医療と社会
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日本の医療改革について
鴇田 忠彦
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1999 年 9 巻 3 号 p. 1-13

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抄録

少子高齢社会の進行とともに,日本の医療改革は焦眉の問題である。筆者らの研究では,国民医療費は2025年までの約30年間に,実質でおよそ2倍,年率にして2.8%で増加する。また15歳から64歳までの現役世代1人あたり国民医療費は,この期間におよそ3倍に達するとやはり推定される。この結果は,将来に予想される低いマクロ経済成長と医療費との調和の困難と,現役世代の負担は限界を越え,制度存続の危ういことを物語る。このような背景の下で,日本の医療改革は突出する高齢者医療の抑制が何より必要である。新たな高齢者医療制度は多面的に構築されるべきである。まず需要面では医療費無料化政策以来のただ同然の自己負担をやめ,応分の負担を高齢者に要請することが不可欠である。さらに末期医療のあり方について,国民的な合意形成を図ることが急務である。また保険者機能による,患者の側の医師や医療機関に対する拮抗力の形成も必要である。その場合に診療報酬の定額化は,包括的な老人医療の特性に見合うだけでなく,保険者の医療機関との交渉を推進するにも望ましい。供給面では薬価の適正化も急務であるが,それは財政節減効果も乏しくかつ製薬企業の新薬開発意欲を削ぐ参照価格のような規制の強化ではなく,市場価格を志向するべきである。現在の日本の医療改革は,市場の失敗よりも政府の失敗を重視し,レントシーキングの温床である規制から,患者・国民本位の市場的な資源配分をめざすべきである。

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