こんにちは。ほぼ日刊イトイ新聞の永田です。
『MOTHER3』の開発者である
糸井重里のインタビューをお届けいたします。
『MOTHER3』の開発が再開されてから3年。
ぼくは、糸井重里が『MOTHER3』に関わる現場の
9割に同行していました。
ですから、このインタビューは、
第三者が疑問をどんどんぶつけていくようなものには
なっていないと思います。
けれども、挨拶や雰囲気づくりを抜きにして
核心に近いところで
ほんとうのことだけを
飾りなく語ってもらえたのではないかと思います。
12年ぶりの新作の、ライナノーツとして。

第10回

コピーと、自信と、遠慮と。

思えば、糸井さんって、
純粋な「糸井重里作品」っていうのは
あんまりないんですよね。

糸井
ないですよ。
うん、ないですね。

関わっているものは、生み出してきたものは
それこそ山ほどありますけど、
わかりやすいかたちでの、
糸井さん個人の作品というとあまりない。

糸井
う〜ん、たいへんだからね、つくるのが。

(笑)

糸井
時間と格闘しなきゃいけないものって、
やっぱりたくさんはつれない。
あと、作者としてメシを食っていくのと、
作者じゃないところでメシを食うことは
ぜんぜん違いますからね。
大きな意味では、ぼくはもう、作者として
自分の時間と引き換えに
なにかを生み出すっていう
仕事のしかたをしてませんから。

でも、今回の『MOTHER3』では
明らかに、作者であるわけで。

糸井
そうだよね。めずらしく、ね。
作者であり、社長だよね。

(笑)

糸井
で、意外と欲はない(笑)。

欲はない、というか、
ほんとうにいつもの仕事と違いますよね。
プロモーションとかについても
しょっちゅう「わかんない」って言うし。

糸井
いや、もう、ほんとうにね、わかんない。

(笑)

糸井
あの‥‥いちおう、
アマゾンの順位とか気にしてんだよ?

あはははははは。

糸井
「えー、なに、これがいいわけ〜?」なんつって。
「この順位はアマゾンだけでしょ」とかね。
ひとりで考えてみたり。

たとえば、これが、自分とは関係ない仕事として、
「『MOTHER3』っていう
ゲームがあるんですけど
糸井さん、売ってくれませんか?」
って言われたほうがよっぽどラクでしょ?

糸井
そうだねぇ。わかんないからねぇ。
自分じゃ、やりづらいよね。

あと、ぼくは
糸井事務所に入ったときに驚いたんですけど、
『MOTHER』のCMとか、
当然、糸井さんがぜんぶ仕切って
自分でやってると思ったんですよ。

糸井
あ、とんでもない誤解ですね。

基本的に、代理店がつくってきたものを
ジャッジする立場なんですよね。

糸井
うん。そうですよ。
コピーは自分で書きますけどね。
あと、『MOTHER2』のときに
木村拓哉くんを使いたいというのは
自分でリクエストした。

けれども、絵コンテみたいな
制作の部分は代理店がつくってて。
『MOTHER3』のCMもそういう感じで、
糸井さんが企画するわけじゃなくて。

糸井
そうです。

けっこう、意外でしたよ?

糸井
そう?

どうして自分でやらないんです?

糸井
やりにくいんだよ。

やりにくいんですか!

糸井
やりにくいんだよ。

やりにくいのかぁ。

糸井
だって、それは、
「オレってどう素敵?」って話だろ。

うん、まあ、そうですね。

糸井
それ、やりにくいんだよ。

でも、みんなきっと
やってると思ってますよ。

糸井
知りませんよ(笑)。

ええと、話を戻しますが、
『MOTHER3』のコピーは
「奇妙で、おもしろい。
そして、せつない。」

糸井
うん。

ストレートでしたね。

糸井
あ、そうですか。

だって、『MOTHER2』の
「おとなも、こどもも、おねーさんも。」
なんて、ゲームの内容というより、
いまのゲーム業界を予見するような
ものだったじゃないですか。

糸井
うん。思えば、あれ、
ニンテンドーDSのコピーですね(笑)。

そうそうそう(笑)。
そういう意味で、
『MOTHER2』そのものっていうより、
ゲームという遊び全体の、
大きなコピーだったと思うんですけども。

糸井
うん。

『3』はほんとうに、
『3』に対してまっすぐに言ってるような。

糸井
やっぱりね、
自己紹介し直さなきゃなんなかったから。

ああ。

糸井
やっぱり、ひと回りしてるからね、
「みなさん帰ってきましたよ!」
って大声で言うわけにもいかないし。
ちょっと、遠慮というか、
礼儀が必要だなって思ったんです。

なるほど。

糸井
だから、たとえば、そこにいる人全員が
「この人は糸井重里だ」って知ってる場所でも、
「こんにちは、糸井重里です」
っていうようなことでしょうね。
そういうふうな、こう、
ちょっと襟を正した感じっていうのは、
今回は、とってもありますね。

そして、やはり、ちょっと‥‥遠慮が(笑)。

糸井
遠慮があるよねぇ(笑)。
一回、中止にした前科があるから、
とにかく出るまではおとなしくしていようと
ずっと遠慮してたらね、
なんか、クセになっちゃったみたいで(笑)。

しっかりしてくださいよ。

糸井
いや、自信はあるんだよ。自信はある。
「自信はあるんだよ!」って
大きく書いてもらってもいいくらい。

でも、「オレって素敵だ!」って
大声で言えるかというと‥‥。

糸井
遠慮したいんだよなぁ‥‥。

(笑)

糸井
だから、もう、信用するしかないですよね。
先にプレイした人がね、
いいと思ったところ、よくないと思ったところ、
ほんとのことをちゃんと言ってくれると、
ちょうどいいバランスになって
ちゃんと広がっていってくれるんじゃないかなって
もう、いまは、信頼してるんですよね。

(続きます)

2006-05-01-MON