとても敏感になっています。iPodは、PCのハードディスクに録音した音楽データを転送して持ち歩いて聞くことはできますが、これをまた別のハードディスクやPCに再ダビングすることはできません。「1回だけコピー可」とする管理をされているわけです。

このような管理(厳密に言うと管理基準はさまざまなので、上記以外のポリシーに基づいているものもあります)がDigital Rights Management=DRMです。DRMソフトとは、デジタル音楽データを暗号化し、特定の機器でしか再生できないようにする機能をもっているものとなります。

現時点でDRM3強とは、マイクロソフトのWindows Media DRM(WMDRM)、アップル社iPodのiTunesに含まれるFairPlay、ソニーのWalkmanのSonicStageに添付されるOpenMGといわれています。しかしその他にも、携帯電話のデータサービスに関する業界団体であるOMA(Open Mobile Alliance)が制定したOMA DRMなど、DRMの規格は乱立状態にあります。

各種サービス

3 iPodの中の音楽データ

iPodやWalkmanを例に、携帯型音楽プレーヤーの場合の音楽データの暗号化について具体的に見ていきましょう。

音楽はCDだろうがネット購入だろうが、一旦はPCに溜め込まれ、これをiPodにダビングするわけですが、最終的にiPodに書き込まれる音楽データはどのようなものなのでしょうか。iPodやWalkman、その他の携帯プレーヤーを買うと、PC用のソフトがついています。このソフトがiPodに書き込む用のデータを作成し、USBケーブルなどで転送しています。

iPodの場合は「iTunes」、ソニーWalkmanの場合は「SonicStage」といったソフトがオーディオプレーヤーを購入するとついてきます。まずこのソフトをインストールして、PC上で作成された音楽データが、iPodに書き込まれるべきデータとなります。これらのソフトの中には、MP3やAAC、WMAといった圧縮技術と、上記のDRM技術が入っています。圧縮技術の詳細は説明しませんが、いくつかをサポートして選択できるようになっているものが多いです。

DRM技術は各社が独自のものを用意しているようで、iTunesの場合は「FairPlay」、Walkman(SonicStage)の場合は「OpenMG」といったソフトがやはりiTunesなどと一緒にインストールされます。これらのソフトによって、音楽データは圧縮され、暗号化されます。

4 互換性

iTunesやSonicStageのような、メーカが用意しているソフトは、メーカが異なるオーディオプレーヤーには対応していません。よって、オーディオプレーヤーを2台持っているような人(HDタイプとメモリタイプとか、ケータイにも音楽プレーヤー機能があるとか)は基本的にはメーカをそろえる必要があります。

例えば、HDDタイプのWalkmanとフラッシュメモリタイプのiPodの両方を持っている場合、それぞれに書き込まれるデータは、SonicStageとiTunesのそれぞれで作っておかなくてはなりません。ところが、マイクロソフトがWindowsで標準で用意しているこのタイプのソフトがあります。「Windows Media Player」(以下WMP)です。

マイクロソフトはオーディオプレーヤーを持っていませんから、WMP対応の機器を他社が用意してくれることを望んでいます。WMP対応のオーディオプレーヤーが多数出てくれば、ドライバいらずで互換性の高い環境ができるわけです。ちなみにMicrosoftはこの互換性を「Play for Sure」と呼んでロゴにしています。

5 改めてMTPについて

iTunesやSonicStage、WMPなどのソフトウェアには、USB経由でプレーヤーに転送するためのドライバソフトも入っていますが、これもまた各社バラバラです。WMPでは、このドライバソフトの部分をMTPと呼んで規格を公開しています。MTPを含むWMPはWindowsPCにはすべて入っているわけですから、これに合わせて「Plays for Sure」のロゴをとったプレーヤーを開発すれば、PCのソフトウェアは添付する必要はないわけです。

6 将来の狙い

音楽や映像などのデジタルコンテンツ流通には大きな市場が見込まれています。ネットで買って携帯プレーヤーで観る/聴くという世界です。ここで欠かせないのがDRMであり、マイクロソフトもアップルもそれぞれのDRM技術で流通を押さえたいのです。iPodやiTunes Music Storeで先行するアップル社に、「Windows標準添付」で迫るマイクロソフトという構図は、Netscape対Internet Explorerを彷彿とさせます。

[ポータブルデバイスとネットワークデバイス]

MTPとマイクロソフトのDRM「Windows Media DRM(以下WMDRM)」についてもう少し詳しく説明します。携帯プレーヤーだけではなく、カーオーディオやホームオーディオにどのように広がっていくのかを考えてみます。

