しいたけパワーに世界が注目! “UMAMI”の雄、原木しいたけは今が旬!

第5の味覚「うま味/UMAMI」を支える食材のひとつとして世界が注目しているのが、しいたけ。宮崎県に生産者を訪ねただし愛好家が、その魅力を紐解く。
しいたけパワーに世界が注目! “UMAMI”の雄、原木しいたけは今が旬!

甘味、酸味、塩味、苦味につづく、第5の味覚「うま味」が、「UMAMI」として世界各国で注目されている。三大うま味成分と言われる、鰹節の「イノシン酸」、昆布の「グルタミン酸」と並んで、近年フランスの料理人たちにも注目されているのが、しいたけの「グアニル酸」だ。『だし生活、はじめました。』(祥伝社)の著者・梅津有希子が、宮崎県にある原木しいたけの生産者を訪ねた。

原木しいたけは、まさに今が旬!

秋が旬とは言うけれど、きのこ類は1年中スーパーに出回っているので、正直旬を感じたことはほとんどない。たとえば、工場で栽培され、天候にも左右されず、安定して収穫できる菌床栽培のしいたけは、毎日どのスーパーにも並んでいる。ただし、原木しいたけは別だ。菌床栽培のそれとは、歯応えや風味がまるで違うこともあって、ここ数年は店頭で見かけるたびにせっせと購入しているお気に入りの食材だ。

両者の違いを簡単に説明すると、原木しいたけが木に直接穴を開けてキノコ菌を入れて栽培するのに対し、菌床しいたけは、木材チップをブロック状にした「菌床」という土台を作り、キノコ菌を育てて作るというもの。前者は自然環境の中で育てるので収穫までに約2年もかかるが、後者は3カ月ほどで収穫できる。

「風味が豊かで歯応えがしっかりしている原木しいたけは、やっぱりおいしいなあ……」と思っていた10月末、宮崎県の原木しいたけ農家を訪ねる機会に恵まれた。

イチ押しはバター醤油焼き

羽田空港から宮崎空港まで1時間50分。さらに車で山道を走ること2時間半。スギやクヌギの木が、まるでパッチワークのように連なる標高600メートル地点、東臼杵郡諸塚村にそのしいたけ農家はあった。九州山地のほぼ真ん中に位置し、総面積の95%が森林というエリアだ。

山の中腹にあるこの農家、目視で確認こそできるものの、ご近所さんという距離に家はない。一般的にいう限界集落ということになるのだろう。そんな山々に囲まれた一画でしいたけを栽培しながら、農家民宿「新家(しんえ)」を営む生産者が甲斐信子さんだ。甲斐さんによると、原木しいたけは「10月頃から出始めて、11月から1月頃に収穫したものが特においしい」という。今がまさに旬である。

「しいたけ、獲ってみます?」と甲斐さんに誘われ、筆者は「もちろんです!」と即答。早速、歩いて約5分の場所にあるしいたけ畑に向かう。生まれて初めて自分の手で獲った原木しいたけはふっくらと大きくて厚みがあり、素人目にも見事な仕上がりだ。甲斐さんの助言を受けて、傘が開く直前まで成長した、丸みがあって肉厚なものをチョイスする。

この日の晩、収穫したばかりの原木しいたけを使って甲斐さんがしいたけ尽くしの料理を振舞ってくれた。原木しいたけを知り尽くした甲斐さんのイチ押し料理は、バター醤油焼きだという。ジューシーで歯応え抜群の原木しいたけからジュワーっと滴るバター、香ばしい醤油の風味と豊かなうま味が組み合わさって、見事なひと皿に仕上がっている。菌床しいたけで作るそれとはまったく違い、食感も弾力も風味も格別だった。

宮崎県東臼杵郡諸塚村を訪ねる

宮崎県は、原木しいたけの生産に欠かせない「クヌギの木」、「清らかな水」、「1日の寒暖差」、「全国トップレベルの日照時間」などの条件がすべて揃っているそうで、世界農業遺産に認定された東臼杵郡諸塚村は、原木を用いたしいたけ栽培が盛んに行われるエリアとしても知られる。

