谷川岳 一ノ倉沢 衝立岩 ダイレクトカンテ 2012/7/29

アルパイン(夏)

メンバー: LA山Y秀、S原M(衝立岩初挑戦)

7/29(日) 微風快晴
3:00 ベースプラザ(以下BP)に車を置いて出発
4:00 一ノ倉沢出合
6:00 中央稜取付き~アンザイレンテラス A山
7:00 テラスから懸垂、ルート取付きへ
7:30 登攀開始 P1 IV- 40m A山
8:30 P2 IV A2 (5.10+) 40m S原
10:50 P3 A2 (5.11+) 20m A山
12:00 P4 IV A1 (5.9) 40m/ S原
14:00 登攀終了、北稜~略奪点~衝立前沢
19:30 一ノ倉沢出合
20:30 BP帰着

<記録篇>(敬称略)
BPは1F駐車場とトイレが開放され、特に貼紙等もないことからビバークに使用。他に登山者数名と家族連れ。
一ノ倉沢への道路は指導センター前で通行止め(6/30夕~11/4)。センター内にも宿泊者数名。一ノ倉沢出合にテント数張。いずれもまだ動きはない。沢から下りてくる風が涼しい。

一ノ倉沢は右岸の巻き道からすぐに沢に降り、雪渓の末端近くからアイゼンを着けて、テールリッジ末端まで雪渓上を行く。テールリッジは乾いており、ステルス底の靴で問題ない。中央稜取付きで装備を着ける頃、ガスも晴れ渡り、衝立岩に朝日が当たり始めた。

そこからアンザイレンテラスまで60mロープを伸ばす。1Pで僅かに届かず、約5m移動して到着。テラス下の10m程が藪漕ぎで悪い。ルート取付きは、テラス右の懸垂支点から下へ5m、右へ10m程度。ペツルが2本あるが足場は狭く、上からは見えない。テラスで残りの装備を着け、シューズを履き替えてから降りる。

1P目:草付きの斜面を一旦右上してからすぐに直上、左に戻ってカンテ直下のビレイ点まで。見上げると、クルマユリなど初夏の花々が揺れるその先に、直上するカンテと大ハングが、のし掛かるように待ち構えている。
後続は2パーティほど。いずれも中央稜方面に向かい、衝立岩は貸し切り状態。

2P目:薄かぶりの逆層から。一旦右上した後、カンテ末端から凹角に沿って左上~直上し、大ハング下約10mのピナクルまで。とにかく長い。特に前半のピンが遠く、悪い。腐りかけのピトンを抜かないように、そっとアブミをかけ替え、ロープを伸ばす。沢の対岸では時折落石や崩落する雪渓が轟音を立てる。

3P目:大ハングの底まで登り、右に切り返してカンテ上まで。短いが、ほぼ垂直の手がかりのないフェースが続く。ピンも遠い。

4P目:北稜に向けて、これも長いトラバース。リッジをひとつ越えるとピンがなくなり、フリーに移行。最後のフェースは難しくはないが、満足なランナーが取れないため、緊張で身体を固くしながら、ひたすら出口の大枝を目指す。藪をひとつ漕いで北稜中腹のビレイ点まで。

10m程右に行くと、北稜の下降路に出る。懸垂2回半、左のコップスラブから略奪点方向を目指す。ルンゼを下り、略奪点で左の小尾根を越えてから衝立前沢を下る。本沢に出る手前の大岩で、左岸の支点を使って懸垂。

本沢への出合でアイゼンを着け、末端近くまで雪渓上を下る。左右で渓流が音をたてるが、歩行に支障はない。乾いた身体に冷風が心地よい。雪渓末端で沢に降り、右岸の巻き道を経て沢出合まで。長かった1日を、固い握手で締めくくる。

時折稲光が走る中を急いでBPに戻る。
着替えて車を出したところで、土砂降りとなった。

ルート図1

ルート図2

<ホンネ篇>
「いっぺん谷川のダイレクトカンテ、行きまへんかぁ」A山さんが悪魔の誘いを向けてきたのは5月のことだった。そりゃ、目標として不足はありません。ぎょーさんお釣りがきますけど。

