夏の着物は、袷に比べて着用期間が限定されるために贅沢な装いともいえますが、絽や紗、上布や芭蕉布に代表される植物布など、この時季ならではの生地が豊富に揃い、着物愛好者が心待ちにする季節でもあります。

裏を付けないひとえ仕立ての着物を着る6月の春ひとえから、透ける素材の薄物を着る7月8月盛夏の着物、9月の秋ひとえまでの4カ月間が「夏の着物」に当たり、2023年『美しいキモノ』夏号では、夏の着物のワードローブについて特集しました。

その夏号の表紙と、第一ファッション特集「夏のワードローブ」の巻頭を飾ってくださったのは、本誌初登場となる俳優の新垣結衣さん。ティーン雑誌のモデルを経て俳優デビューし、以後、数々のドラマや映画、CMなどで幅広く活躍されています。

新垣結衣さん
撮影=横浪修
きもの/土屋順紀 帯/銀座もとじ和織 制作/北村武資 帯〆と帯あげ/さんび[荒川] 扇子30,800円/宮脇賣扇庵 リング1,320,000円/ミキモト バッグ825,000円/ヘチ ぞうり38,500円/四谷・三栄

今回、表紙用にお召しいただいた着物は、人間国宝・土屋順紀さんの作品「朱雀(すざく)」です。
土屋さんは紋紗織に絣紋様を融合させた作品を手掛けることで知られており、この作品もその一つ。黄色に染まる槐(えんじゅ)のほか、インド茜と西洋茜を染め分け、袖や裾を彩る絣模様を美しいグラデーションで繊細に表しています。 この着物に、人間国宝の故・北村武資氏による羅の八寸帯を合わせ、織りの美が響き合う洗練のコーディネートに仕上げています。

「夏の着物はさまざまな素材があって面白いですね。特にこの朱色の着物は、織り模様が繊細でとても素敵です」と新垣さん。

夏の着物というと、一般的に、涼しげな印象を持つ淡い寒色系の着物が主流ですが、誌面ではこの朱色の着物「朱雀」のほか、今年のトレンドカラーのレモン色の琉球絣や、ピンク色地に芙蓉の花模様の小紋など、染め・織りともどもに多彩な夏着物を新垣さんにお召しいただきました。

絽の付けさげ
撮影=桂太(フレイム)
きもの/最上 帯/洛陽織物 

こちらは、紺地に百合と秋草模様を多彩に表した付けさげです。濃地は色みによっては暑く感じてしまう場合もありますが、黒や濃紺などは透け感が際立ち、かえって涼しげに見える効果があります。 友禅模様には銀彩を施すことで、ひんやりした硬質の輝きが月光に煌めく露を思わせる装いです。

新垣さんの着物体験についてお尋ねしたところ「これまで、お仕事で着物を着せていただくことはありましたが、2022年に出演したNHKの大河ドラマでは、リハーサルのときに、ゆかたを自分で用意して自分で着付ける必要があり、初めての経験でした」とのこと。あくまでも稽古用なので、時間をかけず手軽に着られるよう、インターネットで着付け方を調べたり、二部式の簡易版を取り寄せたり、試行錯誤を重ねたそうです。

近ごろは着物に触れる機会も増え、興味が湧いてきたという新垣さん。今後は、自身で着られるようになるのが目標だそうです。


あらがき・ゆい◉俳優・歌手。沖縄県生まれ。ティーン誌『ニコラ』のモデルを経て俳優デビュー。以降、多数のドラマや映画、CMなど幅広く活躍。現在放映中のドラマ「風間公親 ―教場0-」(毎週月曜夜9時放送、フジテレビ系)に出演中。また今年公開予定の朝井リョウ原作の映画『正欲』にも出演 。


撮影=横浪修 ヘア&メイク=パク☆チャン 着付け=石山美津江
『美しいキモノ』2023年夏号