Room67  

2017.6.23

音楽を仕事にしている

父の香りが残る部屋

美術監督 高橋泰代

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』のスタッフが集結し、2015年に公開された『心が叫びたがってるんだ。』。この大ヒット劇場版オリジナルアニメを、中島健人、芳根京子を主演に迎え、監督・熊澤尚人が実写映画化した。本音を言葉にできない少年と、言葉を失った少女。ふたりの物語はミュージカルをきっかけに交錯する――。この映画の舞台を、美術監督の高橋泰代さんはどのように形づくったのか?

「音楽を仕事にする人」ならではのセレクト

原作と同じく、舞台は埼玉県の秩父。武甲山を望むのどかな町に、主人公の坂上拓実の住まいはある。両親の離婚を機に、父方の祖父母の家へ預けられた拓実は、つい自分の本音を隠してしまう男の子。撮影は、秩父にある一軒家を借りて行われた。 「この家の2階には、父が昔使っていた部屋があります。実家にいた頃音楽の仕事をしていて、仕事場兼自室にしていた場所。実際はロケセットの1階にある部屋を、2階にあるように見立てて撮影しました」 室内には、スピーカーやアンプなど、マニアックな高級オーディオも並ぶ。

つくり付けの本棚に並ぶ、古い楽譜、レコードやCD。
「レコードは装飾部がオークションで競り落としたも
のです。確か、700枚くらい買っていたと思います」

暖炉のある壁は縦板張りに。クラッシックなものに囲まれているため「時間が止まったような空気」が感じられる。

「部屋の壁は、もとはクロスだったのですが、そこを吸音特性のある有孔ボードにしました。原作も壁は有孔ボードでしたし、音楽が趣味の人の部屋には結構使われていると思います」 この家の間取りでは、あえて拓実の部屋の場所を設定しなかったという高橋さん。「2階の一番奥を父の部屋にしたのは、拓実が感じている父との距離を表現したかったから。もし拓実の部屋も2階にあったなら、彼は毎日その部屋のドアを見てしまう。それも違うんじゃないか、と。キャラクターの想いを大切にして、配置を決めました」。

 

 
一方、もう一人の主人公・成瀬順は、他人と話ができなくなってしまった女の子。両親の離婚は幼い頃の自分の発言のせいだと、罪悪感を背負っているためだ。そんな彼女の家は「幼少期と高校時代とで変化をつけた」と高橋さんは言う。

 

「冒頭の順の家のリビングには小物などもいろいろ並べていたのですが、離婚後はそれらを省いています。3人暮らしが2人になると、“急に部屋が広く感じる”、その感覚を表現しました。昔は大事にされていただろう子どもの頃の順の部屋は、ピンクをベースにしておもちゃも多く飾りましたが、高校生になってからは気持ちの変化を出したくて寒色系に変えています」

幼少の頃の順の部屋。

 

高校生になった現在の部屋のイメージ画。「順は実はフ
ァンシーなものが好きなのですが、高校生になってから
はそういった小物は外しました。自分で文章を書く子な
ので本もたくさん並べました」

地域ふれあい交流会の実行委員に任命された拓実と順、そしてクラスメイトの菜月と大樹。イベントでの出し物の打ち合わせの場としてみんなが集まるのが音楽準備室だ。 「音楽準備室を管理している担任の城嶋を演じているのが荒川良々さん。個性的なキャラクターだったので、一風変わった場所にしたくて、いろいろなものを持ち寄りました。原作にはないのですが、城嶋先生は『きっと小さい頃からバイオリンを習わされていた坊ちゃんで、授業の合間に紅茶を入れちゃうような人』という裏設定を考えて、窓際に茶器や茶葉など趣味のものも飾りました」

担任の城嶋先生の趣味のもののほかに、世界の楽器も揃えて並べた音楽準備室。拓実が手に取るアコーディオンは、原作アニメに登場するものと鍵盤の数までよく似ている。

 

 

「この作品の中で一番重要だった」と語るのが、廃墟になったホテル。順が言葉を失うきっかけとなった場所だ。幼い彼女が「お城だと思ってしまうくらい」の外観は、実際に営業しているブティックホテルで撮影。「廃墟感を出したくて」別の建物で撮ることになった客室は、外観に合わせて宮殿っぽい雰囲気に。 「今回最初にイメージスケッチを描いたのがこの廃墟になった客室です。ベッドの傍に順と拓実がいる、その佇まいを大切にしたかったんです。ここでのシーンは長いので、カメラが移動して色々な撮り方ができるように空間を工夫しました」

廃墟となったホテルでは、ステンドグラスを印象的に活用したという高橋さん。ステンドグラスのデザインには、高橋さんの教え子である多摩美術大学の学生も参加したそう。

秩父のもと農家の一軒家という設定で、部屋数も多い。客間を挟んで両側に廊下があるのも特徴で、古いながらも風通しの良さそうな家。

映像カルチャーマガジン・ピクトアップ#107(2017年8月号 6月17日発売) 『心が叫びたがってるんだ。』の美術について、髙橋さんのインタビューを掲載。
プロフィール

高橋泰代

takahashi yasuyo
70年青森県生まれ。映画、テレビドラマの美術監督として活躍。おもな作品に『虹の女神』(06)、『余命』(09)、『スイートリトルライズ』 (10)、『みなさん、さようなら』(12)など。近作に、師匠の小川富美夫氏と共に参加した『FUJITA』(15)、ドラマ『百合子さんの絵本~陸軍武官・小野寺夫婦の戦争』(16)がある。『ユリゴコロ』は9/23公開予定。
ムービー

『心が叫びたがってるんだ。』

監督/熊澤尚人 原作/超平和バスターズ 出演/中島健人 芳根京子 石井杏奈 寛一郎 ほか 配給/アニプレックス (17/日本/119min) 地域ふれあい交流会の実行委員になってしまった拓実(中島)。喋ると腹痛を起こしてしまう成瀬(芳根)も、そのメンバーに任命された。出し物はミュージカル。成瀬の過去を知った拓実は、「歌なら大丈夫かもしれない」と、彼女の想いを歌にしようと決心するが……。7/22~全国公開 ©2017 映画「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 ©超平和バスターズ
『心が叫びたがってるんだ。』公式HP
http://kokosake-movie.jp
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