企画記事
ようこそ,アプリ博物館【圧縮解凍ソフト館】へ。“zip”などの取り扱いを支えてきた名フリーソフトの子たちを展示
「キュートっ! ここなんかあるよーっ!」
「速いってロール姉……ぇー,なにここー」
「アプリ博物館だってさ。行ってみよーぜー」
「ぇー……だっるぅ」
ようこそ,アプリ博物館へ。
今では当たり前の「アプリ」の言葉が“PCアプリ”をよく指していた時代。愛されていたフリーソフトの子たちがたくさんいました。
本日は,別館【圧縮解凍ソフト館】をご案内いたします。
今やアプリと耳にすると,過半数の人たちは無意識に「(スマートフォン)アプリ」をイメージすることでしょう。
しかし,スマホが存在しなかった時代からアプリという言葉はあり,そのころはアプリ=「PCアプリ」を指しておりました。
もちろん,アプリケーションという元の語自体は広義で扱われるため,ソフトやプログラムやプラットフォームなどの形態も含め,狭義では上記の限りではありません。ですが往年のPCユーザーにとって,2010年代以前のアプリの語が指し示していたものは,PC向けのフリーソフトやシェアウェアであったはずで,憩いの場も窓の杜であったはずです。
※フリーソフト:無料提供されているアプリ
※シェアウェア:有料 or 試用期間のみ無料のアプリ
不肖ながら私はスマホが登場したころのこと。ネットでアプリ,アプリと言われはじめたのを見て,PCアプリがどうしましたか? えっPCのことじゃない? と混乱し,スマホアプリという新時代のカルチャーを受け止めつつ,言葉のギャップを埋めるのに数日を要したものです。
「App StoreとかGoogle Playはよく使うな」
「窓の杜ってなに?」
当のPCアプリには,多種多様でユニークなゲームアプリをはじめ,動画を視聴するためのメディアプレーヤー,細い回線の強い味方ダウンローダー,さらにOS機能を補助するユーティリティ系などがあり,日々のPCライフをさまざまな機能で豊かにしてくれていました。
「伺か」などはもはや,ChatGPTにしてVtuberだったものですね。
ですが,気付けばOS機能やWebサービスの進化に伴い,彼らは「べつになくてもいい存在」になってきております。そうしたアプリたちを展示して,在りし日の郷愁にふける。それが本館の役割なのです。
本日は皆さまとご一緒にご来館されました,以前の企画記事で使いきりではコスト的にもったいないからとリサイクルされて再登場いたします「Ctrl姉妹(キュート&ロール)」とご観覧ください。
「ふーん。アプリってスマホのじゃないんだ」
「ならどうでもい」
【圧縮解凍ソフト館】のご案内
本日ご案内いたします【圧縮解凍ソフト館】には,その名の通り,PCアプリの大定番「圧縮解凍ソフト」を展示しております。
圧縮解凍ソフトとは,PC上のファイルを“圧縮”し,保存・移動の負荷を減らしつつ,もとのサイズに“解凍”するためのアプリです。新しいPCに,いの一番にダウンロードしていたころが懐かしいですね。
こちらはWindows基準では,だいたいWindows XP時代まで広く普及していたアプリ界の必需品です。けれど,Windows 7以降はOS標準機能で自然と扱えるようになってきて,最新のWindows 11では圧縮ファイルを開くこと自体が通常動作。圧縮作業も「ZIPファイルに圧縮する」コマンドで対応できるなど,気付けばアプリいらずの時代に。
現代ではわざわざ導入されるケースも減ってきているでしょう。
「てか解凍ってなんじゃ。マグロなの?」
「昔のPCヲタがそう言ってたんだって」
圧縮解凍の概念がよく分からない人は「デカい布団を圧縮袋にギュウギュウに詰めて保管する」といった図を想像しましょう。
そうしてファイルサイズをギュギュッとすることで,ダウンロードでもメール添付でも,データのやり取りの負荷を減らせるわけです。
ハードディスク容量が20GBもあれば,今でいうタワマン級のリッチさを誇っていた時代でも,人によってはHDDのデフラグやディスク クリーンアップなども駆使して,倉庫番のごとき整理整頓に迫られていたことでしょう。まあ,今どきはチョイ付けの小容量SSD構成でもなければ,保存領域は気にしないでもいいくらいの大容量時代。専門的なお仕事関係や動画制作に携わる人でもなければ,まず気になりませんよね。
といった補足をわざわざしている理由が分からない古強者の方々に,本当に怖い話をいたしますが,別館勤務者(4Gamerスタッフ)のなかですら「え? 圧縮解凍ってなんです? そんなのいる?」という者も普通にいて,問題なく業務しています。これが新時代なのです。
ああ,ちなみに現代では「解凍」という言い方自体がギークの領域で,デフォルトな用語は「展開」とのこと。
こちら若い世代の方々に「解凍しといて」などと言いつけて「???」な顔をされないよう,生きた化石化にはご注意を。
■「Lhasa(系)」
日本発の圧縮ファイル“lzh形式”をはじめ,「zipでくれ」でおなじみ圧縮系王者“zip形式”など,これらの普遍的な圧縮ファイルを扱えることで有名だったのがアプリソフト「Lhasa(ラサ)」です。
こちらのアプリのReadmeには今も。
