標準必須特許を 分析する

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標準必須特許(SEP)は業界関係者の間でますます活発な議論の対象となっている。しかしその全体数や出現状況さらに騒動に値するものなのかについてはほとんど知られていない。

LTE、Wi-Fi、無線ICタグ(RFID)、近距離無線通信(NFC)、高効率映像符号化(HEVC)等の標準技術は、今日の先駆的製品の多くに組み込まれている。標準規格は異なるシステムや製品が連携して動くことができるよう、共通言語を定めるものである。標準技術は革新的なソリューションを表すことが多い。例えばスマートフォンと衛星間の速くて効率的な通信を可能にするなどである。標準規格の実施によって必然的に侵害されることとなる特許は「標準必須」と呼ばれている。標準必須特許(SEP)の対象となっている多くの標準規格は業界全体で実施されており、これは、権利保有者にとってその使用許諾が多額の使用料収入をもたらしていることを意味する。

SEPを巡る議論のほとんどが使用料の金額や使用許諾条件の定義または侵害訴訟の結果に焦点を当てるものとなっている一方で、SEPの存在そのものを数量化して分析した研究はこれまで行われていない。本稿では、以下の主要標準化団体(SSO)によって標準必須と宣言された20万件を超える特許に関するデータを使用する。

  • 先進型テレビジョン方式委員会
  • 米国通信産業ソリューション連合
  • 米国規格協会
  • ブルーレイディスク・アソシエーション
  • ブロードバンドフォーラム
  • DVDフォーラム
  • 欧州標準化委員会
  • 欧州電気通信標準化機構
  • 国際電気標準会議
  • 米国電気電子技術者協会
  • インターネット・エンジニアリング・タスクフォース
  • 国際標準化機構
  • ITU無線通信標準化部門
  • ITU電気通信標準化部門
  • オープン・モバイル・アライアンス
  • 構造化情報標準促進協会
  • 米国映画テレビ技術者協会
  • 米国電気通信工業会
  • ワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム

これらのSSOにはいずれも正式な知財ポリシーがあり、SEPを公開することが義務付けられている。また、特許宣言書の一覧も保有し、これには特定規格において必須であるとされている特許に関する情報や使用許諾条件、宣言している会社に関する情報および宣言日が記載されている。本稿では、このデータを特許や規格文書の書誌情報および訴訟やライセンス契約に関する情報に結びつけ、経時的動向および技術や訴訟全体の動向や、使用許諾条件、所有分布および特許書誌的な特性の傾向について明らかにする。分析の過程においては、特許や規格に関する入力データのクリーニングや調整が行われているが(情報源:iplytics.com)、実証的調査において法的意味での宣言書の正確性の検証は試みておらず、ある特許が必須特許である旨の宣言は、その宣言を行っている権利保有者の評価のみに基づいている。標準化活動に寄与する全ての会社は、標準必須となる可能性のある特許を所有しているか否かを宣言することが義務付けられている。ある特許を標準必須と宣言することによって、その権利保有者は、特定の条件(公正、合理的かつ非差別的な条件(FRAND))においてその使用許諾を行うことを約束することになる。

本稿では、宣言SEPのいくつかの統計および特性について調査する。まずはSEPの宣言に関する最近の動向を分析する。それから、平均特許失効頻度や再譲渡の頻度、訴訟頻度といった特許特性の他、被引用数や後方引用、パテントファミリーのサイズ、特許クレーム総数、発明者総数、国際特許分類(IPC)におけるSEPの分布といった書誌的統計を比較する。分析過程においては、比較可能な特許(同じ国の同じIPC分類において同じ年に発表された特許)の対照群を用いて結果を評価する。さらに、宣言SEPの使用許諾条件および契約の出現状況を明らかにする。最後に、SEPの所有者に目を向け、ポートフォリオの大きさやポートフォリオ特性、特許の被引用、ファミリーのサイズ、標準規格関連性および訴訟頻度を比較する。ある標準規格に対するポートフォリオの関連性の評価においては、規格文書の平均先行技術引用数や、宣言SEPが他の宣言SEPから受けた引用数といった指標を使用する。記事の結びでは結果について議論し、標準技術が重要となる特許所有会社の知財専門家のための行動計画を明らかにする。

