オトメイトの礎を築いた乙女ゲーム
2006年7月6日は、プレイステーション2用ソフト『緋色の欠片』がアイディアファクトリーの女性向け恋愛ゲームブランド“IF 乙女いと♪（現オトメイト）”から発売された日。
2000年に突入したころ、それまではコーエー（当時）の独壇場だった女性向け恋愛ゲームの市場に、名だたるゲームメーカーが続々と参入。コナミ（当時）の『耽美夢想マイネリーベ』や『ときめきメモリアル Girl's Side』を筆頭に、カプコンの『フルハウスキス』、ディースリー・パブリッシャーの『幕末恋華・新選組』や『ラスト・エスコート』など、多くの作品が世を賑わせ、いつしか女性向け恋愛ゲームは“乙女ゲーム”という愛称で広く深く浸透していった。
その潮流に乗るように登場した『緋色の欠片』は、オトメイトの初期の作品。和風の世界観と淡く甘い恋、カズキヨネ氏による美しいキャラクターデザインと印象的なシーンを切り取ったスチルなどが、瞬く間に乙女たちのハートを掴んだ。オトメイトというブランド名を、本作で知った方も多いのではないだろうか。
物語は、主人公の春日珠紀が祖母の実家がある季封村に引っ越してきたところから始まる。異形のもの“カミサマ”に襲われたことを機に自分が玉依姫の血を受け継いでいることを知った珠紀は、玉依姫を守る“守護者”の青少年たちとともに、力が弱まりつつある“鬼斬丸”という刀を封印することに。
主人公を取り巻く守護者は、やや冷めた言動をするが、やさしい性格の鬼崎拓磨。勝気な反面、身長が低いことを気にしている鴉取真弘。無口でクールに見えるが、じつはぼうっとしていることが多い容姿端麗な狐邑祐一。穏やかな性格をしていて、先代の玉依姫から信頼を寄せられている大蛇卓。おとなしく、争いを好まない犬戒慎司。そして、人と関わることを嫌う一匹狼の狗谷遼の6人。物語を進めていくうちに鬼斬丸を狙う組織“ロゴス”と戦いをくり広げることになり、それぞれが自分の能力や使命、過去に翻弄され、苦しみ、もがきながらも運命を切り開いていく。
ゲームの作りはシナリオを読み進めて途中の選択肢を選んでいくテキストアドベンチャーで、選択肢を選んだ際にキャラクターの好感度が上がったかどうかひと目でわかる“愛キャッチシステム”を搭載している。正解がわかってしまう仕様ゆえにゲームに親しんでいるユーザーからすれば攻略に物足りなさを感じるかもしれないが、乙女ゲームのプレイヤーはライトユーザーが多いため、エンディングにたどり着くまで「好感度が足りてるかな」とハラハラせずに遊べるのはありがたい。また、物語への没入感も高まるので集中してプレイができてよい。
本作の見どころは、鬼斬丸の封印を試みる中で育まれていく絆と甘い恋はもちろんだが、その恋が帰結するエンディングが“グッドエンド”と“悲恋エンド（悲しい結末を迎えるエンディングのこと）”の2種類あること。特筆すべきは悲恋エンド。これがもう、あまりに切ない内容で、思わず涙が出るほど。しかし、お互いを想い合っているからこそたどり着いた結末なのだと思えば、悲しみさえも愛おしい感情に変化するから不思議だ。というか、それほどまでに感情移入できる物語は本当にすごい。
作品を盛り上げる要素として、藤田麻衣子さんが歌う主題歌『恋に落ちて』も忘れてはならない。筆者は、オトメイトが贈る夢の祭典“オトメイトパーティー”で藤田さんの生歌を聞いたときは感動してしまった。
2007年2月15日にはファンディスク『緋色の欠片 ～あの空の下で～』が発売。同年8月9日には、舞台とキャラクターを一新した第2弾となる『翡翠の雫 緋色の欠片2』が発売され、それ以降も順調にシリーズを重ねていく。ちなみに、初代『緋色の欠片』は新要素を追加した移植作品も多く、ニンテンドーDS版、プレイステーション・ポータブル版、プレイステーション3版、PS Vita版が存在。アニメ化やミュージカル化もしている。
