医学検査
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
技術論文
新規D-dimer試薬LPIAジェネシスDダイマーの基礎性能評価および試薬特性
下仮屋 雄二渡邊 真希坂口 茜西川 美有秋月 基伸桜井 錠治森本 誠中谷 中
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2019 年 68 巻 1 号 p. 85-91

詳細
Abstract

我々は,これまでの試薬とは異なる抗原エピトープを認識する新規D-dimer試薬であるLPIAジェネシスDダイマー(LPIA-GENESIS D-dimer; LG-DD)の基本性能と試薬特性を検討したので報告する。連続10回測定した同時再現性はCV値が0.21~2.67%,10日間測定した日差再現性は1.86~2.80%であった。希釈直線性は56.3 μg/mLまでの直線性が確認できた.最小検出感度は0.34 μg/mLであった.エルピアエースD-DダイマーII(LPIA-ACE-D-DimerII; ACE-DD)との相関性はy = 0.964x + 0.092,r = 0.952であった。フィブリノゲンを線溶させて経時的に測定した結果,LG-DDは経過時間に伴う測定値の上昇は認めなかった。フィブリンを線溶させて経時的に測定した結果,経過時間に伴う測定値の上昇を認めACE-DDより高値で推移した。凝固第XIII因子欠乏血漿を凝固させた後に線溶させた結果,経過時間に伴う測定値の上昇を認めるがACE-DDより低値であった。採血管内で凝固した検体では測定値に影響を受けにくいことが示唆された。本検討結果からLG-DDは高性能であり,採血管内凝固の影響を受けにくく生体内で産生されたD-dimerに特異性が高い特徴を有していることが考えられた。

I  はじめに

深部静脈血栓症(deep vein thrombosis; DVT)および肺塞栓症(pulmonary embolism; PE)の病態である静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism; VTE)のスクリーニングにD-dimerが用いられている1)~7)。D-dimerは,血液が凝固し線溶が亢進あるいは制御不能となった病態で高値となるが,フィブリノゲンの分解産物も測りこむフィブリノゲン・フィブリン分解産物(fibrin/fibrinogen degradation products; FDP)とは異なり,安定化フィブリンが分解されて生じるフィブリン分解産物のみを反映することから,生体内での血栓形成の証拠となる。D-dimerの測定には様々な測定キットが販売されているが,認識する抗原エピトープが異なることやD-dimer分子の大きさによって異なる反応性を示すことが問題となっている8),9)。今回我々は,これまでの試薬とは異なる抗原エピトープを認識する新規D-dimer試薬であるLPIAジェネシスDダイマーを検討する機会を得たのでその結果を報告する。

II  対象

当院中央検査部に提出された患者検体96例および健常人ボランティア2名を対象とした。検体は3.2%クエン酸ナトリウム加血を2,300 g × 10分遠心分離して得られた血漿を用いた。なお,本研究は,三重大学臨床研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号2762および2839)。

III  方法

1. 試薬

1)D-dimer測定試薬―LPIAジェネシスDダイマー(LPIA-GENESIS D-dimer;LG-DD;LSIメディエンス)

2)D-dimer測定試薬―エルピアエースD-DダイマーII(LPIA-ACE-D-Dimer II;ACE-DD;LSIメディエンス)

3)FDP試薬―エルピアFDP-P(LSIメディエンス)

2. 測定装置

LG-DD,ACE-DDおよびFDPは,全自動臨床検査システムSTACIA(LSIメディエンス)で測定した。

3. 再現性

イアトロセーラTH レベルI・II(LSIメディエンス)の2濃度とプール血漿1濃度を連続10回測定して同時再現性を評価した。また,試薬をオンボードでイアトロセーラTH レベルI・IIの2濃度を10日間測定し日差再現性を評価した。

4. 共存物質の影響

プール血漿に干渉チェックAおよびRF(シスメックス)を添加して共存物質の影響を検討した。

5. 希釈直線性

FDP・DD用プロゾーン試料(LSIメディエンス)を共通希釈液IIステイシア用(LSIメディエンス)で段階希釈して希釈直線性を検討した。

6. 最小検出感度

LPIAジェネシスDダイマーキャリブレーター(LSIメディエンス)を共通希釈液IIステイシア用で段階希釈した試料に対してそれぞれ5回測定し3SD法で最小検出感度を求めた。

