アフィリエイト広告に関する景品表示法の考え方
競争法・独占禁止法目次
本稿では、アフィリエイト広告を利用する場合に景品表示法の表示規制がどのように適用されるのか、そして不当表示となることを避けるためにどのような対応が求められるか、について概説します。以下、本文中で略称を用いている箇所があり、その正式名称については末尾の一覧表をご確認ください。
なお、アフィリエイト広告を利用する際には、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」(ステマ告示)に基づくステルスマーケティング規制も考慮する必要があるため、以下の記事と併せてお読みいただければと思います。
アフィリエイト広告の定義と特徴
アフィリエイト広告とは、「アフィリエイトプログラムを利用した成果報酬型の広告」を指します(アフィリエイト広告報告書1頁)。アフィリエイトプログラムとは、「インターネットを用いた広告手法の一つ」であり、様々な形態があり得ますが、インターネット表示留意事項第2の4(1)では、以下のように定義されています。
アフィリエイトプログラムは、広告主が自らシステムを構築してアフィリエイターとの間で直接実行する場合もありますが、広告主とアフィリエイターとの間を仲介してアフィリエイトプログラムを実現するシステムをサービスとして提供する事業者(アフィリエイトサービスプロバイダー。以下「ASP」といいます)が存在することが多いようです。広告主がASPを利用して成功報酬型広告を配信する場合の概要は、下図のとおりです。
アフィリエイト広告の概要(ASPが存在する場合のイメージ)
アフィリエイト広告には、次のような特徴があると指摘されています(アフィリエイト広告報告書1頁)。
- 一般的に広告主ではないアフィリエイターが表示物を作成・掲載するため、広告主による表示物の管理が行き届きにくい
- アフィリエイターが成果報酬を求めて虚偽誇大広告を行うインセンティブが働きやすい
アフィリエイト広告に関連する景品表示法の条文
アフィリエイト広告に関連する景品表示法の条文は、5条(不当な表示の禁止)と26条(事業者が講ずべき景品類の提供および表示の管理上の措置)です。
景品表示法全体に関する解説は以下の関連記事をご参照ください。
アフィリエイト広告の不当表示該当性(景品表示法5条との関係)
考え方の整理
景品表示法は、表示について以下のように定めています(「景品表示法の表示規制のポイント」1-1参照)。
(B) 優良誤認表示、有利誤認表示および指定告示に基づく不当表示(5条1号~3号の表示)を
(C)「してはならない」(表示行為要件)
この(A)~(C)を満たす場合に、景品表示法の表示規制に違反すると判断されます。アフィリエイト広告に関しては、このうち要件(A)および要件(C)を満たすかがまず問題となります。
(A)供給要件(「景品表示法の表示規制のポイント」1-1(1)参照)について、アフィリエイターやASPは、アフィリエイト広告の対象となる商品・役務を自ら「供給」する者ではないため、景品表示法は適用されません(アフィリエイト広告報告書48頁、景品表示法検討会報告書35頁)。
これに対し、広告主は、通常、対象商品・役務のメーカーや小売業者ですので、供給要件を満たします。
アフィリエイト広告はアフィリエイターが作成するものであるため、広告主に(C)表示行為要件が認められるか(表示行為の主体といえるか)が問題になりそうですが、景品表示法において、表示行為をしたか否かは、表示内容の決定に関与したか否かにより決まるとされています(東京高裁平成20年5月23日判決(平成19年(行ケ)第5号)(ベイクルーズ事件)1 )。
「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」という意味でのステルスマーケティングを不当表示として指定する、ステマ告示に関するステマ運用基準 2 においても、事業者が「表示内容の決定に関与した」と認められる場合に、事業者が表示を行っているとの考えが採用され(ステマ運用基準第2柱書)、消費者庁もこの考え方を採用しているといえます 3。
ベイクルーズ事件判決では、具体的には、表示内容の決定に関与した場合として、次の①~③の場合が含まれる、とされていました。この点に関し、ステマ告示案・ステマ運用基準案に関するパブコメ回答において、以下①~③は「表示内容の決定に関与した」場合に表示行為性を満たすという規範の下で具体的な態様を表したものであり、いずれにせよ「表示内容の決定に関与」したか否かで判断すると示されています(No.17、No.52~54)。
- 自らまたは他の者と共同して積極的に表示の内容を決定した場合