1 ポータブルデバイスとネットワークデバイス

マイクロソフトでは、携帯型メディアプレーヤーを「ポータブルデバイス(PD)」、カーオーディオなどの車載機器やホームオーディオ、DVDプレーヤーなどの家庭用AV機器を「ネットワークデバイス(ND)」と呼んでいます。

各種デバイス

ポータブルデバイスにはもちろん携帯電話やPDAも含まれますし、ネットワークデバイスは事実上PCを除くすべてのAV家電と考えてよさそうです(あくまでもPCは別扱いです)。

これらそれぞれの間のコンテンツの転送(コピーと、再生のためのストリーミング転送の2種類があります)をMTPで行うというのがマイクロソフトの考え方です。 その先には当然DRMが必要となるはずです。転送について順番に見ていきましょう。

2 WindowsPCとポータブルデバイスの関係

PCとデバイスの関係図

まずは、PCとPDの間の転送です。

これはすでに完成されている世界で、WindowsPCにインストールされたWindows Media Playerからの楽曲転送が、東芝やiRiver社、Creative社のポータブルプレーヤーなどに対して可能になっています。

転送プロトコルはMTPです。 PC側がUSBホストでMTP Initiator、PDはUSBファンクションでMTP Responderです。MTPには電話帳やスケジュール表といったPIM(Personal Information Manager)の操作機能もついており、携帯電話やPDAをターゲットとしていることがよくわかります。

DRM(Digital Rights Management=著作権保護)としては、WindowsMediaDRM(以下WMDRM)が、『WMDRM for PD』としてマイクロソフトとのライセンス契約によって入手可能となっています。WMDRMで暗号化されたコンテンツをPDで再生することが可能ですが、提供されるのは復号側のみです。暗号化側(つまりPC側)は入手できません。

3 ポータブルデバイスとネットワークデバイスの関係

ポータブルデバイスとネットワークデバイスの関係図次にPDとNDです。これは、2つのやり方が考えられます。

  1. PDに入っているコンテンツをNDにストリーミング転送して再生する
  2. NDのコンテンツをPDにファイル転送する

いずれもUSBとMTPの関係は、

  • PD:USBファンクション+MTP Responder
  • ND:USBホスト+MTP Initiator

で変わりませんが、WMDRMが異なります。

1.の場合には、PDからNDへの転送ですから、『WMDRM for ND』が必要になります。これはマイクロソフトとのライセンス契約によって入手可能で、暗号化側(PD)も復号化側(ND)も開発することができます。まだ対応しているPDは少ないですが、対応済みのPDのデジタルデータを、NDでアナログに変換して高音質/高画質で再生できます。 ただし、ストリーミング転送である以上は、再生されるとND側にデータは残りません。コピーではないわけです。

2.は、NDからPDへのファイル転送ニーズです。基本的にやっていることは、PCからPDへのファイル転送と同じです。したがって、PD側は実現可能ですが、先ほど説明したように、NDでの『WMDRM for PD』における暗号化部分の方法が現在は入手不可能です。マイクロソフトでは、「Copy from Device」と呼んで、公開予定であることを発表していますが、実際にどのような対応機器が出てくるのかはまだわかりません。

4 ネットワークデバイスとWindowsPCの関係

最後に、NDとPCの間のMTPによる通信です。

ネットワークデバイスとWindowsPCの関係図

これはさらに不透明です。据え置き型AV機器とPCの間はすでにUSBではなく、ネットワーク(IP)で接続され、IP上にMTPがのるという予測もあります。ただ、それがストリーミングのみなのか、はたまたコンテンツコピーも可能になるのかや、DLNA(Digital Living Network Alliance)との関係はどうなるのかなど、想像は膨らみますが、どうなるかはわかりません。

MTPはUSBという1対1、しかも親子関係がある通信手段に搭載されたため、MTPにも親子関係があり、DRMの暗号化側と復号化側もそれに対応させることで成立してきています。PCという絶対的な親がいない場合にどうなるか、または親になりたい機器同士のときにどうするのかがこれからの課題でしょう。

今回のここだけは押さえたい!

MTPとWMDRMの対応関係は?
  • MTPはUSBの親子関係と一致(PC⇔PD、PD⇔ND)。
  • WMDRMはNDへの送信(for ND)とPDへの送信(for PD)でライセンスが別で、さらに暗号と復号の機能がある。

※記載されている製品・システム名は、各社の商標または登録商標です。

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