SEPの20年

ノートブックやスマートフォン、スマートウォッチといったデバイスだけでなく製造機械や自動車、家庭もますます相互接続される中、標準技術の重要性は劇的に高まっている。異なる製品やシステムの相互運用を可能にすることによって、革新的応用の可能性が開かれることは多い。相互運用の必要性は最近になって求められるようになったものではないが、この20年の間に、標準化は単なる共通規格の調整から複雑な技術プラットフォームの共同開発へと進化した。今日の標準規格の多くは、絶えずアップデートされ更新される最先端イノベーションを記述している。特許が標準規格に組み込まれることは、標準化活動に対する企業の投資が回収できるということである。標準技術は、規格に適合する製品を生産する企業が必然的に侵害することになる発明について権利を主張する特許の対象となることがますます増えている。図1に示すのは、宣言SEPの数および宣言SEPを対象とする訴訟数の推移である。1990年代初頭から2000年代初頭まで、宣言SEPの数は徐々に増加している。この時期に必須と宣言された標準規格はほとんどが視聴覚技術分野のものであった(MP3、DVB、DVD、AVC等)。2000年代終盤には、Wi-Fiやワールドワイド・インターオペラビリティ・フォー・マイクロウェーブ・アクセス(WiMax)、NFC、RFID、ユニバーサル移動体通信システム(UMTS)などの特許密度の高い標準規格プロジェクトによってSEPの数は急増した。2009年と2014年のピークは、LTEやLTEアドバンスト(4G)といった新世代デジタル通信技術の発表に一致する。世界中のデバイスに実施されたこうした新世代規格の成功は、紛争件数にも顕著な影響を与えた。2000年代半ば以降、SEPに関連する訴訟は劇的に増加した。広く議論されたモトローラ対マイクロソフトやアップル対サムスンといった訴訟は、SEPが関係する訴訟の頻度が上がっただけではなく、紛争の期間や規模が増大したことも示している。両当事者が数年にわたって法廷で争うことを厭わないという事実は、宣言SEPの財務上の影響が増大していることを反映している。

図1.公開宣言時期別の宣言SEPおよび訴訟対象SEPの数
図2.特許庁別の宣言SEPの数

図2は、特許出願庁に対する宣言SE Pの数を示している。1990年代初頭、宣言SEPはほとんどが米国、欧州および日本で出願されていた。しかし、2000年代初頭以降、中国、韓国および台湾市場の規模や活動が増大する一方、ドイツ、日本および米国の宣言SEP数は減少している。この動きは、近年の標準技術におけるアジア市場の重要性の増大を反映している。中国が国際規格を受け入れて自国市場を開放する一方、中国の権利保有者らは、国際標準化の場においてますます貢献度を高めている(ファーウェイ・テクノロジーズ、ZTE、大唐移動通信設備等)。

SEPは他と違うのか?

イセンス交渉における強い切り札である点においても極めて実入りのいいものとなり得る。SEPは、その定義上、多くの場合広く受け入れられた標準技術に必須であり、このため業界全体がこれを侵害する可能性がある。但し、権利保有者はFRAND条件に基づいて宣言SEPの使用許諾を行う約束をする義務を負い、これによって使用料率に上限が課される。はたして宣言SEPは他の特許より多かれ少なかれ価値のあるものなのだろうか? 宣言SEPの特性を検証するために、私は、標準必須であるとは宣言されていないが各SEPと同じ公表年に同じ特許庁に出願され、同じ国際特許主分類に分類された特許の対照群を作った。そして複数のSEP特性の平均値を計算し、対照群のものと比較した。

図3は、宣言SEPでは平均で約67%が失効しているのに対し、対照群の特許では76%を超えるものが失効していることを示している。特許を失効させるということは、権利保有者がその特許技術に最早価値を見出さなくなったことを示唆する。分析では、特許権者は宣言SEPを生かしておく頻度が高く、高額な維持料を支払い続ける可能性が高いことが確認されている。

図3.SEPの特性の対照群との比較

グーグルやツイッター、フェイスブックといった新しいインターネット企業がSEPを活発に取得したここ数年、特許の市場は拡大している。全SEPのうち12%超が少なくとも1度は譲渡されている。対照群では、これは特許のうちの9%に過ぎない。SEPの購入は、新規市場に参入する1つの方法かもしれない(例えばグーグルは、スマートフォン部門に参入するためにモトローラ・モビリティのポートフォリオを購入した)。

