地上波でも「4K/60fps」が当たり前に? 総務省の審議会が「次世代地デジ」の技術的条件を答申 実現に向けて大きな一歩(2/3 ページ)

» 2023年07月20日 18時30分 公開
[井上翔ITmedia]

現行地デジを邪魔することなく高度化

 とはいえ、現行のISDB-T規格に準拠したTVは広く普及しており、TV局側の機材体制を含めて一気に新規格へと移行することは、現実的に不可能だ。そこで新規格(高度化地デジ)の策定に当たっては、主に以下の要件を満たすことが求められた。

  • 現行規格に妨害を与えないようにしつつ、できるだけ互換性も確保すること
  • 高い画質/音質/臨場感を得られるようにしつつ、多様な視聴者に対応すること
  • 固定受信の他、移動/携帯視聴も考慮に入れること
  • 受信設備(アンテナ、ブースター、配線など)は極力流用できるようにすること
  • 映像/音声コーデックは柔軟性があり、高ビットレートに適したものとすること

 これらに基づいて、情報通信審議会の情報通信技術分科会 放送システム委員会では「映像コーデック」「音声コーデック」「多重化(※2)」「限定受信(スクランブル)方式」「伝送路符号化(※3)」の5点に関する検討を進めてきた。

(※2)映像/音声を含む各種データを1つに合成する方法
(※3)多重化したデータを無線で伝送する方法

検討 新しい地デジ規格は、大きく5つのポイントの検討を進めてきた

映像コーデックは「H.266」、音声コーデックは「MPEG-H 3D」「AC-4」の選択制

 高度化地デジの映像コーデックは、圧縮率を高める観点から「H.266(VVC)」を採用する。

 H.266は現行の地デジが使っている「MPEG-2」はもちろん、4K8K衛星放送が利用している「H.265(HEVC)」と比べても圧縮効率が向上している。計算上は1チャンネル分の帯域(6MHz幅)でも4K放送を同時に1〜2番組(フルHD放送は最大6番組)を伝送できるという。

 映像の入力フォーマット(映像解像度/フレームレート/HDR対応)は、コンテンツの流用も考慮し、原則として4K8K衛星放送とそろえている。そのため、映像解像度は少なくともフルHDとなり、インターレース走査の映像には非対応となる(※4)。

(※4)インターレース走査のコンテンツを放送する場合は、TV局側でプログレッシブ走査への変換処理を行うことを想定している

伝送 入力映像のフォーマットは4K8K衛星放送とそろえられている。ただし、8K(7680×4320ピクセル)映像の入力は、技術革新があった場合に備えたオプション扱いとされている(現状の技術では1チャンネル分の帯域幅で伝送するのが難しいため)(総務省資料より:PDF形式)
伝送 映像のコーデックは、高効率を求めてH.266を採用。圧縮プロファイルは、8〜10ビット深度を確保できる「Main 10」を基本としつつ、複数映像の同時伝送やインターネット連携、サブコンテンツの同時伝送を見込んで「Multlayer Main 10」も選べる余地を残している

 音声コーデックは、音質向上と臨場感の確保という観点から「MPEG-H 3D Audio」または「AC-4」の選択制とされる。

 音声の入力フォーマット(サンプリングレート/量子化ビット数/入力チャンネル数)は、映像入力と同様に原則として4K8K衛星放送とそろえており、最大22.2chの空間オーディオ音声にも対応可能だ。

音声入力フォーマット 音声入力フォーマットの要件は4K8K衛星放送とおおむね同じとなっている。現行地デジとは異なり、オブジェクトベースの音声信号にも対応できるようになる(総務省資料より:PDF形式)
コーデック 4K8K衛星放送とは異なり、音声コーデックはMPEG-H 3D AudioとAC-4の選択制とされた(総務省資料より:PDF形式)

多重化は「MMT・TLV方式」に

 高度化地デジにおけるデータの多重化は、4K8K衛星放送と同じ「MMT・TLV方式」で行うことになった。

 この方式の場合、データは「MMT(MPEG Media Transport)層」「TLV(Type Length Value)層」「IPパケット層」の大きく3層でパッケージングされる。いわゆる「ハイブリッドキャスト」(放送コンテンツとインターネットコンテンツを一体表示する仕組み)に対応しやすいことがメリットだ。

多重化 データの多重化は、4K8K衛星放送と同じ「MMT・TLV方式」で行う(総務省資料より:PDF形式)

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