新型コロナウイルスが発生し、手洗いやアルコール消毒の回数が以前よりも増えました。「過剰なアルコール消毒により、手湿疹になる方も増えています」とあかりクリニック院長の馬場克幸先生は話します。皮膚科でも頻度の高い疾患である「手湿疹」について、詳しくお話を伺いました。
もくじ
1.手湿疹とは
「手湿疹」とは、指や手の甲、手のひらにできる湿疹のことで、手に触れる物質の刺激やアレルギーにより生じ、赤みを帯びた腫れ(紅斑:こうはん)、小さなぶつぶつ(丘疹:きゅうしん)、ひび割れ(鱗屑:りんせつ)、小さな水疱、膿疱、かゆみなどの症状が見られます。
料理や掃除などの水仕事や化学物質を含む洗剤が原因になるため、「主婦発疹」と呼ばれることもあります。
手湿疹になりやすい人
・皮膚のバリア機能が弱い乾燥肌の方
・アレルギー体質の方
・長時間化学物質を扱う方
・水仕事が多い環境にいる方
・アトピー性皮膚炎を持っている方
上記の方は手湿疹になりやすい傾向があります。職業では、家事を担う主婦や美容師、調理師、医療関係の方に多く見られます。
2.なぜ、手湿疹になるの? 主な種類とその原因
手湿疹は、大きく次の2種類があり、それぞれ原因が異なります。
刺激性の手湿疹
手湿疹の約7割を占めるのが刺激性によるもの。物理的、科学的な刺激が皮膚に加わり、湿疹の症状が出ます。初期は乾燥や鱗屑、軽度の紅斑になることが多く、強い刺激が加わったり、刺激が長期に及ぶと、小さな水疱が見られるようになります。慢性化すると、角質が増殖し皮膚が分厚くなり、亀裂が生じることもあります。
具体的には、水仕事や手の洗いすぎ、化学物質を含む食器や洗濯用の合成洗剤、シャンプー、ハンドソープ、石けんに触れることで、皮膚のバリア機能が失われることが原因です。
「気温も湿度も低い冬は手湿疹になりやすいので、より気を付けましょう」(馬場先生)
アレルギー性の手湿疹
手に触れる物質に対してアレルギー反応を起こり得る状態になったあと、同じ物質に触れると発症する皮膚炎です。ゴム製品、洗剤やシャンプー、パーマ液、染髪料の成分、金属、植物などが考えられます。症状は「刺激性」と変わりません。
3.手湿疹の治し方
①こまめに保湿クリームを塗る
こまめな手洗いが避けられないいま、失われた皮膚のバリア機能を補うために保湿クリームもこまめに塗ることが大切です。手洗いや水仕事のあと、外出前、入浴後、就寝前など、忘れずに保湿クリームで皮膚を保護しましょう。「あかりクリニック」では、保湿効果が高く刺激が少ないヘパリン類似物質が主成分である「ヒルドイドソフト」が処方されます。塗る量が少ないと効果が弱いので、たっぷり塗りましょう。
②ステロイド外用薬を塗る
保湿だけでは炎症を起こした肌は回復しません。1日数回、保湿剤に重ねてステロイド外用薬を塗れば、ほとんどの方は治ります。よくなったら、塗る頻度を減らしましょう。
4.皮膚科にかかる目安
「気になったら、保険が効くので早めに受診してください。最初は軽い症状でも、搔きむしって悪化することもあり、症状が進むと治りが遅くなります。重症化すると、病変部の皮膚が分厚くなって亀裂が生じたり、皮膚の色素沈着を起こすこともあります」(馬場先生)
5.手湿疹の予防法
手湿疹は、原因となる物質に触れると発症するため、再発しやすい疾患です。再発を避けるには、皮膚のバリア機能を回復させるように、日常生活で気を付ける必要があります。
①手洗いのあとは水分をしっかり拭く。
皮膚が濡れて水分が乾燥する際、皮膚に本来必要となる水分までなくなります。手を洗ったら、水分をしっかり拭きとることが大切です。
②保湿クリームを塗る。
肌が乾燥すると手湿疹になりやすいため、保湿効果の高いハンドクリームを手に塗りましょう。
③綿の手袋を使用する
就寝前、保湿クリームを塗ったあとに綿の手袋をすると、保湿効果が高まるうえ、刺激から守ることができます。水仕事には綿の手袋をしてから、ゴム手袋を二重にすると、ゴムアレルギーのある方も安心です。
熱いお湯や紙製品の接触は手をとても乾燥させます。必要に応じて手袋を使いましょう。
④アルコール消毒を控える
アルコール消毒のしすぎは肌に刺激を与え、手湿疹の原因になります。手湿疹になりやすい方は、使用を必要最低限に控えましょう。
⑤原因物質を避ける
刺激性の場合は、界面活性剤を含む洗剤が原因の可能性が大きいので、界面活性剤の含有率が少ない、手にやさしいタイプの洗剤に変えるのもおすすめです。また、洗剤を使用したあとは、手に洗剤が残らないよう、きちんと洗い流すことを忘れずに。
アレルギーが関係している場合は、アレルゲンと接触しないことが大切です。
6.手湿疹と異なる疾患に注意!
いずれも手湿疹に似ているので、自己判断で市販薬を塗らず、皮膚科医に相談しましょう。
掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)
手のひらや手首に近い部分に、赤み、小さな水疱、膿疱などが現れます。原因不明ですが、喫煙や金属アレルギー、細菌感染が関係していることがあります。症状は繰り返し何年も続くことがあります。
手白癬(てはくせん)
手にできる水虫のことで、手のひらの皮膚が厚くなり、鱗屑が見られます。手白癬がある人は、足や爪にも白癬があります。抗真菌薬の内服などで完治します。
汗疱(かんぽう)
汗の出口が多い手のひらや手の指、足の裏や足の指に、水疱が見られるのが汗疱。大量の汗により汗の出口がふさがり、汗が皮膚内に溜まることで水疱が生じます。手のひらや足の裏に汗をかきやすい方に多く見られます。
お話を伺ったのは・・・
馬場克幸先生(あかりクリニック院長)
ばば・かつゆき〇医学博士。聖マリアンナ医科大学付属病院泌尿器科副部長、都内大手皮膚科美容外科クリニック皮膚科医長などを経て、2011年、東京・三軒茶屋にあかりクリニックを開業。聖マリアンナ医科大学非常勤講師も務める。