訴訟分析の結果からは、宣言SEPは対照群と比べて訴訟対象となる頻度がずっと高いことが確認されている。全宣言SEPのうちほぼ2%が少なくとも1度は訴訟を起こされているが、対照群の特許で訴訟を起こされているものは0.45%に過ぎない。この結果は、SEPが訴訟において優れた切り札となり得ることを示唆するだけでなく、SEPが問題となるセクターは非常に競争が激しいものであることも示している(スマートフォン市場等)。

さらに、宣言SEPの書誌的特性(引用件数、ファミリー、クレーム、発明者等)を対照群と比較した。宣言SEPは、平均でほぼ4回、他の特許によって引用されている(自己引用はカウントしない)。同じ年、国およびIPCの対照群の特許は、平均で約3回しか被引用を受けていない。特許引用は、客観的かつ資格を有する特許審査官によってレビューおよび確認が行われる。統計研究によると、先行技術の引用を頻繁に受けるということが特許の価値の指標であるとわかっている。この点において、宣言SEPは他の特許と比べて関連性が高いと思われる。

後方引用は、特許が先行技術として引用しなければならないものである。特許が引用する先行技術が多ければ多いほど、より多くの技術がその発明を使用する。したがって、後方引用は、発明の根本性を反映している可能性がある。この解釈に従うと、宣言SEPは、平均すると他の特許より根本性が高いことになる。

ファミリーのサイズは、特許の国際特許情報ファミリーIDによってカウントし、同じ優先発明に関連付けることができる特許の数を表す。ファミリー数が多ければ多いほど、当該発明にとって保護されている市場が多く、法的強度が大きい。特許審査料や維持料は、各特許庁において出願者にとって相当なコストとなるため、ファミリー・サイズのカウントは、法的な市場カバレッジだけでなく、権利保有者が特定特許に置いている価値をも反映する可能性がある。宣言SEPのファミリー・サイズは、対照群の特許と比べてほぼ2倍の大きさである。この結果は、宣言SEPは市場カバレッジが高く、よって知覚市場価値が高いことを確認するものである。

平均クレーム件数は、特許の法的な範囲を表すもので、対照群と比べて宣言SEPの方が平均的に高い。平均発明者数、譲受人数または異なるIPCクラス数については、平均値は近似しており、差はごくわずかである。

全体として、宣言SEPは他の特許と比べて価値および関連性が高いようであるが、この分析は、宣言SEPの本来価値または誘発価値の区別をしない点において限定的である。即ち、宣言SEPは価値が高いために標準必須であると宣言されているのか、或いは標準必須と宣言されたことによって初めて価値が高くなるのかがはっきりしない。

権利保有者は、一定の条件に基づいてSEPの使用許諾を行うことを約束する。SSOはそれぞれ異なる知財ポリシーを有し、宣言者が様々な使用許諾の選択肢の中から選択する場合もある。権利保有者が特許プールを設定し、特定規格に必須の全ての特許の使用許諾を単一契約の下で行うこともできる。こうしたワンストップショップでは、ライセンシーはライセンス契約のための連絡先が1ヶ所で済む。多くのエコノミストが特許プールを通じた使用許諾の方が取引コストや二重の排斥効果の観点でより効率的であることを示唆しているが、宣言SEPの91%は特許プールを通してではなく個別に使用許諾されている。自社の特許を特許プールに入れている権利保有者は、こうした特許の使用許諾を上限価格で行うことを約束している。権利保有者は、申し入れのあった使用料がプール価格より低い場合にはオプトアウトすることができるが、プール外でこれより高い価格を設定することは禁じられている。そのため、権利保有者がプールを敬遠する要因の1つになっている。彼らは、他の技術に関するクロスライセンス契約の交渉をする際に主導権を取れなくなることを恐れているのである。過去において特許プールのイニシアチブの多くが失敗に終わった別の要因として、プールライセンスでは複数の参加者(上流および下流通信機器メーカーや通信ネットワーク提供業者、大学、研究機関、特許不実施主体、特許私掠船等)の事業利害を統合しなければならないということがある。こうした参加者の全員から単一契約への合意を取り付けるのは極めて難しく、これが宣言SEPの9%しかプール式を採用していないことの1つの要因である可能性がある。

SEPの使用許諾を行う最も一般的なフレームワークがFRANDである。FRANDに基づく使用許諾条件は公正、つまりバンドリングやグランドバック条項がなく、合理的かつ非差別的でなければならない。特に「合理的」の語は多くの論争の的となり、訴訟さえ起きている。にもかかわらず、ほとんどの業界関係者は今でもFR ANDが使用料率設定のための最良の基準であると見ており、全宣言SEPの68%がFRANDに基づいて使用許諾されている。

