アドビ「Photoshop向け生成系AI機能」の強み、元グーグル及川氏が語る「AIが奪う“本当の仕事”」とは何か

Firefly

5月23日、アドビの生成系AI「Firefly」の機能が、Photoshop Beta版に搭載された。

出典:アドビ

マイクロソフトやグーグルなどの巨大IT企業で働き、コアな役割を務める日本人も増えているが、及川卓也氏はまさにその草分けだ。

1990年代にWindowsを、2000年代にグーグルで「Chrome」や「Google日本語入力」を開発し、プロダクトマネジメントに関わる著書も多数ある。

及川氏は現在、自らの会社であるTablyを経営しつつ、多数の企業で顧問や社外取締役も務めている。

そんな及川氏が2022年9月から、アドビ日本法人のエクゼクティブフェローも務めることになった。

アドビは今、生成系(ジェネレーティブ)AIの導入を積極的に進めている。それは及川氏の目からみてどう見えているのか?

生成系AIはこれからのソフトウエアプロダクトにどうかかわってくるのかを聞いた。

「全部を自社でできる」のがアドビの強み

及川卓也氏

アドビ日本法人のエクゼクティブフェローを2022年9月から務める及川卓也氏。

撮影:西田宗千佳

及川氏がアドビで務めることになった「エクゼクティブフェロー」とはかんたんに言えば顧問のような立場だ。

自らの企業や他社の顧問を務めつつ、アドビのプロダクトについて把握し、その進む方向や外部とのコミュニケーションなどについて改善を進める。

「昔一緒に働いていた人々が、今はアドビにいて。彼らから相談を受けたのが始まり」と、就任のきっかけを話す。

「アドビはPhotoshopなどのツールを介して、クリエイターに向けては情報を発信できているけれど、アドビの持つ『技術のもと』、フィロソフィーは発信できていないのではないか、と感じました。

そうした部分での改善を進めます。技術広報的な仕事ですが、デベロッパーとのコミュニケーション改善は、マイクロソフトでもグーグルでもやってきた仕事ではあります。

一方、アドビの中に入ってみると、プロダクトについても『なぜこうなっているのか』と感じるところはあり、そこにはっきりと物申せる立場でもあります」(及川氏)

アドビロゴ

2023年3月の「Adobe Summit」に登壇するアドビ会長兼CEOのShantanu Narayen(シャンタヌ・ナラヤン)氏。右上には「Creative Cloud」「Document Cloud」「Experience Cloud」の3つのロゴが並ぶ。

撮影:小林優多郎

アドビは写真編集アプリ「Photoshop」に代表されるクリエイティブツールの会社だが、同時にデジタルマーケティングソリューションの会社でもあり、PDF作成編集アプリ「Acrobat」を中核としたドキュメントクラウドの会社でもある。

それぞれが連携してつながっているが、使う側には「連携」が分かりづらい部分もある。

「どうしても注目は個別の技術に集まります。しかし、どんなクリエイティブを作り、ドキュメントで使い、PDCAを回すのか。

全体を改善するには大きなサイクルでPDCAを回す必要がありますが、アドビは自社で全部できる。それが強みだと思います」(及川氏)

ツール企業には「AIプラットフォーマー」にない強みを持つ

そんな中、進化の大きな軸になってきたのが「生成系AI」だ。

先日、アドビはPhotoshopに自社の生成系AI「Firefly」を組み込んだベータ版を公開した。

その動画が公開されるとSNSでは大きな話題になり、多数の人が自分で「やってみた」結果をネットに公開するようになっている。

Photoshop Beta版に搭載された「Generative Fill(ジェネレーティブ塗りつぶし)」機能の紹介動画。

出典:アドビ

生成系AIによる画像生成は、この1年ほどで世界的に注目を集めるようになったが、アドビは以前から、Photoshopなどへの生成系AI統合の方針をアナウンス済みだった。

だから導入自体は驚きではなかったのだが、完成度については「さすが」と感服せざるを得ない。

Generative Fill 1

使い方の一例。写真の必要な部分を選んで英語のプロンプトを入れる。(編集注:画像右下にコマンド入力部分を拡大して表示している)。

画像:筆者によるスクリーンショット

Generative Fill 2

選択した部分にAIが生成したUFOの画像が挿入された。

画像:筆者によるスクリーンショット

及川氏へのインタビューはPhotoshopへのFirefly統合よりも前に行われたものだ。だが、及川氏は、「ツールとAIの関係」について、非常に興味深いコメントを残している。

「AIについては、AIを専業にしている企業には難しい領域がある」というのだ。それはどういうことなのだろうか。

「AIにとっての課題は、いかに利用者にとって便利なものにするか、というフィードバックにあります。ChatGPTなどには、回答が適切だったかを評価する『サムアップ』機能はありますが、それくらいしかない。

一方で、マイクロソフトやアドビのようなツールを提供している企業は、ワークフロー全体からフィードバックを得ることができる」(及川氏)

これはどういうことなのか? 少し説明が必要だろう。

ツールを提供する企業は、どの機能をどれだけ利用したのか、どの機能の後にどの機能を使ったのか、といった情報を、個人情報を含まない統計的なデータとして集めている。

不具合修正や機能改善が目的だ。あまり意識することはないが、今はほとんどのソフト・サービスで「サービス改善を目的とした情報収集」への同意を求められるようになっている。

「ワークフローの情報が得られるということは、AIを使った機能についても、どう利便性向上につながったのかを評価できる、ということ。

(AIによる)自然言語で指示を与えることでどうなったのか、その効果を考えて改善していけるということです。

だからこそ、生成系AI自体を提供する企業だけでなく、生成系AIでなにか生成するプロダクトを持っている企業は強い。それは、AIが目的ではなく手段であるからです」(及川氏)

確かにそう考えると、ビジネスツールやクリエイティブツールを持つ企業と、AIをプラットフォームとして提供する企業では、AIに対する取り組み方やユーザーとの接点が異なる、と考えることができる。

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