7. 相関性

患者検体96例を対象にLG-DDに対してACE-DDとの相関性を評価した。

8. フィブリノゲン溶解試験

健常人ボランティア1名の血漿5 mLにウロキナーゼ(SIGMA)を最終濃度200 IU/mLになるように添加してフィブリノゲンを溶解し,直後,30分後,60分後,120分後,180分後にそれぞれ1 mL分注した試料にトラネキサム酸(Wako)を最終濃度40 μg/mLになる様に添加して溶解を停止させてD-dimerおよびFDPを測定した。

9. フィブリン溶解試験

健常人ボランティア1名の血漿5 mLに1 M CaCL2を62.5 μL,トロンビン試薬(トロンボチェックFib(L);シスメックス)50 μL添加してフィブリンを形成し,遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator; rt-PA)であるアルテプラーゼ(グルトパ注;田辺三菱製薬)を最終濃度50 IU/mLになる様に添加し,直後,30分後,60分後,120分後,180分後にそれぞれ1 mL分注した試料にトラネキサム酸を最終濃度40 μg/mLになる様に添加して溶解を停止させてD-dimerを測定した。

10. フィブリンポリマー溶解試験

凝固第XIII因子欠乏血漿(コスモ・バイオ)にトロンビン試薬を添加して凝固させた後にrt-PAを最終濃度50 IU/mLになる様に添加し,15分後,30分後,60分後にそれぞれ1 mL分注した試料にトラネキサム酸を最終濃度40 μg/mLになる様に添加して溶解を停止させてD-dimerおよびFDPを測定した。

11. 採血管内凝固検体と再採血後の測定値の比較

検査前あるいは検査後に検体が凝固していることが判明し,再採血を実施した20例を対象に,採血管内で凝固した検体と再採血した検体の測定値を比較した。

IV  結果

1. 再現性

LG-DDの同時再現性は,SD値が0.02~0.06 μg/mL,CV値が0.21~2.67%であり,ACE-DDはSD値0.05~0.18 μg/mL,CV値1.16~3.94%であった.LG-DDの日差再現性は,SD値が0.07~0.33 μg/mL,CV値が1.86~2.80%であり,ACE-DDはSD値0.06~0.10 μg/mL,CV値0.83~4.82%であった(Table 1)。

Table 1  Precision (N = 10)
LG-DD Within-run precision Between-day precision
IATROSERA TH-I IATROSERA TH-II Pool Plasma IATROSERA TH-I IATROSERA TH-II
MEAN (μg/mL) 1.43 17.62 8.63 2.46 17.87
MAX (μg/mL) 1.49 17.70 8.66 2.57 18.11
MIN (μg/mL) 1.39 17.49 8.60 2.37 17.09
SD (μg/mL) 0.04 0.06 0.02 0.07 0.33
CV (%) 2.67 0.36 0.21 2.80 1.86
ACE-DD Within-run precision Between-day precision
IATROSERA TH-I IATROSERA TH-II Pool Plasma IATROSERA TH-I IATROSERA TH-II
MEAN (μg/mL) 1.21 12.55 7.89 1.20 12.40
MAX (μg/mL) 1.28 12.70 7.97 1.30 12.61
MIN (μg/mL) 1.13 12.07 7.65 1.09 12.24
SD (μg/mL) 0.05 0.18 0.09 0.06 0.10
CV (%) 3.94 1.42 1.16 4.82 0.83

2. 共存物質の影響

ビリルビンFおよびCは25 mg/dL,ヘモグロビンは500 mg/dL,乳びは2,500 FTU,RFは500 IU/mLまで共存物質0濃度に対する相対誤差が±2%を超える影響を認めなかった(Figure 1)。

