グーグルの反トラスト訴訟では、何が問題視されているのか? 知っておくべき「11の疑問」の答え

グーグルが、米司法省や30を超える州から反トラスト法違反の疑いで提訴された。いったい何が問題視されているのか、なぜ訴訟は3件に分かれているのか──。今回の訴訟を理解するために知っておくべき「11の疑問」に答えた。
Google
CHESNOT/GETTY IMAGES

米国のことわざに、「いいことは3つまとめてやってくる」という言葉がある。しかし、グーグルの場合は違っていたようだ。ホリデーシーズンを前にグーグルは、反トラスト法(独占禁止法)違反で3件も提訴されるはめになったのである。

訴えを起こしたのは米連邦政府と複数の州の司法当局で、一部は重複しながらも連携している。これらの動きについて把握すべきポイントは、たくさんある。そこで最も大きな疑問のいくつかについて、簡単に説明していきたい。

1.提訴が3件に分かれているのはなぜか?

簡単に言えば、グーグルが支配している市場が複数あることが理由である。このため1つの訴訟としてまとめずに、攻撃の矛先が分けられている。3件のうち2件は、ネット検索と検索連動型広告におけるグーグルの独占、もう1件は「非検索連動型広告」とも言われる分野の独占に的を絞った訴訟だ。

2.訴えの中身は?

最初の訴えを10月20日に起こしたのは米司法省で、当初は11州の共和党系司法長官が名を連ねていた。3件のなかでも、この訴訟が最も的を絞り込んだものだ。グーグルは反競争的な手段を使って一般検索における自社の独占状態を維持し、競合する検索エンジンの定着を阻んでいると申し立てている。

特に注目すべきは、グーグルがどんな方法を使ってブラウザーやスマートフォンに自社の検索エンジンを標準設定させようとしているのかを詳述した点だろう。例えばグーグルはアップルに対し、毎年120億ドル(約1.24兆円)もの額を支払って、アップルのブラウザー「Safari」やiPhoneにグーグルの検索エンジンを標準設定させていると申し立てられている。

検索エンジン市場の支配を確立すれば、検索広告で荒稼ぎでき、ひいては売上の流れを維持できる。それがグーグルによるネット検索の独占状態を維持する違法なやり口に相当すると、司法省は主張している。


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3.それに対するグーグルの言い分は?

グーグルは司法当局の提訴を受け、同社がアップルと交わした取り決めには何の違法性もないと主張した。その理由は、検索エンジンはユーザーが望めば標準設定を容易に変更できるからだという。

グーグルの法務担当上級副社長ケント・ウォーカーはブログで、「ユーザーは使わざるを得ないからGoogleを使っているわけではありません。自ら選んでGoogleを使っているのです」と述べている。

4.検索エンジンを自由に変えられるのに、グーグルが毎年多額を払ってまで標準設定にさせようとしているのはなぜか?

いい質問だ!

5.「Google 検索」を焦点にした訴訟は2件あるが、もう1件の内容は?

Google 検索を巡る訴訟の2件目、全体で言えば3件目にあたるのが、30以上の州による共同訴訟だ。主導しているのは、コロラド州とネブラスカ州の司法長官である。起訴の内容は基本的に司法省と同じだが、追加点がいくつかある(実際、共同提訴した州は司法省による訴訟との統合を求めている)。

最も重要な追加点は、グーグルが「一般的な」検索、つまり「ググる」と呼ばれる検索行為の独占状態を利用して、ローカルビジネスのクチコミサイト「Yelp」や旅行検索・比較サイト「Kayak」など、いわゆる「垂直統合型検索ビジネス」を冷遇しているという申し立てだ。要するにグーグルは、ユーザーがそういった垂直統合型検索サイトやアプリに直接行かせないようにして、あらゆる検索をGoogleで始めさせようとしているというのである。

州による共同提訴によると、グーグルは長年にわたって検索結果の表示順にしかるべく変更を施し、垂直型検索サイトではなくグーグル独自の検索結果へのトラフィックが増え続けるようにしている。そうされると垂直統合型検索を提供する企業は、不利な状態に追い込まれてしまう。Google 検索でユーザーの目に触れにくくなれば、まったく見つけてもらえなくなるからだ。

共同提訴では、これを違法だとしている。ユーザーを最適な検索結果へと導くよりも、グーグルの検索市場占有率を固定化するという目的と効果があるからだ。

6.グーグルはこの件についてどう説明しているのか

グーグルの公的見解はシンプルだ。変更を施してきたのは、単にGoogle 検索の利便性を高め、ユーザーがより関連性の高い検索結果を得られるようにするためだという。もしそれが本当なら、グーグルの行為には何の問題もない。この訴訟は最終的に、グーグルが顧客の満足度以外に何らかの目的を持っていたことを、反トラスト当局側が立証できるかどうかにかかってくるかもしれない。

7.3件目の訴訟の争点は?

