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【ワールドウオッチ】
 
宋美齢さんを悼む言葉

蒋介石総統と宋美齢さん=AP、1964年
蒋介石総統と宋美齢さん=AP、1964年
「宋家の三姉妹」の一人、宋美齢さん(左)=AP、1942年
「宋家の三姉妹」の一人、宋美齢さん(左)=AP、1942年

藤原 秀人(論説委員)

 台湾の故蒋介石総統の夫人、宋美齢さんが10月23日にニューヨーク・マンハッタンの自宅で亡くなった。激動の中国史を3世紀にまたがって生き抜いた彼女の大往生について、様々な人々が追悼の言葉やコメントを発表した。それらのひとつ一つを見ていくと、それぞれの立場や思惑が込められ、あるいは秘められていて、不謹慎との批判は免れないかもしれないが、興味は尽きない。

 台湾の陳水扁総統は宋さん死去の知らせに対して直ちに、深い哀悼の意を表明した。そして、外遊先のニューヨークで、「中華民国国民を代表し、蒋夫人に対して最高の敬意と哀悼の意を表明する。総統の身分で初めて国旗と一生をたたえる言葉を贈ったのは、政府と人民の蒋夫人に対する最も深い哀悼の意を象徴するとともに、夫人の生前の国家に対する貢献に対しての感謝を表すものである。蒋夫人が安からに眠られるよう希望する」と述べた。

 共産党との内戦に敗れた故蒋総統が台湾に持ち込んだ国民党との闘争に半生をかけてきた、民主進歩党の陳総統にしては極めて穏やかな表現であり、台湾をあずかる政治家の言であるといえる。来春に総統選挙を控え「06年に民進党は20歳になる。民進党と台湾人民は共に台湾の新憲法の誕生を促そう」と訴える陳総統だが、「国母」への敬意を忘れることはなかった。選挙を前に国民党などから「不敬」との批判を回避しようとしたのかもしれない。

 日ごろから中国や国民党に対して過激な言動で注目を集める呂秀蓮・副総統も講演先で哀悼の意を表すとともに会場の聴衆に黙祷を呼びかけた。「蒋宋(台湾や香港では夫の姓と自身の姓を並べて呼ぶことが少なくない)美齢さんは伝奇的な女性である。彼女の一生は中華民国の重要な一部分である」と述べた後で、「彼女の別れは古い世紀が過去のものとなったことの表れであり、蒋王朝は終わりを告げた」と語り呂副総統らしさをにじませた。

 蒋介石的あるいは国民党的なものへの嫌悪感を示してきた民進党関係者さえ宋美齢さんを悼むのだから、国民党や親民党など中国大陸との一体感を尊ぶ人たちの哀悼の表し方は重々しい。

 国民党の総統候補、連戦党主席はおりから米国を訪問中だった。ニューヨークからロサンゼルスに向かった後、またニューヨークに戻って弔問した。「中華民国と中国国民党(国民党の正式名称)への貢献は見習うべきである。抗日戦争時には国際社会の支持を取りつけ、台湾に渡ってからは女性や子供の世話に全力を注いだ」などと彼女を絶賛した。

 百年の老舗の国民党を引き継いだものの、前回の総統選挙で惨敗し、次の総統選挙にかける連氏が国民党支持者の関心を引こうとした面がないとはいえないが、国民党の大幹部を父に持ち、若いときから国民党政権で重用されてきた連氏にとって宋さんの存在は文字通り「国母」であり続けたのだろう。

 その連氏と組んで来春の総統選に副総統候補として出馬する親民党の宋楚瑜主席は、連戦氏と同様に宋さんの功績を讃えて「世界的に偉大な指導者だ」と語った。宋主席も国民党体制のなかで精英(エリート)として育てられた。生前に宋美齢さんと面会したことを振り返り、「夫人は慈悲深く優しく、物覚えがよく、ものの見方には敬服させられる」とも述べた。

 蒋宋夫妻と敵対した中国共産党は党としての公式声明を出さず、国営新華社通信も事実関係を簡単に報じただけだったが、統一戦線組織である全国政治協商会議の賈慶林主席(共産党常務委員)が弔電を打つとともに談話を発表した。「宋美齢女史は中国近現代史において影響力のあった著名人士である。彼女は中国人民の抗日戦争に努力し、国家の分裂に反対し、(台湾)海峡両岸の平和統一と中華民族の繁栄を切望した」。台湾統一を目指す中国国民党革命委員会の何魯麗主席も「哀悼に堪えない」と弔電を送った。

 かつての敵対関係はさておき、宋さんの統一への願いは大陸側も評価せざるを得ないのが弔電から見て取れる。台湾の「台湾化」が進むなかで、宋さんのような存在は共産党にとっても貴重である。中国社会科学院近代史研究所の楊天石研究員は台湾紙・中国時報の取材に対して「将来、国共の争いが薄れるにつれ、より公平で客観的な評価が大陸当局によってされうる」と語っているのが印象的だ。

 台湾海峡を挟んだ弔意の応酬とは別に、宋さんが学び、抗日戦争支援を訴えた米国の反応だが、ニューヨークタイムズやワシントンポストなど主要紙が長行の原稿を掲載した。「中国近代史の縮図」「台湾最強のロビー」といった表現で彼女の一生を大河ドラマのように扱っていた。

メディアの関心に呼応するかのように、ブッシュ大統領もコメントを出した。「マダム・チアンはいつも米国の親友だった」「米国人は彼女の知性と強い性格を忘れないし、尊敬し続けるだろう」。米国を愛した宋さんにとっては、格別の言葉になったのではなかろうか。 (03/11/06 11:13)









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