Figure 1 

Effect of interfering substances

Measurement of interference check A and RF

3. 希釈直線性

理論値56.3 μg/mLまでの直線性が確認できた(Figure 2)。

Figure 2 

Dilution linearity

〇 Theoretical value 1.8~56.3 μg/mL

× Theoretical value 112.5~225.0 μg/mL

4. 最小検出感度

標準品を段階希釈して3SD法で求めた最小検出感度は0.34 μg/mLであった(Figure 3)。

Figure 3 

Detection limit

Barr indicate mean ± 3SD

V value: Rate of change in absorbance

5. 相関性

ACE-DDとの相関性は,y = 0.964x + 0.092,r = 0.952であり,良好な相関性であったが,一部に直線信頼域を外れる乖離症例も認めた(Figure 4)。

Figure 4 

Correlation of D-dimer concentration between “LG-DD” and “ACE-DD”

Solid line: Regression line

Broken line: Linear confidence range

Plots surrounded by the blue circles: Dissociated patients

6. フィブリノゲン溶解試験

LG-DD,ACE-DDともに経過時間に伴う測定値の上昇は認めなかった(Figure 5)。

Figure 5 

Analysis of D-dimer from urokinase (UK) dissolution of fibrinogen, which was obtained from normal plasma

7. フィブリン溶解試験

LG-DD,ACE-DDとも経過時間に伴う測定値の上昇を認めたが,LG-DDがACE-DDに比して高値で推移した(Figure 6)。

Figure 6 

Analysis of D-dimer from tissue plasminogen activator (tPA) dissolution of closs-linked fibrin, that was obtained from normal plasma

8. フィブリンポリマー溶解試験

FDPは,30分後には上昇し始め,60分後には2,000 μg/mL付近まで急激に上昇した。ACE-DDも30分後には徐々に上昇を開始し,60分後には500 μg/mL以上となったのに対してLG-DDは,60分後に140 μg/mLまでの上昇に留まった(Figure 7)。

Figure 7 

Analysis of D-dimer from tissue plasminogen activator (tPA) dissolution of fibrin polymer, which was obtained from factor XIII deficient plasma

9. 採血管内凝固検体と再採血後の測定値の比較

採血管内で凝固した検体と再採血した検体の測定値の相関性は,ACE-DDでy = 0.151x + 2.360,r = 0.580であったのに対し,LG-DDは,y = 0.464x + 2.014,r = 0.748であり,凝固検体と再採血検体との差が10 μg/mL以上の外れ値2点(Figure 8B点線で囲まれた部分)を除外するとy = 0.902x − 0.287,r = 0.995となり,凝固した検体でも同等の測定結果が得られた(Figure 8)。

Figure 8 

Comparison of values using coagulated samples in tubes with those from re-collected blood samples

(A) Correlation of ACE-DD levels between coagulated samples in tubes and re-collected blood samples

(B) Correlation of LG-DD levels between coagulated samples in tubes and re-collected blood samples

(C) Correlation after excluding the measurements surrounded by the dotted lines from (B)

V  考察

生体内で生じた安定化フィブリンがプラスミンにより切断され可溶化しD-dimerとして血液に流入する。血液中のD-dimerを測定するにはフィブリノゲンには反応せず安定化フィブリンの分解産物のみを検出する必要がある。今回の検討で比較対象としたACE-DDはモノクローナル抗体JIF-2310)を用いたラテックス凝集法を原理としており,フィブリンをプラスミンが切断して初めて露呈するDドメインのN末端の立体構造を認識する。対してLG-DDに用いられているモノクローナル抗体MIF-22011)は,架橋化フィブリン分解産物(Cross-linked fibrin degradation products; XDP)いわゆる安定化フィブリン分解産物のE-D結合によって生ずる立体構造を認識すると考えられている。従って,LG-DDはこれまでの試薬とは異なる抗原エピトープを認識しており,採用前には十分な性能評価が必要と考えられる。

LG-DDの基本性能は,全ての結果でACE-DDを上回る性能であった。最小検出感度はACE-DDでは0.8 μg/mLでメーカー設定の基準値である1 μg/mL未満と近い値であったのに対し,LG-DDでは 0.3 μg/mLであり,基準値付近の精度が向上していた。また,希釈直線性が56.3 μg/mLまで得られたことでACE-DDの添付文書に記載されている48 μg/mLから測定範囲が広がっており,希釈再検の件数を減らしコストを削減できることが期待できた。