SSOの中には、権利保有者が必須特許の使用許諾を行う用意がない旨を述べることができるところもあるが、同者が使用許諾を約束せず、標準化プロセスに参加しなかったことが条件である。こうしたケースは、宣言SEPの11%のみであった。

相互性ルールは、特定の規格についてSEPのクロスライセンスが可能であることを示している。宣言SEPの65%がそうした相互性ルールに合意し、同一規格に関連する特許のクロスライセンスを認めている。

「[標準必須特許は] 使用料収入という点だけではなく、クロスライセンス交渉における強い切り札である点においても極めて実入りのいいものとなり得る。」
表1.SEPの書誌的特性の対照群との比較
  宣言SEP 対照群
平均被引用数 3.93 2.88
平均後方引用数 6.12 7.76
平均ファミリー・サイズ 27.93 16.11
平均クレーム数 20.89 17.79
平均発明者数 2.70 2.50
平均譲受人数 1.19 1.25
異なるIPCの平均サブクラス数 1.21 1.22

主なSEP保有者

以下の分析では、権利保有者ごとに宣言SEPの数を数え、IPlytics Platformツールを使ってそれぞれのポートフォリオの価値指標を比較した。業界関係者の多くは、全体的な宣言SEPの数が多すぎる、または少なくとも真に必須である特許の実数よりも多いと主張してきた。SSOは、当該特許が特定の規格に必須な発明をクレームするものであるかどうかをさらに調査することなく、宣言SEPのデータベースを維持している。さらにSSOは、特許庁が特許を付与したかどうかや、特許が有効か失効または満了しているかどうかについても検証しない。したがって、各権利保有者の宣言SEPポートフォリオの見積を行うためにいくつかの価値の指標を創り出した。まず、ポートフォリオの年数ならびに満了も失効(維持料の支払を行わなかったため等)もしていない有効な特許の割合を計算した。

ポートフォリオ年数は、標準技術の特許をごく最近取っているのはどの会社であるか、および数年にわたって活発なのはどの会社であるかを示す。フィリップスやシーメンス、日立、NTTといった会社のポートフォリオが比較的古いのに対し、大唐移動通信設備やZTE、ファーウェイといった会社はごく最近出願された特許を保有している。この分析は、米国、日本、欧州の権利保有者から中国、韓国、台湾の権利保有者へのシフトを示している。有効な特許の割合は、上位の権利保有者のほとんどにおいて驚くほど高く、ポートフォリオの年数とは負の相関がある。

特許ポートフォリオの価値を測定するために、IPlytics Platformを使って書誌的評価指標を計算した。まずは、世界中の特許庁のパテントファミリーに相当する物の正規化数を計算して、特許の市場カバレッジを測定した。市場カバレッジ指標は、地理的範囲や知覚特許価値の観点から特許ポートフォリオを評価するのに役立つ。宣言SEPポートフォリオのほとんどは、市場カバレッジ値が1を上回り、同一IPC、同一年、同一国の特許の平均を上回っている。ほとんどのポートフォリオで得点が似通っているものの、市場カバレッジの観点で最強のポートフォリオを保有するのは、LG、ファーウェイ、パナソニックおよびシャープである。さらに、特許被引用件数の正規化数を計算し、特許ポートフォリオの技術的関連性の値を測定した。値が高いほどある技術スペース内での関連性が高いことを示す。ここでも、1を上回る値は業界、年および国の平均を上回っている。この指標に関して最強のポートフォリオを保有するのは、ロックスター・コンソーシアム、大唐移動通信設備、ZTEおよびテキサス・インスツルメントである。

宣言SEPポートフォリオと標準技術との関係を数量化するために、IPlytics Platformを使用して3つの指標を計算した。1つ目は標準規格に関連する非特許文献の引用で、宣言SEPが1つ以上の規格文書を先行技術として引用している場合にカウントする。当該宣言に関連する標準規格の引用のみをカウントした。これは、標準必須と宣言された特許が同じ標準規格の以前の版を先行技術として引用するか、または同じ標準規格プロジェクトに割り振ることのできる文書を引用する場合である。こうした引用をカウントすることで、宣言SEPと標準技術との関係が測定される。