コロラド州とネブラスカ州主導による共同提訴の1日前となる12月16日、テキサス州が先頭に立ち、少数の州が連名で別の訴訟を起こした。こちらでは主力の検索連動型広告事業ではなく、グーグルがデジタル広告を独占していることが争点になっている。

いくつかの研究から、デジタル広告サプライチェーンを構成する複数の要素の90%以上をグーグルが支配していることがわかっている。ウェブサイト(またはアプリ)を開くたびにあなたが目にする広告は、広告主がグーグルを通じてその枠を購入していると見て、ほぼ間違いない。パブリッシャーがGoogleを使って広告枠を利用できるようにし、両者がグーグルの運営する「Ad Exchange」の自動入札機能で取引しているのだ。

この仕組みでは、ひとつの企業が広告の買い手と売り手の両方の代理を務める一方で、マーケットプレイスを自ら運営もしている。つまり、そこに明らかに利害の対立が生じている。

州による共同提訴によると、グーグルはデジタル広告の一連の流れを支配しているのをいいことに、広告主とパブリッシャーに不公平な条件を押しつけ、ライヴァルの広告技術企業を差別的に扱っている。その結果、オンライン広告費の取り分は、競合する中間業者が存在した場合に想定されるよりも多くなっているという。

テキサス州が主導したこの提訴にも、驚きの主張が含まれている。グーグルはフェイスブックと非合法的な取引を結んで広告事業における競合を緩和し、その見返りとしてグーグルが運営する広告オークションでフェイスブックを優遇しているというものだ。

それがもし真実なら、不当な取引制限を企てていることに疑う余地はなく、企業間のそうした取引を非合法としている「シャーマン法第1条」に違反する(フェイスブックはこの訴訟で被告に名指しはされてはいないものの、これが原因で法的な問題に直面する可能性がある)。

8.ひどい話のように思えるが、グーグルはどう反応しているのか

グーグルは同社の広告分野独占を巡る広範囲の主張のなかで、広告セクターは競争が盛んな状態が続いていると述べている。フェイスブックが絡んだ疑惑については、両社が交わした取り決めにはとり立てて異例な点も疑わしい点も一切なく、フェイスブックはグーグルの「Open Bidding」プログラムに参加する数多くの企業のひとつにすぎないとしている。

それでは、真実を述べているのは誰なのか。グーグルか、あるいはテキサス州なのか。その真偽は当分わからない可能性がある。訴訟で提示されている証拠のほとんどは編集されていて、不法な企てを示す証拠のどの程度が有力で、どの程度が不確かなのか、外部の人間には知るよしもない。

9.グーグルは巨大化しすぎたせいで罰を受けているのか

違う。留意すべき重要なポイントは、「競争的」であることと「反競争的」であることの違いだ。「競争的」とは、トップに立つべく努力し、最高の品質を最も手ごろな値段で提供するなどして、多くのビジネスを引きつけるということである。「反競争的」とは、トップに立つための努力をさほどしなくてもいいように、市場における自らの影響力を利用して潜在的なライヴァルを排除することだ。

3件の訴訟すべてに共通しているのは、グーグルが純粋に実績を勝ち取ろうとせず、自社の独占的な立場を確保する目的をもった反競争的なやり方に手を染めているのではないか、という申し立てである。


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10.異なる州の集団が異なる訴訟を起こした理由は何なのか

それは政治に関係しているのかもしれない。米司法省が10月に提訴に踏み切ったときには異論が出た。司法省内の弁護士を含む一部の人々は、司法長官のウィリアム・バー(12月23日に退任)が提訴を急いだのではないかと考えている。

急いだのは、おそらく米大統領選挙の前に政治的な得点を稼ごうとしたからだろう。最初の提訴に署名したのが共和党系の司法長官が率いる州だけだったのも、それが理由なのかもしれない(以降、3州の民主党系司法長官も参加を要請した)。

また、テキサス州のケン・パクストン司法長官は、民主党が一緒に行動したいタイプの人物とは言えない。パクストンは不法で倫理に反するおこないがあったという疑惑があるうえに、セキュリティ上の詐欺行為で告発までされている。

最近では、米大統領選挙の結果認定を阻止すべく、自らほかの共和党の州を率いて連邦最高裁に訴訟を起こした。それをきっかけにテキサス州では、パクストンが大統領に恩赦を与えてもらおうともくろんでいるとの憶測が飛び交っている。

11.今後の動きは?

過去の事例を参考にすれば、この訴訟は何年にも及ぶかもしれない。しかし何が起ころうと、グーグルは大型訴訟3件(あるいは2件になるかもしれない)をうまくかわしていくために、膨大な時間を割いて対応措置を講じていくことになる。まさに20年ほど前のマイクロソフトと同じだ。

マイクロソフトは当時、経営幹部たちが裁判に気をとられているうちに、創業まもなかったグーグルに成功する余地を与えてしまった。同じことが再び起きれば、裁判が最終的にどう決着するのであれ、テック業界は大幅に再編されるかもしれない。

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TEXT BY GILAD EDELMAN

TRANSLATION BY YASUKO BURGESS/GALILEO