ACE-DDとの相関性は良好であったが,一部にLG-DDが高値に乖離する症例を認め,ACE-DDと反応性が異なるXDPが存在していることが示唆された。フィブリン溶解試験においても,rt-PA添加早期からウエスタンブロット解析でDD分画にバンドを認めており(データ示さず),線溶過剰による低分子までフィブリンが分解されている検体でLG-DDはACE-DDに比較して高値で推移していた。このことからもLG-DDは低分子XDPへの反応性が高い試薬であることが示唆され,LG-DDを検討した中西ら12)の報告でも同様の結果が得られている。桜井ら13)は,検体中のXDPは高分子XDPで占められるもののD-dimerが高値の症例にフィブリン分解が亢進した例がみられると報告しており,今回の相関性でLG-DDが高値に乖離した症例はフィブリン分解が亢進した病態であったことが考えられる。ACE-DDよりLG-DDが低値に乖離する例については,他の凝固・線溶系分子マーカーを測定して評価したが原因が特定できる傾向を認めなかった(データ示さず)。しかし,後述する採血管内凝固が乖離例で検知できない程度に起こっていたことは否定できない。

採血の際,血管内に注射針をスムーズに穿刺することが困難であった場合には,採血管内で血液が凝固することがありD-dimerが偽高値となる。採血管内で凝固していることに気づかず結果を報告すると病態が過大評価される恐れがある。採血管内での凝固・線溶反応は生体内での凝固・線溶反応と異なり,クエン酸ナトリウムでカルシウム(Ca)がキレートされているため,Ca非存在下での凝固・線溶反応となる。凝固第XIII因子はCaの存在下でないと活性化部位に基質が接近できずフィブリンポリマーに架橋結合が形成され安定化フィブリンとなることが出来ない14)。採血管内で凝固した検体の測定値と再採血した検体の測定値を比較するとACE-DDで凝固検体が高値となるのに対し,LG-DDでは一部の症例を除き同様の測定値となった。これは,ACE-DDがフィブリンポリマー分解産物にも反応するのに対して,LG-DDは架橋結合のないフィブリンポリマー分解産物には反応しないためで,長濱ら11)の報告でもMIF-220はCa存在下でのE-D結合によってあらわれる立体構造を認識することを報告している。我々も,凝固第XIII因子欠乏血漿にCaを未添加で凝固させた後に線溶させた試料のD-dimerを測定したが,LG-DDは明らかにACE-DDより低値となった。LG-DDの測定値がわずかに上昇したのは凝固第XIII因子欠乏血漿中に残存している凝固第XIII因子とトロンビン試薬に含まれるCaで形成されたD-dimerに反応したことが考えられるが,架橋結合のないフィブリンポリマー分解産物への反応も今回の検討では完全に否定できない。いずれにしても採血管内での凝固・線溶反応で産生されたフィブリンポリマー分解産物には影響しにくいことはこの結果からも明らかであり,生体内で産生されたD-dimerに特異性が高い試薬であることが示唆された。注意したいのは採血管内凝固検体と再採血後の測定値の比較で認めた2例の様にLG-DDでも採血後にD-dimerが上昇することがある。これは,採血時に血液とクエン酸ナトリウムの混和が不十分か遅れたことでCaがキレートされる前に架橋化フィブリンが形成されて線溶されたことが考えられる。従って,D-dimerが患者状態に関係なく上昇している場合は検体が凝固していないかの確認が重要で,採血管内凝固が疑われる場合には可能な限り再採血することが望ましい。

今回の検討結果からも,D-dimer試薬の特性がキットによって異なることは明らかであり標準化が望まれる。しかし,現状は自施設で採用している試薬でのカットオフ値や臨床判断値を設定する必要があり,LG-DDにおいても臨床検体を用いたカットオフ値および臨床判断値の設定が望まれる。

VI  結語

LG-DDの基本性能は旧試薬から改善されており,低分子XDPへの反応性も高く異なる分子量をもつD-dimerを確実に測定出来る特徴を有していた。また,採血後の採血管内凝固による偽高値の影響も受けにくく,生体内で産生されたD-dimerに特異性が高い試薬であった。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
feedback
Top