全般に、規格文書を引用する宣言SEPの割合は高く、イノベイティブ・ソニック、グーグルおよびシャープのポートフォリオでの関連規格文書の引用割合が最も高かった。但し、この指標は特許庁や公表年毎に正規化されておらず、そのため先行技術調査の慣行の違いによる影響も受ける可能性がある。例えば、欧州特許庁(EPO)は2009年に新たな方針を導入し、審査官は、先行技術の出版物の調査が行いやすいように規格案や規格文書、標準化会議録などの文
書にアクセスできるようになった。このため、2009年以降にEPOに出願された特許は、規格文書を引用している可能性が高い。

2つ目の指標は、宣言SEPが受けた引用件数(自己引用は除外する)である。この指標は、他の宣言SEPの所有者が当該宣言ポートフォリオを引用しているかどうかを示すものである。多くの引用を受けているポートフォリオほど、他の標準設定企業との関連性が高いと思われる。宣言SEPの引用の割合が最も高い特許ポートフォリオを保有する企業は、クアルコム、ノキア、インターデジタルおよびサムスンである。但し、特許を引用する特許文書は、通常、引用されている特許そのものより12ヶ月以上新しい。これは提出された出願を公表するのに時間差があるからで

あり、そのため、同じ時期に提出された特許が互いを引用することは滅多にない。この指標は、特許ポートフォリオの後の世代にとっての技術的関連性を示す可能性がある(例えば、UMTSに関連した特許が今ではLTEに関連するものとして引用されている)。実際、上記の上位4社が移動通信用グローバルシステム(GSM)やUMTSの初期の標準化活動に貢献したのに対し、その他の権利保有者は、標準化活動の後の世代(LTE等)になって初めて標準化プロセスに参加している。

3つ目の指標は、訴訟の対象となった宣言SEPの数をカウントする。インターデジタル、クアルコム、ノキアおよびサムスンは宣言SEPの訴訟頻度が最も高い。特許が標準必須である旨を公に宣言し、その後これを法廷で主張する企業は、その不可欠性に自信がある可能性がある。但し、この数値は企業の行使戦略をも反映するものであるため、ビジネスモデルの違いによってバイアスがかかる可能性がある。

図4.SEP使用許諾条件およびポリシー
 表2.宣言SEPを保有する上位30社
社名 宣言SEP 平均比率 有効な特許の割合 市場カバレッジ指数 技術的関連性指数 パテントファミリー 規格を引用している特許の割合 他のSEPに引用されている割合  訴訟対象となっている特許
クアルコム 20,678 12.24 83.92% 1.72 1.13 1,314 27.40% 6.02% 888
ノキア 13,393 13.65 83.87% 1.66 0.88 1,899 36.42% 5.31% 557
インターデジタル 12,522 13.14 86.87% 1.68 0.77 1,081 29.56% 4.72% 978
LGエレクトロニクス 10,772 8.69 90.07% 1.76 1.73 1,114 43.99% 3.51% 173
サムスン電子 10,618 10.4 93.74% 1.54 1.73 1,596 32.44% 3.57% 502
エリクソン 9,396 13.86 79.32% 1.62 1.09 1,468 34.68% 3.12% 467
ファーウェイ・テクノロジー 6,500 8.33 85.40% 1.76 1.28 1,926 48.51% 2.85% 29
パナソニック 6,326 10.45 88.17% 1.77 1.1 1,486 52.56% 1.74% 572
グーグル 4,576 12.61 82.54% 1.4 1.26 1,504 56.13% 1.65% 67
NTTドコモ 4,216 8.65 91.83% 1.61 1.56 692 48.05% 1.06% 0
ブラックベリー  2,319 8.62 86.61% 1.29 1.28 325 43.08% 0.61% 5
NEC 2,299 10.61 87.91% 1.17 0.87 288 46.19% 0.76% 0
ソニー 2,289 14.5 84.78% 1.39 1.16 542 26.12% 0.16% 171
シーメンス 2,209 15 84.16% 1.03 0.71 356 43.82% 0.75% 49
シャープ 2,170 8.39 90.20% 1.85 1.52 564 54.82% 0.40% 45
ノキア・シーメンス・ネットワークス 2,073 7.85 87.69% 1.65 1.13 591 43.22% 1.34% 52
フィリップス・エレクトロニクス 1,704 17.19 72.39% 1.44 0.5 298 18.26% 0.45% 300
ZTE (中興通訊) 1,640 5.64 96.71% 1.63 1.95 560 41.71% 0.86% 0
三菱電機  1,387 15.78 81.24% 1.26 0.63 239 47.55% 0.59% 134
ロックスター・コンソーシアム 1,174 13.13 91.23% 1.29 2.08 198 47.53% 0.36% 12
アルカテル・ルーセント 1,105 8.99 77.50% 1.3 0.98 415 45.63% 0.48% 22
東芝 953 15.74 86.57% 1.07 0.75 301 24.66% 0.03% 41
イノベイティブ・ソニック 796 8.29 83.67% 0.63 1.38 91 61.31% 0.50% 8
日立製作所 549 16.46 86.52% 0.81 0.77 220 40.07% 0.36% 16
テキサス・インスツルメンツ 487 11.29 93.02% 0.92 1.91 158 44.76% 0.29% 0
インテル 479 12.96 83.30% 1.34 0.94 66 43.63% 0.16% 60
三洋電機 465 19.7 49.68% 2.05 1.45 64 26.45% 0.24% 56
大唐移動通信設備有限公司(DTモバイル) 458 6.91 99.34% 1.31 2.5 255 33.84% 0.12% 0
日本電信電話 454 18.29 74.67% 0.77 1.41 66 38.11% 0.56% 0
「宣言された[標準必須特許]は、より頻繁に引用され、より大きなパテントファミリーに従属し、譲渡がより頻繁に行われ、訴訟頻度が高い。」