- 他の事業者が決定した(決定する)表示内容についてその事業者から説明を受けて了承し、その表示を自己の表示とすることを了承した場合
- 自ら表示内容を決定することができるにもかかわらず、他の事業者に表示内容の決定を任せた場合
アフィリエイト広告については、広告主が(ASPを通じ)アフィリエイターに委託して表示を作成させていますので、原則として 4、表示内容の決定に関与することとなり、広告主に(C)表示行為要件が認められます(表示行為の主体と判断されます)。
このように、アフィリエイト広告について、広告主は上記要件(A)および要件(C)を基本的に満たしますので、要件(B)を満たす場合(表示内容が、優良誤認表示、有利誤認表示、指定告示に基づく不当表示に当たる場合)には、景品表示法5条に違反すると判断されることになります。
アフィリエイト広告に関する措置命令やガイドライン等
アフィリエイト広告に関しては、2021年3月3日に消費者庁による初めての措置命令 5 が行われたほか、2021年11月9日、2022年4月27日、2023年6月14日にも措置命令 6 が行われています。これらの事例では、広告主が(A)供給要件および(C)表示行為要件を満たすことを前提に、対象表示がそれぞれ5条1号(優良誤認表示)に該当すると判断されています。また、2023年3月28日には、東京都も、アフィリエイト広告について優良誤認表示該当性を判断し、措置命令を行いました 7。
アフィリエイト広告報告書の公表後に改正された、インターネット表示留意事項第2の4(2)では、上記ベイクルーズ事件判決を紹介した上で、「広告主がその表示内容の決定に関与…している場合(アフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合を含む。)」には、表示行為をしたと認められるとされ、上記ベイクルーズ事件判決の示した①~③の類型のうち、③の類型が明示されています。
消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(最終改定:令和4年12月5日)第3の3(3)でも、「広告主がその表示内容を具体的に認識していない場合であっても、広告主自らが表示内容を決定することができるにもかかわらず他の者であるアフィリエイターに表示内容の決定を委ねている場合など、表示内容の決定に関与したと評価される場合には、広告主は景品表示法及び健康増進法上の措置を受けるべき事業者に当たる」とされています。
これらを踏まえると、「表示内容の決定に関与していない」と確実にいえる場合でない限りは、アフィリエイト広告を利用する際には表示行為要件が肯定される可能性があることを念頭に、不当表示が生じないよう留意する必要があります。
特に、2023年10月1日以降、優良誤認表示や有利誤認表示に該当しないとしても、ステマ告示に基づく不当表示に該当すると判断されることがあります 8。そのため、アフィリエイト広告を利用している事業者も、ステマ告示に抵触しないよう対応を検討する必要があります。その際は、後述の管理措置指針に沿った対応を検討することが適切です。
アフィリエイト広告利用時に求められる管理措置(景品表示法26条との関係)
景品表示法は、違反行為を防ぐため、一般消費者向け表示や景品類提供を行う企業に、必要な体制の整備その他の「必要な措置」を講じることを義務付けており(同法26条1項)、その措置の適切かつ有効な実施を図るため、管理措置指針が定められています。2022年6月29日には、主にアフィリエイト広告に焦点を当てて、管理措置指針およびインターネット表示留意事項が改正されました。
管理措置指針では、各事業者には、その規模や業態、取り扱う商品・役務の内容等に応じて、それぞれ必要な措置を講じることが求められ、「本指針で例示されているもの以外にも不当表示等を防止する措置は存在する」とされています(第4柱書)。少なくとも管理措置指針に示されている次の1~7の事項に沿った措置を講じることは必要と考えられます(第4の1~7)。
- 景品表示法の考え方の周知・啓発
- 法令遵守の方針等の明確化
- 表示等に関する情報の確認
- 表示等に関する情報の共有
- 表示等を管理するための担当者等(表示等管理担当者)を定めること
- 表示等の根拠となる情報を事後的に確認するために必要な措置を採ること
- 不当な表示等が明らかになった場合における迅速かつ適切な対応
上記改正に際し、1~7に係るアフィリエイト広告を念頭に置いた追記が行われました。たとえば、「③表示等に関する情報の確認」に関しては、次の点が追記されました。
- 本文追加の一例(本文第4の3)
