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2012年6月4日
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小原篤のアニマゲ丼

俺は009、永遠の18歳さ

文:小原篤

写真:映画「009 RE:CYBORG」から (C)2012「009 RE:CYBORG」製作委員会拡大映画「009 RE:CYBORG」から (C)2012「009 RE:CYBORG」製作委員会

写真:こちらは003(フランソワーズ・アルヌール)拡大こちらは003(フランソワーズ・アルヌール)

写真:001(イワン・ウイスキー) 原作通り、おしゃぶりくわえています拡大001(イワン・ウイスキー) 原作通り、おしゃぶりくわえています

写真:手がマシンガンになっている004(アルベルト・ハインリヒ)拡大手がマシンガンになっている004(アルベルト・ハインリヒ)

写真:ポスターには学ラン姿の009(島村ジョー)が!拡大ポスターには学ラン姿の009(島村ジョー)が!

写真:インタビューにこたえてくれた神山健治監督=5月29日、名古屋拡大インタビューにこたえてくれた神山健治監督=5月29日、名古屋

 人生で最初に買ったマンガ単行本は秋田書店版「サイボーグ009」第3巻。近所の古本屋でした。マンガばかり読んで困るという理由で母親に隠されたり、10巻までそろえたのを学級文庫に貸したらパクられて買い直したり。そんなほろ苦い思い出と共に愛してきたこのマンガを3DCGで映像化する映画「009 RE:CYBORG」が、10月27日に公開されます。

 ご存じ、加速装置を持つ009(島村ジョー)を主人公に、赤ちゃんエスパー001(イワン・ウイスキー)、空飛ぶヤンキー002(ジェット・リンク)、知覚聴覚に優れた紅一点003(フランソワーズ・アルヌール)、全身武器の004(アルベルト・ハインリヒ)、怪力の鋼鉄人間005(ジェロニモ・ジュニア)、口から火を噴く006(張々湖)、変身自在の007(グレート・ブリテン)、水中活動に特化した008(ピュンマ)の9人のサイボーグの活躍を描くわけですが、今回の舞台は現代。

 東西冷戦、ベトナム戦争、中東紛争など世界の危機をたびたび救ってきたサイボーグ戦士たちは、今はそれぞれの故国でスパイ活動に従事していたり特殊部隊の教官だったり中華料理チェーンを経営してたり。そこへ2013年初頭、世界中の高層ビルが次々に崩壊する連続テロが発生、この危機に立ち向かうため、ゼロゼロナンバーサイボーグたちは、生みの親であるギルモア博士の元に再び集結することに――。

 キャラクターデザインは、原作を生かしつつアレンジを施してあります。注目のCGスタジオ「サンジゲン」によるセル画調のビジュアルは公式サイトなどを通じてご覧いただくとして、見逃せないのは学ラン姿で登場した009。「東京で高校生として日常生活をおくっている」という設定だそうです。

 思わず「ええっ! 今度の009は学園もの?」「今はやりの、世界の危機に立ち向かいながらキャッキャウフフの学園生活もエンジョイしちゃうというアレ?」「ハッ、もしや同じ石ノ森章太郎作品『番長惑星』とリンクするのかッ?」などと思いながら、28日にニコニコ生放送で監督の神山健治さん(「攻殻機動隊S.A.C」「精霊の守り人」「東のエデン」)のお話を聞いていたら、さらに驚きの設定が。

 「サイボーグたちはそれぞれのお国の事情もあってギルモアのところへすぐに来られなかったりするが、009はリーダーで最強なので、来られないなんてことのないように、記憶を毎年リセットして高校生として日本にいる」

 毎年毎年高校生? はやりのループもの? 季節は巡ってもトシはとらないサザエさん方式?