特許と標準規格の相互作用

宣言SEPの見通しについて分析した結果は、全体として、特許と標準規格との間の相互作用の重要性が今も増大し続けていることを示している。宣言SEPはより頻繁に引用され、より大きなパテントファミリーに従属し、譲渡がより頻繁に行われ、訴訟頻度が高い。SEPの宣言件数も宣言SEPを前提とする訴訟の数も着実に増加している。さらに、この分析によって、宣言SEPのポートフォリオは全般的に見て今も有効に活躍していることが確認された。宣言SEPのほとんどは、関連する標準規格プロジェクトを先行技術として引用するか、または他の宣言SEPによる引用を受けている。両指標により、宣言SEPは、各標準技術と密接な技術的関係を有することが確認された。しかし、この関係が標準必須性に当たるかどうかを検証することはまだ可能ではない。

SEPは明確なケースとなるが、標準規格に関連する特許の数はこれよりずっと多い。よって、標準規格に関連する特許の数を数量化するために、規格文書を先行技術として引用している特許を全て数えた。図5 は標準規格を引用している特許の数を公開時期ごとに図式化している。1つ以上の規格文書を参照する特許の数は1990年代初頭以降増加の一途を辿り、年間約4万2,000件のレベルに達しており、この状況の理解を深めることが緊急の課題であることをよく表している。

図5.規格文書を先行技術として参照する特許の推移

 

行動計画

特許と標準規格の相互関係はかつてないほど優先順位の高い課題となっている。標準規格を重要視している、または今後重要となる分野に関与している特許保有企業の上級管理職や役員は、次のような検討事項を心に留めておくべきである。
  • モノのインターネット、スマートカー、スマートホーム、スマートエネルギーなどの未来技術は、ますますLTEやWi -Fi、NFC、RFID、Bl uetoothといった特許技術規格に依存するようになる。
  • 宣言SEPの数は増加の一途を辿っている。IP担当役員は、技術規格を満たす製品の使用料コストを考慮しなければならない。
  • 宣言SEPの数だけでなく、権利保有者の数や多様性も増大している。このことは、権利保有者の地理的多様性の増大の他、ビジネスモデルの多様性の増大にも反映されている。IP担当役員は、早い段階において関連SEPの存在について将来を見越した審査を行い、見込まれるライセンス料や法律問題を特定すべきである。新技術や新製品の導入における潜在的リスクは、そうすることによって早い段階で数量化し評価することができる。
  • 宣言SEPに関わる訴訟が増大する一方で、宣言SEPの市場が近年発達している。上級管理職は、SEPの購入が新市場に参入する1つの方法になり得ることを心に留めておくべきである。SEPは、使用許諾の交渉においてよい切り札となることがあり、これによってコストのかかる法廷紛争を回避できる可能性がある。
  • 分析の結果、企業はSEPの存在を認識し、規格が重要となる技術分野において特許発明を活用できるようにするために、特許取得および標準化のための共通戦略を進めるべきであると示唆している。
ティム・ポールマン博士は、ドイツ、ベルリンのIPリティックスのCEOである。

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