「アフィリエイトプログラム…を利用した広告を行うような業態では、当該広告を利用する事業者がアフィリエイター等の作成する表示等を確認することが必要となる場合があることに留意する必要がある。」 - 具体的事例を記載する別添追加の一例(別添3(4))
「アフィリエイトプログラムを利用した広告を行い、アフィリエイター等に作成を委ねた自社の表示について、自社の人員体制の制約等の理由により、全ての当該表示内容を事前に確認することが困難である場合には、例えば、表示後可能な限り早い段階で全ての当該表示内容を確認することや、成果報酬の支払額又は支払頻度が高いアフィリエイター等の表示内容を重点的に確認することや、ASP等の他の事業者に表示内容の確認を委託すること。」
さらに、同改正により、上記1~7「以外」の措置の「例」として、アフィリエイトサイト上で、広告主とアフィリエイターとの関係性を理解できるような表示を行うようアフィリエイターに対し求めるという対応が示されました(別添8(1))。その対応の際、「広告」であることを明示することが望ましいとされています。この対応は、管理措置指針との関係では「望ましい」という位置付けです。
もっとも、「広告」と明示するかは、ステルスマーケティングに関する問題です。アフィリエイト広告を利用する場合は、2023年10月1日以降施行されるステマ告示により不当表示とならないよう、一般消費者にとって広告主の表示であることが明瞭である場合を除き、「広告」等と示すことが求められます。今後は、「必要な措置」を講じる際に、ステマ告示に抵触しないような措置を検討する必要があります。ステルスマーケティングについては、別稿「ステルスマーケティングに関する法規制と実務対応ポイント」で概観します。
実務対応のポイント
以上のように、アフィリエイト広告を利用する場合、通常、アフィリエイターが作成した表示は広告主が行った表示であると判断され、その内容が優良誤認表示、有利誤認表示、指定告示に基づく不当表示に該当すれば表示規制に違反します(2023年10月1日以降は、ステマ告示に基づく不当表示に該当する場合、優良誤認表示や有利誤認表示に該当するかにかかわらず、違反となります)。
そのようなことが生じないよう、(アフィリエイト広告の態様は多様ですので個別に検討する必要はあるものの)たとえば、前記4で確認した管理措置指針を参考に、ASPを通じてアフィリエイト広告を利用する際には、ASPが、アフィリエイターを適切に管理しているのかを確認する必要があります。具体的には、以下のような対応をとっているかの確認が必要と考えられます。
- ASPが、アフィリエイターに対し、優良誤認表示、有利誤認表示、指定告示に基づく不当表示に関する考え方を周知・啓発しつつ、当該表示に該当しないようにする必要があることを具体的に周知・啓発しているか
- ASPが、アフィリエイターの作成した表示が不当表示に該当しないかを事前または事後に確認しているか
- アフィリエイターの作成した表示に問題がある場合にはASPからアフィリエイターに対し指摘を行い、場合によっては契約の見直しも検討しているか
また、実際に表示作成を依頼する場合には、上記を徹底することを表明させるほか、広告案件への参加(提携)を募集する際に、アフィリエイト広告の内容が優良誤認表示、有利誤認表示、指定告示に基づく不当表示のいずれかに該当するようなときにはアフィリエイターに対する報酬(及びASPに対する手数料)を支払わないこと(さらには直ちに削除・修正を行わない場合に損害賠償請求を行うこと)を条件として明確にすることなども検討すべきでしょう。
本稿における略称一覧
略称 | 作成者 | 正式名称 | 公表時期 |
---|---|---|---|
アフィリエイト広告報告書 | 消費者庁 アフィリエイト広告等に関する検討会 | アフィリエイト広告等に関する検討会 報告書 | 令和4年2月 |
インターネット表示留意事項 | 消費者庁 | インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項 | 制定:平成23年10月28日、最終改定:令和4年6月29日 ※ |
管理措置指針 | 消費者庁 | 事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針 | 制定:平成26年11月14日、最終改定:令和4年6月29日 |
景品表示法検討会報告書 | 消費者庁 景品表示法検討会 | 景品表示法検討会 報告書 | 令和5年1月 |
ステマ告示 | 内閣府 | 一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示(内閣府告示第19号) | 令和5年3月28日 |