原木しいたけの栽培は、原木となるクヌギやコナラなどの木を、森の中で伐採するところから始まる。伐採した木にしいたけの菌種を打ち込み、「仮伏せ」「本伏せ」と呼ばれる長い培養期間を経て、菌を原木全体に行き渡らせる。この間、直射日光が当たらないように特殊なネットで遮光したり、気温や湿度の変化に注意したりしながら、伐採から栽培、収穫まで、約2年もかかるのだという。

宮崎県の自然の中で栽培される原木しいたけは、秋と春にだけ発生する。1年中いつでも使えるように乾燥させて保存したものが干ししいたけだ。「乾しいたけ」と表記されることが多く、宮崎県内の道の駅やサービスエリアでは、この干ししいたけが売り場のかなりの面積を占める。

煮物などで使われることの多い干ししいたけだが、だし愛好家の筆者がよくやるのが、バキバキ割ってスープに入れるという、極めてシンプルな活用法だ。みそ汁、ポトフ、ミネストローネ、シチューなど、どんな汁物にもOK。スープを煮込んでいる間に戻ってくれるので、わざわざ前日から水に浸すなどは必要ない。冷蔵庫に生しいたけやきのこ類がない時も重宝する。もっと早く戻る、スライス状の干ししいたけも使いやすい。

干ししいたけは免疫アップ効果抜群!

以前、とあるテレビ番組で、1年の半分をイタリアで暮らす料理研究家・有本葉子さんが「しいたけは外国にはない、日本が誇るべき食材」と語っていた。トマトソースの隠し味に粉末状の干ししいたけを活用するなど、UMAMIを支える食材としてのポテンシャルには海外の有名シェフたちも着目しているという。

ところで、しいたけは干すことでビタミンDが生しいたけの30倍以上にも増え、うまみ成分のグアニル酸も7倍以上アップするという。医師に免疫アップに関する取材をした際、「ビタミンDを含む食材がいい」と聞いてから、意識的に鮭やしらすなどのビタミンDを多く含む魚介類を食べるようにしているのだが、ビタミンDを豊富に含むきのこ類、特に干ししいたけはその模範生とも言える存在だ。

ちなみに我が家ではこのスーパーな食材を日々のスープ類の隠し味として使っている。冷蔵庫には戻ししいたけを常備するほど、身近な存在でもある。作り方は簡単。ジャムの空き瓶に3個ほど入れ、ひたひたになるまで水を注いで冷蔵庫でひと晩待つだけ。翌朝には瓶の中にしいたけのだしがしっかりと出て、ふっくらとした戻ししいたけができあがる。アルミホイルに包んでバター醤油焼きにするだけでもとてもおいしく、手軽に食べられる点が魅力だ。

簡単レシピ、コツはちょい足し!

いっぽうで、使い方にはちょっと注意が必要だ。

うま味たっぷりの戻し汁は煮物のだしとして使うのが一般的だが、入れすぎると、干ししいたけ味が勝ってしまうことがあるからだ。筆者の場合は、1人前のスープやみそ汁に、ティースプーン1杯程度プラスする「うま味の素」のように使っている。これは以前取材した中華料理のシェフに聞いた活用法で、さまざまな料理にちょい足しすることでうま味がアップするのはもちろん、栄養もプラスできて一石二鳥なのである。

この使い方であれば、戻し汁特有のクセも気にならず、おいしさだけが増すので、「干ししいたけは苦手」という人にこそ、ぜひ試してほしい。

ひと昔前までは、生しいたけに「原木」か「菌床」かまでは明記されていないものも多かったように思うが、今ははっきりと明記されている。賞味期限も長いので常備しておきたい。栄養たっぷりでどんな料理にも合う“名バイプレイヤー食材”、原木しいたけ。自然豊かな諸塚村の美しい風景を思い出しながら、これからもありがたくいただきたいと思う。

梅津有希子
編集者・ライター、だし愛好家。北海道出身。10年前まで顆粒だしとだしパックしか使ったことがなかったが、天然だしのおいしさに目覚めてだし生活をスタート。食や暮らしについて雑誌やウェブに寄稿するほか、だしのおいしさや魅力を広めるべく、講演活動も行っている。著書に『だし生活、はじめました。』(祥伝社)、『終電ごはん』(幻冬舎)などがある。

文・写真 梅津有希子


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映画『土を喰らう十二ヵ月』が、11月11日(金)から全国公開される。この作品は、旬の食材と料理を通して、豊かさとは何かをストレートに問いかけてくる。