 となると、ある日突然ジョーが「あっ、ぼくは009だった!」と記憶がよみがえり、気がつけばぶっ飛んでるヤンキー同級生はホントに空飛べて、おかしなものが見えるだの聞こえるだのつぶやいてた隣の女子は不思議ちゃんとかじゃなくて、いつも手袋してた武器マニアのヒネた野郎はただの中2病じゃなくて、重機いらずの怪力用務員とか中華しか作らない学食コックとか芝居がかったしゃべりがウザい英語教師とか水泳しか教えない体育教師とか赤ん坊&老人のナゾの校長&理事長コンビとかはみんな仲間だったんだ!と目覚めるそんなシーンを夢想しましたが、もちろんそんな場面は出ません。カチューシャつけてるアルヌールのセーラー服姿とか見てみたいけど出てきません。

 次の日の29日、名古屋駅近くのシネコン「109シネマズ名古屋」で神山監督らが会見するというので取材に行きました。劇場とのタイアップを強化し、各地の企業にキャラクターを広告に使わないかとアピールするための全国キャラバンの一環だそうです。気合入ってますね。

 製作・配給するプロダクションI.Gの石井朋彦プロデューサーによると「200館から上映のオファーをもらったが62館に絞り、そこを満員にすることで200〜300スクリーン規模の公開作に負けない興行収入を目指す」とのこと。公開規模を欲張って各スクリーンの入りが悪ければ、シネコンによって急速に上映回数を減らされ「不入り」のイメージがついてしまう、そんなリスクを避ける狙いがあるのでしょう。にぎわった劇場で見た方が観客の満足度も上がろうというものですし。

 さて、脚本も手がけた神山監督に、会見後にお話を聞く時間がいただけましたので、気になって仕方のないアレやコレやを聞いてきました。

 ギルモアが出てくるそうですが、トシは?

 「いま何歳でしょうねぇ? 最初に登場した時が40歳だとしたら――いや無理か、60歳かな。そうなると今は……。そのへんはあいまいにします」

 イワンを含め、サイボーグたちはトシをとらない?

 「そうです。リアルに考えるとどうかとなるが、そこはアニメの良さというか作り手の(そうしたいという)エゴというかサガというか。『009』に限らず例えば『ルパン』だってトシはとっていませんし」

 しかしサイボーグたちの内面には過去積み重ねてきた思いがある?

 「あえて時がたってみて、その彼らに現代がどう見えるのかは描きたい。例えばジェットは、自国での事情がいろいろあって、昔のままのジェットではなくなっている。そういうメンバーもいる。ただ、ジョーだけはそうはせず、18歳の若者にした。外見は若者で内面はおじさんという主人公では、その悩みに若い観客が共感してくれないと思う」

 だから彼の精神は10代のまま。それは、記憶を毎年リセットされているから?

 「ジョーはいつでも元の状態に戻れるということで、そういう設定にしています」

 公開中のプロモーションビデオで、008が何かを見てハッとする場面があるが、映っているのは天使の翼のように見える。天使、出るんですか?

 「出ます。ちょうど出たばかりのコミカライズ版(月刊ビッグガンガン)の冒頭にもありますが、考古学者になった008がアフリカで天使の化石らしきものを発見するんです」

 コスチュームは、アレンジされていますがクラシカルなスタイルを踏襲しましたね?

 「いろいろ悩んだ。『リアルな戦闘服にしては』とか『赤くない方がいいんじゃないか』といった意見も出たが、往年のファンからすると009のアイコンって何かというとあの姿になる。バットマンだってスパイダーマンだって、もはや必然性はなくてもあのルックは変えてないですから」

 ふーむ、なるほど。しかし009たちは一体なにと戦うんでしょう? 期待もナゾも膨らむ「009 RE:CYBORG」、完成が待ち遠しいですね。でも、「学園009 サイボーグ番長あばれ旅」もちょっと見たいな。

プロフィール

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小原 篤(おはら・あつし)

1967年、東京生まれ。91年、朝日新聞社入社。99〜03年、東京本社版夕刊で毎月1回、アニメ・マンガ・ゲームのページ「アニマゲDON」を担当。2012年4月から名古屋報道センター文化グループ担当部長。※ツイッターでもつぶやいています。

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