ステマ運用基準 | 消費者庁長官 | 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準 | 令和5年3月28日 |
ステマ告示案・ステマ運用基準案に関するパブコメ回答 | 消費者庁 | 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」告示案及び「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」運用基準案に関する御意見の概要及び当該御意見に対する考え方 | 令和5年3月28日 |
※アフィリエイト広告報告書の公表後に改定
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事案は異なりますが、東京地裁令和元年11月15日判決(平成30年(行ウ)第30号)(アマゾンジャパン事件)でも同様の考え方が採用されています(ただし控訴審判決では異なる考え方に基づく判断が行われています)。 ↩︎
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ステマ告示は2023年10月1日に施行されます。別稿「ステルスマーケティングに関する法規制と実務対応ポイント」で解説しています。 ↩︎
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ステマ告示案・ステマ運用基準案に関するパブコメ回答において、「本告示の『事業者の表示』かどうかの考え方は、ベイクルーズ事件高裁判決を踏まえた、これまでの法運用における解釈と同じです」との回答があり(No.17)、消費者庁として同判決と全く同じ考え方を採用しているわけではないことがうかがえますが、「表示の内容の決定に関与したか否か」により決まるという点では同じ考えが採用されています。 ↩︎
-
インターネット表示留意事項第2の4(2)における注7では、「アフィリエイターの表示であっても、広告主とアフィリエイターとの間で当該表示に係る情報のやり取りが一切行われていないなど、アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるものについては、通常、広告主が表示内容の決定に関与したとされることはない」とされています(「事業者が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」第4の3(2)における注5でも同様です)。もっとも、どのような場面が「アフィリエイトプログラムを利用した広告主による広告とは認められない実態にあるもの」に該当するかについては、現在もなお明らかとは言い難い状況です。 ↩︎
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消費者庁「株式会社T.Sコーポレーションに対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和3年3月3日)。なお、その前年、埼玉県が、アフィリエイト広告について最初に措置命令を行っています(埼玉県「ダイエットサプリメント等の販売を行う通信販売事業者に対する措置命令について」(令和2年3月31日))。 ↩︎
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消費者庁「株式会社アクガレージ及びアシスト株式会社に対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和3年11月9日)、消費者庁「株式会社DYMに対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和4年4月27日)、消費者庁「株式会社バウムクーヘンに対する景品表示法に基づく措置命令について」(令和5年6月14日) ↩︎
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東京都「アフィリエイト広告等により不当な広告を行っていた通信販売事業者2社に対する景品表示法に基づく措置命令を行いました」(令和5年3月28日)。報道発表資料では、「広告代理店やアフィリエイターに作成させた広告表示の内容を十分に把握しておらず、自らの表示責任を否定していましたが、広告代理店等に広告内容の決定を委ねていた場合であっても、基本的に景品表示法上の責任は広告主にあります」とされています。 ↩︎
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ステマ告示案・ステマ運用基準案に関するパブコメ回答No.91、No.123など。 ↩︎
弁護士法人大江橋法律事務所