Drone Magic

稀代のイリュージョニストが描く、ドローンと共存する未来

デジタルメディアとマジックを融合させるバーチャル・マジックの使い手、マルコ・テンペストが、Rhizomatiks Researchとともに新たな作品を発表。ドローンと人間の未来を描く。
稀代のイリュージョニストが描く、ドローンと共存する未来

写真:淺田創(Secession) 文:青山鼓

左からライゾマティクス・リサーチの石橋素、パフォーマンス・アーティストのマルコ・テンペスト、そして右がライゾマティクス・リサーチの真鍋大度だ

VRを駆使したカードマジック、iPodを使ったマジック、拡張現実とプロジェクションマッピングを融合させたインスタレーションなど、最先端のデジタルメディアを駆使しながらマジシャンの発想を用い、心あたたまるストーリーを描き出す、パフォーマンス・アーティストのマルコ・テンペスト。「マジシャンが繰り広げるイリュージョンは、テクノロジーにはできないことを成し遂げます」と語る彼が、ライゾマティクス・リサーチの真鍋大度と、石橋素とともに新しい作品を発表した。

24機のドローンが、マルコ・テンペストの周りを従順なペットのように飛び回る。題して、“Drone Magic”。百聞は一見にしかず。まずはこの動画をご覧いただこう。

日本ではドローンの家屋密集地や夜間の飛行が禁止され、つい先日の3月17日には国会でドローン規制法が成立するなど法整備が進められている。その一方でドバイでは賞金総額が100万ドルのドローンレースが開催され、15歳の英国の男の子が優勝して25万ドルを手に入れた。光り輝くコースの中を、ドローンが矢のように疾走するさまは高揚感にあふれ、未来的と表現するのにぴったり。だが、これはテクノロジーの未来ではなく、現在の姿だ。

そんな状況に対して、最新技術を駆使するアーティストであるマルコ・テンペストはGQのインタビューにこたえ、いみじくもこう語った。「新しい技術が生まれたとき、まだそれを誰しもが理解していない状態のときには、必ずその技術を恐れる人と、可能性を感じて技術の進歩を推し進める人にわかれます。常にその繰り返しです」。

マルコ・テンペストのインスタレーションは、先端技術を積極的に取り入れ、ひとつのストーリーとして描き出す。その際、彼はしばしばオスカー・ワイルドの詩や、ドビュッシーの「月の光」などの楽曲といった、普遍的で多くの人の想像力をかきたてるような引用を行いながら、マルコ・テンペスト一流の温かみをもって人間と技術の関わりを表現する。彼のインスタレーションが世界中で高く評価され、愛される理由のひとつだ。

シーン毎に細かく確認するマルコ・テンペスト。これだけドローンが揃うと飛行時にお互いに気流が発生し、挙動が不安定になる。それぞれの機体の動きのさじ加減が重要だ

今回発表した“Drone Magic”のなかでも、マルコはドローンに向かって「おいで」と優しい言葉で話しかけ、ペットを見るような穏やかな目で、その動きを見守る。羽を揺らして笑っている(ように見える)ドローンたちを、マルコが「落ち着いて!」とたしなめるシーンも、ヤンチャな子供と父親との関係のようで、微笑ましく感じられる場面だ。果たして、このインスタレーションでマルコ・テンペストが伝えたいこととはなんだろう?

「例えば、ロボットは本当に私達の生活を助けてくれるのか? パソコンが真に知性を持ったらどうなるか? これらの“まもなく現実になりそうな技術”を見つけ、それを素に何かのストーリーを作ることで、それを見た人たちの間にいろいろな会話が生まれることを期待して作品を作っています。最新技術を開発し、その使われ方を提示していくのは一般的には大企業やその会社のエンジニア、マーケティングの人たちです。しかし、私の観点は少し違います。お年寄りや子どもたち、技術に詳しくない人達にも、新しい技術を身近なものとして感じてもらうことで新たな発想が出てくるのではないかと期待しているのです。そのために、優しいストーリーや、音楽、詩など広く知られているものを使い、幅広い人に楽しんでもらおうとしています。今回、ドローンをテーマにしたのは、いま、ドローンに関して、プライバシーの問題をはじめ、安全性や信頼性などさまざまな議論が交わされているところだからです。非常にタイムリーな問題ですし、そこで、アートの面から、もう一つの観点を入れるべきだと考えました」

オープンソースのコミュニティーのなかで、以前から親交があったというライゾマティクス・リサーチとは、いつかコラボレーションしたいと考え、ベストなタイミングを探していたという。今回、エンパイア エンターテイメント ジャパン代表セオドール・ミラーの全面サポートにより、言語や制作スタイルの異なる彼らと国境を超えて、マルコ・テンペストの一大プロジェクトが実現した。

「私はマジシャンなので、今の技術で可能なものだけでなく、これからできるということも描き出したいと思っています。だから、今できているものよりも、5年先や10年先、たとえば人工知能を搭載したドローンとインタラクティブな関わりができるようになったら?という難しいことにチャレンジしています。今回のインスタレーションでは、ライゾマティクス・リサーチが今まで3年ほどかけて開発してきたトラッキングやドローンの制御の技術を駆使して、私がやすやすとドローンたちを操っているようなストーリーを描き出すことができました。彼らとの仕事は最高でしたよ。解決すべき問題はたくさんありましたが、彼らはエゴを主張するのではなく、あくまでも柔軟に、プロジェクトの成功を目指して一緒に取り組んでくれました。でも、難しかったということは問題ではないのです。これを見る人たちには、このインスタレーションの中で描かれているストーリーをどうか楽しんでいただき、感想をお互いに話し合ってもらえたら嬉しいです。新しい技術のポジティブな使い方をともに創りだしていけるように」