アイスクリームに新時代到来? 新フレーバー続々
ルーシー・フーカー・ビジネス担当記者、BBCニュース
みんなタイカレーや日本の麺、インドのスナックが大好きだ。なら、アジアテイストのデザートはどうだろうか。世界中でアイスクリームの販売量が減るなか、メーカーたちは消費者が食指を動かすようなエキゾチックなフレーバーを試みている。
さかのぼって1944年後半、米海兵隊第122飛行隊のハンター・ラインバーグ少佐は無性にアイスクリームが食べたくなった。無理もない。配置された場所はうだるように暑く、ジャングルで覆われた南太平洋にあるパラオのペリリュー島だった。
そこでラインバーグ少佐は機知に富んだ航空機整備士たちを集め、「フリーズ作戦」を決行した。
何度か試行錯誤を重ねた。戦闘機のそれぞれの翼の底面にミルクが入った大きな容器を搭載し、かくはん装置と風を受けて回るプロペラとをつなげた。そして3万フィート上空で訓練飛行をすると、日本軍がその戦闘機を撃墜しようと砲弾を消費するなか、毎日100人の兵士に振る舞えるアイスクリームが作れることが分かった。
しかしラインバーグ少佐はここで、ある好機を逃している。
軍から支給されたココアパウダーで味付けする代わりに、南太平洋の恵みに目を付けていれば、時代の最先端を走っていたかもしれない。ライチやココナッツ、カルダモン、ナツメグ、あるいはショウガを試してみればよかった。今アイスクリームメーカーたちは、このようなフレーバーを探求している。
ラインバーグ少佐がアイスクリームへの情熱を満たすために相当の努力を重ねてから70年。グローバルブランドが地球上ほぼすべてにアイスクリームを広めた。今ならばペリリュー島でも最寄りの店で手に入るだろう。
しかし長年、このメーカーたちが提供してきたブランドはチョコレートやイチゴ、バニラに留まるなど、あまりにも保守的だった。
今では移民や遠く離れた場所への観光、インターネットのおかげで、消費者はより冒険的になっており、メーカーたちはそこに目を付けている。
米国のアイスクリーム店では今や、ナッツやハチミツがかけられたペルシャ風のサフラン、オレンジの花、ローズウォーター味や、インド風のマサラチャイ、パイナップル味、クルフィなどのアイスクリームを提供している。
ニューヨークのチャイナタウン・アイスクリームファクトリーは40年にわたってエキゾチックなフレーバーを売ってきた。最近は客の関心が高まっていると感じている。
オーナーのクリスティーナ・サイドさんは、中国風のアイスを試そうと、しばしば20人ぐらいの客が列をなしているという。あずきや煎りゴマ、タロイモ(サツマイモの一種)味などを提供している。
この店を立ち上げた両親は、中国からの移民だ。クリスティーナさんは、その時よりも米国人がこのような味を受け入れる準備ができていると考えている。
「父は多くの味の先駆者でした。当時はみんな、マンゴーや抹茶が何なのか分かっていませんでした。でも今は、もはや本当に変なものなどありません」
クリスティーナさんは、中国で定番のあずき味がいずれ米国でも主流になると予想している。
Who has the biggest appetite for ice cream?