94/07/01 ver0.01
・とりあえず公開
という説明文が燦然と輝いております。
Lhasaは“Lhasa系”というリスペクトアプリをいくつか生み出し,多機能な「+Lhaca(ラカ)」「Lhaplus(ラプラス)」といった後続が生まれ,まさに家系ラーメンのような系譜を生み出しました。
当時はこれら圧縮解凍ソフトを介さなければ,zipファイルを(きちんとは)扱えず,中身も取り出せない時代でしたので,ある意味,PC初心者に拡張子という概念を伝える登竜門的存在だったことでしょう。
しかし現代ではもう,人によってはその存在意義すら理解されません。今やOSの標準機能だけで事足りてしまうのですから。
「zipはさすがに知ってるし」
「まあ,PC使ってたらね」
「私,朝はZIP!派だもん」
「ロール姉さあ……」
■「WinRAR」
今でもなかなかのファイル圧縮率を誇る,独自規格の“rar形式”と言えば,こちらの「WinRAR」です。MacユーザーやLinuxユーザーならコマンドライン版を活用していたかもしれません。
往年の名アプリたちというのはWinRARをはじめ,「試用期限が終わったから有料版を買ってくだち!」とシェアウェアを気取っているけれど,機能制限がほぼ気にならず,その後も大きな支障なく無料のまま使い続けられちゃったりする実質的フリーのガバガバな子が多かったですね。
それがシェア争いにおける戦略とはいえ,今なら無料提供でも広告くらいは流すでしょうから。その善し悪しは私も広告屋さんですので是非は問いませんが,愛嬌豊かな時代だったとは思います。うふふ。
rar形式は人によっては縁がなかったかもしれませんが,当時は拡張子ごとに圧縮解凍ソフトを用意しておくのが当たり前の嗜みでした。ハンバーグを食べるのにナイフとフォークが必要なように,解凍する側が手元にそろえておくのがマナーないしライフハックだったのです。
なお,Lhasa系もWinRARもプライベートシーンでは人それぞれにせよ,ビジネスシーンではいまだに重用している人も多いでしょう。
現に私は,四方八方からさまざまな形式の素材が飛んでくるメディア業界に籍を置く者として,Lhaplusなどを余裕で現役で扱っております。ただ,なくても問題になりづらい。それゆえの博物館収蔵です。
「あーるえーあーる?」
「ラーでいんじゃない」
「拡張子って読み方わかんねー」
「gifとかね」
■「7-Zip」
圧縮ファイルの古参の一つ“7z形式”を扱えるのが,この「7-Zip」です。今では拡張子の文字列自体を存じない人も多いかも。
というのも,圧縮ファイルというのは過去“どれだけファイルサイズを圧縮できるか”をメインウェポンに,暗号化の信頼性や規格の扱いやすさなどをサブとして,時代の変遷とともに「俺の圧縮率がNo.1だ!」と,雨後の筍ばりに新たな拡張子がお目見えしてきました。
その結果,種類や総数もどんどん増えていき,2000年代中盤にもなると“bz2だのtarだのgzだのuueだの”と,メジャーなのかマイナーなのかも分からない拡張子がよく飛び交っていたものです。
このあたりから「より多くの拡張子を扱える多機能なワンソフト」がシェアを伸ばしはじめたのも,一つの時代のあり方でしたね。
もっとも,昨今は誰かが「もうzipだけでよくね?」と考えたのかは定かではございませんが,今では作る側も使う側も流れが完全に収束。何十個と存在していたはずの圧縮ファイルたちはどこへやら。現代では3個も拡張子を知っていればパソコン通と思われるほどに,その姿を消しています。ある意味,便利で親切な時代にはなりました。
そのうちフォルダオプションで「登録されている拡張子は表示しない」のチェックを外す必要性も,文化ごとなくなる未来があったりして。
「キーボードもいらん子多いしねー」
「Fnとかね。あいつ邪魔」
「いや,まあ,Fnは,あいつはなんつーか,その……」
「ロール姉あんたまさか」
時代とともに,そんなにいらなくなってきた圧縮解凍ソフト。
けれど,今でも必要ないことはなくもない不朽のアプリ。
本日のご案内したアプリ以外にも,信頼性の高かった有料ソフトをはじめ,個々人の環境やクローズドなコミュニティの掟などで,各々さまざまなアプリを愛用されていたことでしょう。
ものによっては正しくインターネットの闇に触れてしまいそうなイリーガルな面もございますが,今一度こうした子たちを見直していき,過去の郷愁に浸るのが,ここアプリ博物館。私はそのキュレーター。
ああ,キュレーションアプリという語も時代に溶け込んでいったのか,気付けばあまり聞かなくなってしまいましたね。うふふ。
アプリ博物館では今後とも,さまざまな別館の収蔵アプリをご案内してまいります。懐かしき過去の郷愁。在りし日の一場面に心引かれましたらそのときは,またのご来館,心よりお待ちしております。
それでは皆さま,本日はごきげんよう。
週末は,窓の杜でアフタヌーンティーを。
「zipだけでイイ時代って楽なんだね」
「今でも必要な人がいるのは分かった」
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