それからが長かった。毎週谷川計画を出しては天候不順で転進する徘徊の日々。しかも過去の記録を読むと、抜けたボルトや岩の崩落など、気の重くなる内容ばかり。

ぶなでは近年、N藤さんやY田さんなど、自他共に認める変態、もとい正統派本格クライマーが挑んできた。最初は長くて悪いP2とP4を先輩に譲り、それでもびびりまくって終了している。なのにすぐ、もっとヤバいルートを登りに行くところが変態、もとい正統派である。

そんな重い気分を一掃するような、快晴の日がやってきた。朝日を浴びた衝立岩は、何気に優しく挑戦者を迎えているかのようだ。これならP1くらいはリードできるかも知れない。

張り切って準備するS原に、A山さんが声をかける。「1P目、ワタシ行きますわぁ」おぉ、年輩初心者を気遣って、全ピッチリードして下さるのですか!フォローなら、完登も夢ではない。その時、A山さんにホトケ様の面影を見た。

1P目で早くもびびりながらビレイ点に着くと、頭上はカンテ沿いにひたすら伸びる垂直の世界。はるか上では、色褪せたスリングが風に揺れている。でもA山さん、僕ら三ツ峠でさんざんA2登り込んできたじゃないですか。しかもA山さんはボルト抜け墜落という珍しい練習までして。大丈夫、今度も僕が必ず止めますって。

と、その時、「ほな、次は人工、頑張ってください」「え゛・・・」頭が真っ白になった。

あ、あなたは本番初心者に、この壁をリードせいちゅうんですかぁ。あぁ、やっぱりこの人は只のア○神サマではなかった。鬼だ。邪神だ。

「ちょ、ちょっと息を整えさせて下さい」
何とか気を取り直し、恐るおそる足を踏み出す。いきなり逆層のフェースでピンを追うが、一つひとつが遠い。しかもちぎれかけたリングボルトに曲がったピトン。ぶら下がったスリングには別のピトンがからんでいる。これって抜けたんだよね。怖くて打ち足したのに・・・

クラックに下向きに刺さったピトンにアブミをかけ、そっと体重を移し、最上段に立ち込んで次の手を伸ばす。抜けるなよ!心臓がドクドク音を立て、口の中がカラカラになる。アドレナリンが脳を駆け巡るのを感じながら、恐怖に震える心を押し殺す。少しはマシなボルトに支点をとり、ぜいぜい息をつくと終点は遥かに上。いつまで続くんだよ、この地獄は。

やっとの思いでピッチを切り、水筒に手を伸ばすと、ヤバい。空になりかけている。夏の日差しの下で、大汗かきながら登ってきたので、水量の目算を誤った。これが本日最後の試練の始まりだった。

P3の垂直の登攀を終えてカンテ上に出れば、後はP4のトラバースだ。何とか乗りきったか。
だがその先に、次の罠が待っていた。連続するボルトは中間のリッジで終わり、最後のフェースはフリーで行くしかない。ところが、まともな支点が、とれない。

ハンガーのないボルト、ぐらつくピトン。束ねた草は抜け、掴んだ枝は折れる。ランナウトしたまま前進し、万一落ちれば大きく振られて、岩に叩きつけられるだろう。絶体絶命の中、恐怖に負けたらミスをする。自然に喉から唸り声が出始め、最後に松の大枝にしがみついた時には、大声で吠えていた。何とか生き延びた。

終了点でビレイするうち、身体の変調に気がついた。
あれ、おかしいな。耳鳴りがして力が抜けていく。
北稜を下る途中では目標を誤り、藪の中で身動きが取れなくなった。最後はめまいがして手足が痺れ、へたりこんだ。

「ハンガーノック、ちゃいますかぁ」そういえば気持ちに余裕がなく、ずっと飲まず食わずだった。急いでドライフーツを噛み、分けてもらった水で流し込む。しゃりバテでダウンなど、クライミング以前の失態だが、それだけ追い込まれていたということか。

おかげで下山がすっかり遅くなってしまった。とっぷり暮れた空に稲妻が光る。

車でBPを出る時には土砂降りになっていたので、もう少し下山が遅れれば、ずぶぬれになっていたところだ。

長かった1日、いろいろあったが、期待通り収穫も課題も多い1日だった。最後は晴れ男の底力を発揮できたし。ありがとうございました、ア○神サマ、いやホトケのA山さん。
さて、次は、どこいきましょか。

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