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PHS存続し再建へ ウィルコム更生法申し立て

2010年2月19日2時44分

写真:会見を終え、頭を下げるウィルコムの久保田幸雄社長=18日午後、東京・日本橋、戸村登撮影会見を終え、頭を下げるウィルコムの久保田幸雄社長=18日午後、東京・日本橋、戸村登撮影

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図:ウィルコムのあゆみ拡大ウィルコムのあゆみ

 経営再建中のPHS事業者ウィルコムは18日、東京地裁に会社更生法の手続き開始を申し立てたと発表した。PHSは通話料の安さが魅力だったが、ここ数年は携帯電話に顧客を奪われ、反転の兆しがつかめなかった。負債総額は約2060億円。信用調査会社の帝国データバンクによると、通信会社の経営破綻(はたん)では過去最大の負債額となる。

 東京地裁は同日、財産の保全処分と監督調査命令を出した。同社は音声PHSを扱う唯一の企業。PHS事業を今後も続けるため約420万人の契約者に直接影響はない。

 ウィルコムはこの日、主力銀行の三菱東京UFJ銀行、みずほコーポレート銀行と連名で、官民による企業再生ファンド「企業再生支援機構」に支援を正式要請した。機構は25日までに支援決定する見通し。「事前調整型」の法的整理となる。

 18日の取締役会では経営責任を取って全取締役が辞任。米投資ファンドのカーライル、京セラ、KDDIも保有株式を100%減資して、株主責任をとる方針だ。

■金融危機、追加出資阻む

 「社長に就任した後、毎日のように財務的な厳しさを感じ始めた」

 筆頭株主のカーライルに請われてソニーから転じ、昨年8月に就任した久保田幸雄社長は初めての会見となったこの日が破綻会見。改めて悔しさをにじませた。

 「ピッチ」の愛称で人気を集めたPHSだが、携帯電話の小型化や低料金化、通信速度の高速化が進むにつれて顧客離れが進行。NTTなどライバル社は2005年までに相次いでPHS事業から撤退した。

 全国展開するPHS事業者として国内唯一となったウィルコムを買収したのは、米投資ファンドのカーライルと京セラだった。業界初の音声通話の定額サービスを導入するなどして契約者数を伸ばした。しかし07年に入ると、ソフトバンクも携帯で定額サービスを導入したほか、データ通信市場にはイー・モバイルが参入。通信速度で携帯電話に劣るPHSは再び勢いを失っていった。

 起死回生策として打ち出したのが、現行より約25倍早い高速次世代通信サービス「XGP」だ。

 久保田氏の下で本格展開を図るはずだったが、取引銀行団との約1千億円の有利子負債の借り換え交渉が難航、新規の設備投資費用がまかなえなくなった。08年秋以降、経営を主導する筆頭株主のカーライルが世界的な金融危機で、追加出資に消極的になったことも裏目に出た。

 PHSは日本で開発された「日の丸技術」ということもあり、総務省は積極的に普及を後押ししてきた。しかし、通信業界ではこうしたウィルコムへの支援が過剰だったことが今回の事態を招いたとの批判も出ている。

 一方、企業再生支援機構は当初、支援に前向きだった。しかし、今年1月、ウィルコムの「生みの親」で取締役最高顧問の稲盛和夫・京セラ名誉会長が日本航空会長に就任したことで急変。機構の支援下で日航再建を目指す稲盛氏が関与するウィルコムへの支援に機構が消極的になり、結局、利害関係者の調整や融資など「側面支援」にとどまる見通しだ。

■ソフトバンク、基地局活用

 ウィルコム支援に、ライバルのソフトバンクが乗り出すのは「消去法」の結果だ。

 08年ごろからウィルコムは、水面下でライバル各社に支援を呼びかけた。だが、NTTグループはPHS事業から撤退した経緯があり拒否。今も10%の株式を持つKDDIも、携帯電話に経営資源を集中するため米カーライルに株式を売却しており、救済に乗り出す選択肢はなかった。

 一方、両社を追い上げる業界3位のソフトバンクにとってウィルコムの420万人の顧客基盤は大きな魅力だった。特に、最近は都市部で携帯電話の基地局の新設が難しくなっており、携帯電話よりきめ細かい全国16万のPHS基地局網を活用できる。

 さらに、今年から携帯電話業界では光回線並みの高速通信が可能な「LTE(ロング・ターム・エボリューション)」のサービスが始まる。NTTドコモが今年12月にサービスを始めるのに対し、ソフトバンクの開始予定は12〜13年で、出遅れが目立つ。

 その合間をウィルコムの次世代PHSサービス「XGP」でつなぎ、将来は利用者を携帯電話に移させる戦略も視野に入れているとみられる。

 ただ、ソフトバンクは自身がボーダフォン日本法人を買収した際の有利子負債を今なお1.6兆円抱えている。このため、ウィルコムへの出資方針は決めたものの、金額はなお調整中だ。

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