13bn litres
eaten globally last year
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China consumed most at 3.3bn litres
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Norwegians ate the most per head at 9.8 litres
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Sales grew fastest in India at 13%
<世界最大のアイス市場はどこか? 昨年世界で消費されたアイスクリームは130億リットル。世界最大のアイス消費国は中国で、消費量は33億リットルだった。1人当たりの消費量が多かったのはノルウェーで、1人当たり年間9.8リットル。伸び率が最も高かったのはインドで、年率13%成長している(出典:ミンテル)>
アイス大量消費国の多くでは、従来通りのカートンに入ったアイスの需要が減っている。消費者が砂糖含有量を懸念しているのと同時に、競争も激しいのだ。
英国の調査会社ミンテルの市場調査によると、世界のアイスクリーム市場の売り上げは2015年の156億リットルから、昨年は130億リットルまで減った。だからこそ、メーカーはこぞってチャイナタウン・アイスクリームファクトリーなどの店の売れ行きを慎重に見守っているのだ。
ミンテルの食品・飲料市場アナリストのアレックス・ベケット氏は「新たなトレンドは、リスクを背負う余裕がある店で生まれます。このような店はおしゃれとみなされ、ブルックリンやロサンゼルス、シカゴに行き、その後シドニー、ロンドン、ベルリンに広がります。そして最終的にメーカーがそのトレンドを認識し、よりエスニックなスタイルを導入するために市場を整えるのです」と言う。
英国シェフィールドに住むイー・クワン・チャンさんも、家族が中国出身だ。調査のために世界中を訪れ、自身のデザートブランド、イー・クワンに加える新たなアイディアを探している。
チャンさんは「アジアで見られるような定番フレーバーを作りたいんです」と言う。
今までチョコレート味噌、黒ゴマ、ドリアンなどのフレーバーを作り出してきた。ドリアンは強い臭いのするフルーツで、しばしば汚水や何かが腐ったような臭いに例えられる。アジアでは驚くほど人気だ。
チャンさんはクリスマスに香港へ行き、今は、エッグカスタードタルト・アイスクリームを作っている。現地で人気のアフタヌーンティーのお菓子を想起させる。
チャンさんは、「東アジアの味覚には、甘さ、酸っぱさ、そして苦さがあり、その全ての感覚を使う」と話す。
海外旅行とアジアの食事の人気が高まるなか、アジア風の味は数年のうちに、米国や欧州で店頭に並ぶようになるとチャンさんは確信している。
ただそれがある程度の規模で起こるためには、大手食品メーカーも参入する必要がある。
世界最大のアイスクリームメーカーの英蘭ユニリーバは、その考えに前向きだ。
同社はすでに中国でのあずき味の「コルネット」(同社のアイスクリームのブランド)や北欧でのリコリス味など、現地の味覚に合わせた多くの味を作っている。また、インドネシアで「土のような」味のするフルーツを基にした「ダン・ダン」アイスクリームを発売したばかりだ。
同社のグローバル・アイスクリーム部門のマット・クローズ氏は、「他の地域でも受け入れられる」新しい味を常に探していると語る。
ユニリーバは今年、世界で最も成長の早いアイスクリーム市場であるインドで、クルフィ・アイスクリームを発売した。練乳で作り、ローズウォーターで風味付けしているため、少しトルコのお菓子のロクムに似た味がする。
クローズ氏は「クルフィは英国でも受け入れられると強く確信している」とし、「大きなインド人コミュニティーがある所で始めますが、他の地域でも売れない理由はない」と話す。
クローズ氏は、タロイモとあずき味は輸出するのが難しいかもしれないが、抹茶味は席巻するアジアの味の中心的存在になりそうと考えている。
「当社は、フィリピンで抹茶アイスを発売し始めました。他の市場にも持っていきます」とクローズ氏。
「そう遠くない将来、大半の市場で抹茶アイスか、抹茶の棒アイスがあると賭けてもいいですよ」
試すべき3つの味
ボザ
トルコではドンドゥルマ(日本ではトルコアイス)として知られる。ランの根を粉砕した粉とマスティックガムで作る。普通のアイスよりゆっくりと溶け、濃厚で粘りのある食感。
タイのロールアイス
最近流行しているアジアのアイス。ミルクとフルーツなどを混ぜたものを冷たい鉄板の上に広げて、その後、紙のように巻いて作る。
ドリアンアイス
冒険心に富んだ人しか、普通はこのとげのついたアジアのフルーツであるドリアンには惹かれない。かなりの悪臭のため、シンガポールでは地下鉄車内への持ち込みは違法。慣れると好きになる味。